学位論文要旨



No 215664
著者(漢字) 木下,幹康
著者(英字)
著者(カナ) キノシタ,モトヤス
標題(和) 原子燃料照射挙動の数理モデルによる研究
標題(洋)
報告番号 215664
報告番号 乙15664
学位授与日 2003.04.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15664号
研究科 工学系研究科
専攻 システム量子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岩田,修一
 東京大学 教授 山脇,道夫
 東京大学 教授 矢川,元基
 東京大学 教授 鈴木,篤之
 東京大学 教授 関村,直人
 東京大学 教授 合原,一幸
内容要旨 要旨を表示する

本論文では、核分裂反応における核分裂片の運動エネルギーを熱化して工学的に用いる原子燃料について、とくに商用発電炉における軽水炉燃料を対象として、工学的に重要な問題についてその基盤となる現象の数理モデルを構築し、検証ならびに工学的適用を進めた結果を報告した。

軽水炉の燃料では1970年代に、しばしば燃料セラミックスペレット(UO2)とジルコニウム合金でできた被覆管とのあいだでの機械的な相互作用(Pellet-Cladding Mechanical Interaction:PCMI)によって破損が発生した。これに対処するため、現象解明の実験と、計算コードをつかった解析技術の開発が進められた。その研究開発のバックボーンとなった数理的なモデルについて第II章でその歴史的経緯を概観する。そのうち報告者が行った内容について、第III、第IV章では、原子炉内での供与中の燃料棒ふるまいを対象とした研究を、また第V、第VI章は燃料材料のふるまいを対象とした研究をまとめた。

とくに第III章ではPCMIの詳細解析コードFEMAXI-IIコードの開発の中で行った被覆管および燃料セラミックスペレットのPCMI現象を解析するための有限要素法をベースとしたクリープモデルと解析手法の開発と検証を記述した。第IV章では燃料ふるまいの中でとくに重要な、非線形的に発生する燃料温度不安定性について、その基本プロセスのひとつであり解析の鍵となる稀ガスの移流拡散モデルの開発と検証および実機燃料への適用と、その帰結を記述した。とくに解析的表式(定常解および特定条件での過渡解)によって不安定性の状態が選別できることについて記した。第V章は燃料材料についての研究であり、高燃焼度(70MWd/kgM以上)で二酸化ウランセラミックスの結晶組織の変化として生じる細粒化・リム組織について、その発生条件(温度しきい値)を実験結果を燃料ふるまい解析コードによって解析し、解明した結果を記した。第VI章では同じく細粒化・リム組織について、その発生メカニズムの理論的研究の結果を記した。この現象は核分裂照射と燃焼生成元素の蓄積の複合作用によるものと推定される。そこで、原子燃料の特徴である核分裂反応による照射損傷と燃焼生成物である希ガスの蓄積に注目し、反応拡散モデルを構築しその特性を調べ、不安定条件を満たした場合に実現象に類似した形態形成メカニズムが発生する結果を得た。すなわちこの細粒化・リム組織の形成プロセスを、核分裂による照射下での非平衡の反応拡散による自己組織化現象として明らかにすることができた。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、軽水炉燃料についての数理モデルを構築し、検証し、より信頼性の高い核燃料技術の確立に貢献した結果の報告である。1970年代にしばしば発生した軽水炉燃料PCMI(Pellet-Cladding Mechanical Interaction)破損の解析のための計算コード開発から現在の開発課題である高燃焼度燃料のふるまいまでを対象とし、基盤となった物理的、機械的、熱的、材料学的なモデルを複雑な事象である核燃料ふるまいモデルへと統合した成果を、数理モデルの観点からまとめている。

第1章は研究目的について述べている。多様なプロセスが複雑に絡み合い、無数のシナリオに沿って進む複合現象、総称して「燃料ふるまい」について、原子炉としての性能向上を図りつつ核燃料の健全性を保証しつづけるためのモデリング研究の成果をまとめたものとしている。

第2章では燃料ふるまい解析コード開発の歴史的経緯を概観している。

第3章、第4章は原子炉内での供与中の燃料棒ふるまいを対象とした研究であり、第3章では、ペレットの鼓型変形による燃料と被覆管の機械的相互作用PCMIについての詳細解析コードFEMAXI-IIコード開発で行ったクリープモデルの開発と検証結果をまとめている。燃料材料と被覆管材料とにクリープモデルを導入し、その歪増速度を表す関数の一階微分(Jacobian)を用いて接平面にそった構成方程式を定式化(完全陰解法)することによって急激なクリープ変形に追従できる計算能力をコードに付与し、被覆管の肉厚増加による拘束力が永久変形へ与える効果を再現できるようになったとしている。第4章では燃料セラミックスペレットからの希ガス放出にともない非線形的に発生する燃料温度不安定性(温度フィードバック現象)の発現について、その基本プロセスのひとつであり解析に重要な希ガスの過渡的空間的な伝播(燃料棒内部の長手方向への輸送)を移流拡散方程式で記述し、モデルの開発と検証を行い、実機燃料へと適用し、その帰結をまとめている。とくに解析的表式(定常解および特定条件での過渡解)によって不安定性の状態が選別できることを指摘している。

第5、第6章は燃料材料のふるまいを対象とした研究である。第5章では燃料材料について大幅な高燃焼度(70MWd/kgM以上)で燃料セラミックスに新たに生じる微細組織である細粒化・リム組織についての発生条件を計算コード解析によって提示し、試験炉で5年間照射した高燃焼度燃料棒についての照射後試験と解析を組み合わせ、細粒化・リム組織の形成しきい温度をはじめて評価し推定したとしている。第6章では核分裂照射と燃焼生成元素の蓄積の複合作用による細粒化・リム組織の発生メカニズムについて、核分裂反応による照射損傷と、燃焼生成物である希ガスの蓄積に注目し、反応拡散モデルを構築しその特性を調べた結果、不安定条件を満たした場合に細粒化現象に類似した形態形成メカニズムが発生することを明らかにした。特にリム組織の特徴的な形態について、なぜその形が選択されたのか、変化の中にある「分岐」の構造、数学的な特性を調べた結果を示している。

第7章、第8章は以上の研究のまとめである。

以上を要するに、本論文は、核燃料ふるまいに関する数理モデルについての研究開発を行い、核燃料の健全性の向上に貢献したものであり、原子力工学、とくに核燃料工学に寄与するところが少なくない。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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