学位論文要旨



No 215765
著者(漢字) 浅田,素之
著者(英字)
著者(カナ) アサダ,モトユキ
標題(和) エタノールとベントナイトを用いた遮水工法に関する研究
標題(洋)
報告番号 215765
報告番号 乙15765
学位授与日 2003.09.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15765号
研究科 工学系研究科
専攻 都市工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大垣,眞一郎
 東京大学 教授 矢木,修身
 東京大学 教授 堀井,秀之
 東京大学 教授 山本,和夫
 東京大学 助教授 登坂,博行
内容要旨 要旨を表示する

ベントナイトは遮水性能、吸着性能が大きいため、廃棄物処分場のクレーライナー等、有害物質の拡散防止を目的とする遮水材料として用いられている。また、放射性廃棄物地層処分施設において放射性物質拡散を防止する緩衝材としての使用が検討されている。

我が国では、鉛直止水山留壁構築に、SMW工法、TRD工法等に代表されるCB(セメントベントナイト)スラリーを用いた原位置撹拌工法が多用されており、世界で最高水準の技術を有している。しかし、ベントナイトを主材料とする遮水壁の検討はいまだ行われていない。一方、米国では、汚染地盤からの有害物質拡散防止を目的として、泥水掘りしたトレンチ内に現地発生土とベントナイトとの混合土を流し込むSB(ソイルベントナイト)壁の利用が盛んである。しかし、孔壁の崩落、トレンチ内に混合土を埋め戻す際に発生する空隙による遮水性能低下等の問題点が指摘されている。CBを用いた鉛直遮水壁の透水係数はSBを用いた場合より大きく、地盤変形への追従性に乏しく、漏水が発生しやすい。そのため、CBスラリーの代わりにベントナイトスラリーを用いて十分な量のベントナイトを原位置混合撹拌できれば、地盤変形に追従でき、透水係数で1×10-9m/s以下という遮水性能に優れた鉛直壁を構築することができる。遮水壁の透水係数を1×10-9m/s以下にするためには、土1m3に対してベントナイトを約70kg以上添加する必要がある。粉末ベントナイトは原位置混合撹拌に適しないため、ベントナイトをスラリー状にして使用する必要があるが、水を用いてベントナイトスラリーとした場合、土1m3に対してベントナイトを20kg以上添加するのは難しい。原位置混合撹拌工法にはベントナイトを450kg/m3以上含有したスラリーが必要となる。

緩衝材としての利用が見込まれるベントナイトブロックは、粉末ベントナイトを締め固めて高密度とする。施工を進める上でどうしてもブロック同士間、ブロックと周辺岩盤間の空隙が生じることは避けられない。また、周辺岩盤に存在する亀裂から地下水が移動することも考えられる。狭隘な空隙、亀裂を充填するには、施工性と超長期耐久性の点からベントナイトスラリーが最適である。しかし、水を用いたベントナイトスラリーではベントナイト濃度を上げることができず、十分な遮水性を確保できなかった。注入止水工法にはベントナイトを400kg/m3以上含有したスラリーが必要となる。

以上のように、少なくともベントナイトを400kg/m3以上含有したスラリーが必要となるが、水を用いたスラリーでは150kg/m3が限界であった。筆者らはベントナイトスラリーの密度を上げる方法として、有機溶媒を用いる方法を考案した。例えばエタノールを用いる場合、500kg/m3以上の高密度ベントナイトスラリーとすることができる。ベントナイトの主要成分であるモンモリロナイトは、2:1型層構造を有し、層間に水を取り込んで膨潤力を発揮する。ナトリウム型ベントナイトは自重の4〜7倍の水を取り込み、5〜8倍に体積が膨張する。膨潤現象には粘土粒子表面の界面電気現象が大きく関わっており、表面電位が高ければ、それだけモンモリロナイトの膨潤量が大きくなる。スラリー化する際に誘電率の低い溶媒を用いることによって、モンモリロナイトの表面電位を低下させ、膨潤を抑制し、高密度のベントナイトスラリーにできる。エタノール等の有機溶媒がベントナイトの膨潤力を劣化させることはなく、間隙のエタノールを水と置換することによって、ベントナイトは本来の膨潤力を取り戻す。

有機溶媒が固形粘土の強度等物理特性に与える影響については、Sridharanらが精力的に行っている。しかし、混合材料をスラリーとして使用する例は見あたらない。また、地盤材料へのエタノール利用例として、エタノールを用いた原位置汚染地盤洗浄工法はあるが、エタノール自体の地盤内挙動に関する情報は少ない。本論文では、有機溶媒を用いたベントナイトスラリー高密度化の室内試験、界面電気現象の解析、スラリーの鉛直遮水壁工法および止水注入・充填工法への適用性を検討した。エタノール/ベントナイトスラリーの施工性、エタノールの周辺地盤への影響、スラリーを用いた遮水構造物の性能等を明らかにし、以下の結論を得た。

(1)エタノールによりスラリー中のベントナイト量を900kg/m3にまで高めることができ、粘度をポンプ圧送可能な1000mPa・s以下にできる。水を用いた場合と比べて液量を1/6〜1/7に減少できる。間隙中のエタノールは容易に水と置換し、間隙のエタノールが水と置換することにより、ベントナイトが20〜75kN/m2の膨潤力を発揮し、高い遮水能力を持つ。

(2)水を用いた場合、ベントナイトの液性限界は300〜600%であるが、エタノールの添加によって表面電位が低下し、液性限界を70%にまで低減できる。液性限界と表面電位は比例関係にあり、エタノール濃度が高まるほど粒子に強く吸着する水量あるいはエタノール量が減少、ベントナイトの膨潤を抑え、スラリーの高密度化を実現できる。表面電位はエタノール濃度0〜60wt%で大きく変化するものの、60wt%以上ではその変化が少ない。エタノール濃度は低いほどコストを抑えられ、安全性を高められるため、60wt%のエタノールを用いてスラリー化するのが有効である。

(3)エタノール/ベントナイトスラリーの原位置撹拌鉛直遮水壁に対する有効性は、20m3の室内土槽モデル試験により確認した。遮水壁からの周辺地盤へのエタノール拡散は、最大でも水平方向1.5m以内に収まる。エタノール拡散領域の減衰には微生物による分解が寄与しており、2ヶ月以降には拡散領域が狭くなる。また、遮水壁間隙のエタノールは、遮水壁両側に設けた水位差による水圧と濃度拡散により徐々に水と置換される。なお、エタノールと水の強制置換が進んでいない状態でも、止水壁の透水係数は4×10-10m/sと通常のソイルベントナイト壁と同等の遮水能力が保たれる。

(4)エタノール/ベントナイトスラリーの止水充填工法への適用性は、室内充填モデル試験によって確認した。スラリーは厚さ10cmの水中の空隙に均質に充填でき、透水係数は4.0×10-12m/sと高い遮水能力を発揮する。また、打設後のスラリーは水とエタノールとの置換によって10〜20kN/m2の膨潤圧を発生するため、地盤との密着性が十分に期待できる。

(5)エタノール/ベントナイトスラリーの岩盤亀裂注入工法への施工性を、現場注入施工試験により確認した。通常用いられているセメントミルクと同等の施工性を確保しながら、ルジオン値あたりの注入量は2倍を達成した。注入40日後に行った透水試験では、セメント注入部で0.26Lu(2.1×10-7m/s)、ベントナイト注入部で0.26Lu未満となっており、セメントミルクと同等以上の遮水効果を確認した。

以上のことから、エタノール/ベントナイトスラリーの遮水材料としての高い実用性が確認できた。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は,「エタノールとベントナイトを用いた遮水工法に関する研究」と題し、廃棄物処分場あるいは放射性廃棄物の地層処分施設などにおける地盤内遮水工法として、エタノール/ベントナイトスラリーを用いる工法を開発し、その高い遮水能力とその発現機構を明らかにした研究である。施工性及び周辺地盤への環境影響も評価しており、高い実用性を有する新しい遮水材料を開発した成果である。

第1章は「序論」であり、既存の研究の整理と本論文の構成が示されている。

第2章は「ベントナイトスラリーの流動特性」についてであり、流動特性試験の方法とその結果と考察がまとめられている。エタノールによりスラリー中のベントナイト量を900kg/m3程度まで高めることができ、ベントナイトスラリーを高密度化できることを示している。

第3章は「ベントナイトの界面化学的解析」であり、水を用いた場合は、ベントナイトの液性限界は300〜600%であるが、エタノールを添加することによって表面電位が低下し、液性限界を70%にまで下げることができることを示している。また、液性限界と表面電位は比例関係にあり、エタノール濃度が高いほど粒子に強く吸着する水量あるいはエタノール量が減少し、ベントナイトの膨潤を抑え、スラリーの高密度化を実現できるとしている。表面電位はエタノール濃度0〜60wt%で大きく変化するものの、60wt%以上ではその変化が少なく、エタノール濃度は低いほどコストを抑えられ、安全性を高められるため、60wt%のエタノールを用いてスラリー化するのが有効であると結論している。

第4章は「原位置撹拌鉛直遮水壁工法へのエタノール/ベントナイトスラリーの適用」についてであり、遮水壁モデル試験の工夫とその結果が述べられている。エタノール/ベントナイトスラリーの原位置撹拌鉛直遮水壁に対する有効性は、20m3の室内土槽モデル試験により確認している。遮水壁からの周辺地盤へのエタノール拡散は、最大でも水平方向1.5m以内に収まること、エタノール拡散領域の減衰には微生物による分解が寄与しており、2ヶ月以降には拡散領域が狭くなること、また、遮水壁間隙のエタノールは、遮水壁両側に設けた水位差による水圧と濃度拡散により徐々に水と置換されることを示している。

第5章は「止水充填・注入工法へのエタノール/ベントナイトスラリーの適用」についてであり、止水充填モデル試験を工夫し、スラリーは厚さ10cmの水中の空隙に均質に充填でき、透水係数は4.0×10-12m/sと高い遮水能力を発揮することを示している。また、打設後のスラリーは水とエタノールとの置換によって10〜20kN/m2の膨潤圧を発生するため、地盤との密着性が十分に期待できると結論している。

エタノール/ベントナイトスラリーの岩盤亀裂注入工法への施工性を、現場注入施工試験により確認し、通常用いられているセメントミルクと同等の施工性を確保しながら、ルジオン値あたりの注入量が2倍に達することを示している。注入40日後に行った透水試験では、セメント注入部で0.26Lu(2.1×10-7m/s)、ベントナイト注入部で0.26Lu未満となっており、セメントミルクと同等以上の遮水効果を得ている。

以上のように、本論文は新しくエタノール/ベントナイトスラリーの遮水材料を開発し、その優れた遮水性と高い実用性を示すことに成功した研究成果であり、都市環境工学の学術分野に大きく貢献するものである。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク