学位論文要旨



No 215614
著者(漢字) 影澤,政隆
著者(英字)
著者(カナ) カゲサワ,マサタカ
標題(和) 高度交通システムのためのシミュレータと車両認識に関する研究
標題(洋)
報告番号 215614
報告番号 乙15614
学位授与日 2003.03.12
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15614号
研究科 工学系研究科
専攻 電子情報工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 池内,克史
 東京大学 教授 坂内,正夫
 東京大学 教授 桑原,雅夫
 東京大学 教授 石塚,満
 東京大学 教授 相澤,清晴
内容要旨 要旨を表示する

 本論文は、「高度交通システムのためのシミュレータと車両認識に関する研究」と題し、高度交通システムにおいて起こっているアプリケーションとインフラストラクチャが個別に研究開発されているためにおこる連携不足の問題を解消し、両者の融合をはかるための一実現手法について論じたものである。

 第1章では研究の背景および関連研究について述べ、引き続き本論文のねらいである、次の2つのアプローチを提唱した。すなわち、(1)近い将来において実現可能であると思われるインフラストラクチャを仮定し、その上でそのインフラストラクチャを利用した新たなアプリケーションの効果を評価すること、および(2)近い将来においてアプリケーション側で必要になると思われるインフラストラクチャの開発を行うこと、である。アプローチ(1)を実現する一手法として、現状を詳細に再現する目的ではなく、現状のインフラストラクチャにいろいろな追加や変更が容易に行えるようなシミュレータを構築し、その上で様々なシミュレーションを行うことを提案し、アプローチ(2)を実現する手法としては、A社B型といったレベルでの詳細な車種認識のできるシステムを開発することを提案している。

 第2章と第3章では上記(1)のアプローチについて論じている。

 第2章では、その第一歩として、新たな制御誘導方法を評価するために必要なツールとしてのシミュレータの構築について述べている。そのシミュレータには、現状のインフラストラクチャにいろいろな追加や変更が容易であること、現状にはない、あるいは現状では不可能な新たな交通制御、走行誘導手法のシミュレーションが簡単に行えること、および上記2つのことを行うのに必要とする労力は非常に小さい、という3つの著しい特徴がある。

 第3章では、第2章で作成したシミュレータが実際に当初の性質を持つことを、4つのシミュレーション事例を通じて確認しその有効性を示してある。4つの事例とは、路車間通信を通して分岐の優先方向を動的に変更するもの、2x2格子状道路網における動的信号制御、信号交差点における右折車両の誘導、および駐車場の混雑情報提供の効果である。

 引き続く2章では、(2)のアプローチに沿った高度車両認識システムの開発について述べている。

 第4章では、局所特徴量の配置をモデルとして持ち、投票によって認識を行うシステムである固有窓法のアルゴリズムを紹介し、その高度交通システムでの有効性を屋内実験と屋外実験を行って示している。屋外実験では、昼夜を問わず同一のアルゴリズムで動作するように赤外カメラを利用している。これらの実験を通じて、認識対象車両の一部が隠されていても認識可能であること、認識対象車両が平行移動していても認識可能であること、認識対象領域を切り出すことなく認識可能であること、という3つの著しい性質を確認し、その認識性能について詳しく調べている。

 第5章では、第4章を受けて、投票システムは同じであるが、モデルの作成を簡易にしたアルゴリズムを採用し、並列画像処理ボードIMAP-visionに実装し、その処理速度向上を行った。そして、第4章で確認した性質を損なうことなく速度向上が実現されていることを屋外実験を通じて示し、その有効性を確認している。

 第6章はまとめであり、本論文成果の要約および今後の課題について述べている。

 以上を要するに、本論文は、高度交通システムの研究開発における、より密接なアプリケーションとインフラストラクチャの連携の一助となるべく、将来のインフラストラクチャを仮定して新たな交通管制・走行誘導システムの可能性をさぐるための高い柔軟性および可搬性、十分な実行速度を備えた交通流ミクロシミュレータを開発すること、および、将来のアプリケーションで必要となるであろうセンシング技術の1つである詳細な車両認識システムを研究開発することを提案し、その開発を行い、その有効性を実例に基づき確認した研究報告である。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、「高度交通システムのためのシミュレータと車両認識に関する研究」と題し、高度交通システムにおいて起こっているアプリケーションとインフラストラクチャが個別に研究開発されているためにおこる連携不足の問題を解消し、両者の融合をはかるための一実現手法について論じたものである。

 第1章では研究の背景および関連研究について述べ、引き続き本論文のねらいである、次の2つのアプローチを提唱した。すなわち、(1)近い将来において実現可能であると思われるインフラストラクチャを仮定し、その上でそのインフラストラクチャを利用した新たなアプリケーションの効果を評価すること、および(2)近い将来においてアプリケーション側で必要になると思われるインフラストラクチャの開発を行うこと、である。アプローチ(1)を実現する一手法として、現状を詳細に再現する目的ではなく、現状のインフラストラクチャにいろいろな追加や変更が容易に行えるようなシミュレータを構築し、その上で様々なシミュレーションを行うことを提案し、アプローチ(2)を実現する手法としては、A社B型といったレベルでの詳細な車種認識のできるシステムを開発することを提案している。

 第2章と第3章では上記(1)のアプローチについて論じている。

 第2章では、その第一歩として、新たな制御誘導方法を評価するために必要なツールとしてのシミュレータの構築について述べている。そのシミュレータには、現状のインフラストラクチャにいろいろな追加や変更が容易であること、現状にはない、あるいは現状では不可能な新たな交通制御、走行誘導手法のシミュレーションが簡単に行えること、および上記2つのことを行うのに必要とする労力は非常に小さい、という3つの著しい特徴がある。

 第3章では、第2章で作成したシミュレータが実際に当初の性質を持つことを、4つのシミュレーション事例を通じて確認しその有効性を示してある。4つの事例とは、路車間通信を通して分岐の優先方向を動的に変更するもの、2x2格子状道路網における動的信号制御、信号交差点における右折車両の誘導、および駐車場の混雑情報提供の効果である。

 引き続く2章では、(2)のアプローチに沿った高度車両認識システムの開発について述べている。

 第4章では、局所特徴量の配置をモデルとして持ち、投票によって認識を行うシステムである固有窓法のアルゴリズムを紹介し、その高度交通システムでの有効性を屋内実験と屋外実験を行って示している。屋外実験では、昼夜を間わず同一のアルゴリズムで動作するように赤外カメラを利用している。これらの実験を通じて、認識対象車両の一部が隠されていても認識可能であること、認識対象車両が平行移動していても認識可能であること、認識対象領域を切り出すことなく認識可能であること、という3つの著しい性質を確認し、その認識性能について詳しく調べている。

 第5章では、第4章を受けて、投票システムは同じであるが、モデルの作成を簡易にしたアルゴリズムを採用し、並列画像処理ボードIMAP-visionに実装し、その処理速度向上を行った。そして、第4章で確認した性質を損なうことなく速度向上が実現されていることを屋外実験を通じて示し、その有効性を確認している。

 第6章はまとめてあり、本論文成果の要約および今後の課題について述べている。

 以上これを要するに、本論文は、高度交通システムの研究開発における、より密接なアプリケーションとインフラストラクチャの連携の一助となるべく、将来のインフラストラクチャを仮定して新たな交通管制・走行誘導システムの可能性をさぐるための高い柔軟性および可搬性、十分な実行速度を備えた交通流ミクロシミュレータを開発すること、および、将来のアプリケーションで必要となるであろうセンシング技術の1つである詳細な車両認識システムを研究開発することを提案し、その開発を行い、その有効性を実例に基づき確認しており、電子情報工学上貢献するところが少なくない。

 よって本論文は、博士(工学)の学位論文として合格と認められる。

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