学位論文要旨



No 215628
著者(漢字) 中川,秀夫
著者(英字)
著者(カナ) ナカガワ,ヒデオ
標題(和) 半導体微細加工プロセスにおける層間絶縁膜エッチング技術に関する研究
標題(洋)
報告番号 215628
報告番号 乙15628
学位授与日 2003.03.12
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15628号
研究科 工学系研究科
専攻 マテリアル工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 堀池,靖浩
 東京大学 教授 吉田,豊信
 東京大学 教授 鳥海,明
 東京大学 助教授 霜垣,幸浩
 東京大学 助教授 寺嶋,和夫
内容要旨 要旨を表示する

 半導体デバイスの多層配線を形成する上で、第1層目の配線と基板及びゲートなどの電極への接続を目的とするコンタクトホールのエッチングは極めて重要な技術である。しかしながら、半導体デバイスの微細化に伴いコンタクトホールの高アスペクト比化が急激に加速してきたため、コンタクトホールエッチングにおいて垂直断面形状、対下地Si高選択比、低RIE-lag*という特性を同時実現するのは非常に困難になってきた。また、エッチングによるレジストパタンからの寸法変換差が製造上の大きな問題となってきている。このエッチングによる寸法の制御は、まさしくエッチング形状の制御に他ならない。ドライエッチングは、イオンとラジカルの競合反応として取り扱うことができ、イオンがエッチング反応の駆動力となっている。しかしながら、垂直断面形状、対下地Si高選択比及び低RIE-lagという特性を実現するためには、イオンよりもラジカルの役割の方が大きい。

 本研究では、この点に着目して高アスペクト比コンタクトホール(HARC)エッチングにおいて、高アスペクト比HARCパタン内部へのラジカルの供給と、その素となる気相中のラジカル生成に焦点を絞って研究を遂行した。層間絶縁膜材料は、SiO2を主骨格とする膜と有機膜に大別できる。本研究ではその両方について高性能なHARCエッチングの実現を目指した。

 本論文のテーマは大きく4つあり、それぞれの要旨を以下に述べる。

1.高アスペクト比3次元構造表面観察のための高解像度SEMの研究開発

 HARCエッチング技術開発を加速し、量産性の高いエッチング技術を提供するために、従来不可能であった高アスペクト比構造パタン底部の観察を可能にし、エッチング時の寸法制御を定量化可能な走査型電子顕微鏡(SEM)を開発した。イマージョンタイプ対物レンズを新規に設計開発してウエハ表面に強い軸方向磁場(>0.17T)を印加可能な構成を実現し(図1)、高アスペクト比微細構造パタン底部から放出される2次電子の収集効率を飛躍的に向上できることを実証した。新開発のSEMは、約2.5mmという非常に短い焦点距離持ち、0.7kVの1次電子加速電圧で30Åの解像度を実現した。アスペクト比10のトレンチ底部にある0.55μm L & S(line and space)のSiO2パタンの測定において、5nm/3σ(σ:standard deviation)の良好な測定再現性が達成された。実際の64MDRAM(0.35μm)及び256MDRAM(0.25μm)のプロセス開発への適用を通じて、本研究の主目的であるHARCエッチングの研究における寸法の制御、すなわち、エッチングパタン形状制御の重要性が明確になった。

2.SiO2膜の高アスペクト比コンタクトホール(HARC)エッチング

 ワイドギャップ平行平板型反応性イオンエッチング(ワイドRIE)装置を用いて、垂直断面形状、対下地Si高選択比、低RIE-lag及び高速エッチングのすべてを満たすドライエッチング技術を実現するために、高アスペクト比微細構造中のラジカル輸送に関する研究を実験とシミュレーションの両面から行った。HARCパタン内部壁に対するCF系ラジカルの吸着率が処理中のウエハ温度を変えることにより制御できることを見出し(図2)、ウエハ温度を最適化(〜83℃)して、CF系ラジカルの吸着率(すべてのラジカルの加重平均値)をおよそ0.05程度に低下させることにより、パタン底部に十分な量のラジカルを供給できることを明らかにした(図3)。その結果、CHF3/COプラズマを用いてアスペクト比4を超える0.35μmHARCエッチングにおいて垂直断面形状、対下地Si高選択比(69:ホール底部/97:スクライブライン)、低RIE-lag(93%)、高速エッチング(従来の3倍)を同時実現した。

3.誘導結合プラズマ(ICP)におけるラジカル生成

 量産性の向上を目指し、さらに高速のエッチングを実現するために高密度プラズマを生成可能なICPにおいて、プラズマの励起機構とCF、CF2ラジカルの生成機構との関連性を空間的に捉えて研究を遂行した。ICPにおける励起周波数の効果を調べるために、VHF-ICP(100MHz)とRF-ICP(13.56MHz)においてラングミュアプローブによりArプラズマの電子密度とラジカル密度(図4)、レーザ誘起蛍光(LIF)と出現電位質量分析法(AMS)を組み合わせによりCHF3/Arプラズマ中のCF、CF2ラジカル密度を円筒形反応室内の径方向分布として計測し、ICPパワー依存性を評価した。RF-ICPではICPコイル直下で誘導結合が効率よく生じ、電極直下に集中したプラズマが形成され、CF、CF2ラジカルが中心部で少なく反応室側壁部で多い中空状のラジカル分布となった。(図5(a))。一方、VHF-ICPでは誘導電界による誘導結合に加え、低密度プラズマ空間を伝搬する電波により生じる表面波励起の様なプラズマ励起機構が存在していることが明らかになった。そのため比較的低パワーの1kW近傍でプラズマ反応室全体に亘ってほぼ一様なプラズマが生成され、ラジカル密度分布もほぼ一様になった(図5(b))。RF-ICPの中空状ラジカル分布は電子密度分布の影響(中心部でのラジカルの過剰解離)だけではなく、むしろ壁からのCF、CF2ラジカルの生成の影響を大きく受けていると推定した。そこでプラズマと壁との相互作用を調べるためにウエハ近傍の軸方向ラジカル分布計測を行った結果、CF、CF2ラジカルは共にバイアスの印加の有無に拘わらずウエハ表面から生成されており、ウエハ表面近傍のラジカル密度は気相中の密度の少なくとも2倍以上になっていることが確認された。

4.低圧高密度プラズマ(磁気中性線プラズマ:NLD)による高性能有機low-k膜エッチング

 有機low-k膜(FLARE)エッチングにおいても、SiO2膜のHARCエッチングの様なラジカルによる堆積膜(側壁保護膜、表面反応層)を伴うエッチングシステムを構築することが重要であると考え、高アスペクト比微細構造中に供給するラジカル成分の生成をガスケミストリの設計から取り組んだ。パタン側壁及び底部にコンフォーマルにCH膜を形成可能することを目的に、添加ガスとしてCHx(x=1、2、3)フラグメントを容易に発生可能でH/C比が最も大きいメタンCH4(H/C比:4)を選び、CH4/N-2プラズマにより、垂直形状でマイクロトレンチ及びRIE-lagの無い有機low-k膜のHARCエッチングを実証した。しかし、順テーパ形状が容易に実現できないことと、期待した堆積膜はパタン内部だけでなくウエハ表面にも過剰に形成されることが課題として残った。CH4/N2ガスケミストリの利点を備え、CH4ラジカルを生成せず、CH、ラジカルの生成も抑制できるガスをさらに探索した。メチル基(CH3-)と窒素を含む一分子からなるガスが最適であると考え、C、H及びNからなる分子の最小分子であるメチルアミン(CH3NH2)を見つけ出した。CH3NH2/N2プラズマにより順テーパ形状でマイクロトレンチがなく(図6)、逆RIE-lag特性(図7)を有する0.17μmレベルの高性能高アスペクト比パタン(ホール/トレンチ)エッチングを達成し、有機low-k膜エッチング技術を大きく進展させた。XPSによる堆積膜評価から、有機low-k膜のエッチングではSiO2膜のエッチングにおけるCF膜の役割をCN膜が担っていることを明確化し、ガスケミストリに拘わらずSi基板表面に形成された堆積膜のC/N比が約2〜3となることが良好なエッチング特性が得られるための必要条件であることを明らかにした。一方、四重極質量分析器(QMS)によるプラズマ中のラジカルとイオンの計測から、CH3NH2を含むプラズマではCN結合を含むCNHx(x=1、2、3&4)分子をラジカルとしてだけでなくイオンの形でホール底部に供給可能なガスケミストリが、堆積膜を伴う有機膜のエッチングに適していること明確化した。

 以上、総括すると、本研究では層間絶縁膜の2大構成要素であるSiO2膜と有機膜の両方の膜に対して、ラジカルの供給制御という観点から堆積膜を伴うエッチングシステムを確立するための手段を提供し、高性能HARCエッチングを実現した。また、高アスペクト比微細加工中の堆積膜を制御する上で、吸着率制御、プラズマ中のラジカル生成制御、ラジカル源となるガスケミストリ設計の重要性を明らかにし、学術的にも実用的にも層間絶縁膜のHARCエッチングの進展に寄与した。

*RIE-lag[11]とは、パタンのアスペクト比の増大に伴ってエッチレートが低下する現象を言う。逆に、パタンのアスペクト比の増大に伴ってエッチレートが増大する現象を逆RIE-lagと言う。

図1 新SEMの対物レンズの概略説明図

図2 ラジカルの吸着率ξのウエハ温度T依存性

図3 ホール底部に供給されるイオンフラックスとラジカルフラックスのホールアスペクト比依存性に関するシミュレーション結果

図4 ICPパワー0.5、1.0、1.5、2.0及び2.5の場合のArプラズマにおける電子密度の径方向分布

(a)VHF-ICP(100MHz)、RF-ICP(13.56MHz)[Ar=400sccm、3Pa、ノーバイアス]

図5 RF-ICPにおいてICPパワーが1kWのときのCF、CF2ラジカルの径方向密度分布と、VHF-ICPにおいてICPパワーが(e)200W、(f)600W及び(g)1kWのときのCF、CF2ラジカルの径方向密度分布

[CHF3/Ar=80/320sccm、圧力3Pa、ノーバイアス]

図6 CH3NH2/N2プラズマによる0.17μm高アスペクト比ホール(a)とトレンチ(b)のエッチング形状

[NLD;CH3NH2/N2プラズマ=90/10 sccm、0.4Pa、ソースパワー:1kW、バイアスパワー:200W]

図7 CH3NH2濃度が30、50、70、80、90及び100%の場合におけるFLAREの規格化エッチレートのホール直径依存性

[総ガス流量:100sccm、圧力:0.4Pa、Ps=1000W、Pb=200W]

審査要旨 要旨を表示する

 多層配線を形成するための層間絶縁膜エッチング技術の研究開発においては、垂直形状、対下地Si高選択比、低RIE-lagという特性を併せ持った高性能高アスペクト比コンタクトホール(HARC)エッチング加工技術を実現するために、HARC内のエッチング反応表面(側壁と底部)でのイオンとラジカルの競合反応の制御が必要となってきている。その際、プラズマ中で生成されたイオンとラジカルのエッチング反応表面への供給制御が必要になり、ラジカルの生成・供給制御が有効な手法となる。本論文は、SiO2膜のHARCエッチングにおいてHARC内でのラジカル輸送機構と、その供給源となるラジカルのプラズマ中での生成機構の考察を行っている。さらに微細化の進行と共に必要となってきた低誘電率(low-k)膜においてもSiO2膜と異なるガスケミストリを必要とする有機low-k膜のHARCエッチングに対して、エッチング表面反応に基づき新規ガスケミストリ設計を行い、プラズマ中で生成されるラジカル/イオンの組成制御についての考察を行ったものである。本論文は6章からなる。

 第1章は序説であり、これまでの層間絶縁膜エッチング技術の研究開発に関する背景について概説し、HARCエッチングにおけるラジカルの生成・供給制御の必要性と重要性について説明し、本研究の役割、位置づけ、必要性及び本研究の目的について述べている。

 第2章では、HARCエッチングにおいて第1に重要なエッチング形状制御を定量化するために、従来のSEMでは観察できなかった高アスペクト比パタン底部の観察が可能となる高解像度走査型電子顕微鏡(SEM)を新たに開発し、インラインでの高アスペクト比パタン底部の高解像度観察と寸法(CD)測定を可能にした。本SEMの64MDRAM及び256MDRAMの実研究開発への適用を通じて、HARCエッチングにおけるCD制御、すなわち、形状制御の重要性を早期に明確化し、その後のHARCエッチング研究の方向性を見出している。

 第3章では、CF系プラズマを用いた堆積膜を伴うSiO2膜のHARCエッチングにおいて、HARC内のラジカル輸送機構とエッチング特性との関係について実験解析し、議論している。広ギャップRIE(反応性イオンエッチング)装置において、ウエハ温度とHARC内でのラジカルの吸着率の関係を実験とシミュレーションの両面から実験解析し、ウエハ温度の上昇に伴いラジカルの吸着率が指数関数的に低下することを見出し、十分な側壁保護膜の形成とHARC底部へのラジカルの供給量増大を両立し、その結果、垂直形状、対下地Si高選択比、低RIE-lagを同時実現可能なラジカルの吸着率の最適値として約0.05が存在することを明らかにしている。

 第4章では、SiO2膜のHARCエッチングを行うためのCF系誘導結合プラズマ(ICP)において、ICP励起周波数が100MHzと13.56MHzの二種の場合を調べ、プラズマ励起機構の違い、及びラジカルの生成機構の違いを明らかにすると共に、プラズマ励起機構とラジカル生成機構との関係を空間的に取り扱うことの重要性を示している。また、LIF(レーザ誘起蛍光)とAMS(出現電位質量分析法)を組み合わせることにより、CF、CF2ラジカル空間密度分布の絶対値測定を実現して、13.56MHz-ICPの気相中の空間密度分布を測定し、CF、CF2ラジカル密度が反応室の中心部で低く周辺部で極端に高いことを確認している。その一因として、壁からのラジカルの生成の影響を推定し、それを確認するためにウエハ上の軸方向ラジカル密度分布を評価して、壁(ウエハ)とプラズマとの相互作用について議論し、壁でのCF、CF2ラジカルの生成がラジカルの空間密度分布に大きな影響を与えていることを検証している。

 第5章では、有機low-k膜のHARCエッチングにおいて、ガスケミストリとプラズマ中で生成されるラジカル/イオン組成との関係、さらにはエッチング特性との関係を議論し、ガスケミストリと表面反応との関係を研究している。有機low-k膜にダメージを与える酸素を用いることなく、従来のH2/N2プラズマでは実現できなかった「堆積膜を伴うエッチングシステム」を実現するために、CH4/N2プラズマとCH3NH2/N2プラズマによるエッチングプロセスを新規開発し、垂直から順テーパに至る形状に対してマイクロトレンチの無いHARCエッチングを実現している。前記3種類のプラズマにおいてガス混合比を変化させてエッチング特性を比較評価することにより、エッチング機構と表面反応の違いを明確化している。また、エッチング中に生成される堆積膜を光電子分光(XPS)により評価解析した結果、「堆積膜を伴うエッチングシステム」に有効な堆積膜はCN結合を含む膜であり、C/N比を2〜3にすることにより高性能エッチングが実現されることを見出している。

 第6章は総括である。

 以上要するに、本論文は、層間絶縁膜のHARCエッチングにおいて、エッチングケミストリの異なるSiO2膜と有機low-k膜のいずれの場合もプラズマ中でのラジカル生成とHARC内(側壁及び底部)へのラジカルの供給を質的・量的に制御することにより、高性能な「堆積膜を伴うエッチングシステム」を実現できることを示し、その有効性を明らかにした内容をまとめたものであり、マテリアル工学の発展への寄与が大きい。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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