学位論文要旨



No 215633
著者(漢字) 後藤,康雅
著者(英字)
著者(カナ) ゴトウ,ヤスマサ
標題(和) 抱合体代謝物の肝臓、腎臓および小腸における排泄機構
標題(洋)
報告番号 215633
報告番号 乙15633
学位授与日 2003.03.12
学位種別 論文博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 第15633号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 杉山,雄一
 東京大学 教授 新井,洋由
 東京大学 教授 堅田,利明
 東京大学 教授 関水,和久
 東京大学 助教授 鈴木,洋史
内容要旨 要旨を表示する

【序論】

 薬物の胆汁中への能動的排泄に関与する輸送担体としてP-糖蛋白質(P-gp)やMrp2などが知られている。P-gpは肝、脳や小腸に発現し主に中性およびカチオン性薬物の細胞外への排出に機能している。一方でMrp2については、肝、腎および十二指腸に多く発現していることが明らかになっているが、肝以外の臓器における機能は不明である。Mrp2はグルタチオン抱合体、グルクロン酸抱合体および多くの有機アニオン系化合物を基質として認識することが知られている。

 私の研究は、肝、腎および小腸において有機アニオン系化合物の排出におけるMrp2の寄与を明らかにするため、Mrp2を遺伝的に欠損したEHBRとSD系正常ラット(以後SD)を用いてin vivoおよびin vitro実験により解析することを目的とし、その基質としてエストラジオールグルクロナイド(E2-17βG)およびジニトロベンゼングルタチオン抱合体(DNP-SG)を用いて検討した。

【本論】

1 肝臓におけるE2-17βGおよびDNP-SGの排泄機構

 Vore等は、胆管側膜ベシクル(CMV)を用いた種々の検討からE2-17βGの胆汁排泄にP-gpが寄与することを示唆した。これに対しE2-17βGがMrp2の基質になるという別の知見もあり、胆汁排泄におけるこれらの寄与率について定量的な評価を試みた。既にCMVを用いた有機アニオン類のATP依存性輸送から胆汁排泄能力を評価できることが示唆されていることから、SDとEHBRのCMVを用いて[3H]-E2-17βGの取り込みを調べた。SDではATP依存的な取り込みが観られ、EHBRではこれは観察されなかったことから、E2-17βGのCMVへの取り込みにはMrp2が寄与していることを確認できた。SDのE2-17βGのATP依存的な取り込みを速度論解析した結果、Km 6.3μM、Vmax 81pmol/min/mg proteinの飽和性輸送であることが示唆された。P-gpの寄与率を評価するためその阻害剤PSC-833およびベラパミルによる[3H]-E2-17βGのATP依存的な取り込みに対する阻害を検討したところ、それぞれP-gpの阻害に十分と思われる5μMおよび100μMまで影響を与えなかった。この事はE2-17βGの輸送へのP-gpの寄与は小さいことを示唆した。P-gpの寄与をin vivoでも検証するため低投与量または胆汁うっ滞誘起量の[3H]-E2-17βGを静注後の胆汁排泄クリアランス(CLbile,p)を求めた。SDにおいて高投与量になるとCLbile,pに飽和が見られ、胆汁排泄能が低下していることを示した。一方、EHBRでは低投与量および高投与量ともにSDに比べてCLbile,pは低下した。また、PSC-833を同時に投与した場合でもSDのCLbile,pに影響は見られなかった。

 以上より、E2-17βGの胆汁排泄におけるP-gpの寄与率は小さく、E2-17βGは主にMrp2を介して排泄されることが明かとなった。

 肝臓におけるMrp2の寄与について、DNP-SGとその逐次代謝物について調べた。種々の検討を行った結果、DNP-SGも主にMrp2によって排泄され、その逐次代謝物の一部もMrp2に親和性のあることが示唆された。

2 小腸におけるDNP-SGの排泄機構

 小腸にもMrp2の発現が示唆されていたが、薬物の輸送にMrp2がどの程度寄与しているかについては全く不明であった。そこでCDNBを静注後、消化管内に排泄されるDNP-SGを検討したところ、SDとEHBRで顕著な差が観察された。DNP-SGの小腸排泄クリアランス(CLperfusate,p)を求めたところ、CLbile,pと同様にSDとEHBRで有意な差が見られ、EHBRはSDラットに比べ約1/5に低下した。Mrp2の関与をさらに裏付けるため、ラット十二指腸、空腸、回腸、結腸の反転腸管法を用い各部位毎の透過クリアランスを算出しSDとEHBRを比較したところ、十二指腸および空腸において両種間に差が確認された。各部位におけるMrp2のmRNAはSDの十二指腸および空腸にて高く、EHBRでこれらが1/10以下に減少していた。これらMrp2の発現部位は、反転腸管においてEHBRでDNP-SGの輸送低下の見られた部位と対応した。方向性のある輸送を評価する目的で空腸における輸送の方向性をUssing chamberを用い検討したところ、SDでは漿膜側から粘膜側への輸送が逆方向に比べ約1.5倍高いこと、また漿膜側から粘膜側への輸送は、SDの方がEHBRよりも約2倍高いことが観察された。ATP枯渇剤は粘膜側から漿膜側への排泄には影響を与えないのに対し、漿膜側から粘膜側への排泄はコントロールに比べ約1/2に低下させ、DNP-SGがエネルギー依存的な輸送によって排泄されることを示唆した。

 以上の結果より、ラット小腸においても胆汁排泄と同様にMrp2がDNP-SGの消化管上皮細胞から管腔側への排泄に機能していることが示された。

3 腎臓におけるE2-17βGおよびDNP-SGの排泄機構

 CDNBを静注後のDNP-SGの尿排泄クリアランス(CLurine,p)は、絶対値も低く、ばらつきが大きかった。

 腎におけるMrp2の寄与について種々検討している際に、雌ラットを用いることによりE2-17βGの尿中排泄が大きく上昇することがわかった。そこで雌ラットを用いた定常状態試験によりMrp2の関与を検討したところ、CLbile,pはSDとEHBRで明確な差が観察され、胆汁排泄におけるMrp2の関与が確認できたが、CLurine,pには両ラットで差はなかった。このことより、腎排泄におけるMrp2の役割はマイナーなものであると考えられた。一方、雌に比べて雄のCLurine,pは両種ともに非常に小さく、顕著な性差があることが明らかになった。

 雄および雌SDに[3H]-E2-17βGを静注後の胆汁排泄において、若干の性差は見られたが、尿排泄は雌が雄に比べてはるかに大きく顕著な性差が認められた。CLurine,pは、雌が雄より少なくとも250倍以上高かった。一方、糸体球体ろ過能GFRや血漿非結合型分率fuには、ほとんど性差は認められなかった。fu・GFRは、雌でCLurine,pに近い一方、雄ではそれよりはるかに小さく、雄に再吸収が起こっていることを示唆した。以上の速度論的解析により尿細管再吸収機構の存在が強く示唆されたが、一方で、このCLurine,pの性差が血液側からの腎上皮細胞への取り込みに起因する可能性も考えられたので、in vivoで血液側からの初期取り込みを測定した。積分プロットの傾き(組織取り込みクリアランスに相当)は、腎臓をはじめ他臓器でも性差が認められず、取り込み過程の性差はではないと考えられた。再吸収が関与すれば、CLurine,pの小さい雄ラットで再吸収能力が大きく、雌ラットで小さいことになる。また、E2-17βGが有機アニオンで水溶性が高いことを考えると受動輸送により再吸収が生じるとは考えにくく、トランスポータによる再吸収が考えられる。そこで、有機アニオン系トランスポータの阻害剤であるDBSPを用い、再吸収を阻害することを試みた。DBSP併用によるCLbile,pの低下は、血管側膜に発現するOatp1による肝取り込み、Mrp2による胆汁排泄の阻害と考えられた。一方、CLurine,pは、DBSP存在下で雄だけが上昇し、尿排泄性差が消失した。このことからE2-17βGの尿排泄性差はDBSPによって阻害されうる、再吸収方向のトランスポータに起因すると考えた。ただし、代謝の性差の懸念から尿中放射活性をTLC解析したところ、E2-17βG以外の放射活性は低く、代謝の性差やDBSPによる影響は認められなかった。。E2-17βGの代謝酵素としてβグルクロニダーゼが考えられ、この阻害剤SA1,4Lを4時間前から持続注入し、E2-17βGを同時投与した。定常状態CLurine,pはSA1,4Lが入っても雄で依然検出限界以下であり、この時の腎臓ホモジネート中βグルクロニダーゼ活性はSA1,4L処理ラット腎臓で顕著に低下し、阻害剤の効果が認められた。一方でDBSPは活性を阻害しなかった。従って、E2-17βGの代謝では腎クリアランスの性差を説明できないことがわかった。以上より雄のみに再吸収過程にトランスポータが存在し、その結果、雄で再吸収が進み、雌では再吸収がない分、尿中排泄が大きいという仮説が成り立つ。腎臓では管腔側に発現することが知られるOatp1の発現を調べたところ、肝では雄と雌、SDとEHBRの差は認められず、腎では雄に比べ雌の発現は非常に少ないことを確認することができた。また、去勢雄ラットでOatp1が減少し、雌にテストステロンを1週間投与することによりOatp1の発現上昇が見られた。以上の結果は、Oatp1の発現が性ホルモンにより調節されていることを示した。次にE2-17βGの腎クリアランスの変動を検討したところ、CLbile,pに影響はなかったものの、CLurine,pにおいて、雄去勢モデルで顕著に上昇し、雌とほぼ同等のレベルにまで上昇した。逆に雌にテストステロンを投与した場合、CLbile,pに影響がなかったものの、CLurine,pはテストステロン投与群で顕著な減少が見られ、雄のコントロールと同様、検出限界以下のレベルにまで低下した。以上、Oatp1の腎における発現レベルとE2-17βGの腎クリアランスがリバーサルに変動することがわかり、再吸収におけるOatp1の関与が強く示唆された。これまで得られた実験データを、再吸収過程の性差だけで説明可能かを検証するために数学モデルに基づいた解析を行った。血液中のE2-17βGは糸球体濾過を受け、尿細管における分泌PS1、再吸収PS2を受け排泄される。本モデルを用い、PS1および反発計数ρを固定し、種々のPS2における腎クリアランスを尿流速の関数として計算し、これまでに得られた雌のコントロール、DBSP共存下の雌雄、マンニトール利尿時の雌の値をプロットした。雄コントロールおよびマンニトール利尿時の腎クリアランスの結果は定量限界以下となりプロットされていない。PS1を10mL/min/kg、ρを0.99に固定して、PS2が1mL/min/kgの時に、雌におけるコントロール、DBSP阻害、マンニトール利尿の結果をすべて説明することができた。この条件で、Oatp1による再吸収クリアランスを表すPS2を雌より200倍以上高くすると、腎クリアランスは検出限界以下にまで下がること、また、雄にDBSPを投与した場合、PS2のみが低下すると考え、雌レベルにまで腎クリアランスが上昇することもsimulationすることができた。

【結論】

 肝、腎および小腸におけるE2-17βGおよびDNP-SGの排泄機構を検討したところ、E2-17βGの胆汁排泄機構について、P-gpの寄与は小さく、主にMrp2により排泄されることを明らかにした。また、DNP-SGを用いた検討からMrp2が小腸(特に空腸)においても排泄トランスポータとして働くことを明らかにした。腎においてはこれら化合物の排泄にMrp2の寄与は小さいこと、一方でOatp1が再吸収トランスポータとして雄ラットで機能し、その結果、E2-17βGの排泄に顕著な性差が認められることを示唆した。従って、DBSPのようなOatp1の阻害剤を用いて再吸収を阻害すれば、尿排泄を大きく上昇させることが可能であることを示唆した。腎排泄において、Mrp2の寄与を積極的に支持する結果は得られなかったが、薬の種類によっては、Mrp2の関与の可能性は充分あり今後の研究が必要と考えられる。

 小腸においてMrp2が排泄トランスポータとして働き得ることは、薬物のバイオアベイラビリティーにMrp2が関与する可能性を示唆し、また、肝では取り込みトランスポータとして働くOatp1が、腎では再吸収のトランスポータとして働き、かつその発現および再吸収能が性ホルモンの支配下にあることが明らかとなった。これらの知見は今後の医薬品開発に重要な知見を与える情報であると考えている。

審査要旨 要旨を表示する

 薬物の胆汁中への能動的排泄に関与する輸送担体の一つMrp2は、肝、腎および十二指腸に多く発現していることが明らかになっているが、肝以外の臓器における機能は不明である。Mrp2はグルタチオン抱合体、グルクロン酸抱合体および多くの有機アニオン系化合物を基質として認識することが知られている。本研究は肝、腎および小腸において有機アニオン系化合物の排出におけるMrp2の寄与をin vivoおよびin vitro実験により明らかにすることを目的とし、その基質としてエストラジオールグルクロナイド(E2-17βG)およびジニトロベンゼングルタチオン抱合体(DNP-SG)を用いて検討した。

1 肝臓におけるE2-17βGおよびDNP-SGの排泄機構

 Vore等は、胆管側膜ベシクル(CMV)を用いた種々の検討からE2-17βGの胆汁排泄にP-gpが寄与することを示唆した。これに対しE2-17βGがMrp2の基質になるという別の知見もあり、胆汁排泄におけるこれらの寄与率について定量的な評価を試みた。SDとEHBRのCMVを用いて[3H]-E2-17βGの取り込みを調べたところ、SDではATP依存的な取り込みが観られたが、EHBRではこれは観察されなかったことから、E2-17βGのCMVへの取り込みにはMrp2が寄与していることを確認できた。P-gpの阻害剤による[3H]-E2-17βGのATP依存的な取り込みに対する影響を検討したところ、その阻害の程度からE2-17βGの輸送に対しP-gpの寄与は小さいことを示唆した。P-gpの寄与をin vivoでも検証するため低投与量または胆汁うっ滞誘起量の[3H]-E2-17βGを静注後の胆汁排泄クリアランス(CLbile,p)を求めた。SDにおいて高投与量になるとCLbile,pに飽和が見られ、胆汁排泄能が低下していることを示した。一方、EHBRでは低投与量および高投与量ともにSDに比べてCLbile,pは低下した。また、PSC-833を同時に投与した場合でもSDのCLbile,pに影響は見られなかった。

 以上より、E2-17βGの胆汁排泄におけるP-gpの寄与率は小さく、E2-17βGは主にMrp2を介して排泄されることが明かとなった。

2 小腸におけるDNP-SGの排泄機構

 小腸にもMrp2の発現が示唆されていたが、薬物の輸送にMrp2がどの程度寄与しているかについては全く不明であった。そこでCDNBを静注後、消化管内に排泄されるDNP-SGを検討したところ、SDとEHBRで顕著な差が観察された。DNP-SGの小腸排泄クリアランス(CLperfusate,p)を求めたところ、CLbile,pと同様にSDとEHBRで有意な差が見られ、EHBRはSDラットに比べ約1/5に低下した。Mrp2の関与をさらに裏付けるため、ラット十二指腸、空腸、回腸、結腸の反転腸管法を用い各部位毎の透過クリアランスを算出しSDとEHBRを比較したところ、十二指腸および空腸において両種間に差が確認された。各部位におけるMrp2のmRNAはSDの十二指腸および空腸にて高く、EHBRでこれらが1/10以下に減少していた。これらMrp2の発現部位は、反転腸管においてEHBRでDNP-SGの輸送低下の見られた部位と対応した。方向性のある輸送を評価する目的で空腸における輸送の方向性をUssing chamberを用い検討したところ、SDでは漿膜側から粘膜側への輸送が逆方向に比べ約1.5倍高いこと、また漿膜側から粘膜側への輸送は、SDの方がEHBRよりも約2倍高いことが観察された。ATP枯渇剤は粘膜側から漿膜側への排泄には影響を与えないのに対し、漿膜側から粘膜側への排泄はコントロールに比べ約1/2に低下させ、DNP-SGがエネルギー依存的な輸送によって排泄されることを示唆した。

 以上の結果より、ラット小腸においても胆汁排泄と同様にMrp2がDNP-SGの消化管上皮細胞から管腔側への排泄に機能していることが示された。

3 腎臓におけるE2-17βGおよびDNP-SGの排泄機構

 E2-17βGの腎におけるMrp2の関与を検討したところ、胆汁排泄におけるMrp2の関与は確認できたが、腎排泄におけるMrp2の役割はマイナーなものであると考えられた。一方、雌に比べて雄のCLurine,pは非常に小さく、顕著な性差があることが明らかになった。

 雄および雌SDに[3H]-E2-17βGを静注後の胆汁排泄において若干の性差は見られたが、尿排泄は雌が雄に比べてはるかに大きく顕著な性差が認められた。CLurine,pは、雌が雄より少なくとも250倍以上高かった。一方、GFRや血漿非結合型分率fuには、ほとんど性差は認められなかった。また、積分プロットから取り込み過程の性差はないと考えらた。DBSP併用によるCLurine,pは、DBSP存在下で雄だけが上昇し尿排泄性差が消失した。このことからE2-17βGの尿排泄性差はDBSPによって阻害されうる、再吸収方向のトランスポータに起因すると考えた。また、E2-17βGの代謝では腎クリアランスの性差を説明できないこともわかった。Oatp1の発現を調べたところ、肝では雄と雌、SDとEHBRの差は認められず、腎では雄に比べ雌の発現は非常に少ないことを確認することができた。また、去勢雄ラットでOatp1が減少し、雌にテストステロンを投与することによりOatp1の発現上昇が見られた。以上の結果は、Oatp1の発現が性ホルモンにより調節されていることを示した。次にE2-17βGの腎クリアランスの変動を検討したところ、CLbile,pに影響はなかったものの、CLurine,pにおいて雄去勢モデルで顕著に上昇し、雌とほぼ同等のレベルにまで上昇した。逆に雌にテストステロンを投与した場合、CLbile,pに影響がなかったものの、CLurine,pはテストステロン投与群で顕著な減少が見られ、雄のコントロールと同様、検出限界以下のレベルにまで低下した。以上、Oatp1の腎における発現レベルとE2-17βGの腎クリアランスがリバーサルに変動することがわかり、再吸収におけるOatp1の関与が強く示唆された。これまで得られた実験データを、再吸収過程の性差だけで説明可能かを検証するために数学モデルに基づいた解析を行った。分泌クリアランスPS1、反発計数ρを固定して、再吸収クリアランスPS2が1mL/min/kgの時に、雌におけるコントロール、DBSP阻害、マンニトール利尿の結果をすべて説明することができた。さらにPS2を200倍以上高くすると腎クリアランスは検出限界以下にまで下がること、雄にDBSPを投与した場合PS2のみが低下すると考え雌レベルにまで腎クリアランスが上昇することもsimulationすることができた。

 以上、肝、腎および小腸におけるE2-17βGおよびDNP-SGの排泄機構を検討したところ、E2-17βGの胆汁排泄機構について、P-gpの寄与は小さく、主にMrp2により排泄されることを明らかにした。また、DNP-SGを用いた検討からMrp2が小腸(特に空腸)においても排泄トランスポータとして働くことを明らかにした。腎においてはこれら化合物の排泄にMrp2の寄与は小さいこと、一方でOatp1が再吸収トランスポータとして雄ラットで機能し、その結果、E2-17βGの排泄に顕著な性差が認められることを示唆した。従って、DBSPのようなOatp1の阻害剤を用いて再吸収を阻害すれば、尿排泄を大きく上昇させることが可能であることを示唆した。腎排泄において、Mrp2の寄与を積極的に支持する結果は得られなかったが、薬の種類によっては、Mrp2の関与の可能性は充分あり今後の研究が必要と考えられる。

 小腸においてMrp2が排泄トランスポータとして働き得ることは、薬物のバイオアベイラビリティーにMrp2が関与する可能性を示唆し、また、肝では取り込みトランスポータとして働くOatp1が、腎では再吸収のトランスポータとして働き、かつその発現および再吸収能が性ホルモンの支配下にあることが明らかとなった。これらの知見は今後の医薬品開発に重要な知見を与える情報であると考えられ、体内動態特性の優れた薬物開発に貢献できる事を提起しており、博士(薬学)の学位を授与するに値するものと認めた。

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