No | 215611 | |
著者(漢字) | 廣田,輝直 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ヒロタ,テルナオ | |
標題(和) | 小型光ヘッドスライダアセンブリの微小浮上特性および光学再生特性に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 215611 | |
報告番号 | 乙15611 | |
学位授与日 | 2003.03.12 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第15611号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 精密機械工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 光ディスクでは記録再生スポットの微細化が光の回折限界によって制限されるため、その面記録密度は物理的な限界に達しようとしている。この回折限界を超えた高密度記録を実現するための新しい信号再生技術の一つに開口型近接光記憶技術がある。微小な開口近傍に生成される近接場光は回折限界を超えた空間分解能を持ち、近接場光学顕微鏡(SNOM)などに応用されているが、これを磁気ディスクにおいて実績のある浮上スライダに搭載し、記憶装置として必須の高速再生と高速トラッキングを実現しようとする試みである。現在、信号再生の実証実験のみならず、装置化に向けた研究も始まりつつある。 こうした近接型光記憶において広帯域のトラッキングを実現するためには、ヘッドスライダ上の微小開口への光の導入機構をいかにコンパクトに構成するかがポイントとなる。本論文では、近接型光記憶ヘッドの小型化および高トラッキング帯域化に向けて、複数のヘッド機構・ヘッドアセンブリ構成法を提案し、実験的にその有効性を示した。 第1章では、近接型光記憶ヘッドが必要とされている背景を、従来の光記憶における問題点・課題点を列挙しながら述べる。また、回折限界を超える記録密度をめざし提案されているいくつかの新しい光記憶技術について述べ、本論文で扱う開口型近接光記憶技術の特徴を明らかにする。 第2章では、有機光導波路に直接浮上スライダ用のパットパターンを形成し、加えて有機光導波路の柔軟性を利用しサスペンションの機能をも持たせることで、一体型浮上スライダ・サスペンションを構成する方式(フレキシブル光ヘッドスライダ)を提案した。一体成形は、アセンブル・光軸調整を不要とし、さらに小型・軽量化によるトラッキング性能の向上が期待できる。 静的および動的な浮上特性の評価を行い、最小すきま70nm程度まで安定して浮上動作することを確認した。また面外方向の外乱抑圧性能を評価し浮上スライダが動的にも安定であることを示した。 第3章では、上記フレキシブルヘッドスライダについて、サブミクロンサイズの微小開口を有するスライダサンプルを試作し、蒸着金属膜をパターニングして作製したROM媒体上で信号再生実験を行い、200nm線幅程度のテストパターンを安定して再生できることを示した。 第4章では、磁気ディスクと同様の浮上スライダヘの、光導入機構として、スライダを支持するサスペンション機構に光導波路を組み込む方式を提案した。サスペンション機構において、スライダの姿勢を制御する役割を持つフレキシャ(通常はステンレス製)自体を有機光導波路で構成する。このためヘッドアセンブリの小型化を図ることが出来る。3mm×3mmサイズのシリコンスライダに実装し、フレキシャとしての静的、および動的特性を評価し有効性を確認した。 第5章では、上記導波路一体型サスペンション機構を用い、再生実験をおこない、実行スペーシング70〜80nmで0.8um線幅程度のテストパターンを安定して再生できることを示した。 第6章では、近接場光を用いた近接型光記憶におけるヘッド-媒体間のスペーシングの低減を目的として、動圧アシスト型接触型スライダを提案した。ヘッド-媒体間が高屈折率の潤滑剤で満たされるため透過効率の改善が期待できる。流体潤滑圧力によって接触パッドヘの接触力を低減する形式のスライダを提案し、アコースティックエミッションセンサにより低接触圧が実現されている事を確認した。 第7章では、各章において得られた成果を総合することで実現されるべき高密度光メモリの最終形態を検討した。また、今後取り組むべき技術開発について整理した。 第8章において以上で得られた結果を総括している。 | |
審査要旨 | 本論文は、「小型光ヘッドスライダアセンブリの微小浮上特性および光学再生特性に関する研究」と題し、全8章からなっている。本論文は、開口型近接光記憶技術を対象として、近接型光記憶ヘッドアセンブリの小型化および高トラッキング帯域化を実現するため、複数のヘッド機構・ヘッドアセンブリ構成法を提案した上で実験的にその有効性を示し、それらを総合することで実現されるべき高密度光メモリの検討を行ったものである。 第1章「序論」では、近接型光記憶ヘッドが必要とされている背景を、従来の光記憶における問題点・課題点を列挙しながら述べると共に、回折限界を超える記録密度をめざし提案されているいくつかの新しい光記憶技術について述べ、本論文で扱う開口型近接光記憶技術の特徴を明らかにしている。 第2章「フレキシブルモノリシック光ヘッドスライダアセンブリの提案と浮上特性」では、有機光導波路に直接浮上スライダ用のパットパターンを形成し、加えて有機光導波路の柔軟性を利用しサスペンションの機能をも持たせることで、一体型浮上スライダ・サスペンションを構成する方式(フレキシブル光ヘッドスライダ)を提案している。一体成形は、アセンブル・光軸調整を不要とし、さらに小型・軽量化によるトラッキング性能の向上が期待できる。静的および動的な浮上特性の評価を行い、最小すきま70nm程度まで安定して浮上動作することを確認した。また面外方向の外乱抑圧性能を評価し浮上スライダが動的にも安定であることを示している。 第3章「フレキシブルモノリシック光ヘッドスライダアセンブリの光信号再生特性」では、上記フレキシブルヘッドスライダについて、サブミクロンサイズの微小開口を有するスライダサンプルを試作し、蒸着金属膜をパターニングして作製したROM媒体上で信号再生実験を行い、200nm線幅程度のテストパターンを安定して再生できることを示している。 第4章「導波路サスペンション支持による開口搭載シリコンスライダの提案と浮上特性」では、磁気ディスクと同様の浮上スライダヘの、光導入機構として、スライダを支持するサスペンション機構に光導波路を組み込む方式を提案している。この方式では、サスペンション機構において、スライダの姿勢を制御する役割を持つフレキシャ(通常はステンレス製)自体が有機光導波路で構成されており、ヘッドアセンブリの小型化が可能となっている。3mm×3mmサイズのシリコンスライダに実装し、フレキシャとしての静的、および動的特性を評価し有効性を確認している。 第5章「導波路サスペンション支持による開口搭載シリコンスライダの再生特性」では、上記導波路一体型サスペンション機構を用い、再生実験をおこない、実行スペーシング70〜80nmで0.8um線幅程度のテストパターンを安定して再生できることを示している。 第6章「コンタクト光スライダの提案と摺動特性」では、近接場光を用いた近接型光記憶におけるヘッド-媒体間のスペーシングの低減を目的として、動圧アシスト型接触型スライダを提案している。この方式では、ヘッド-媒体間を高屈折率の潤滑剤で満たすことにより透過効率の改善を可能としている。流体潤滑圧力によって接触パッドヘの接触力を低減する形式のスライダを提案し、アコースティックエミッションセンサにより低接触圧が実現されている事を確認している。 第7章「開口型近接場光メモリの総合設計」では、各章において得られた成果を総合することで実現されるべき高密度光メモリの最終形態を検討している。また、今後取り組むべき技術開発について整理している。 第8章「結論」において以上で得られた結果を総括している。 以上のように本論文は、開口型近接光記憶技術の実用化のため、ヘッドアセンブリに光導入系を組み込み、トラッキング性能や浮上すきま制御、小型・軽量化までを考慮した、現実的な装置形態・機構、およびその開発指針を明らかにしたものである。具体的には、光導波路を直接浮上スライダとして動作させる方式、光導波路を浮上スライダのサスペンションと一体化する方式、接触型の光ヘッドスライダなどの提案により、光導波機構を組み込みながら現在実用化されている磁気記録装置の浮上スライダ機構と同等の機械的性能を実現できることを示した点が評価される。また、実形態に近い条件で実時間・実速度のヘッド光学特性評価を行い走査機構としての有効性を実証した点、さらに、同技術を応用した総合設計を行い、面記憶密度100Gbit/inch2以上の装置化に必要な光源、アクチュエータ、媒体技術などについて開発指針を示した点が評価される。以上のように、この研究は、高密度光記憶技術の発展のみならず、精密機械工業、及び精密機械工学の発展に貢献するところが大きい。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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