No | 215606 | |
著者(漢字) | 川崎,健 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | カワサキ,タケシ | |
標題(和) | 鉄道車両構体へのFriction Stir Weldingの適用に伴う構造強度とその数値解析に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 215606 | |
報告番号 | 乙15606 | |
学位授与日 | 2003.03.12 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第15606号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 機械工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 鉄道車両の強度を確保する構体は、溶融溶接により接合されている。溶融溶接は技術が確立した接合方法であるが、入熱量が多く溶接収縮や溶接変形が大きい。さらに、作業環境に影響を受けるので良好な継手を得るためには十分に熟練した作業者に依存することが必要不可欠である。このため、溶接変形の低減や作業者に依存した接合方法からの脱却が構体製作上の重要な課題の一つとなっている。そこで、アルミ合金製中空押出形材で全断面を構成したダブルスキン構造を採用して溶接線の短縮と単純化を進めた上で、入熱量を低減すると同時に作業者に依存しないために固相接合法であるFriction Stir Welding(FSW)を用いることにより、抜本的な解決を図ることができる。 しかし、1991年に発明されたばかりのFSWは基礎的な研究が行なわれているのみであり、ダブルスキン構体への適用にあたっての課題は多い。課題のうち、最も重要なものは、中空形材をFSWで接合するために必要な基礎検討や継手の開発である。すなわち、構体を接合する方法としてFSWが構造強度の観点から適切であることを確認した上で、接合時に荷重と熱が同時に作用するという特徴を有するFSWで接合可能な中空形材用の継手形状を考案し構造強度的な観点から評価する必要がある。さらに、FSWで接合した中空形材により構体を構成することにより生じる課題も解決する必要がある。すなわち、製作精度の向上に伴い大型化する艤製品を支持する艤装レールの強度評価が必要になる。また、FSWで接合されたダブルスキン構体を対象にした簡素で精度よい数値解析手法が待ち望まれる。そこで、本研究では、要素から構体全体にわたる総合的な観点から実験や数値解析を行い、ダブルスキン構造で構成された鉄道車両構体へのFSWの適用に伴う構造強度とその数値解析に関する研究を進めた。 序論では、既往の研究を総括し、上記のような研究の背景と目的をまとめている。 第二章「FSW継手の基本的特性」では、FSWの特徴と適用に際しての課題を明確にした上で、構体を構成する部材を接合する方法としてFSWが構造強度上適切であることを評価している。すなわち、まず最も単純な形状をした突合せ継手を用いて、硬度分布、静的強度、繰返し強さ、残留応力の分布などに関してFSW継手と従来のMIG溶接継手の特性を比較した。その結果、すべての特性についてFSW継手はMIG継手と比較して同等かそれ以上の特性を有することを確認した。よって、FSWは構体を構成する部材を接合する方法として構造強度上適切であることを述べている。 第三章「FSWによる中空形材の接合」では、中空形材をFSWで接合する際に必要な継手に求められる特性を述べた上で強度的な課題を明確にし、考案した継手形状に対して強度的な検討を加えている。すなわち、中空形材用FSW継手は、強度、材料、接合条件の条件を満足した上で、強度的には、接合時に同時に作用する熱と荷重、および、構造要素に作用する外力という二つの荷重条件を満足する必要がある。そこで、材料と接合条件の観点から考案した継手形状に対し、まず接合時の挙動を評価するために3次元弾塑性熱応力解析を実施し、強度上問題ないことを示した。また、構造要素としての挙動を評価するために、二次元弾性解析と静的および繰返し荷重試験を実施することにより、検討中の継手強度は従来のMIG継手と比較して高いことを示した。以上により、本研究で検討した継手を用いて中空形材をFSWで接合することにより、十分な構造強度特性が得られることを述べている。 第四章「艤装品締結部の構造強度特性の検討」では、中空形材に付属した艤装レールの構造強度特性を明らかにして艤装レールの塑性変形防止金具(カラー)の必要性を評価すると同時に、艤装レールに発生する応力を低減する方法を述べている。すなわち、艤装レールはカラーにより拘束されるが、現行の基準に対しては、カラーの有無が強度的影響を及ぼさないことを示している。一方、断面形状を変化させずに艤装レールに生じる応力を低減するために、応力のぱらつきを定量的に評価した。結果、低荷重域ではボルト軸力の管理、高荷重域では艤装レールの精度を十分管理することにより、艤装レールに生じる応力を低減することができることを示している。 第五章「数値解析による構体の構造強度特性の予測手法の検討」では、簡素な解析モデルにより高い精度でダブルスキン構体の構造強度特性を予測できる解析手法について検討した上で、構体の荷重試験結果と比較して研究の有効性を評価している。すなわち、複雑な形状をした中空形材を低次元な解析モデルとして取り扱うと同時に、中空形材を模擬したシェル要素の特性を考慮した構体のモデル化について検討している。有効性の評価では、構体に支配的な垂直荷重を対象に評価した結果、十分な精度で実際の構体の挙動を予測できることを示し、本研究の成果は有効であることを示している。 第六章「研究の有効性の評価」では、前章までに要素ごとに研究した成果を最終的に構体構造の中に統合して、構体というシステムが所定の性能を満足していることや、構体を構成する個々の要素が所定の性能を満足していることなどを確認している。 第七章「結言」では、本研究全体の総括として、本研究の結論と、将来への展望について述べている。 | |
審査要旨 | 鉄道車両の製造にあたっては、溶接が主たる接合技術として用いられており、強度を確保するにあたっては大きな検討因子となっている。これまで主に用いられてきた溶融溶接は技術は、入熱量が多く溶接収縮や溶接変形が大きいなどの問題があった。さらに、高品質の接合結果を得るためには、十分に経験を積んだ熟練者であることが必要不可欠であった。このため、溶接変形の低減や作業者に依存した接合方法からの脱却が構体製作上の重要な課題の一つとなっている。一方で入熱量を低減すると同時に作業者に依存しないための固相接合法であるFriction Stir Welding(FSW)が知られており、車両構体への適用により、車両構体への適用によって製造技術が飛躍的に改善される見込みがあることに本論文では着目した。しかし、最新の車両構体では軽量化と製造工程の合理化を目的として、アルミ合金製中空押出形材で全断面を構成したダブルスキン構造が採用されており、FSWの適用にあたっては、強度上未解明の要素が多数存在していた。 このため、本論文では、構体を接合する方法としてFSWが構造強度の観点から適切であることを確認した上で、接合時に荷重と熱が同時に作用するという特徴を有するFSWで接合可能な中空形材用の継手形状を考案し構造強度的な観点から評価することを試みた。さらに、製作精度の向上に伴い大型化する艤製品を支持する艤装レールの強度評価が必要になる。また、FSWで接合されたダブルスキン構体を対象にした簡素で精度よい数値解析手法が待ち望まれる。そこで、本研究では、要素から構体全体にわたる総合的な観点から実験や数値解析を行い、ダブルスキン構造で構成された鉄道車両構体へのFSWの適用に伴う構造強度とその数値解析に関する研究を進めている。 序論では、既往の研究を総括し、研究の背景と目的をまとめている。 第二章「FSW継手の基本的特性」では、FSWの特徴と適用に際しての課題を明確にした上で、構体を構成する部材を接合する方法としてFSWが構造強度上適切であることを評価している。すなわち、まず最も単純な形状をした突合せ継手を用いて、硬度分布、静的強度、繰返し強さ、残留応力の分布などに関してFSW継手と従来のMIG溶接継手の特性を比較した。その結果、すべての特性についてFSW継手はMIG継手と比較して同等かそれ以上の特性を有することを確認している。この結果、FSWは構体を構成する部材を接合する方法として構造強度上適切であることを述べている。 第三章「FSWによる中空形材の接合」では、中空形材をFSWで接合する際に必要な継手に求められる特性を述べた上で強度的な課題を明確にし、考案した継手形状に対して強度的な検討を加えている。すなわち、中空形材用FSW継手は、強度、材料、接合の条件を満足した上で、強度的には、接合時に同時に作用する熱と荷重、および、構造要素に作用する外力という二つの荷重条件を満足する必要がある。そこで、材料と接合条件の観点から考案した継手形状に対し、まず接合時の挙動を評価するために三次元弾塑性熱応力解析を実施し、強度上問題ないことを示している。また、構造要素としての挙動を評価するために、二次元弾性解析と静的および繰返し荷重試験を実施することにより、検討中の継手強度は従来のMIG継手と比較して高いことを示した。以上により、本研究で検討した継手を用いて中空形材をFSWで接合することにより、十分な構造強度特性が得られることを述べている。 第四章「艤製品締結部の構造強度特性の検討」では、中空形材に付属した艤装レールの構造強度特性を明らかにして艤装レールの塑性変形防止金具の必要性を評価すると同時に、艤装レールに発生する応力を低減する方法を述べている。すなわち、艤装レールはカラーにより拘束されるが、現行の基準に対しては、カラーの有無が強度的影響を及ぼさないことを示している。一方、断面形状を変化させずに艤装レールに生じる応力を低減するために、応力のばらつきを定量的に評価した。この結果、低荷重域ではボルト軸力の管理、高荷重域では艤装レールの精度を十分管理することにより、艤装レールに生じる応力を低減することができることを示した。 第五章「数値解析による構体の構造強度特性の予測手法の検討」では、簡素な解析モデルにより高い精度でダブルスキン構体の構造強度特性を予測できる解析手法について検討した上で、構体の荷重試験結果と比較して研究の有効性を評価している。すなわち、複雑な形状をした中空形材を低次元な解析モデルとして取り扱うと同時に、中空形材を模擬したシェル要素の特性を考慮した構体のモデル化について検討している。有効性の評価では、構体に支配的な垂直荷重を対象に評価した結果、十分な精度で実際の構体の挙動を予測できることを示し、本研究の成果は有効であることを示している。 第六章「研究の有効性の評価」では、得られた成果を最終的に構体構造の中に統合して、構体というシステムが所定の性能を満足していることや、構体を構成する個々の要素が所定の性能を満足していることなどを確認している。 第七章「結言」では、本研究全体の総括として、本研究の結論と、将来への展望について述べている。 以上のように、本論文ではFriction Stir Weldingの溶接技術を車両構体に適用するにあたって、解決するべき強度上の問題点につき検討し、実用化へと結びつけたものである。車両構体への適用性を実証したことの意義は大きく車両開発の分野に大きな貢献があり、その波及効果は極めて大きなものがある。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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