学位論文要旨



No 215626
著者(漢字) 藤原,伸夫
著者(英字)
著者(カナ) フジワラ,ノブオ
標題(和) 反応性プラズマエッチング技術の微細加工への応用に関する研究
標題(洋)
報告番号 215626
報告番号 乙15626
学位授与日 2003.03.12
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15626号
研究科 工学系研究科
専攻 マテリアル工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 堀池,靖浩
 東京大学 教授 吉田,豊信
 東京大学 教授 鳥海,明
 東京大学 助教授 霜垣,幸浩
 東京大学 教授 小川,雄一
内容要旨 要旨を表示する

 半導体集積回路の目覚しい発展において、微細加工技術の進歩によるところが大きい。特にプラズマを用いた反応性エッチング技術の高精度化は微細化を飛躍的に推進した。なかでもトランジスタのゲート電極の形成においては高精度な微細パターンを形成するために反応性プラズマエッチング技術は低圧力・低エネルギー化の技術変遷を繰り返してきた。最も低圧力領域にて反応性プラズマ生成が行なえるのが電子サイクロトロン共鳴(ECR:Electron Cyclotron Resonance)を用いたプラズマ生成法である。本論文はECRプラズマを用いて微細加工を実現するために、プラズマ特性とエッチング特性の比較検討を行なった結果をまとめたものである。

 ECRプラズマでは低圧力動作が可能なため、プラズマ中における化学的に活性な中性ラジカル密度が低く、高精度な加工を阻害する要因であるパターン側壁保護膜の形成を最小限に留めることが可能である。しかも低圧力条件下ではエッチングに必要な反応性イオンが中性ガスにより散乱されることも少ないため、強いイオン加速を行なわなくても基板に対しての垂直入射性が維持できる。このことは低エネルギーイオンにより方向性のあるエッチングの可能性を示唆し、極薄いゲート絶縁膜上での高精度ゲート電極加工に適用する価値のあるものである。

 しかし、実際に低圧力動作させたECRプラズマによりゲート電極であるpoly-Siをエッチングした結果は異方性が不充分な結果であった。加工形状には斜入射イオンの存在を示す特徴が観察され、要因として、エッチング基板に対する垂直入射を損なう方向のイオンの運動がプラズマ中で存在していると考えた。そこでプラズマの安定性に着目し、プラズマ生成磁場と基板入射位置におけるイオンのエネルギー分布の関係を検討した。この結果、プラズマを安定に閉じ込めることが可能な極小磁場条件を広げた磁場中で生成したECRプラズマにおいてはイオンエネルギー分布が狭くなる、すなわちイオン温度が低温化したと見なせることが判明した。極小磁場が得られる領域を広げるために永久磁石による多極カスプ磁場を従来のソレノイドコイルによる磁場と複合させ、生成したプラズマとエッチング形状との対応を比較検討した結果、複合磁場では低イオン温度プラズマが得られ、この条件下ではエッチング異方性が高まることが確認できた。

 プラズマの安定性を阻害している要因をプラズマ密度の不均一性に起因したプラズマのドリフトと考え、ドリフトと電子との速度差を小さくするために軽質量イオンを生じるガス系を検討した。塩素プラズマにHeを加えた場合、塩素イオンのエネルギー分布は狭くなり、同時にエッチング異方性も向上することが確認された。さらに軽質量の水素イオンを含ませるためにハロゲン化水素によるエッチングを検討したところ、ハロゲンイオンのエネルギー分布が狭くなり同時にエッチング異方性も向上した。

 微細加工に適した安定なプラズマを生成するための恒久的な対策として、これまでの検討から均一なプラズマ密度分布とすることが最も重要であり、このためにはプラズマの生成と輸送を均一にすることが必要であると言える。そこで、ECRプラズマ生成においてマイクロ波電力の吸収と磁場分布の関係を考察し、均一かつ高密度のプラズマ生成のためには、共鳴磁場位置におけるマイクロ波進行方向の磁場勾配がプラズマ生成領域全体で均一かつ低勾配である必要性を見出した。この検討に基づき磁場の最適化を実施し、エッチング特性実験を行なった結果、均一かつ低勾配の磁場により、エッチング速度は均一かつ高速となった。さらにプラズマ密度が均一化しているため、この効果によりプラズマの不安定性も軽減されていることがエッチング異方性の向上により確認でき、ECRプラズマによる高異方性エッチング技術が確立された。

 低圧力・低イオンエネルギー条件において異方性エッチングが可能となったECRプラズマエッチングをpoly-Siゲート電極加工に適用した結果、加工形状に特異なサイドエッチ(ノッチ)が発生することを発見した。このノッチはパターンサイズやパターンレイアウトに強く依存する特徴を有し、微細パターンにおいてプラズマから供給された電子とイオンが分離して帯電(チャージアップ)していることが原因とするモデルを提案した。このモデルに基づき、低電子温度化がノッチ抑制に有効であることを実験により実証した。さらに実用性の高い高エッチング速度条件でのノッチ抑制の試みとして高周波バイアスとプラズマのパルス変調の検討を行なった。

 高周波バイアス印加においてノッチは抑制可能ではあるものの、下地ゲートSiO2膜との選択性の評価などによりチャージアップは依然として残留することが判明した。一方、プラズマ生成のマイクロ波電力をON/OFFパルス変調を行った場合にはOFF時間を長くすることでノッチが抑制されることが明らかとなった。さらにマイクロ波電力制御の方法を検討した結果、チャージアップの緩和はOFF時間中のプラズマによるチャージアップ電荷の中和に加えて、ON時間初期の高電子温度プラズマから供給される電子によるものであることを明らかにした。

 チャージアップはノッチを引き起こすだけでなく、電気的なダメージを被加工表面のデバイスに与える。MNOSキャパシタを用いた電気的評価により、微細パターンにおけるチャージアップ量は広いパターンに比較して大きいことが判明した。ノッチの抑制と同様にパルス変調したプラズマにより同様の電気特性評価を行なった結果、チャージアップは大きく抑制されることを実証した。

 半導体集積回路のゲートエッチング工程への実用上の課題として異方性加工、高選択性と同時にRIE-Lag効果(エッチング速度のパターンアスペクト比依存性)の抑制という課題がある。代表的な材料であるWSi2、poly-Si、単結晶SiのRIE-Lag効果を比較評価した結果、WSi2と単結晶Siにおいて顕著なRIE-Lag効果が観察された。要因として考えられる中性反応種の供給律速、マスク材料のスパッタ再堆積、反応生成物の表面脱離などを検討した結果、WSi2のRIE-Lag効果に最も影響するのは反応生成物の脱離であると結論された。高密度・高エネルギーのイオン照射がある場合には反応に寄与する中性粒子の吸着が阻害され、低次の塩化物が反応生成物となるので、揮発性が低い反応生成物が表面を覆っているためと考えられる。同様の検討を単結晶Siに対して行なった結果では、中性反応種の供給律速がRIE-Lag効果の主要因となっていた。特に発散磁場型のECRプラズマを用いた場合、プラズマを被加工基板方向に加速するような空間電位分布中で輸送されるイオンは中性ガス分子と電荷交換衝突を起こす結果、方向性のある中性粒子束となり基板に入射するためRIE-Lag効果を抑制することが可能であることを示した。

 WSi2のRIE-Lag効果抑制のためにパルス変調したプラズマの適用を試みた。プラズマOFF時間中のイオン照射の少ない状態で中性粒子を被加工面に吸着させた後、ON時間中のイオン照射により異方性に反応を進めることが繰り返される効果を狙ったものである。実験結果においてRIE-Lag効果の抑制が確認され、さらに反応生成物も揮発性の高い高次の塩化物の割合が増加していることが示されたことから、OFF時間中の中性粒子束/イオン束が大きくなったためと結論した。

 以上に述べた研究結果により低圧力・低エネルギー条件によるECRプラズマエッチングの微細加工性能の向上が図られ、また半導体集積回路製造におけるゲート電極加工への応用上の課題に対しての対策の方針を示すことができた。

審査要旨 要旨を表示する

 半導体産業は、大容量かつ多機能の半導体デバイスの開発を推進することによって目覚しい発展を遂げて来た。この発展は微細加工技術の進歩によるところが大きい。近年の先端半導体デバイスにおいては、トランジスタ性能を直接的に決定するゲート電極寸法が100nm以下に微細化され、素子特性のバラツキ抑制のためにはナノメートルレベルでの高精度寸法制御が要求される。本論文では、高精度な微細パターンを形成するために、反応性プラズマエッチング技術において低圧力領域にてプラズマ生成が行なえる電子サイクロトロン共鳴(ECR:ELectron Cyclotron Resonance)プラズマを用いて、微細加工に適したECRプラズマの生成と制御方法を検討し、エッチング異方性とプラズマ特性の関係、微細パターンとプラズマの相互作用、および被エッチング表面の反応機構の考察を行なったものである。本論文は5章からなる。

 第1章は緒言であり、微細パターン形成に必要なエッチング技術において、低圧力化、低イオンエネルギー化、高密度化が重要であることを示し、高効率のプラズマ生成方式の1つであるECRプラズマの重要性をまとめ、本論文の意義と目的について述べている。

 第2章においては、エッチング異方性とプラズマ特性の関係を考察し、異方性エッチングに適したECRプラズマ生成方法を検討している。その結果、ECRプラズマによる多結晶Siの異方性エッチングにおいて、プラズマ中のイオン温度とイオンシース電圧が加工形状における側壁のくびれや逆テーパー形状に大きく影響することが示されている。異方性向上に対してイオン温度を低温化することが重要である。このためには、プラズマ生成の磁場分布においてプラズマを安定に閉じ込める磁場領域を広げることが重要と考え、多極磁場を併用することによってイオン温度が低温化し、加工形状の異方性が増すことを実証している。プラズマ安定化の別の手法としてエッチングに必要なハロゲンイオンよりも軽質量のイオンを含むプラズマでは異方性が向上することも示している。プラズマ密度を均一化し安定なプラズマ生成がイオン温度の低温化に重要であるという考察に基づき、ECR領域におけるプラズマ生成を均一かつ最適化するために磁場勾配の分布を均一にする必要性を導き出し、実験により実証するとともにECRプラズマ生成方法の最適化指針を示している。

 第3章においては、第2章において最適化されたECRプラズマによる多結晶Siのエッチングにおいて、パターンに依存した特異な加工形状をもたらすチャージアップについて原因究明と対策方法を検討している。この結果、微細パターンにおいて発生する局所的なサイドエッチ(ノッチ)は、パターンによる電子入射の遮蔽により、パターンのアスペクト比に依存したチャージアップが原因であるとするモデルを提案し、実験的に検証している。チャージアップに起因するノッチは低電子温度、低イオン電流密度により抑制されるが、実用的観点から高イオン電流密度でのノッチ抑制を検討し、その方法としてパルス変調プラズマを適用している。パルスプラズマにおいては放電休止中における低電子温度状況下においてチャージアップが中和され、さらに放電開始の瞬間において、放電させるために必然的に生じる高エネルギー電子のパターン底部への到達によりチャージアップを中和させると考え、この電力変調の方法によってチャージアップを制御できることを実証している。

 第4章では、代表的なゲート材料のエッチング時における表面反応機構をイオン束と中性粒子束の供給の観点から検討している。その結果、低圧力のECRプラズマエッチングではWSi2、Si、多結晶Siのいずれに対しても中性粒子束供給がエッチング速度に影響し、パターン寸法に依存したエッチング遅れ(RIE-Lag)の原因となっている。さらにWSi2のCl2ガスプラズマによるエッチング反応では、低揮発性の反応生成物による表面被覆や再付着がRIE-Lagの主原因であるとしている。そこで低揮発性の反応生成物が生じる要因として、高イオンフラックス供給や高エネルギーイオン照射により反応面における中性粒子吸着量低下であると考え、反応表面における中性粒子量を増加する一手法として第3章で述べられたパルスプラズマを適用し、RIE-Lagが低減すること、揮発性の高い反応生成物が生じていることが示されている。

 第5章は総括である。

 以上要するに、本論文は、ECRプラズマによる微細エッチング技術において、微細加工に適したプラズマ生成方法を示し、微細化に伴うチャージアップ現象に対応するプラズマ制御方法の開発、表面反応機構とエッチング特性の解明がなされており、プラズマ工学への貢献が大きい。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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