学位論文要旨



No 215607
著者(漢字) 羽田,壽夫
著者(英字)
著者(カナ) ハネダ,ヒサオ
標題(和) 超々臨界圧変圧運転二段再熱ボイラ最適伝熱面配置の研究
標題(洋)
報告番号 215607
報告番号 乙15607
学位授与日 2003.03.12
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15607号
研究科 工学系研究科
専攻 産業機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 吉識,晴夫
 東京大学 教授 西尾,茂文
 東京大学 教授 飛原,英治
 東京大学 教授 金子,成彦
 東京大学 教授 加藤,千幸
内容要旨 要旨を表示する

 火力発電プラントの主蒸気圧力条件としては、1957年(昭和32)の31MPa×621℃/566℃/538℃ Ohio Power Co. Philo 6号125MWプラント、及び1959年(昭和34)の34.5MPa×649℃/566℃/566℃のPhiladelphia Electric Co.のEddystone 1号325MWプラントの建設以降は、1959年(昭和34)運開の24.1MPa×593℃/566℃のCleaveland Electric Illuminating Co.のAvon 8号250MWプラントに倣い、24.1MPa、即ち246kgf/cm2gの超臨界圧主蒸気圧力条件が定着し、この条件を越える蒸気圧力条件の発電プラントは、国内外共に、1989年(平成元)に至るまでの30年間出現しなかった。しかし、1973年(昭和48)、1978年(昭和53)に起きた2度のオイルショックを契機として、1980年(昭和55)以降にはプラントの省エネルギーの見直し検討が進められるとともに、プラント効率向上を目的とし、更に高温高圧化した、いわゆる超々臨界圧変圧運転二段再熱プラントの開発に対する要求も高まりつつあった。著者は、このような情勢を踏まえ、1980年(昭和55)に従来の超臨界圧火力発電プラントの発電効率39%より相対値にて5%に達する大巾な向上を狙った、蒸気条件316kgf/cm2g、566/566/566℃のプラントの開発を組織し、同時点における技術水準と経済性の評価を慎重に行い、超々臨界変圧運転二段再熱ボイラに関し、同ボイラ開発に拘わる12項目に及ぶ様々な分野の技術開発を実施し、1989年(平成元)6月30日、及び1990年(平成2)6月22日、の中部電力(株)川越火力発電所1・2号700MWボイラの営業運転開始をもってその開発を完了させた。これは蒸気圧力が通常の超臨界圧蒸気圧力条件246kgf/cm2(3,500psig)を越える、超々臨界圧プラント(USCプラント)としては、1957年(昭和32)運開のOhio Power Co.Philo6号、1959年(昭和34)運開のPhiladelphia Electtic Co.のEddystone1号に次ぐ、世界第3番目のプラントであり、先行プラントEddystone1号以来、実に30年ぶりの記録更新となった。更に、変圧運転可能な近代的火力発電プラントとしての、超々臨界圧変圧運転プラントしては世界初の達成となった。

 本論文ではこれら12項目の技術開発の内、その第一の課題であった『良好な蒸気温度制御性と全溶接火炉壁/副側壁/後部伝熱壁等耐圧部/非耐圧部構造壁の中間負荷運用耐力の両立』を可能とする最適伝熱面配置の研究について、その手段として開発した火力プラント動特性シミュレータの開発と併せ論ずる。

 中間火力負荷運用が一般化した、1983年(昭和58)及び1984(昭和59)年当時の新鋭超臨界圧変圧運転ボイラにおける試運転調整中に、従来の負荷変化率の低いベース負荷運用機では考えられなかった、静定条件から大幅に乖離した過渡応答特性が観察された。特に、100%負荷より50%負荷までの負荷変化率5%/分における変化中、負荷変化に伴う蒸発器圧力の変化のため、蒸発器の保有熱量が変化し、これが主たる原因となり、負荷変化中に静定条件から大幅に乖離した過渡応答特性、すなわち、(1)負荷変化に伴うボイラ保有水量変化に伴う給水量のオーバフィーディンク、アンダフィーディンクの発生、(2)負荷変化に伴うボイラ保有熱量変化に対応するため燃料流量のオーバファイアリング、アンダーファイアリングの発生、(3)負荷変化時の蒸発器系の保有熱量変化量と、過熱器系、再熱器系の保有熱量変化量に差が生ずるため、蒸発器系と過熱器系、再熱器系の間の熱吸収量移動の手段としてのガス再循環量の、負荷変化時のみのアンダフィーデインク及びオーバフィーディンクの発生、及び、蒸発器系と過熱器系の熱移動の手段としての、水冷壁出口、過熱器入口の静特性値よりの偏差増大、そして(4)それによって付随的に引き起こされる蒸発器系より節炭器系への熱移動により節炭器出口給水温度の静特性値よりの偏差増大が生ずるのである。更に、これらの過渡応答特性のうち、特に(3)の負荷変化中に生ずる水冷壁出口温度レベルの静特性値よりの偏差増大は、全溶接構造を採用している火炉壁/副側壁/後部伝熱壁等耐圧部/非耐圧部ボイラ構造壁における火炉壁/後部伝熱壁接合部、火炉周壁出口部の中間負荷耐力弱点部位の疲労寿命消費に影響を与える。これに伴い、全溶接構造部物として変形を拘束されているボイラ各部に、静定条件下ではあり得ない大きな面内温度差とそれに伴う熱応力が発生し、中間負荷運用に対する耐力の低い接合部などの弱点部位において金属疲労による漏洩事故の可能性が生ずる。この問題に対しては、これらの超臨界圧変圧運転ボイラにおいては、中間負荷弱点部位に対する構造的補強と、負荷変化中にも構造物としてのボイラ各部に許容限度を越した面内温度差が生ぜぬよう運転・制御方法の改善が図られた。

 しかし、超々臨界圧変圧運転プラントにおいては、従来の趨臨界圧プラントよりも更に高圧化しており、このため蒸気量あたりのボイラ耐圧部重量が超臨界圧変圧運転プラントの場合に比較し更に増大し、かつ、高圧化による100%負荷における蒸発器の温度の上昇により、負荷変化に伴う蒸発器の保有熱量変化巾も増大する。これに加えて、この当時よりLNG焚き火力プラントについては、電力需要の変動に対応する役割を課せられることとなり、中間負荷運用条件はどんどん厳しくなって来ている。このため、超々臨界圧変圧運転プラントにおいては、特別の配慮を払わぬと、系統より要求される中間負荷運用に対する耐力を維持しつつ、急速負荷変化、急速起動を行うことは困難となる。これを解決するための制御・運転方法の配慮に加えて、伝熱面配置の開発が必要となる。

 更に二段再熱ボイラのように再熱蒸気温度制御にダンパコントロール方式を採用せざるを得ぬ場合には従来法では過熱器パス出口と、一段、二段再熱器パス出口ガス温度に大きな差が生じ後部伝熱壁/節炭器スチールケーシング接合部位の疲労寿命消費に影響を与える可能性がある。

 上記の急速且つ頻繁な負荷変化を要求されている超臨界圧変圧運転ボイラにおいて経験した問題点を踏まえ、超々臨界圧変圧運転ボイラ伝熱面配置に関し、1980年(昭和55)運開の超臨界圧変圧運転ボイラ初号機より行われていた、従来法の蒸気冷却壁式後部伝熱壁形式を、超々臨界圧変圧運転二段再熱ボイラに採用した場合の問題点に加えて、著者提案ケース(1)水冷壁式後部伝熱壁形式、著者提案ケース(2)煙道蒸発器+水冷壁式後部伝熱壁形式、著者提案ケース(3)方式の3ケースについて、その狙い、課題ならびに解決策について解析を行った。

著者提案ケース(1)水冷壁後部伝熱壁の採用

一 火炉壁と後部伝熱壁の負荷変化時発生温度差の低減による、火炉壁/後部伝熱壁接合部の中間負荷耐力向上

 本形式は理論的には考えられうる組み合わせであるが、本検討を行った1984年(昭和59)時点より現在に至るまで、実際に採用された超臨界圧変圧運転ボイラはない。1984年(昭和59)時点にて実際に製作された超臨界圧変圧運転ボイラは全て蒸気冷却壁式後部伝熱壁か、次項に述べる煙道蒸発器+水冷壁式後部伝熱壁の形式である。

著者提案ケース(2) 煙道蒸発器の採用

(1)水冷壁管メタル温度の低減

(2)負荷変化時水冷壁出口蒸気過熱度の低減による火炉壁/後部伝熱壁接合部及び火炉周壁出口部等のボイラ構造壁弱点部位の中間負荷耐力向上

(3)負荷変化時節炭器出口サブクーリング確保による水冷壁安全性確保

 本形式は我が国のボイラメーカでは、三菱重工業(株)及びバブコック日立(株)により、燃焼特性により火炉水冷壁蒸発管のみでは蒸発器の所要熱吸収量が確保し難いLNG焚きボイラのケースにおいて、蒸発器熱吸収量を確保する意味から、1983年(昭和58)運開プラントにて、相次いで採用されている。このように本来この形式は蒸発器の熱吸収比率増大対策として採用されたものであるが、この方式を中間負荷運用時の超々臨界圧変圧運転ボイラの負荷変化中に生ずる水冷壁出口温度レベルの静特性値よりの偏差増大防止対策に採用するというのが、著者の提案である。

著者提案ケース(3) 煙道蒸発器を並列に3分割し、これらを夫々、後部煙道、スプリットガスパス内の横置き過熱器、一段横置き再熱器、二段再熱器の下流側に設置する、著者提案の伝熱面配置の採用

(1)負荷変化時の3ガスパス間のガス温度差低減と抑制による後部伝熱壁/節炭器スチールケーシング接合部中間負荷耐力の向上

(2)煙道蒸発器出口蒸気温度偏差拡大抑制による蒸気温度制御性の向上

 本形式は著者発明になるもので三菱重工(株)出願にて、日本国登録番号第1730978号(1993年(平成5)1月29日)をはじめ、アメリカ、ドイツ、フランス、スイス、中国にても特許が成立している。

 次にこの3方式の検討と検証を行うために、著者は1965年(昭和40)に超臨界圧定圧運転ボイラの我が国初号機の設計担当者として関わった際、このプラントの計画・試運転時より開発に着手した、集中定数系による簡易積分計算を利用する火力プラント動特性シミュレータを、実機試運転結果との対比により精度向上を図るなどの改良に取り組み、この火力プラント動特性シミュレータを使用して、超々臨界圧変圧運転2段再熱ボイラの開発、検討、検証を行った。この時点から、既に15〜20年程が経過しており、当時の計算機速度は当時本計算に使用した最高級機でも100MHz程度に過ぎなかったが、現在では一般的なパソコンでも2GHz程度のものが利用されているなど、ごの間の計算機技術の進展には20倍と驚くべきものがある。しかしながら、火力プラントのように系の固有値にかけ離れたものがある、いわゆるスティッフな系では、この20倍程度の計算速度上昇では、これだけでは問題を解決するには不十分であり、現在もなお、この火力プラント動特性シミュレータに採用した集中定数系によるシミュレーション技術は有効である。

 次に上記著者提案ケース(1)の従来法の煙道蒸発器不設置のダンパコントロール方式伝熱面配置案にて、与えられた仕様を全て満足するように計画した案につき、負荷変化シミュレーションを実施し、その問題点を検討した。この案では、過熱器出口温度、一段、二段再熱器出口蒸気温度制御や、主蒸気圧力、発電量制御の面からはUSC化による鋼材重量の増大に伴う熱慣性の増大及び蒸発器温度レベル上昇に伴う負荷変化時保有熱量の増大にもかかわらず、受け入れ可能な制御性を示している。しかし、(1)負荷変化中に水冷壁出口エンタルピが負荷変化中に過渡的に増大し、水冷壁出口部分構造の中間負荷運用耐力弱点部位の耐力に問題が生じ得ること、(2)負荷変化中の節炭器出口サブクール度が失われ、気液二相流領域に突入しており、火炉水冷壁の安全性の面で問題のある状況となること、並びに、(3)負荷変化時、後部煙道のガスパス間の温度差は最大110℃に達しており、後部伝熱壁に接続している非耐圧部スチールケーシング構造耐力弱点部位の耐力の面でも問題がある状態となっていることを確認した。

 次に煙道蒸発器は設置するが、過熱器パスのみに設置する著者提案ケース(2)にてケース(1)と同様与えられた仕様を満足する案を計画し、負荷変化シミュレーションにより、その問題点を検討した。この案については、熱慣姓と、負荷変化による温度変化巾の大きな煙道蒸発器を1次過熱器(横置き型過熱器)の直前に配置しているため、蒸気温度制御性に対する影響が懸念されたが過熱器スプレイの10%程度の増大でこの影響は吸収でき、蒸気温度制御、主蒸気圧力制御、発電量制御など制御性の面では問題ないことを明らかにした。更に、煙道蒸発器の設置によって、(1)負荷変化時水冷壁出口エンタルピ、並びに(2)節炭器出口サブクール度では改善が見られるものの、(3)後部煙道の3ガスパス間のガス温度差は前ケースと同様最大110℃に達しており、後部伝熱壁に接続している非耐圧部スチールケーシング耐力弱点部の耐力の面では依然として問題が残っていることを確認した。

 更に、煙道蒸発器を並列に3分割し、これらを夫々後部煙道スプリットガスパス内にて横置き過熱器、一段横置き再熱器、二段再熱器の下流側に設置する著者提案の伝熱面配置(上記著者提案ケース(3))にて、ケース(1)、ケース(2)同様与えられた仕様を満足する案を計画し、負荷変化シミュレーションにより、有効性を検証した。この案では、ケース(1)に比し、ケース(2)同様負荷変化時の水冷壁出口エンタルピ偏差が抑制されるとともに、ケース(2)で問題であった後部煙道の3ガスパス間の温度差も最大で25℃以内におさまっており全ての面で問題がないことを確認した。

 次に、上記著者提案ケース(3)の伝熱面配置を実際に採用した中部電力川越1号ボイラの100%負荷より、50%負荷まで、火カプラントシミュレータにて解析した5%/分の負荷変化よりも更に急速な7%/分の負荷変化率にて負荷変化させた例を解析し、本伝熱面配置案が、蒸気温度制御性と中間負荷運用耐力弱点部位の耐力の両面から、要件を満足していること確認した。

 すなわち、蒸気温度制御の面からは本伝熱面配置は、中間負荷運用耐力弱点部位の耐力改善の意味から、一次過熱器(横置き過熱器)の上流側に熱慣性の大きい煙道蒸発器を設置したが、適切な運転制御上の配慮と、過渡的なガス再循環のオーバフィーディンク、アンダフィーディンクの増大と一次過熱器スプレイ量の変化巾増大にてそのデメリットには対処でき、蒸気温度、圧力制御の面からは問題がないことを検証した。

 また、(1)節炭器スチーミングに関連した火炉水冷壁の安全性面からも節炭器出口温度を全く問題ないレベルに押さえ込むことができた。更に水冷壁出口エンタルピ偏差の面からも、(3)後部煙道の3ガスパス間温度差の面からも、火炉側壁/副側壁/後部伝熱壁側壁取合部および水冷壁出口部分の中間負荷運用耐力弱点部位の耐力面、後部伝熱壁波形ケーシングの耐力面で、問題ないと予測されるレベルに押さえ込むことができ、更に、中間負荷運用耐力弱点部位に実際に取りつけた熱電対による計測結果から算出した耐力弱点部位の、ボイラ仕様寿命20年間における寿命消費が十分低いことを示し、最終的に検証した。

 我が国の大容量火力発電プラントの蒸気条件については、1967年(昭和42)に246kgf/cmの超臨界圧プラントが運転を開始して以来、1989年(平成元)に至るまでの21年間、同一蒸気圧力条件が採用されてきたが、1989年(平成元)6月30日、及び1990年(平成2)6月22日、中部電力(株)川越火力発電所1・2号ボイラの営業運転開始をもって、この21年間に及ぶ蒸気圧力条件の停滞が打ち破られ、遂に316kgf/cm2gの新しい段階に踏み出したものである。

 以上のように、本論文で示した火力発電プラントの動特性シミュレータが有効であること、その動特性シミュレータを用いて著者の提案したボイラ伝熱面配置を採用すれば、超々臨界圧変圧運転2段再熱ボイラであっても、超々臨界圧変圧運転における厳しい中間運用に対して十分の耐力を有することを確認し、さらに実機によりそれを検証した。

 本技術が、エネルギー問題、環境問題の一助となることを期待したい。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、「超々臨界圧変圧運転二段再熱ボイラ最適伝熱面配置の研究」と題し、6章からなっている。

 1973年と1979年に起きた2度の石油危機を契機として、1980年以降にはプラントの省エネルギーの見直し検討が進められるとともに、プラント効率向上を目的とし、24.1MPaの超臨界圧主蒸気圧力条件を更に高温高圧化する、いわゆる超々臨界圧変圧運転二段再熱プラントの開発要求が高まってきた。そこで、従来の超臨界圧火力発電プラントの発電効率39%より相対値にて5%の大幅な向上を目指し、蒸気条件31MPa、566/566/566℃のプラントの開発を計画した。さらに、発電所の運用性を高めるため、出力調整用に運転圧力の変化を従来の変化率より急速に行う必要性が生じた。このため、従来のボイラ設計方式では蒸気温度の制御が困難となるだけでなく、ボイラ構造部の耐力の不足が予測された。本論文は、これらの解決のために行った火力プラント動特性シミュレータの開発と、それを用いて解析したボイラの伝熱面配置の有効性と根拠、この解析結果を基に建設された発電所のボイラによる実缶試験による制御性と耐久性の確認について述べている。

 第1章「超々臨界圧変圧運転二段再熱ボイラの概要」では、超々臨界圧変圧運転二段再熱ボイラの開発の経緯、課題と対応技術開発及び本論文の構成を説明している。

 第2章「超々臨界圧変圧運転二段再熱ボイラの問題点とその解決策」では、1983年及び1984年当時の新鋭超臨界圧変圧運転ボイラにおける試運転調整中に、従来の負荷変化率の低いベース負荷運用機では考えられなかった静定条件から大幅に乖離した過渡応答特性が観察されたこと、そのため(1)負荷変化に伴うボイラ保有水量変化に伴う給水量のオーバーフィーデイング、アンダーフィーディングの必要性、(2)負荷変化に伴うボイラ保有熱量変化に対応するため燃料流量のオーバーファイアリング、アンダーファイアリングの必要性、(3)負荷変化時の蒸発器系と過熱器系、再熱器系間の熱吸収量移動手段としてのガス再循環量のアンダーフィーディング及びオーバーフィーディングの必要性、(4)この過渡応答時に生じるボイラ構造壁の中間負荷弱点部位に対する構造的補強の必要性などを明らかにしている。さらに、従来の超臨界圧プラントよりも更に高圧化した超々臨界圧変圧運転プラントでは、厚肉化による重量増大、蒸発器温度の上昇などのため、制御・運転方法の配慮に加えて、伝熱面配置の開発が必要となり、その解決策として新たな伝熱面配置を提案している。

 第3章「火力プラント動特性シミュレータ」では、集中定数系による簡易積分計算を利用する火力プラント動特性シミュレータの精度向上、実機試運転結果との対比による検証について述べている。

 第4章「火力プラント動特性シミュレータによる著者提案伝熱面配置の検証」では、著者提案ケース(1)水冷壁後部伝熱壁の採用、ケース(2)煙道蒸発器の過熱器後流への採用、ケース(3)煙道蒸発器を並列に3分割し、これらを夫々、後部煙道、スプリットガスパス内の横置き過熱器、一段横置き再熱器、二段再熱器の下流側に設置する伝熱面配置の採用、について動特性シミュレータによる解析を行っている。その結果、ケース(1)では(1)負荷変化中に水冷壁出口エンタルピが負荷変化中に過渡的に増大し、水冷壁出口部分構造の中間負荷運用耐力弱点部位の耐力に問題が生じ得ること、(2)負荷変化中の節炭器出口サブクール度が失われ、気液二相流領域に突入しており、火炉水冷壁の安全性の面で問題のあること、(3)負荷変化時、後部煙道のガスパス間の温度差は最大110℃に達して、後部伝熱壁に接続している非耐圧部スチールケーシング構造耐力弱点部位の耐力の面で問題があること、ケース(2)では蒸気温度制御、主蒸気圧力制御、発電量制御など制御性の面では問題はないが、後部煙道の3ガスパス間のガス温度差は前ケースと同様最大110℃に達しており、後部伝熱壁に接続している非耐圧部スチールケーシング耐力弱点部の耐力の面で問題が残ること、ケース(3)ではケース(1)に比し、ケース(2)同様負荷変化時の水冷壁出口エンタルピ偏差が抑制され、蒸気温度制御、主蒸気圧力制御、発電量制御など制御性の面で問題はなく、後部煙道の3ガスパス間の温度差も最大で25℃以内におさまっており、全ての面で問題がないこと、を明らかにしている。

 第5章「実缶負荷変化試験による確認」では、著者提案ケース(3)の伝熱面配置を実際に採用した中部電力川越1号ボイラの100%負荷より50%負荷まで、火カプラントシミュレータにて解析した5%/分の負荷変化よりも更に急速な7%/分の負荷変化率にて負荷変化させた例を解析し、本伝熱面配置案が、蒸気温度制御性と中間負荷運用耐力弱点部位の耐力の両面から、要件を満足していること確認している。

 第6章「結言」では、以上を総括するとともに、開発した火力発電プラントの動特性シミュレータが現時点でも有効であること、著者の提案したボイラ伝熱面配置が超々臨界圧変圧運転二段再熱ボイラの厳しい中間運用に対して十分の耐力を有し、高効率ボイラの設計に有効であることを明らかにしている。

 上記のように本論文は、超高圧、超高温で稼動する超々臨界圧二段再熱変圧ボイラの蒸気温度の制御性と耐力確保のための伝熱面設計指針を明示し、我国最初の超々臨界圧変圧運転二段再熱ボイラの実用化を達成しており、機械工学、特にボイラ設計工学の発展に寄与するところが大きい。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/51168