学位論文要旨



No 215665
著者(漢字) 成田,暢彦
著者(英字)
著者(カナ) ナリタ,ノブヒコ
標題(和) LCA法による素材製造プロセスのCO2排出削減可能性評価
標題(洋)
報告番号 215665
報告番号 乙15665
学位授与日 2003.04.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15665号
研究科 工学系研究科
専攻 マテリアル工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 月橋,文孝
 東京大学 教授 山本,良一
 東京大学 教授 鈴木,俊夫
 東京大学 教授 足立,芳寛
 東京大学 教授 酒井,信介
内容要旨 要旨を表示する

ライフサイクルアセスメント(LCA)におけるデータベース確立のために欠かせない、鉄鋼、非鉄金属、樹脂およびセメントの基礎素材製造までを対象に、各素材製造業のエネルギー構造を反映させつつ、現状の技術レベルでのエネルギー消費に伴うCO2排出を評価した。さらに、循環型社会の構築を目指した廃棄物のリサイクル、新規技術開発が適用された場合のCO2排出削減、中間製品の貿易拡大によるCO2排出削減の可能性を定量的に評価し、目前に迫った京都議定書の削減目標達成に向けた取り組みの在り方を提言した。

本論文は序論と結論を含む8章から構成されており、各章の概要は以下のとおりである。

第1章「序論」では、二酸化炭素(CO2)排出の推移を世界各国のエネルギー需要から分析し、LCA手法を用いた分析との違いを示すとともに、LCA評価手法の枠組みを述べ、製品LCA評価の重要性をまとめた。

第2章「素材のLCAの特徴」では、本論文の特徴であるリサイクルなどの産業連鎖の重要性、素材産業のエネルギー構造の分析手法および世界貿易における素材の位置づけを示し、分析手法の特徴をまとめた。

第3章「鉄鋼製品のLCI分析」では、一貫製鉄および電炉で製造される各種鉄鋼製品のエネルギー構造を統計データをもとに分析し、各鉄鋼製品のCO2排出の推移とエネルギー構造の関係を明らかにした。もっとも大きなエネルギー構造の変化であるPCI、廃プラスチック吹き込みによるCO2排出削減効果を定量的に分析し、技術側面からのCO2排出削減の可能性を評価した。さらに、老朽化による供給不足が懸念されるコークスが、輸入によって調達された場合を想定し、世界全体および我が国における削減の可能性を示した。

第4章「非鉄金属のLCI分析」では、亜鉛、鉛、銅製造までの原料構成、エネルギー構造を分析した。その結果、産業廃棄物が原料に用いられる乾式亜鉛では、金属資源枯渇とCO2排出量がトレードオフの関係にあることを明らかにした。また、鉛、銅製錬では、廃鉛蓄電池や銅スクラップのリサイクル促進がCO2排出量を削減させることを示し、技術側面からの削減の可能性を評価した。さらに、銅製品生産システムを対象に、CO2排出削減のための銅合金スクラップのリサイクルの筋道を提案した。また、我が国で供給が需要を上回っている硫酸に着目し、銅マット輸入による我が国のマスバランス確保と貿易側面からの削減の可能性を示した。

第5章「石油化学製品のLCI分析」では、製造する工程が種々の産業にまたがり、複雑化している樹脂を対象に、代表的な樹脂ごとのCO2排出量を定量的に評価した。また、PVCの主要原料である塩の電気分解技術の開発によるCO2排出削減の可能性を評価し、塩素を含有する二次原料の輸入促進による削減の可能性をまとめた。

第6章「セメントのLCI分析」では、各種セメントのCO2排出が、上記素材産業の廃棄物を一層利用促進することによって、削減できることを示した。

第7章「素材生産システムのCO2排出削減の可能性」では、本論文の分析手法を総括すると共に、プロセス間リンクに代表される素材産業間の物質循環の重要性を示し、本手法が素材生産システム全体のCO2排出削減の評価にも適用できる可能性をまとめた。また、前章までに得た削減量が、我が国のCO2排出量の約2%に相当することを示し、今後技術側面ばかりでなく、国内需給を考慮した貿易側面からの削減を考慮する必要性をまとめた。さらに、本LCA手法を活用することによるリサイクル規格の標準化、アジア地域におけるLCIデータベース構築の必要性を提言した。

第8章「結論」では、本論文の特徴、手法をまとめてある。

以上のように、本論文ではスクラップ、電炉ダストや廃プラスチックなどの廃棄物を原燃料とするリサイクル技術を推進する場合に、世界および我が国全体での資源消費、エネルギー消費、排出の最小化を図る必要性を示し、現行のリサイクル技術がCO2排出に与える効果をLCA手法を用いて評価した。その結果、CO2排出削減効果は資源の回収形態(酸化物/スクラップ)や製造業のエネルギー構造に依存するので、エネルギー効率の向上を目指した技術開発のみならず、海外や異業種間のプロセスリンクによる最適化が必要である。本論文で実施した評価手法を幅広く素材生産システム全体に拡張し、分析することによって、注目するシステム全体をとおしての排出量の最小化を目指した指針や施策を提言することが可能である。

審査要旨 要旨を表示する

地球環境問題の顕在化とともに、世界的に温室効果ガスの排出量削減に向けた活動が本格的に行われている。本研究では、温室効果ガスであるCO2を今後いかに削減するかを示す評価方法としてライフサイクルアセスメント(LCA)手法を用いて、エネルギー構造の分析を踏まえたCO2排出量を評価し、新たな評価方法の提案を行った。鉄鋼、非鉄金属、樹脂、セメントの基礎素材製造プロセスを対象として、各々の素材製造プロセスでの現状の技術レベルでのエネルギー消費にともなうCO2排出量を評価した。さらにマテリアルリサイクルや新規技術開発が行われた場合のCO2排出量削減の評価、および中間製品の貿易によるCO2排出量の削減を定量的に評価し、CO2削減目標の達成に向けた今後のあり方についての提言を行った。

論文は8章からなる。

第1章は序論であり、世界のエネルギー需給構造とCO2排出量の関係などの研究背景、およびLCA手法について説明し、本研究の目的について述べている。

第2章では、リサイクルなどの産業連鎖の重要性について説明し、本研究で提案したLCA手法の特徴について述べている。本研究で用いられている方法は、素材製造プロセスを素工程に分割してインベントリ分析を行い、それを積み上げて素材製造プロセスを分析する方法である。プロセス全体を一つの工程として解析する従来の方法と比較してより精緻な解析が可能となる特徴がある。

第3章では、高炉−転炉一貫製鉄法および電気炉製鉄法により鉄鋼製品を製造する際のエネルギー源の変化とCO2排出量の変化の関係を、素工程の積み上げ法により解析した。高炉への微粉炭の吹き込みによるCO2削減量は134kg/t-製品と計算され、日本の一貫製鉄所の鉄鋼生産量約7000万tに対して、940万tのCO2排出削減が期待できると推算された。また、廃プラスチックの高炉内への吹き込みによる効果の検討では、100万tの廃プラスチックが高炉内へ原料・燃料とし装入された場合、約160万tのCO2排出を削減することができると報告している。

第4章では、非鉄金属である亜鉛の電気炉ダストからの回収プロセス、鉛蓄電池からの鉛回収プロセス、銅鉱石からの銅製品の生産プロセスについて分析を行い、CO2排出量の削減について検討した結果を示している。電気炉ダストからの亜鉛の製錬プロセスは、リサイクルダスト量の増加に伴いCO2発生量が増加した。鉛蓄電池スクラップの再生鉛原料へのリサイクル促進によりCO2排出量を削減できることを明らかにした。銅スクラップの利用については、銅製錬の転炉工程への循環と、黄銅製品の溶解・加工工程への循環とのCO2削減効果を比較して検討している。その結果、銅合金スクラップを黄銅の加工工程へ循環することで、銅製造プロセス全体のCO2排出量の削減に効果があることを明らかにしている。

第5章では、石油化学製品の代表である樹脂のうち、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル樹脂を対象としてCO2排出量を定量的に評価した結果を示している。樹脂の製造プロセスは、中間製品を製造する種々の産業にまたがった複雑な構造となっているため、樹脂製造の各工程に関わる産業に分割してインベントリ分析を行い、積み上げ法により解析を行った。塩の電気分解の技術開発によるCO2排出量削減の可能性を評価し、また中間製品の輸入によるCO2削減の可能性を示した。

第6章では、鉄鋼業、非鉄製錬業からの廃棄物が原料として用いられているセメント製造プロセスを対象として、3、4章で行った鉄鋼製錬、銅製錬について分析結果と併せてインベントリ分析を行い、CO2削減の可能性について検討した結果を述べている。他産業の廃棄物を原料として用いることにより、CO2排出量を削減できることを示した。高炉スラグを500万t分の高炉セメントに利用することにより、200万tのCO2の削減が可能との結果を得ている。

第7章では、本研究で提案した分析手法の特徴をまとめ、プロセス間リンクのような素材製造プロセス間のマテリアル循環の解析の重要性を指摘し、本研究で提案した分析手法が素材生産システム全体のCO2排出量の評価にも適用可能であることを示した。また、素材製造プロセスの技術開発、および貿易によるCO2削減可能量はそれぞれ370万t-C、220万t-Cとなり、我が国のCO2排出量の約2%になることから、技術的な削減に加え貿易によるCO2削減を考慮すべきであると提言している。

第8章は本研究の結論である。

以上のように、素材製造プロセスにおいて、CO2排出削減の可能性をLCA手法により評価した。プロセスを分割し各素工程での解析を行う手法を提案し、より精緻な解析を可能とすることができた。本研究で提案された手法は、素材製造プロセスのCO2削減可能性の評価手法として有効利用できるという重要な結果を得ており、本研究の成果はマテリアルプロセス工学への寄与が大きい。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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