学位論文要旨



No 215762
著者(漢字) 高橋,伸
著者(英字)
著者(カナ) タカハシ,シン
標題(和) 視覚化,アニメーション,直接操作インターフェース作成のための枠組
標題(洋) A Framework for Constructing Visualization, Animation, and Direct Manipulation Interfaces
報告番号 215762
報告番号 乙15762
学位授与日 2003.09.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 第15762号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 西田,友是
 東京大学 教授 萩谷,昌己
 東京大学 教授 辻井,潤一
 東京大学 講師 五十嵐,健夫
 筑波大学 教授 田中,二郎
内容要旨 要旨を表示する

論文要旨

現在のグラフィカルユーザインタフェース(GUI)作成用ツールキットやライブラリは、ボタンやメニュー等を主な構成要素とするWIMP型インタフェースの作成の支援を主としている。それ以上の機能を実現する支援は少いため、プログラマは低レベルの処理から作成しなければならないことが多い。本研究の目的はそのような機能の中でも抽象的データの直接操作とアニメーションの作成を支援することである。

本論文では、まず第一に、データの視覚化、図の認識、アニメーションを実現するソフトウェアを統合的にモデル化した枠組について述べた。この枠組では、視覚化/認識は、4 つのデータ表現間の変換を行うモジュールを組み合わせて実現される。4つのデータ表現とは、アプリケーションのデータ表現(AR)、2つの中間表現:抽象構造表現(ASR)と図構造表現(VSR)、および図データ表現(PR)である。このモデルでは、視覚化は、ARからPRへ、ASRとVSR とを経由して、順々に変換していくことに相当する。逆に、図の認識は、PR からARへ、VSRとASRを経由していく変換である。これらの中で2つの中間表現(ASRとVSR)の間の変換は、抽象的なデータを、どのように視覚的表現と結びつけるかを決める変換であり、視覚化/認識を行う者が目的に応じて指定する。他の変換はアプリケーション間で共有できるものであり、あらかじめ作成してライブラリやツールとして提供できる。そのため、視覚化/認識の双方向変換は基本的に宣言的な変換規則を与えるだけで実現できる。また、アニメーションは、本研究のモデルでは、アプリケーションデータを視覚化の変換によって生成した図を時系列に並べ、その間を補間することによって作成される。そして、補間の方法を、ASR上の操作である「抽象操作」からVSR 上の操作である「遷移操作」への変換規則を記述することによって行う。

次に、本論文では、この枠組に基づいて構築したツールTRIP2, TRIP2a,TRIP2a/3Dについて述べた。TRIP2は、抽象的なデータの視覚化して図として表示したり、生成された図の編集の認識を元のデータに反映させることができる環境である。宣言的な視覚化/認識の変換規則を与えるだけで、様々な図や抽象データの直接操作を実現できる。このツールを使って、オセロアプリケーションのインターフェースや、ERダイアグラムを編集するインターフェースを作成する例について述べた。TRIP2a及びTRIP2a/3Dは、プログラムの実行やアルゴリズムを視覚化しアニメーションを作成するためのツールである。様々なアニメーション化が、二つの宣言的な規則:(1)どのように視覚化するかを決める規則と、(2)どのように補間を行うかを決める規則とを与えることによって実現できる。TRIP2aはTRIP2を拡張する形で作成したため、抽象的データの直接操作の実現とアニメーション作成機能とを両方備えている。TRIP2a/3Dは、アニメーションに特化したツールで3次元表示とイベント駆動的アニメーションに対応している。これらのツールを用いて、様々なアルゴリズムのアニメーション(種々のソーティング、最小全域木を求めるアルゴリズム等)や、N-Queen問題を解くプログラムの実行の様子のアニメーションなどを作成した。

さらに、本論文では、VSR中に現れる制約を視覚化し、ブラウジングする2つの手法について述べた。1つは、制約を3次元のグラフ構造として視覚化する手法である。この視覚化により制約系の全体的な構造を見易く表現することができる。また、制約グラフ中の辺の長さの変更により、制約グラフの一部の構造に注目したグラフレイアウトを行う方法について述べた。もう一つの手法は、制約系の制約不足等による自由度を、制約対象のオブジェクトのアニメーションとして表現するものである。自由度がある場合には、オブジェクトの位置が動くアニメーションでそれを表現する。自由度が無い場合には、位置が動かないことで自由度が無いことを表現する。その際、オブジェクトを変形させて、ひっぱられているけれども、自由度が無いので動けないというように見えるアニメーションで自由度が無いことを表現する。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、“A Framework for Constructing Visualization, Animation, and Direct Manipulation Interfaces”(視覚化, アニメーション, 直接操作インターフェース作成のための枠組)と題し、7章よりなっている。

現在のグラフィカルユーザインタフェース(GUI)作成用ツールキットやライブラリは、ボタンやメニュー等を主な構成要素とするWIMP型インタフェースの作成の支援を主としている。それ以上の機能を実現する支援は少いため、プログラマは低レベルの処理から作成しなければならないことが多い。本研究の目的はそのような機能の中でも抽象的データの直接操作とアニメーションの作成を支援することである。

本論文では、まず第一に、データの視覚化、図の認識、アニメーションを実現するソフトウェアを統合的にモデル化した枠組について述べている。この枠組では、視覚化/認識は、4 つのデータ表現間の変換を行うモジュールを組み合わせて実現される。4つのデータ表現とは、アプリケーションのデータ表現(AR)、2つの中間表現:抽象構造表現(ASR)と図構造表現(VSR)、および図データ表現(PR)である。このモデルでは、視覚化は、ARからPRへ、ASRとVSR とを経由して、順々に変換していくことに相当する。逆に、図の認識は、PR からARへ、VSRとASRを経由していく変換である。これらの中で2つの中間表現(ASRとVSR)の間の変換は、抽象的なデータを、どのように視覚的表現と結びつけるかを決める変換であり、視覚化/認識を行う者が目的に応じて指定する。他の変換はアプリケーション間で共有できるものであり、あらかじめ作成してライブラリやツールとして提供できる。そのため、視覚化/認識の双方向変換は基本的に宣言的な変換規則を与えるだけで実現できる。また、アニメーションは、本研究のモデルでは、アプリケーションデータを視覚化の変換によって生成した図を時系列に並べ、その間を補間することによって作成される。そして、補間の方法を、ASR上の操作である「抽象操作」からVSR 上の操作である「遷移操作」への変換規則を記述することによって行っている。

次に、本論文では、この枠組に基づいて構築したツールTRIP2, TRIP2a,TRIP2a/3Dについて述べている。TRIP2は、抽象的なデータの視覚化して図として表示したり、生成された図の編集の認識を元のデータに反映させることができる環境である。宣言的な視覚化/認識の変換規則を与えるだけで、様々な図や抽象データの直接操作を実現できる。このツールを使って、オセロアプリケーションのインターフェースや、ERダイアグラムを編集するインターフェースを作成する例について述べた。TRIP2a及びTRIP2a/3Dは、プログラムの実行やアルゴリズムを視覚化しアニメーションを作成するためのツールである。様々なアニメーション化が、二つの宣言的な規則:(1)どのように視覚化するかを決める規則と、(2)どのように補間を行うかを決める規則とを与えることによって実現できる。TRIP2aはTRIP2を拡張する形で作成したため、抽象的データの直接操作の実現とアニメーション作成機能とを両方備えている。TRIP2a/3Dは、アニメーションに特化したツールで3次元表示とイベント駆動的アニメーションに対応している。これらのツールを用いて、様々なアルゴリズムのアニメーション(種々のソーティング、最小全域木を求めるアルゴリズム等)や、N-Queen問題を解くプログラムの実行の様子のアニメーションなどを作成してる。

さらに、本論文では、VSR中に現れる制約を視覚化し、ブラウジングする2つの手法について述べた。1つは、制約を3次元のグラフ構造として視覚化する手法である。この視覚化により制約系の全体的な構造を見易く表現することができる。また、制約グラフ中の辺の長さの変更により、制約グラフの一部の構造に注目したグラフレイアウトを行う方法について述べた。もう一つの手法は、制約系の制約不足等による自由度を、制約対象のオブジェクトのアニメーションとして表現するものである。自由度がある場合には、オブジェクトの位置が動くアニメーションでそれを表現する。自由度が無い場合には、位置が動かないことで自由度が無いことを表現する。その際、オブジェクトを変形させて、ひっぱられているけれども、自由度が無いので動けないというように見えるアニメーションで自由度が無いことを表現している。

以上これを要するに、本論文は、視覚化, アニメーション, 直接操作インターフェース作成のための枠組に関して、極めて有意義な成果を得ている。この点で本論文は高く評価でき、審査委員全員で、博士(理学)の学位を授与するにふさわしいと判断した。

なお、本論文の内容の一部は、共著論文として印刷公表済みであるが、論文提出者が主体となって研究及び開発を行ったもので、論文提出者の寄与は十分であると判断する。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/51191