学位論文要旨



No 215623
著者(漢字) 田中,源太郎
著者(英字)
著者(カナ) タナカ,ゲンタロウ
標題(和) 自由液面乱流場における液面形状と洗場の3次元同時計測手法
標題(洋)
報告番号 215623
報告番号 乙15623
学位授与日 2003.03.12
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15623号
研究科 工学系研究科
専攻 システム量子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 班目,春樹
 東京大学 教授 中澤,正治
 東京大学 教授 小林,敏雄
 東京大学 助教授 岡本,孝司
 東京大学 助教授 越塚,誠一
内容要旨 要旨を表示する

 自由液面を有する体系、例えば種々の工業プラント内等において、気液界面での流場と液面の相互作用は、液面の自励振動や旋回渦による気泡巻き込みといった非線形現象を引き起こす要因となる。これらの非線形界面現象は、ループ内流体の流動特性を著しく低下させるとともに、プラント内配管等に深刻な影響を与える。原子力分野では、「もんじゅ」に代表される高速増殖炉の、冷却材の混合領域を構成する炉容器内筒の上端がNa液面より下にある沈潜堰になっている。そのため大型・薄肉構造物の振動特性と強度、ならびにナトリウム自由液面の地震時スロッシング応答を高い精度で予測する解析技術の開発が急がれている。同様に地震などによって石油貯蔵タンク内でスロッシングが発生した結果、容器破損や溶液噴出事故が数多く報告されている。また、H-IIロケットの様な宇宙開発分野においてもタンク内推進薬の液面制御が大きな課題となっており、液面状況に応じたタンク内圧力制御が必要となっている。

 これらの現象の回避のためには、気液界面での流場と液面との相互作用の解明が必要である。現在、数値解析手法の充実により様々な体系での流体計算が可能である。流れの数値解析において、自由液面を有する体系における流動計算は、波動する液面を境界条件としなくてはならない。しかしながら、準静的液面を除いてこの境界条件を正しく与えるような知見は未だ得られていない。従来、自由液面と液体内部の流速との相互作用を計測した研究は主としてLDVを用いて行われている。ところが、これらの研究のほとんどは、液体側の流速分布を測定しているに留まっており、液面変動の同時測定は行われていないため、自由液面乱流場におけるSurface Sub-layerの組織構造の詳細は明らかにされていない。また、その相互作用は多分に3次元的である。LFDのような液位計やLDVといった流速計は測定の精度は高いが、点計測であるというデメリットがあり、液面と流場の相互作用を解析する上では、十分な情報を得ることができない。

 本研究では、液面下の流場計測にステレオPIV(Particle Image Velocimetry:粒子画像流速測定法)、及びLIF(Laser Induced Fluorescence)を用いる。PIVは流場断面の速度ベクトル分布を時系列で高精度に測定することが出来る流速測定法である。さらに、ステレオ撮影により流場のある断面上の3次元流速を可視化できるため、自由液面乱流場と液面の2次元形状の相関を解析することができる。また、近年ハードウェア及び画像処理技術の著しい進歩によって、LIFによる定量的な流場解析が可能となりつつある。流体に混入したレーザー蛍光染料により、超高解像度の流場拡散情報を取得することによって、Coherent Structureを認識できるまでに至っている。Walkerらによると、Surface Sub-layer内での非等方性および液面近傍での流速と渦度の相関が自由液面乱流場を支配している重要なパラメータであり、これらの観点からも本手法が強力なツールとなることが期待できる。気液の成層界面である自由液面の2次元的な形状は、気相、液相それぞれの流れと強い相関がある。液面の2次元形状を測定する手法としては、モアレ法やDabiriのカラーパレット法等があるが、液面での光の反射を用いるため、測定系が非常に複雑となり、定量化が難しい。そこで本研究では、自由液面形状測定にスペックル法を適用する。スペックル法は申請者によって提案された、レーザーを用いた新しい液面形状測定手法である。スペックル法は、液面での光の屈折を利用した液面形状測定法であるため、非常に簡易な光学系で液面の2次元形状の過渡変化が追えるという強みがある。しかしながら、得られる液面情報は撮影されるスペックルの解像度に依存するため高解像度カメラによる測定が望ましい。

 上記の工学的計測手法を組み合わせることによって、自由液面と液面下流場の高精度同時計測が可能となる。本研究では、この高解像度同時計測システムを構築するとともに、得られる液面形状及び液面下乱流の3次元情報を解析することによって、気液界面での流動現象の解明が期待できる。さらに、この気液二相界面の情報は気泡スラグ流等の気液混相流解析の基礎データをも成り得る。これらの気液界面での流体相互作用について定量的なデータの蓄積、及びその解析による貝目非線形現象とその組織構造の解明が本研究の目的とするところである。

 本研究では、自由液面乱流場を対象とした実験的研究を行った。自由液面乱流場は多分に3次元的であり、また液面擾乱生成源である液面下の流場と液面自身との相互作用の解明が重要となる。その際、液面形状を定量的かつ3次元的に計測できる手法が必要となる。

 可干渉性の光を用いた3次元液面計測手法であるスペックル法を開発した。

 本手法は、計測が困難な透明物体である液面形状を、高精度かつ3次元的に測定可能な手法であった。さらに、近年開発が進んでいるその他3次元測定法と比較して、液面での光の屈折を利用することからくる測定系の簡便性が特徴である。自由液面乱流場自体の測定には、3次元速度成分が計測可能なステレオPIV法を用いた。ステレオPIV法は、2台以上のカメラの視差を利用してその奥行き方向速度成分を算出する方法であるが、乱流解析に用いるにはその解像度、精度に疑問があり、そのまま実施することは出来ない。

 本研究では最新のPIV処理技術ならびに画像処理技術を組み合わせることによって、ステレオPIV法の解像度ならびに精度を向上させることが出来た。

 本研究で使用したステレオPIV計測手法は、そういった点で非常に将来性のある解析手法であるといえるが、まだ3次元ベクトル再構築の場面での最適化を必要としており、さらなる改良が望まれる。

 スペックル法とステレオPIV法の2つの光学的手法を組み合わせ、液面乱流解析にあらたな視点を導入することができた。

 ステレオPIV法によって得られた速度ベクトル場はスペックル法で得られた液面形状データと完全に同期しており、全く同時刻の、非常に近接した領域での測定が実施された。これは両計測手法が光学的手法であること、簡便な計測法であるために実現可能な測定であった。

 液面下円形噴流を用いた実験結果からは、液面と流場との確かな相関係を見ることが出来た。

・液面が拘束条件として存在する場合、ノズル先端から噴出したジェットは、下流に行くにしたがって、その最大流速点が液面寄りにシフトしていくことがわかった。

・レイノルズ応力分布(v'2-w'2)/(Uin)の違いは液面の有無によって引き起こされたものである。これがいわゆる"Surface Current"を生成するカとなっていることがわかった。

・高レイノルズ数・高フルード数流れでは、ノズルから噴出したジェットは液面と衝突した後、液面を隆起・振動させて扇状の液面波を発生させる。

・それに対して、低レイノルズ数・低フルード数流れでは、ジェットは下流方向に進むにつれ液面に接近し付着するが、その鉛直方向速度成分はレイノルズ応力(v'2-w'2)/(Uin)となって液面表層にスパン方向流場を発生させる。

 さらなる実験データの蓄積により自由液面を有する体系での数値解析における境界条件、また種々の工業プラント内の貯蔵タンクの振動制御といった方面での活用が期待される。

審査要旨 要旨を表示する

 自由液面を有する流れ場は自然界にもまた種々の工業プラントにも現れる。したがってその挙動を正確に予測する技術の開発が望まれているが、流れ場と液面がどのような相互作用をしているのかについて、まだ十分な知見が得られていない。数値計算で液面挙動を解析する場合においても、境界条件の与え方についての明確な知見がまだない状況にある。本研究はこの問題解決に資するため、液面挙動と液体内部流速の3次元同時計測手法の開発し、液面に平行な水噴流と液面の乱れを同時計測したものである。

 第1章は序論で、自由液面乱流場に関する従来の研究をまとめるとともに、本研究の目的を述べている。

 第2章では3次元液面計測手法の開発成果についてまとめている。従来手法は点計測のものがほとんどであり、3次元計測には複雑な測定系を要することから、固体の微小変動測定に使われているスペックル法を液面計測に応用するという新しいアイデアを創出し、実際にシステムを組んで精度確認まで行っている。尖鋭な波の計測は困難であるなどの制約はあるものの、表面張力波のような微小な波、特に自由液面乱流場における液面擾乱の計測には非常に有力であることを実験的に示している。

 第3章は液体内部流速の計測手法の改良について述べている。レーザドップラー流速計、レーザ励起蛍光法による可視化、粒子画像流速測定法(PIV)といった計測手法を自由液面に平行な円形噴流の作る流れ場に対し試み、その定性的性質をまず把握している。次いで液面との同時計測を考慮し、高速カメラを用いたステレオPIVを研究目的に十分なものにまで改良している。その結果として、低レイノルズ数・低フルード数の条件では鉛直方向速度成分がレイノルズ応力となって液面表層にスパン方向流れ場を発生させていること、などを確認している。

 第4章では、まず液面と流れ場の同時計測のための光学機器同期システムを構築している。すなわちPIVではダブルパルスレーザのそれぞれのパルスをPIV用カメラの異なるフレームに記録する。その間隙においてスペックル法のレーザを発光しもう1つのカメラに記録する。これにより両者が干渉することなく同時計測が可能となる。続いて構築された計測システムを用い自由液面乱流場を計測している。高レイノルズ数・高フルード数では噴流は液面を隆起・振動させて扇状の表面波を発生させていることなど、液面と流れ場の相互作用を確認している。

 第5章は結論で、本研究の成果をまとめている。

 以上のように、本論文は自由液面乱流場の研究に必要な液面と液体内部流速の3次元同時計測システムを開発するとともに、それを液面に平行な円形噴流によって生じる流れ場に適用しその有効性を示したもので、工学の進展に寄与するところが少なくない。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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