学位論文要旨



No 215707
著者(漢字) 松本,渉
著者(英字)
著者(カナ) マツモト,ワタル
標題(和) 通信路容量に接近する符号を用いた高信頼通信システムの研究
標題(洋)
報告番号 215707
報告番号 乙15707
学位授与日 2003.06.12
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15707号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 今井,秀樹
 東京大学 教授 高野,忠
 東京大学 教授 相澤,清晴
 東京大学 助教授 瀬崎,薫
 東京大学 助教授 森川,博之
 東京大学 助教授 松浦,幹太
内容要旨 要旨を表示する

有線、無線通信システムは多様かつ広範囲に拡大しつつあり、様々な媒体を通じて通信路を確保し高信頼な通信を実現することが要求されている。本論文では、高信頼通信を実現する手段として通信路容量に接近する誤り訂正符号であるターボ符号、及び低密度パリティ検査符号(LDPC符号)の適用に着目した。まず、これらの符号がそれぞれ単体で抱えている符号構成法の問題点を解決する提案を行なう。そして、主にLDPC符号の機能を拡張し、通信システム全体の情報量の期待値を理論的な通信路容量に接近させる、いわゆる“通信路容量に接近する通信システム”の実現を目指したいくつかの適用法の提案をまとめる。

各提案の概要は以下の通りである

決定論的なターボ符号インタリーバの構成法:多様な符号長に対応した決定論的な構成で、かつ従来問題となっていたエラーフロアの大幅な改善を実現するターボ符号インタリーバの提案を行なう。

決定論的な非正則LDPC符号の構成法:ユークリッド幾何符号、および整数ラティス構造の符号をベースに、パリティ検査行列の次数分布の最適化を行い、任意の符号化率と任意の次数分布に対し決定論的に構成できる符号の構成法を提案する。また、その構成法による非正則LDPC符号の誤り率特性が実用的な符号長においてシャノン限界に近づく事を示す。

LDPC符号によるマルチレベル符号化方式:マルチレベル符号化変調をLDPC符号を用いて実現する。通信路容量からLDPC符号の劣化量を逆算した符号化率の補正曲線を導出し、各レベルに分配される符号化率を求め、その符号化率に適したパリティ検査行列の次数分布の最適化を行う設計手法の提案を行う。

LDPC符号の拡張 sum-product 復号によるブラインド同期方式:LDPC符号を用い、その sum-product 復号の課程において出力される各受信信号の対数尤度比と軟判定情報から位相誤差を推定しその誤差量を補正することにより、ブラインド同期を実現する方法の提案を行なう。

OFDM変調方式及びMC-CDMA変調方式のハーフシンボル化の提案とLDPC符号の適用:マルチパスに起因するフェージング補償効果の為にガードインターバルを拡張する手段として、マルチキャリヤ変調波形のシンボル長を半分に短縮する、ハーフシンボル・マルチキャリア変復調方式の提案。また、この方式をマルチキャリヤCDMAに適用する方法の提案。さらにLDPC符号の適用による本方式の性能の改善提案を行なう。

分散トーン方式による電力線モデム通信方式の提案とLDPC符号の適用:周波数軸、時間軸ともに伝送路特性、雑音特性が変動する通信路において、簡易な回路構成ながら周波数、時間ダイバシチ効果を実現するマルチキャリヤ通信方式を応用した分散トーン方式の提案。さらにLDPC符号の適用による本方式の性能の改善提案を行なう。

LDPC符号を用いた量子鍵配送の為の誤り訂正技術の提案:量子通信路により鍵情報を送信し古典通信路において誤り訂正情報を通信することによりBB84をベースにして量子鍵配布するシステムにおいて特に量子通信路に誤りがある通信路を想定しその誤り訂正にLDPC符号を用いる提案。本提案により誤り訂正処理のみならず誤りビットの特定、誤り率の推定、秘匿生増強のための鍵圧縮等の処理が情報量的安全性を確保しながら実現できる。

これらの提案により雑音や様々な劣化要因を伴う通信路においても、特定の条件下で復号能力を理論限界に近接させる高信頼通信システムの実現が可能となる。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「通信路容量に接近する符号を用いた高信頼通信システムの研究」と題し、通信路容量に接近する復号特性を示す誤り訂正符号として注目されているターボ符号及び低密度パリティ検査符号(LDPC符号)の従来の問題点を解決する新しい構成法を提案するとともに、各種の情報通信システムへの応用法を示したものであり、「序章」を含めて10章からなる。

第1章は「序章」で、本研究の背景を明らかにした上で、研究の動機と目的について言及し、研究の位置付けについて整理している。

第2章は「ランダム系列のラテン方陣/長方形構造によるターボ符号インターリーバの構成法」と題し、ターボ符号用インターリーバに要求される条件を論理的に分析し、必要な設計基準をまとめ、更にその必要条件を満たすインターリーバの構成法を提案している。これにより多様な符号長に対し優れた特性を示す確定的なインターリーバ構成法が初めて与えられることになった。さらにターボ符号の問題点となっていたエラーフロアを大幅に低減できることを理論的解析およびシミュレーションにより検証している。

第3章は「ユークリッド幾何符号を用いた非正則LDPC符号設計法」と題し、ユークリッド幾何符号から導かれるパリティ検査行列の次数分布の最適化を行い、任意の符号化率と任意の次数分布に対し確定的にLDPC符号を構成する方法を提案している。これにより実用的な符号長において復号特性がシャノン限界に近づく符号が構成できる。

第4章は「整数ラティス構造に基づく非正則LDPC符号の設計法」と題し、整数ラティス構造により生成した行列に基づいて、第3章と同様な手段で確定的に、非正則LDPC符号を構成する方法を示している。 この方法によるLDPC符号は第3章で示した構成法による符号と同等の特性を持ち、復号の計算量は削減できることを示している。

第5章は「LDPC符号によるマルチレベル符号化方式」と題し、多値QAM変調の実現手段としてLDPC符号によるマルチレベル符号化変調の設計規範を導出している。 通信路容量からLDPC符号の劣化量を逆算した符号化率の補正曲線を導出し、各レベルに分配される符号化率を求め、その符号化率に適したパリティ検査行列の次数分布の最適化を行う設計手法を提案し、その効果を検証している。

第6章は「LDPC符号の拡張sum-product復号によるブラインド同期方式」と題し、LDPC符号を用い、そのsum-product復号の過程において出力される各受信信号の対数尤度比と軟判定情報から位相誤差を推定しその誤差量を補正することにより、ブラインド同期を実現する方法を提案している。この方式によりプリアンブルを必要としない同期方式の実現性を考察している。

第7章は「OFDM変調方式及びMC-CDMA変調方式のハーフシンボル化の検討」と題し、マルチパスに起因するフェージング補償効果のためにガードインターバルを拡張する手段として、マルチキャリア変調波形のシンボル長を半分に短縮する、ハーフシンボル・マルチキャリア変復調方式を提案している。また、これを拡張し、マルチキャリアCDMAに適用する方法を示している。さらに、LDPC符号の本方式への適用による有効性の検証を行なっている。

第8章は「マルチキャリア通信技術を応用した分散トーン方式による電力線モデム通信方式」と題し、周波数軸、時間軸ともに伝送路特性、雑音特性が変動する通信路において、簡易な回路構成ながら周波数、時間ダイバシチ効果を実現するマルチキャリア通信方式を応用した分散トーン方式を提案するとともに、LDPC符号の本方式への適用効果を検証している。

第9章は「LDPC符号を用いた量子鍵配送の為の誤り訂正技術」と題し、量子通信路により鍵情報を送信し、古典通信路により誤り訂正情報を通信する量子鍵配布システムにおいて、量子通信路における誤り訂正に効果的にLDPC符号を用いる提案を行なっている。本提案により誤り訂正処理のみならず誤りビットの特定、誤り率の推定、秘匿性増強等の処理が情報量的安全性を確保しながら実現できることを論証している。

最後に第10章は「結言」で、本研究の総括を行い、併せて将来展望について述べている。

以上これを要するに、本論文は、今後の高信頼通信を実現する手段として極めて重要なターボ符号およびLDPC符号の復号特性を改善する新しい符号構成法の提案を行うとともに、情報通信システムへの応用の具体例を明示したものであり、電子情報工学特に情報通信分野において貢献するところが少なくない。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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