学位論文要旨



No 215661
著者(漢字) 大西,和夫
著者(英字)
著者(カナ) オオニシ,カズオ
標題(和) 精密小形永久磁石モータの高トルク化とコギングトルク低減に関する研究
標題(洋)
報告番号 215661
報告番号 乙15661
学位授与日 2003.04.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15661号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 仁田,旦三
 東京大学 教授 桂井,誠
 東京大学 教授 堀,洋一
 東京大学 助教授 大崎,博之
 東京大学 助教授 古関,隆章
内容要旨 要旨を表示する

情報関連機器に使われている小形永久磁石モータは,機器の高機能・高性能化のために小形・高トルク化,コギングトルクの低減など,一層の性能改善が要求されている。しかるに,これらのモータは,ニーズ主導で開発されたこともあって変則的な構造を持つものも多いため,これまで計算法や評価基準の確立あるいは最適構造の追求なども不十分な状態にあった。また,大形モータでは要求出力に対応して必要な寸法を決めるのに対し,小形モータでは機器組み込み用途が多く,限られた寸法のなかで要求特性を出さねばならないので,設計の面でも異なった取り組みが必要である。

これらに鑑み,本研究では,プリンタ関連機器を代表とする情報機器に使用される精密駆動用小形永久磁石モータ,特にブラシレスDCモータとハイブリッド (HB) 形ステッピングモータを主対象に取り上げて,これらの技術課題を電磁気的に解明するとともに,実用的な設計指針と性能改善法を見いだすことを目的とした。

まず本研究の背景として,小形モータの生産と適用市場統計の分析を通じて,情報機器分野に使用する永久磁石モータがその主流であることを示し,この市場からの要求とモータ各機種の特質の分析から,この分野の技術課題を明らかにした。筆者の勤務する会社の業務も勘案して,研究の主題を情報機器の代表機種であるプリンタ関連機器の精密駆動モータの高トルク化とコギングトルク低減に絞り,これらに対する先行技術の考察を通じて研究の取り組み方を示した。

第一の課題である高トルク化を考えるために,まず空隙巻線直流モータについて磁束ベースの特性計算から限界トルクの評価指標を誘導し,これを鉄心溝巻線を持つ一般の永久磁石モータに拡張して,各種モータ間の比較を行うとともに,鉄損を考慮した修正係数を追加した非ラップ集中巻線方式の最適設計法を導いた。これによって,限界トルクを最大にするためには最適な空隙径と空隙磁束密度のあること,さらにHB形ステッピングモータでは,巻線極数(固定子巻線の巻かれた鉄心極数)が少ないほど高トルクが得られることを示した。

第二の課題であるコギングトルク低減に関して,最初に表面磁石形ブラシレスモータにおけるコギングトルクの発生原理を解明し,鉄心のスリット配置が重要な役割を演じていることを明らかにするとともに,その低減のための基本的な考え方を提案した。スリットによるパーミアンスをベクトルで表記する方法を提案し,有効なスロット/磁極数の組合せおよび補助溝によるコギングトルク低減法を確立した。2次元FEM磁界解析によって上記効果を検証するとともに,12スロット/10極機において鉄心磁極の両端をカット(ベベリング)することが,極めて効果的であることを示した。このベベリング付モータは,製品化され好評を得ることができた。

続いて,いまひとつの重点機種であるHB形ステッピングモータのコギングトルク低減を取り上げ,等価磁気回路のパーミアンスが固定子小歯のパーミアンスの合成で成り立っていることを利用して,小歯配置とコギングトルク発生の関係を解明し,その低減のための基本的な考え方を提案した。2相HB形ステッピングモータについては,小歯のパーミアンスベクトルを第4次の高調波ベクトル平面においてバランスさせることが有効であり,不等ピッチのバーニア配列では,コギングトルクだけでなく磁束波形歪みを低減できることを示し,2次元FEM磁界解析シミュレーションによってその有効性を検証した。

さらに,以上で得られた知見に基づいて,開発以来まだ年月の浅い3相HB形ステッピングモータの鉄心構造を検討し,大幅な性能改善の可能性を見出した。限界トルクに関しては,3相6巻線極方式が2相,5相機を含めてもっとも有利であり,またコギングトルク低減では,巻線極小歯を第6次調波でバランスさせるのが有効であることを示した。FEM磁界解析ならびに同一外形寸法で作った2,3および5相の試験機の検証によって,最終的に6次バランスバーニア配列の8小歯を持つ6巻線極方式の3相ステッピングモータが最良であることを示した。

以上の成果を総括して,本研究の目標である表面磁石形ブラシレスモータとHB形ステッピングモータにおける限界トルクの評価基準を用いた高トルク化設計ならびに鉄心の歯構造の最適化によるコギングトルク低減を達成することができた。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「精密小形永久磁石モータの高トルク化とコギングトルク低減に関する研究」と題し,従来,考察が不充分であった小形永久磁石モータの計算法,評価基準の確立,最適構造などの課題を電磁気的に追求し,実用的設計指針と性能改善法等をまとめたものであり,6章から構成される.

第1章は序論で,小型モータの市場からの要求と各種モータの特質から,技術課題を明らかにし,本研究の目的と内容について述べている.

第2章は「小形永久磁石モータの限界トルク評価と最適構造」と題し,空隙巻線直流モータの特性計算から限界トルクの評価指標を誘導し,その考え方を各種永久磁石モータに拡張すると共に,表面磁石形モータの限界トルクを最大にする最適空隙巻線構造を示し,ハイブリッド(HB)形ステッピングモータにおいて高トルクを得る巻線極数について述べている.

第3章は「表面磁石形モータのコギングトルク低減」と題し,コギングトルクの発生に関して鉄心のスリット配置が重要な役割を演じていることを明確にし,トルク発生の表現方法を提案し,スロット/磁極数の組合せと補助溝によるコギングトルク低減法を示している.この結果を有限要素磁界解析と試作機で検証し,その商品化に成功したことも述べている.

第4章は「2相HB形ステッピングモータのコギングトルク低減」と題し,固定子小歯配置がコギングトルク発生の主要因であることを示し,2相HBステッピングモータでは小歯のパーミアンスベクトルを第4次高調波ベクトル平面においてバランスさせることが有効であり,不等ピッチ配列ではそれがコギングトルク低減のみならず磁束波形歪みも低減できることを示し,有限要素磁界解析でその有用性も示している.

第5章は「3相HB形ステッピングモータの最適ステータ鉄心構造」と題し,開発がまだ浅い3相HB形ステッピングモータに関して,その鉄心構造を検討することにより,限界トルクに関しては3相6巻線方式が他の2相機や5相機に比べてトルクが大きいこと,また,コギングトルク低減には極小歯を第6次調波でバランスさせるのが有効であることを示し,有限要素磁界解析および試作機でその検証し,その結果6次バランスバーニア配列の8小歯を持つ6巻線方式の3相ステッピングモータが最適であることを示している.

第6章は結論であり,本論文の成果を総括すると共に小形モータ開発への今後の課題について述べている.

以上これを要するに本論文は,小形永久磁石モータの高トルク化とコギングトルク低減に関して,従来の経験的な改良手法に対して開発課題を理論的に明確にし,実用的な設計指針と性能改善法をその分かり易い表現方法と共に提示し,高性能小形モータを実用化に導く等,電気工学,特に電気機器工学に貢献するところが少なくない.

よって本論文は,博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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