学位論文要旨



No 215656
著者(漢字) 曽我部,正道
著者(英字)
著者(カナ) ソガベ,マサミチ
標題(和) 列車の高速化に対応したコンクリート鉄道橋の動的設計法に関する研究
標題(洋)
報告番号 215656
報告番号 乙15656
学位授与日 2003.04.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15656号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 藤野,陽三
 東京大学 教授 小長井,一男
 東京大学 教授 藤岡,義彦
 東京大学 助教授 阿部,雅人
 埼玉大学 教授 山口,宏樹
内容要旨 要旨を表示する

東海道新幹線の営業最高速度は,開業当初210km/hであったが,現在では300km/hでの営業運転が実現している.また,JR方式浮上式鉄道では,山梨リニア実験線において,既に552km/hの速度記録が達成されており,営業線実現へ向けた技術開発が順調に進められている.

鉄道構造物の設計は,安全性,耐震性,耐疲労性,使用性,耐久性等様々な観点からなされる必要があるが,こうした高速鉄道固有の技術としては,鉄道橋の動的応答とそれが列車走行性に及ぼす影響の2つの課題が挙げられる.本論では,これらの課題を数値解析及び実車走行試験により検討し,性能照査型設計の理念を汲んだより合理的かつ経済的な設計体系を構築していくことを研究の目的とした.

鉄道橋の動的応答は,走行する列車荷重が,規則的な周期で高架橋・橋梁を加振することにより引き起こされる桁の共振応答の問題で,一般に「連行移動荷重による速度効果」と称されている.本論では,運動方程式から支配的なパラメータを抽出し,数値解析により各パラメータの影響度について整理した.本論では特に,コンクリート鉄道橋の設計の観点から,無次元化スパンと速度パラメータに着目した詳細な数値解析を行い,全速度領域を俯瞰する形で共振の法則性を明らかにした.また動的相互作用解析により,車両の動揺が構造物に及ぼす影響,軌道の狂いが構造物の振動に及ぼす影響などについても定量的な評価を行った.

一方,列車走行性に関する問題であるが,上記桁の動的応答により生じる連続する桁・高架橋のたわみ形状もまた,規則的な周期で車両の振動を励起する加振源となっている.現行の設計標準では,走行安全性と乗り心地の観点から桁のたわみの限界値を定めているが,本論では,更にこれを高速領域まで拡張するために,各パラメータの影響度について検討した.列車走行性に関する各応答値は速度依存性が強く,210km/hと300km/hを比較すると1.5〜2.0倍程度に応答が増加すること,車両形式によっても応答値が異なり,車種により1.5〜2.0倍程度の差があることなどを明らかにした.

本論では,上記の数値解析結果をベースに,代表的な実構造物に対して動的応答及び列車走行性の観点から更に詳細な検討を実施した.

短スパン鉄道橋としては,JR方式浮上式鉄道のガイドウェイ構造形式の一つである「側壁ビーム方式ガイドウェイ」を取り上げ,定量的な性能評価を行った.短スパン鉄道橋は,共振が生じると動的応答倍率が著大となる傾向があるが,一方で桁の剛性も高く共振速度が高いため,JR方式浮上式鉄道など列車速度が400km/hを超える場合等に問題が顕在化する.本論ではまず,動的相互作用を考慮した数値解析により,側壁ビームの1次水平曲げに対する2次共振が速度400km/hで生じ,動的応答倍率が4.0程度となること,側壁ビームの振動は車両の乗り心地レベルに1.0dB程度しか影響を及ぼさないことなどを明らかにした.また2次共振を低減するための中間支承を提案し,速度500km/hまでの実車走行試験により,中間支承が動的応答を1/3に低減できること,中間支承を設置しない場合,動的応答倍率が3.0程度となる2次共振が生じることなどを明らかにした.

中スパン鉄道橋としては,様々な構造形式,スパン長からなる21の橋梁を取り上げ,主として実車走行試験により検討を実施した.動的応答については,従来に無い超高速領域(列車速度500km/h)での測定値を含め,4箇所の桁橋で2.0前後の動的応答倍率を確認し,共振の法則性を裏付ける形で貴重な実証データを得た.列車走行性については,車両走行を模擬することができる車両試験台において,速度300km/hまのでの実車走行試験を行い,車体加速度が数値解析と同様な形で生じていることを確認した.また,車両の車体応答加速度を桁のたわみを関連づけ,桁長,桁剛性などの観点から検討を行った.各橋梁上における車体の応答加速度の実態は,全振幅で概ね1.5m/s2前後であり,桁の実剛性が設計剛性よりも大きいことなどに起因して,設計上想定している応答値よりも小さな値に留まっていることなどを明らかにした.

長スパン鉄道橋としては,新幹線初の複線マルチケープルタイプPC斜張橋を取り上げ,動的応答及び列車走行性の観点から検討を行った.PC斜張橋の動的応答倍率は,振動モードの寄与率に依存し,各部材,各断面力毎に異なること,列車走行性については,走行安全性及び乗り心地とも,列車の種類,列車の速度に大きく依存することなどを明らかにした.また,同橋梁において実車走行試験を行い,動的応答及び列車走行性に関する上記数値解析の結果を検証した.

以上の数値解析及び実車走行試験の知見に基づき,鉄道の高速化に対応した鉄道橋の動的応答と列車走行性に関する設計標準の改訂案を提示した.また代表的な鉄道コンクリート鉄道橋について試設計を行い,その妥当性を確認した.

キーワード:高速化,低剛性桁,動的相互作用,桁の動的応答,共振,減衰定数,列車走行性,走行安全性,乗り心地,設計標準

審査要旨 要旨を表示する

本論文は,「列車の高速化に対応したコンクリート鉄道橋の動的設計法に関する研究」と題し,コンクリート鉄道橋の設計法を,数値解析および実車走行試験の観点から論じたもので全9章より構成されている.

第1章では,この研究の目的を示している.新幹線の営業最高速度は,開業当初210km/hであったが,現在では300km/hでの営業運転が実現している.また,JR方式浮上式鉄道では,既に552km/hの速度記録が達成されており,営業線実現へ向けた技術開発が進められている.

列車の高速化に対する固有の鉄道技術としては,鉄道橋の動的応答とそれが列車走行性に及ぼす影響の2つの課題が挙げられるが,本論では,これらの課題を数値解析および実車走行試験により検討し,性能照査型設計の理念を汲んだより合理的かつ経済的な設計体系を構築していくことを研究の目的としている.

第2章では,車両と構造物との動的相互作用解析法に関して,新たに幾つかの数値解析手法を提案している.新幹線車両と鉄道構造物との動的相互作用解析については,鉛直方向構成則として,車輪とレールの接触/非接触を判定する手法を提案し,1車両31自由度モデルによって走行安全性に関する解析の精度向上を図っている.超電導磁気浮上式車両とガイドウェイ構造物との動的相互作用については,超電導磁石と,三次元の有限要素でモデル化されるガイドウェイ構造物の誘導面との間に働く磁気バネ,すなわち動的相互作用力の影響を定式化し,相互作用解析手法を提案している.

第3章では,桁の動的応答について数値解析により検討している.本論文では,コンクリート鉄道橋の設計の観点から,無次元化スパンと速度パラメータに着目した従来より詳細な数値解析を行い,全速度領域を俯瞰する形で鉄道橋の共振応答の全体像を明確にし,実設計に有益な情報を提供している.また動的相互作用解析により,車両の動揺が構造物に及ぼす影響,軌道の狂いが構造物の振動に及ぼす影響などについても定量的に明らかにしている.

第4章では,列車走行性について数値解析により検討している.従来の半車両2質点モデルに比べ精度の高い1車両31自由度モデルを用いて,走行安全性と乗り心地の観点から桁のたわみの限界値を定めている.各パラメータの影響度についても考察されており,例えば,車両の応答は速度依存性が強く,210km/hと300km/hを比較すると1.5〜2.0倍程度に増加すること,車両形式によっても応答値は異なり,車種により1.5〜2.0倍程度の差があることなどを明らかにしている.

第5章では,JR方式浮上式鉄道のガイドウェイ構造形式の一つである「側壁ビーム方式ガイドウェイ」を具体的な構造物として取り上げ検討している.こうした短スパン鉄道橋は,共振が生じると動的応答倍率が著大となる傾向があるが,一方で桁の剛性も高く共振速度が高いため,JR方式浮上式鉄道など列車速度が400km/hを超える場合等に問題が顕在化する.本論文ではまず,動的相互作用を考慮した数値解析により,側壁ビームの1次水平曲げに対する2次共振が速度400km/hで生じ,動的応答倍率が4.0程度となること,側壁ビームの振動は車両の乗り心地レベルに1.0dB程度しか影響を及ぼさないことなどを明らかにしている.また2次共振を低減するための中間支承を提案し,速度500km/hまでの実車走行試験により,中間支承が動的応答を1/3に低減できること,中間支承を設置しない場合,動的応答倍率が3.0程度となる2次共振が生じることなどを明らかにしている.

第6章では,新幹線で一般的に用いられる鉄道橋について,様々な構造形式,スパン長からなる21の橋梁を取り上げ,主として実車走行試験により検討を実施している.動的応答については,従来に無い超高速領域(列車速度500km/h)での測定値を含め,4箇所の桁橋で2.0前後の動的応答倍率を確認し,共振の法則性を裏付ける形で貴重な実証データを得ている.

列車走行性については,車両走行を模擬することができる車両試験台において,速度300km/hまのでの実車走行試験を行い,車体加速度が数値解析と同様な形で生じていることを確認している.また,車両の車体応答加速度を桁のたわみを関連づけ,桁長,桁剛性などの観点から検討している.各橋梁上における車体の応答加速度の実態は,全振幅で概ね1.5m/s2前後であり,桁の実剛性が設計剛性よりも大きいことなどに起因して,設計上想定している応答値よりも小さな値に留まっていることなどを明らかにしている.

第7章では,新幹線初の複線マルチケープルタイプPC斜張橋を取り上げ,動的応答および列車走行性の観点から検討を行っている.PC斜張橋の動的応答倍率は,振動モードの寄与率に依存し,各部材,各断面力毎に異なること,列車走行性については,走行安全性および乗り心地とも,列車の種類,列車の速度に大きく依存することなどを明らかにしている.また,同橋梁において実車走行試験を行い,動的応答および列車走行性に関する上記数値解析の結果を検証している.

第8章では,以上の数値解析および実車走行試験の知見に基づき,鉄道の高速化に対応した鉄道橋の動的応答と列車走行性に関する設計標準の改訂案をまとめ,これを設計実務に提供している.

第9章では,成果の要約と結論を示し,今後の研究課題について展望している.

以上のように,本論文は,列車の高速化に対応したコンクリート鉄道橋設計に関する桁の動的応答と列車走行性の問題に関して,動的相互作用解析手法による数値解析と実車を用いた様々な走行試験の双方から検討を加え,かつその成果を設計標準としてまとめ実設計に供したもので,多くの有用な学術的知見をもたらしている.

よって本論文は,博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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