学位論文要旨



No 215782
著者(漢字) 西宮,良一
著者(英字)
著者(カナ) ニシミヤ,リョウイチ
標題(和) ITを活用した輸送の効率化と路上待機車両の削減方法に関する研究
標題(洋)
報告番号 215782
報告番号 乙15782
学位授与日 2003.10.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15782号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 桑原,雅夫
 東京大学 教授 家田,仁
 東京大学 教授 清水,英範
 東京商船大学 教授 苦瀬,博仁
 千葉工業大学 教授 赤羽,弘和
内容要旨 要旨を表示する

物流分野においては従来から需要発生に合わせて定時に搬入を行うという強い要請が存在していた。しかしながら、道路を利用して輸送を行う場合には、渋滞による輸送時間の変動や搬入先における荷さばき場等の混雑により輸送に要する時間が正確に予測できない。既存の従来のサプライチェーン・マネージメント(SCM)における輸配送計画においては、商用車(貨物車、タクシー、バス等の業務目的で運行する車両)による輸送時間の部分は固定値(パラメータ)として扱っており、輸送時間の変動を早めの発注・出荷によりカバーしてきた。このため、余裕を持って出発した商用車は搬入先周辺の路上で時間調整の待機をすることとなり、待機車両による交通流への悪影響、道路交通環境の悪化が発生している。

また、ITSの分野においてはトラック、タクシー等の車両の位置を管理して効率的な配車を支援する運行管理システムが既に実用化しているが、運行管理システムの管理対象としている情報の範囲は、輸送サービスの供給者側(例:モータープール、製造、出荷、道路走行中車両)が中心であり、主として配車・車両の運用効率の向上を意図したものである。このため、搬入先(需要地)の情報をリアルタイムに利用して、搬入先周辺での待機を削減するという考え方にまでは至っていない。

交通・運輸世界ではTDM(Traffic Demand Management:交通需要管理)という考え方があるが、TDMにおける需要とは「自動車交通の発生」または車両の台数を意味して、SCMの輸配送業務における輸送需要の対象である商品・製品の出荷とは異なる。そのため、TDMにおいては主として出荷が決定したあと、いかに混雑を回避して輸送するか、少ない車両の台数で輸送するかという観点で対策がなされている。TDMにおいても、研究段階では高速道路の利用予約制など出発時期自体までに遡って変更を加えようという考え方はあるが、これをシステムとして実装する段階までには至っていない。

輸配送問題において従来はほとんど連携がなく実施されていたSCMの一要素である生産管理・出荷管理とTDMの一要素である運行管理を融合することにより、搬入先周辺の待機状況や道路混雑状況に応じて出荷時期を強力に制御できるようになる。具体的には、出荷管理システムと運行管理システムを統合化し、さらに運行管理システムで収集している情報を出荷管理システムで制御変数としている生産量・出荷時刻へフィードバックすれば良い(図-1)。さらに、輸送中の製品の量や到着時期についても運送会社の貨物(荷物)追跡システムを活用すれば正確に把握可能である。

SCMを本当の意味で実現するためには、メーカー、小売店、輸送業者間の情報共有が必要である。このような生産側と販売側の情報共有の考え方を流通途中の輸送の部分にも適用して、出荷・出発をきめ細かく制御することにより、輸送段階における搬入車両の待機といった社会的にも無駄なコストの発生を抑制することが可能となる。

本研究の特徴は、以下に述べるとおりである。

(1)輸送した貨物の搬入先における次工程での処理の進捗状況、搬入先周辺での待機車両の状況を出荷地へフィードバックすることにより、待機車両数を最小限に抑える出発時刻制御を行うシステムを考案した(図-2)。

(2)荷主、運転手、荷受人の3者の間の情報共有を実現することにより、過剰な量や早期の発注を防ぎ、これにより搬入先周辺での待機車両数を最小限に抑える出荷制御システムを考案した。

(3)これらのシステムの実現のために不可欠な輸送所要時間を、車両の運行実績から取得するシステムを考案した。

(4)(1)〜(3)の考え方に基づく定時到着搬入システムを実際に開発し、ケーススタディーを通じてその有効性を検証した。

(5)開発したシステムが多様な輸送分野において応用可能である。

本研究の手法は対象とする輸送が(1)到着タイムウインドウの狭さ、(2)輸送時間の変動、(3)配車需要・荷下ろし時間の変動、(4)単純な往復輸送、(5)荷下ろしの後につく待機車両の削減の5点を有するという点でこれまでの研究と比較して新規性を有する。

本研究では、ケーススタディーとして建設現場における生コンクリート輸送を例にとり、待機車両を削減する定時到着搬入システムの概念設計(図-3)を行い、その効果の検証用に実験用のプロトタイプシステムの開発を行った。

ここでは、建設現場、生コンクリートプラント、ミキサー車の3者の間の情報共有を実現(図-4)することにより、待機車車両を削減して、かつ生コンクリートの品質を安定化できるシステムを構築した。実験システムは、インターネット接続可能な携帯電話機、既存のインターネットによる車両位置情報サービス、Webカメラを利用したライブ映像伝送システムから構成され、低コストでシステムを構築できることを示した。2日間にわたって実際の工事現場でシステムの稼働実験を実施し、システムの動作確認や改良を必要とする点の確認を行った。さらに、車両の出発時期を最適化した場合の効果を実験結果をもとにシミュレーションで推計した。この結果、システム導入により延べ待機台数が18〜26%減少することが判明した。

本研究で開発したシステムの導入効果項目は、費用削減、時間節約、空間節約、環境・エネルギー節約に分類され、また、その効果の一次帰属先を荷主、荷受人、道路、住民に分類できる。

また、導入効果の計測方法についても検討を行い、生コンクリート搬入の場合の効果を推計した。推計の結果、システムの導入より1日あたり6万円のコスト節約効果、13万円の交通渋滞解効果があり、コスト削減のみでもシステム導入費用の約8倍の効果が発生することを示した。

次に、生コンクリートを対象にして開発した定時到着搬入システムが、他の輸送分野での広く応用可能なことを示し、建設現場の場内搬送システムの連携、卸売市場における搬入待機車両削減、貨物ターミナルにおける待機車両削減、駅前タクシー乗り場での待機タクシー削減の4例を対象に、定時到着搬入制御の考え方が適用可能であることを示した。

本研究で開発したシステムを実際に普及するためには、費用・資金面の課題、人的問題・利用技術面での課題、社会・業界の課題があることを示した。このうち、企業の中から見ると、企業間の情報の共有については、インターネット上でASPとWebサービスの活用により異システム間の情報の交換が容易に可能となり解決できること、また収集した車両の運行情報を道路交通情報提供事業と共有し有効活用すべきことを述べた。さらに、システム導入による出荷締め切り時間の繰り下げを通じて導入企業の競争力の強化にもつながるなど、コスト削減以外の効果も期待できることを示した。しかしながら社会的には、交通影響・環境影響の費用の内部化のために、規制の強化や費用負担を求めること、導入のインセンティブを与えることも必要である。

以上の成果によりITを活用した輸送の効率化と待機車両の削減システムが充分な導入効果を有し、社会的にも必要であることを示した。

SCMとTDMの融合

定時到着搬入システムの構成要素

生コンクリート定時到着搬入システムの構成要素

システム導入による情報共有の実現

審査要旨 要旨を表示する

本研究は,物流における運行管理情報と出荷管理情報を融合させた輸送効率化システムを提案するとともに,生コンプラントへの適用実験を行って実用性を確認し,路上待機車両の削減などの効果評価を行ったものである.

従来,物流分野においてはトラック、タクシー等のITを活用した「運行管理システム」が検討され,既に実用化されてきている.ところが,この運行管理システムでは,管理している情報は、輸送サービス供給者側に関するもののみである.一方,製品の生産量,生産時期,出荷時刻などを管理するものとして「出荷管理システム」があるが,荷主と荷受人に関する情報管理が主体で,輸送に関する情報すなわち運行管理システムで管理されている情報が共有されてこなかった.運行管理と出荷管理の情報を共有することによって,荷主側では生産・出荷の調整,荷受人側では作業工程の調整,さらに輸送サービス供給側では配車台数・出発時刻・経路・走行速度の調整等をより効率化することが可能となる.

本研究では,ITを活用した出荷管理と運行管理の情報共有システムを提案するとともに,従来は固定化されていた渋滞による輸送時間の変動や目的地における荷さばき場等の混雑時間の変動を考慮できるシステムを構築している.具体的な構築システムは次の3つである:(1)輸送時間,目的地における荷捌き時間などにもとづいて、待機車両数を最小限に抑える出発時刻制御を行うシステム,(2)過剰な量や早期の発注を制御することにより目的地周辺での待機車両数を最小限に抑える出荷制御システム,(3)輸送所要時間を、車両の運行実績から取得するシステム.これらのシステムは,荷主,輸送サービス供給者,荷受人全体にわたる物流の効率化に寄与するとともに,交通問題となっている目的地周辺の待機車両の削減にも大きく貢献するものと評価できる.

本研究では、ケーススタディーとして建設現場における生コンクリート輸送をとりあげ,建設現場、生コンプラント、ミキサー車の3者の間の情報共有を実現する低廉なシステム開発を行っている.2日間にわたる実験により,待機車車両を削減して、かつ生コンクリートの品質を安定化できることを確認するとともに,システムの導入より1日あたり6万円のコスト節約効果、13万円の交通渋滞解効果があり、コスト削減のみでもシステム導入費用の約8倍の効果が発生することを示している.

最後に、上記システムが生コンプラント以外にも,建設現場の場内搬送システムの連携、卸売り市場における搬入待機車両削減、貨物ターミナルにおける待機車両削減、駅前タクシー乗り場での待機タクシー削減などにも応用可能であることを考察している.

以上の通り,本研究では,運行管理と出荷管理情報を融合させた輸送効率化システムの提案を行うとともに,生コンプラントへの現場実験を通して十分な費用便益効果があることを実証している.提案している輸送における情報融合プロトタイプシステムは,道路効率性や安全性の障害となっている路上待機車両の削減に貢献するだけでなく,幅広い応用可能性を持っており,学術的に高く評価できるだけでなく,実務的にもきわめて有用である.

よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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