No | 215719 | |
著者(漢字) | 高橋,俊二 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | タカハシ,シュンジ | |
標題(和) | ヒト骨髄長期培養系を用いた破骨細胞形成刺激因子の検索とアネキシンIIのクローニング | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 215719 | |
報告番号 | 乙15719 | |
学位授与日 | 2003.06.18 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 第15719号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 破骨細胞は骨吸収をおこなう主要細胞であるが、その調節因子には不明な点が多い。破骨細胞は造血幹細胞起源であり、単球マクロファージ系由来であることがほぼ明らかになってきた。 Roodman らはヒト骨髄長期培養により破骨細胞の形質を示す多核巨細胞が形成され、インターロイキン(IL)-1、IL-6、腫瘍壊死因子(TNF)-α、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)などのサイトカインがこの系で破骨細胞様多核細胞(MNC)形成を刺激することを報告した。本研究ではこの系を用いて破骨細胞形成に必要な分子を解明するため、まずこの系で破骨細胞形成を促進する間質細胞株を樹立し、続いて破骨細胞自身が分泌する破骨細胞形成刺激因子を分離した。 ヒト骨髄単核球細胞を分離してGM-CSF下にメチルセルロース培養を行い、その中の付着性細胞にリコンビナントSV40ウイルスを感染させ、ヒト骨髄間質細胞の細胞株(Saka)を樹立した。この細胞株はSV40 large T 抗原を発現し、線維芽細胞様の形態を持ち、フィブロネクチンとビメンチンを発現していた。一方、アルカリフォスファターゼ活性、骨髄系あるいはリンパ系抗原、第8因子関連抗原を発現せず、またデキサメサゾン処理にて脂肪細胞様変化を示さなかった。PCR解析によりサイトカイン等のmRNAの検討を行ったところ、IL-1β, IL-6, GM-CSF, M-CSF, SCF, vitamin D 受容体mRNAの発現を認めた。Saka 細胞とヒト骨髄単核球の共培養により、長期ヒト骨髄培養における破骨細胞様多核細胞(MNC)の形成が促進された。これらのMNCはカルシトニン受容体mRNAを発現し、dentine に吸収窩を形成した。他のSV40にて形質転換したヒト骨髄間質細胞株(SVSMC, KM102)はMNC形成を促進しなかった。Saka 細胞の培養上清あるいは filter insert を介した共培養ではMNC形成は刺激されず、IL-1βあるいはIL-6の中和抗体により Saka 細胞の作用はブロックされた。以上の結果は、骨髄間質細胞が直接の細胞間接触およびIL-1/IL-6の作用を介して破骨細胞の形成を刺激することを示唆する。(Endocrinology, 136:1441-1449, 1995) これ以上の分子的機序の解明はできなかったため、IL-6等の破骨細胞形成刺激因子を自ら分泌すると考えられる破骨細胞のcDNAから、新たな破骨細胞形成刺激因子の単離を試みた。 ヒト骨髄長期培養にて形成された破骨細胞様多核細胞(MNC)を抗ビトロネクチン抗体(23c6)を用いて精製し、そのmRNAから哺乳類cDNA発現ライブラリーを作成した。そしてこのライブラリーからMNC形成を促進する因子をスクリーニングした。単離された遺伝子の一つはシークエンス解析により、annexin II であることがわかった。Annexin II はヒト骨髄培養において1,25(OH)2D3の有無にかかわらずMNC形成を促進し、マウス骨髄培養においては1,25(OH)2D3存在下でMNC形成を促進し、骨吸収も亢進させた。胎児ラット長骨の臓器培養において、annexin II は1,25(OH)2D3存在下で有意に骨吸収を促進した。一方、RT-PCRにて annexin II mRNA が骨巨細胞腫から精製された破骨細胞、ヒトMNC、Paget 病の骨に高レベルで発現されていた。更に、ウェスタンブロット解析にて骨巨細胞腫からの破骨細胞の培養上清に annexin II が存在し、また annexin II cDNA を導入した293細胞の培養上清には全 annexin II のおよそ50%が含まれていた。以上のデータより、annexin II が破骨細胞から分泌され破骨細胞形成、骨吸収を促進する autocrine factor であることが明らかになった。(Journal of Biological Chemistry, 269:28696-28701, 1994) Saka 細胞はヒト破骨細胞分化における間質細胞の役割を解明する上で有用と期待され、今後、RANKL/OPGの発現とその調節の検討、さらに新たな破骨細胞・間質細胞相互作用に関わる因子の検討を行いたい。 一方、annexin II の破骨細胞形成刺激機序の解明のために、その標的細胞と受容体とをヒト骨髄系およびマウス骨髄培養系で検討し、また細胞膜上に発現あるいは分泌される annexin II の機能について、乳癌細胞の接着・転移・破骨細胞刺激との関係を中心に更に検討していきたい。 | |
審査要旨 | 本研究は骨吸収をおこなう主要細胞である破骨細胞形成に関して、特にヒト骨髄細胞からの形成機序を明らかにする目的で、ヒト骨髄長期培養により破骨細胞の形質を示す多核巨細胞(MNC)を形成する系を用いて、まずこの系で破骨細胞形成を促進する間質細胞株を樹立し、続いて破骨細胞自身が分泌する破骨細胞形成刺激因子の分離を試みたもので、下記の結果を得ている。 まずヒト骨髄付着性細胞にリコンビナントSV40ウイルスを感染させ、ヒト骨髄間質細胞の細胞株(Saka)を樹立した。 この細胞株は線維芽細胞様の形態・表現型を持ち、種々の破骨細胞形成を刺激するサイトカインmRNAの発現を認めた。 Saka 細胞とヒト骨髄単核細胞の共培養により、MNCの形成が促進された。 Saka 細胞の培養上清あるいは filter insert を介した共培養ではMNC形成は刺激されず、またIL-1βあるいはIL-6の中和抗体により Saka 細胞の作用はブロックされた。 以上より、骨髄間質細胞が直接の細胞間接触およびIL-1/IL-6の作用を介して破骨細胞の形成を刺激することが示唆された。 続いて、ヒト骨髄長期培養にて形成されたMNCを精製し、そのmRNAからcDNA発現ライブラリーを作成してMNC形成を促進する因子をスクリーニングし、annexin II を分離した。 Annexin II はヒトおよびマウス骨髄培養においてMNC形成を促進し、骨吸収も亢進させた。さらに胎児ラット長骨の臓器培養においても骨吸収を促進した。 骨巨細胞腫から精製された破骨細胞、ヒトMNC、Paget 病の骨において annexin II mRNA が発現され、破骨細胞の培養上清に annexin II 蛋白が存在した。以上より、annexin II が破骨細胞から分泌され破骨細胞形成、骨吸収を促進する autocrine factor であることが明らかになった。 以上、本論文は、ヒト骨髄からの破骨細胞形成系を用いて新たな破骨細胞形成支持細胞株を樹立し、また破骨細胞形成を促進する分子 annexin II を明らかにした。本研究は破骨細胞形成機序の解明に関して新たな視点を提供するものであり、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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