学位論文要旨



No 215667
著者(漢字) 林,久貴
著者(英字)
著者(カナ) ハヤシ,ヒサタカ
標題(和) ULSI製造用絶縁膜エッチングに関する研究
標題(洋)
報告番号 215667
報告番号 乙15667
学位授与日 2003.04.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15667号
研究科 工学系研究科
専攻 マテリアル工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 吉田,豊信
 東京大学 教授 堀池,靖浩
 東京大学 教授 鳥海,明
 東京大学 助教授 霜垣,幸浩
 東京大学 助教授 寺嶋,和夫
内容要旨 要旨を表示する

高集積化、高性能化が進む半導体デバイスの製造において、絶縁膜の微細加工技術(エッチング)はキーテクノロジーの一つである。本論文は0.13mm世代以降の半導体デバイス製造における絶縁膜エッチングの課題の内、材料間の高選択性、パターン寸法依存性、照射損傷の除去の点に関し、いくつかの課題を解決したことを示したものである。

第1章では、序論として、半導体集積回路の微細化と半導体産業の動向、酸化膜エッチングの課題、本研究の目的と内容、酸化膜エッチング反応機構の概観を述べている。

第2章では、従来不可能と思われていた高選択比SiO2/Si3N4エッチングを開発し、工業レベルでの適用に初めて成功したことを述べている。絶縁膜同士の選択エッチングである、Si3N4膜に対するSiO2膜の高選択比加工は、製造コストの削減と信頼性向上の両面から切望されてきた。しかし、CF4/H2プラズマなど、Si膜に対して40以上もの高い選択比のあるエッチング条件を用いても、Si3N4膜に対する選択性は1程度しかなく、全く新しいエッチング条件を開発する必要があった。そこで、フルオロカーボンイオンビームを用いたエッチング種の探索を行うことにより、CF2+およびC2F4+イオンがSiO2/Si3N4選択エッチングに好適であり、実プラズマにてこれらの種を効率よく生成させるにはC4F8ガスが好ましいことを明らかにした。また、C4F8ガスにCOを添加することで、20を超える高選択比エッチングを実現することができ、このプラズマを用いることで、高選択SAC(自己整合コンタクト)加工を工業レベルで初めて実現した。更に、COガス添加による高選択比発現のメカニズムを明らかにした。COガス流量比が、総ガス流量比の75%を超えると、選択比が急激に増大した。エッチングしたSi3N4表面のXPS分析は、プラズマ中のフルオロカーボンラジカルのC/F比の増大にともなう、堆積したフルオロカーボン膜のC/F比の増大を示していた。特にCOガス比が75%を超えると、Cラジカル密度の急激な上昇が観察され、これは電子密度の増加と対応していた。C4F8/COプラズマ中のCOの反応機構をCの同位体13Cから成るCOを用いて調べたところ、COは電子衝突解離によりCを供給すると共に、直接(C)Fxと反応してCOFxを形成し、Fを除去することが明らかとなった。CをドープしたSi3N4膜を用いることで、Si3N4エッチングにおけるCの役割を明らかにした。CはSi3N4エッチング速度を抑制し、Si3N4表面に堆積するフルオロカーボン膜厚を増加させることが明らかとなった。Cはプラズマ照射時にSi3N4表面にC−N結合を形成し、C−N結合の増加はエッチング速度の減少およびフルオロカーボン膜厚の増加と対応していた。この結果から、C−N結合がエッチング速度の減少とフルオロカーボン膜厚の増加をもたらしたと推定した。C4F8/COプラズマにおいて、COはSi3N4エッチング速度を抑制するCを供給し、Fを除去している。多量のCO添加はこのような理由で、Si3N4に対する高選択比を実現しているとわかった。

第3章では、平行平板型プラズマにおけるC4F8解離機構について述べている。先ず、解離機構を調べるために、最先端のプラズマ診断手法を用いて電子、中性粒子、イオンにわたる広範な計測を行った。C4F8の電子衝突解離により生成される化学種の密度を電子密度に対してプロットすることにより、CxFy、CFx、CやFといった順に、分子量の大きなものから分子量の小さなものへと組成が変化していく様子を明らかにした。電子との多数回の衝突を経て、母ガスが逐次に分解されていく様子が理解できた。このことから電子密度を変化させることにより、活性種密度及び組成を制御できることを確認した。いくつものラジカルについて密度を絶対値で確認でき、その生成、損失過程を類推できた。解析として、現状でわかっている限りの様々な解離パスの解離エネルギー閾値、推定できる解離断面積のオーダー、排気、気相反応による損失や表面反応による損失の速度を考慮し、電子衝突解離過程についての速度方程式解析を行うことができた。この速度方程式解析により、Fラジカルは主にCF2の電子衝突解離から生成されており、排気により損失していることが明らかとなった。今回用いた診断手法では、C2F4の絶対密度や表面損失確率を直接計測できないにもかかわらず、速度方程式解析により密度がCFやCF3密度に匹敵することや、C2F4のプラズマ誘起表面損失のため、電子密度が1.91010cm-3のとき、損失確率が0.1にまで増大することが明らかとなった。またプラズマ診断及び速度方程式解析に基づき、C4F8の電子衝突解離過程を推定できた。解離パスの中で、C4F8→C2F4→CF2→CF+Fが主であることが推定できた。

第4章では、Si製反応容器壁に入射するイオンのエネルギーを変化させ、積極的にプラズマとSi壁を反応させることにより、C4F8/Ar及びCF4/Arプラズマ中の活性種、CFx(x=1-3)、Si、SiF、F密度がどのように変化するかを述べている。C4F8/Arプラズマの場合、イオンエネルギーを高くすることでCFx(x=1-3)密度を減ずることが可能なことが明らかとなった。特にF密度に関しては、34%減ずることができた。一方CF4/Arプラズマの場合、CF2に関しては、C4F8/Arと同程度に減少できたが、Fに関しては減少できる量はわずかであった。C4F8/Arプラズマの場合、Fは主にCF2から生成するが、CF4/Arプラズマの場合そうではないことが確認された。C4F8/ArプラズマにおけるF密度の減少は、Fの母ガスであるCF2の減少が原因であり、Si板を高エネルギーのイオンで照射した際に起こるFとSiとの直接的な反応により生じているのではないことが明らかとなった。以上のことから、プラズマ中のガスの性質や、電子密度、滞在時間等のプラズマパラメーターをよく理解することが、プラズマ中のラジカルを高精度に制御するために特に重要であることが判明した。

第5章では、C4F8/COマグネトロンプラズマを用いた、コンタクトホールのSiO2エッチング速度と穴の底でのSi3N4エッチング速度のパターンサイズ依存性について述べている。これらのエッチング速度は、パターンサイズそのものではなく、コンタクトホールのアスペクト比によって決まっていることを明らかにした。次に、微細孔内現象を解明するために、キャピラリープレートを擬似的にコンタクトホールに見立て、そこを通り抜けてきたイオン電流を計測することから、エッチング速度が高アスペクト比において低下する原因の一つに、イオン電流量の減少があることを初めて実験的に明らかにした。穴の底のSi3N4表面に堆積したフルオロカーボン膜は、平坦なSi3N4表面の堆積膜に比べF含有量が高いため、イオン照射に対して脆弱であることがわかった。このため非常に高いアスペクト比においてもSi3N4膜がエッチングされてしまうことが明らかとなった。C4F8/COプラズマに微量の酸素を添加することで、アスペクト比が増大してもSiO2エッチング速度の減少が抑制され、高アスペクト比のコンタクトホール加工を実現できる事を示した。酸素を添加することにより、穴の底に到達するイオン電流量が増加していることを確認した。このことがSiO2エッチングを促進した一因と推定できた。キャピラリープレートを用いて知り得た穴底での反応は、平坦部とは相当にかけ離れていることがわかった。イオン、ラジカルの穴底への輸送機構の理解と制御が、高アスペクト比SiO2エッチングを実現するのに極めて重要である事を明らかにした。

第6章では、フルオロカーボンガスのRIEにより、Si基板へ導入されるダメージと、RIEの後処理がSiエピタキシャル成長に対してどのように影響するかを述べている。RIEはSi表面2.5nmまでCを含む変質層を形成する。O2 plasma処理のような酸素イオンを用いたRIE後処理を用いると、Si基板をRIE変質層深さ以上に酸化することができる。この後処理により形成されたSiO2膜はフッ酸処理により完全に除去され、欠陥を含まない良質の単結晶Siが成長することを示した。一方、もしRIE後処理が、O2 downflowのような酸素ラジカルによる処理であるなら、RIE変質層の一部しかSiO2膜にならず、しかもSiO2膜は完全にはフッ酸処理により除去されない。これは、SiO2/Si界面に存在するCがSiO2膜およびSi基板中のSiと強く結合しているため、SiO2膜はフッ酸により除去されにくくなっているからである。その結果、成長したSiは多くの転位を含み、表面は凸凹していることが明らかとなった。欠陥の無い、平坦な表面を有するSiをエピタキシャル成長させるためには、Si基板をRIEにより変質された深さ以上、十分深くまで酸化して、フッ酸処理後にSiO2膜を残さないことが重要であることを明らかにした。低温で高精度な深さ制御が可能な、O2 plasma処理とフッ酸処理とを組み合わせた、新しい照射損傷除去技術を開発し、これがSiエピタキシャル成長の前処理として有効であることを実証した。

第7章では、総括として、以上の研究の要約とともに今後の展望を述べている。

審査要旨 要旨を表示する

高集積化、高性能化が進む半導体デバイスの製造において、絶縁膜の微細エッチング技術はキーテクノロジーの一つである。本論文は最小パターン幅が0.13μm世代以降の半導体デバイス製造における絶縁膜エッチングの課題の内、材料間の高選択性、パターン寸法依存性、照射損傷の除去の点に関し、いくつかの課題を解決したことを示したものであり、7章よりなる。

第1章は、序論であり、半導体集積回路の微細化と半導体産業の動向、酸化膜エッチングの課題、本論文の目的と内容、酸化膜エッチング反応機構の概観を述べている。

第2章では、従来不可能であった高選択比SiO2/Si3N4エッチングを開発し、実用化したことを述べている。先ず、フルオロカーボンイオンビームを用いたエッチング種の探索により、CF2+およびC2F4+イオンがSiO2/Si3N4選択エッチングに好適であり、実プラズマにおいてこれらの種を効率よく生成させるにはC4F8ガスが好ましいことを明らかにした。次に、C4F8ガスにCOを添加することで、高選択SAC(自己整合コンタクト)加工を工業レベルで初めて実現した。更に、CO添加がSi3N4エッチング速度を抑制するCを供給し、フッ素(F)原子を除去していることにより高選択比を実現していることを明らかにした。

第3章では、ナローギャップ平行平板型プラズマにおけるC4F8解離機構について述べている。C4F8の電子衝突解離により生成される化学種の密度を電子密度に対してプロットすることにより、分子量の大きなものから小さなものへと組成が変化していく様子を明らかにした。また、電子衝突解離過程についての速度方程式解析により、F原子は主にCF2の電子衝突解離から生成されており、排気により損失していることが明らかとなった。そして、C2F4の密度がCFやCF3密度に匹敵することや、C2F4のプラズマ誘起表面損失が推定できた。更にC4F8の解離パスの内、C4F8→C2F4→CF2→CF+Fが主であることが推定できた。

第4章では、500MHz電子サイクロトロン共鳴型リアクタにおいて、高周波バイアスが印加されたSi製上部電極に入射するイオンのエネルギーを変化させ、積極的にプラズマとSiとを反応させることにより、C4F8/Arプラズマ中のCFx(x=1-3)、Si、SiF、F原子の各密度がどのように変化するかを述べている。イオンエネルギーを高くすることでCFx(x=1-3)密度を減ずることが可能なことが明らかとなった。特にF原子密度に関しては、34%減ずることができた。F原子密度の減少は、F原子を生じる母ガスであるCF2の減少が原因であり、Siを高エネルギーイオンで照射した際に起こるF原子とSiの直接的な反応により起こっているのではないことが明らかとなった。

第5章では、C4F8/COマグネトロンプラズマを用いた、コンタクトホールのSiO2エッチング速度と穴の底でのSi3N4エッチング速度のパターンサイズ依存性について述べている。これらのエッチング速度は、コンタクトホールのアスペクト比によって決まっていることを明らかにした。次に、微細孔内現象を解明するために、キャピラリープレートをコンタクトホールに見立て、そこを通り抜けてきたイオン電流を計測した。その結果、エッチング速度が高アスペクト比において低下する原因の一つに、ホール内へ形成された重合膜上で正のチャージアップによる正イオンの減速に起因することを初めて実験的に明らかにした。そして、微量の酸素添加により重合膜が除去され、高アスペクト比のコンタクトホール加工を実現できることを示した。このとき、穴の底に到達するイオン電流量が増加していることも確認した。

第6章では、フルオロカーボンガスのRIE(反応性イオンエッチング)により、Si基板へ導入されるダメージと、RIEの後処理がSiエピタキシャル成長に対してどのように影響するかを述べている。RIEはSi表面にC(炭素)を含む変質層を形成する。O2プラズマ処理のような酸素イオンを用いた後処理を用いると、Si基板を変質層深さ以上に酸化でき、形成されたSiO2膜はフッ酸処理により完全に除去され、欠陥を含まない単結晶Siが成長する。低温で高精度な深さ制御が可能な、O2プラズマ処理を開発し、これがSiエピタキシャル成長の前処理として有効であることを実証した。

第7章では、総括として、以上の研究の要約とともに今後の展望を述べている。

以上要するに、本論文は、半導体デバイス製造における絶縁膜エッチング技術に着目し、C4F8/COプラズマを用いた高選択比SiO2/Si3N4エッチング技術の実現、CO添加による高選択比発現機構の解明、C4F8解離機構の考察、微細孔内現象の評価、および照射損傷除去技術の提案を行ったものであり、半導体材料工学への貢献が大きい。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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