学位論文要旨



No 215764
著者(漢字) 間宮,尚
著者(英字)
著者(カナ) マミヤ,タカシ
標題(和) 廃棄物マネージメントを支援する建築・都市システムの構築
標題(洋)
報告番号 215764
報告番号 乙15764
学位授与日 2003.09.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15764号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 鎌田,元康
 東京大学 教授 坂本,雄三
 東京大学 教授 山本,和夫
 東京大学 助教授 松村,秀一
 東京大学 助教授 野口,貴文
内容要旨 要旨を表示する

本論は一般廃棄物処理を適正に行うために建築・都市が保有すべき要素を定量的に把握することを目的とした研究である。廃棄物処理方法の比較においては特定の廃棄物を対象とし、特定の処理工程に着目したLCA/LCIが実施されている。しかし、システム境界を自由に設定できるため、その結果はシステム境界に依存したものとなり、その設定自由度の高さゆえにシステム境界を理解せずに結果を議論することができないという問題を抱えている。

そこで一般廃棄物、その中でも恒常的に発生する可燃ごみと不燃ごみの処理を与条件として部分処理工程の変革が廃棄物処理領域全体にいかに影響するかを把握する。具体的には廃棄物フローモデルにおける重要分岐点の設定、廃棄物処理の優先順位の上位概念である廃棄物マネージメントの優先順位の設定を行い、各分岐点における廃棄物フローの制御を優先順位に沿った評価軸で検討するという枠組みを提示した。廃棄物マネージメントは廃棄物の発生から処分までを包括的に調整・制御する行為であり、その評価には廃棄物の性状から消費者による分別可能性、各処理の特性等の情報が必要となる。本論では廃棄物フローに沿って各処理工程の情報を詳細に収集し、建築・都市が保有すべき機能を抽出するために実施する総合評価へ反映させた。

本論分の構成と主な内容は以下の通りである

第1章では、研究の背景と論文の構成を示した。

第2章では、廃棄物処理をめぐる問題を多角的に調査し、課題の設定を行った。まず、本論におけるシステム境界を可燃ごみ・不燃ごみの処理(分別から処分まで)とし、廃棄物フローを規定する4つの分岐点を示した上で、(1)消費者による分別と対応するリサイクル、(2)自治体の廃棄物の処理方法、(3)焼却灰等の建材化が制御可能な分岐点であることを示した。次に日独の廃棄物処理のアプローチを分析し、廃棄物の「適正」処理とは何かを明確にすべく、廃棄物処理の優先順位の上位に位置する保護対象を示す概念として廃棄物マネージメントの優先順位を設定した。具体的には(1)環境の保護、(2)最終処分量の低減、(3)CO2発生量の低減、(4)経済性の追求の4つで、本論では定量的に評価可能な(2)と(3)を評価指標として選定した。以上により本論では複数の処理シナリオの効果を廃棄物処理全体の中で、処分量とCO2排出量を指標として評価する枠組みを提示した。

第3章では、対象となる一般廃棄物の性状の詳細な把握とデータの共有化を目的としてデータベース化手法を提案し、可燃ごみ・不燃ごみに適用した結果について述べた。廃棄物性状調査方法には確立した方法がなく、実施主体によって(1)サンプルの採取地点、(2)サンプル量、(3)分類の詳細度、(4)調査項目が異なっている。既存の調査方法では調査時の分類に基づく組成以外の知見が得られず、分類が実施主体によって決められている現状ではデータの互換性もない。その理由は用途と素材を混用したごみの記述方法にあり、これらを分離して記述することがデータ共有の前提となる。それにはごみ一点一点の特性の記述が必要となり、重さ、大きさ、用途、素材、汚れ等を記述するデータベース化手法を構築した。

データベースに基づいた用途・素材組成マトリックスから、リサイクルが量的に有望な廃棄物として可燃ごみでは生ごみ(46%)と印刷物(13%)、不燃ごみではプラスチック包装材(45%)を抽出した。ふるいと風力選別機を想定した見かけ面積、面積密度による乾式機械選別の可能性を検討したところ、可燃ごみ、不燃ごみともに繊維系・複合系ごみの選別に難があること、プラスチックの素材ベースの選別には用途(形態)と素材の関係づけが必要であることを示した。さらには汚れの記述から真重量と湿重量の変換係数(可燃ごみで1.6、不燃ごみで1.13)、袋構造の記述から生ごみ分別時における可燃ごみ中のプラスチック減量率(約1/6)を求め、総合評価に利用すべく整備した。本手法では多角的な分析を事後に実施できる他、分類を対応づけることによって他者の組成データと比較可能であることを示した。

第4章では、ごみ発生と自治体による処理を繋ぐ立場にある消費者の意識調査により、建築・都市が有すべき機能・制度の把握と、支援体制が確立された条件下における分別可能性等を調査した。分別が進まない理由は保管スペース不足や収集体制の不備であるが、建築内部よりは外部機能の充実が望まれている。保管スペースは約0.6m2/人、約1.2m2/戸は必要で、リサイクル支援施設では回収するごみ種類と業務時間において自治体収集との住み分けが望まれている他、設置間隔や駐車場の有無が施設利用、すなわち分別率に影響する。

工学分野では廃棄物性状と処理方法を組み合わせた評価が行われているが、最も影響度の高い消費者による発生源での分別率はパラメータとして扱われている。本論ではここに根拠を与えるべく、コンジョイント分析によってデポジット制が導入された際の分別率や機能が整備された際の収集頻度のアクセプタンス等を定量的に把握した。分別しやすい有価物はPETボトルや瓶や缶であるが、20円程度のデポジットを導入すると分別しにくい有価物でも60〜90%も分別回収される可能性があること、収集頻度を半分してもPAが得られることを明らかにした。

第5章では、廃棄物処理工程の特徴を特性値比較分析の導入により把握し、各工程の標準的な環境負荷(CO2排出)原単位を求めた。従来のLCA/LCIでも処理方法の比較が行われているが、比較の前提となる処理の仕様やシステム境界の妥当性が十分に吟味されているとは言いがたい。焼却一つとってもその仕様は千差万別であり、対象の特徴を把握することが前提として必要となる。そこでドイツで廃棄物管理の自治体比較に利用されている特性値比較分析を援用し、公開されていないデータは情報開示請求により入手して、(1)収集・運搬工程、(2)焼却処理工程、(3)処分場建設工程、(4)下水処理工程の4工程についてCO2排出量を指標とした特徴の把握を実施した。

東京23区では収集・運搬の大半は小型プレス車(2t)で行われ、積載量は可燃ごみで約1.4t/台、不燃ごみは約0.7t/台、燃費は3.9km/L-軽油、収集・運搬距離は約20kmである。焼却工程でのCO2排出量は含有炭素、脱硫方法と発電状況の影響を受け、標準的な焼却では投入財ベースで約95kg-CO2/t、発電を考慮すると約-90kg-CO2/t、含有炭素を含めると約830kg-CO2/tとなる。処分場建設工程でのCO2排出量は特殊工事を除くと埋立面積で整理でき、埋立深さを10mと仮定すると約30kg-CO2/m3となる。下水処理では脱水助剤の種類、メタン発酵の有無や汚泥焼却における補助燃料量の影響が大きく、処理水量にかかわる工程では0.12kg-CO2/m3、処理負荷量にかかわる工程では0.47kg-CO2/kg-BODを標準的なCO2排出原単位として得た。

第6章では、以上の結果を元に建築・都市の有すべき機能を最終処分量とCO2排出量の視点で定量的に抽出すべく、ケーススタディを実施した。可燃・不燃ごみ処理全体をシステム境界とし、廃棄物フローを制御する方策として(1)リサイクル広場の導入によるプラスチックの選択的分別回収とリサイクル(2)生ごみの発生源(建築)での分別と処理(リサイクル・処分)(3)最終処分量低減策としての焼却灰等の建材化

リサイクル広場の導入によるプラスチックの選択的分別回収とリサイクルに着目し、複数のシナリオの廃棄物処理全体での寄与を検討した。処分量低減には一般に資源・エネルギーの再投入が必要となるが、CO2排出量を維持したまま処分量を削減可能なシナリオもあった。

建築・都市機能としては焼却灰等の建材化が最も重要である。ここだけを評価するとCO2排出量の増加が問題となるが、減量化された灰の量を考慮すると全体での寄与は小さい。リサイクル広場を経由したプラスチックリサイクルは現状(破砕・埋立)と比較して高炉、コークス炉、セメント工場等で原燃料リサイクル可能な場合に処分量、CO2排出量の双方の低減が可能となる。一方、生ごみの建築での処理は生ごみ中の灰分が小さく、最終的には汚泥として焼却される場合が多いので処分量が低減されないこと、建築部門でのCO2排出量の増加が大きく、現状の地上回収・焼却・処分におけるCO2排出量が最も少ないこと、生ごみの分離処理を採用する場合はメタン発酵によるエネルギー回収や大規模下水処理に依存すべきであることを示した。

大都市は一般廃棄物を大量に発生し、最終処分場の立地は困難であるが、建設市場が安定して存在するという特徴を有している。わが国の物流状況を考慮すると、セメント産業や鉄鋼産業と共存する都市像を模索する必要がある。

第7章では、全体を総括するとともに今後の展開について述べている。本研究では一般廃棄物処理全体を対象とし、処分量とCO2排出量の観点から建築・都市の有すべき機能を抽出したが、今後は廃棄物マネージメントの優先順位に挙げつつも、評価に含めなかった(1)環境性(有害性)と(4)経済性の評価が課題となる。業際的な領域で各セクターの適切かつ公平な役割を設定するには環境性・経済性の評価が不可欠である。特に既存インフラと基幹産業の役割を含めた枠組みを再構築することは困難なタスクであり、これに寄与する評価技術の一層の高度化とデータベースの信頼性の向上が必要である。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、「廃棄物マネージメントを支援する建築・都市システムの構築」と題し、近年わが国で急速に問題が深刻化している廃棄物処理に関し、生活系一般廃棄物、いわゆる生活ごみに的を絞り、廃棄物の発生から処分までを包括的に調整・制御する行為として位置付けた「廃棄物マネージメント」を支援するには、建築および都市システムがいかにあるべきかを論じたものである。具体的には、生活系廃棄物を実際に分析しての性状把握、消費者が望む廃棄物処理支援に関するアンケート調査、さらには情報開示請求およびヒアリングなどにより収集したデータに基づく廃棄物処理プロセスにおける特性値比較分析などを行った上で、廃棄物マネージメントを支援する建築・都市システムの各要素システムの評価を行ったものであり、以下の7章より構成されている。

第1章では、研究の背景および本論文の構成を示している。

第2章では、廃棄物処理をめぐる問題を多角的に調査し、課題の設定を行っている。本論文で扱う廃棄物を生活系一般廃棄物とし、廃棄物フローを規定する4つの分岐点を示した上で、そのうちで制御可能な分岐点を「消費者による分別と対応するリサイクル」「自治体の廃棄物の処理方法」「焼却灰などの建材化」の3つであることを示している。次いで日独の廃棄物処理アプローチの分析などから、廃棄物マネージメントの優先順位を(1)環境の保護、(2)最終処分量の低減、(3)CO2排出量の低減、(4)経済性の追求とし、 本論文では、定量的に評価可能な(2)、(3)を評価指標として選定するとした上で、それらを指標として廃棄物マネージメントシステムを評価するする枠組みを提示している。

第3章では、対象となる一般廃棄物の性状に関するデータの共有化を目的としたデータベース化手法を提案するとともに、その手法を可燃ごみ・不燃ごみに適用した結果について述べている。まず、従来行われてきた廃棄物性状調査の概要を示した上で、調査時の分類に基づく組成以外の知見が得られず、分類が調査実施主体によって決められているためにデータの互換性がないことを問題点として指摘し、その原因が、ごみの用途と素材を混用した分類の記述方法にあることを示している。その上で、ごみ一点一点の重さ、大きさ、用途、素材、汚れ、ごみ袋中の袋の入れ子構造などを記述するデータベース化手法を構築し、その手法を用いた一般廃棄物の調査結果を示している。調査結果としては、リサイクルが量的に有望な廃棄物は生ごみ、印刷物、プラスチック包装材であること、ふるいと風力選別機を想定した乾式機械選別の可能性を検討したところ、可燃ごみ・不燃ごみともに繊維系・複合系ごみの選別に難があること、プラスチックの素材ベースの選別には用途(形態)と素材の関係づけが必要であること、汚れの記述から真重量と湿重量の変換係数が求められること、袋の入れ子構造の記述から、生ごみ分別時における不燃ごみ中のプラスチック減量率を求めると約1/6になることなどを示している。

第4章では、建築・都市が有すべき機能・制度、支援体制が確立された条件下での分別可能性などについてのアンケート調査結果を述べている。その結果として、ごみ保管スペースとしての必要面積、リサイクル支援施設の設置間隔・運営時間のあるべき姿などを明らかにしている。さらに、コンジョイント分析手法を用い、デポジット制が導入された場合の分別率や、支援機能が整備された際の収集頻度低減の許容度などを検討している。

第5章では、廃棄物処理工程の特徴を特性値比較分析手法を用いて把握し、各工程の標準的な環境負荷(本論文で指標として用いている CO2排出量の原単位)を求めている。具体的には、「収集・運搬工程」「焼却処理工程」「処分場建設工程」「下水処理工程」の4工程について、公開されていないデータは情報開示請求により入手し CO2排出量原単位を求めている。その過程で、ごみ収集・運搬車の平均積載量・運行距離や、焼却工程でのごみ含有炭素、脱硫方法、発電状況および下水処理工程での脱水助剤の種類、メタン発酵の有無、汚泥焼却における補助燃料量の CO2排出量に及ぼす影響度合などに関し、有益な知見を提示している。

第6章では、第3章から第5章で得られた結果を基に、建築・都市システムの有すべき機能を、最終処分量と CO2排出量を指標として定量的に評価するために行ったケーススタディ結果について述べている。具体的には、第2章で制御可能とした3つの分岐点における廃棄物フローを制御する方策として、(1)リサイクル広場の導入によるプラスチックの選択的分別回収とリサイクル、(2)生ごみ発生源(建築)での分別と処理(リサイクル・処分)、(3)最終処分量低減策としての焼却灰などの建材化に着目し、それぞれの方策が最終処分量と CO2排出量の低減に及ぼす影響の観点から整理するとともに、建築・都市が優先的に保有すべき、それら方策を組み合わせた処理システムのあるべき姿を探っている。その結論として、一般廃棄物を大量に発生し、最終処分場の立地は困難であるが、建設市場が安定しているという特徴を有する大都市では、わが国の物流状況を考慮すると、セメント産業や鉄鋼産業と共存する都市像を模索する必要があることを述べている。

第7章では、全体を総括するとともに、今後の展開について述べている。

以上を要約するに、取り扱う範囲を廃棄物のうちの一般廃棄物に限り、また、廃棄物の有害性や経済性の評価は含まないとい問題はあるものの、廃棄物のフロー全体に対する詳細な調査を基に、建築・都市システムのあり方に関する明確な提言を行った論文であり、本論文の内容は、廃棄物処理分野の発展に寄与するところが極めて大である。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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