学位論文要旨



No 215813
著者(漢字) 下出,真法
著者(英字)
著者(カナ) シモデ,マサノリ
標題(和) バイオアクティブセラミック製ネジ椎間スペーサーを用いた後方進入腰椎椎体間固定術(PLIF)の開発
標題(洋)
報告番号 215813
報告番号 乙15813
学位授与日 2003.11.26
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第15813号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 高戸,毅
 東京大学 教授 江藤,文夫
 東京大学 教授 大内,尉義
 東京大学 教授 辻,省次
 東京大学 助教授 織田,弘美
内容要旨 要旨を表示する

背景及び目的

後方進入腰椎椎体間固定術(Postrior Lumbar Interboby Fusion ; 以後 PLIFと略す)は、脊椎後方からの椎弓切除、椎間関節切除による神経組織の徹底した除圧と力学的に有利な椎体間での脊椎固定が得られることより、腰椎すべり症などの腰椎変性疾患に対する手術的治療法の中で最も優れた手術原理を有する手術法として位置づけられている。しかし、PLIF は手術手技が煩雑なため、手術侵襲が大きく合併症が多い、術者の技量により手術成績が一定しない、などの大きな欠点を有し長く普及しなかった。近年、PLIFのこの欠点を減らすべく、諸家により各種の椎間スペーサーを使用した術式が考案され手術成績の向上が見られるようになってきているが、まだ十分なものではない。筆者はPLIFの手術手技の簡素化と画一化を図ることを目的として、バイオアクティブセラミック製椎間スペーサーを使用した独自のPLIFの術式を考案し、そのための専用の手術器具を新たに作製して手術を行ってきた。本論の目的は、筆者の術式によるPLIFの手術結果を検討し諸家のPLIFの術式による手術結果と比較することにより、本法がPLIFの手術手技の簡素化と画一化を実現した優位な手術手技であることを検証することである。

方法

本法にて手術的治療を行い2年以上の術後経過観察期間を有する100例を対象とした。内訳は、男46例、女54例で、手術時年齢は平均59.5歳であった。術後経過観察期間は、2年より10年2ヶ月、平均4年4ヶ月であった。腰椎疾患の内訳は、変性すべり症が58例、分離すべり症が23例、長期透析患者の破壊性脊椎関節症6例、その他13例であった。これらの、術前および術後の経時的なX線像によるすべり変形(Taillard32の%slip)と椎間高(mm)の計測結果、日本整形外科学会(Japanese Orthopaedic Association)腰痛治療成績判定基準(以後JOAスコアーと略す) による臨床症状、合併症の有無と内容、手術時間と術中出血量を検討項目とした。対象症例100例を第I群(1991年7月-1993年3月、HA製円柱型椎間スペーサー使用18例)、第II群(1992年7月-1994年10月、AW-GC製円柱型椎間スペーサー使用17例)、第III群(1994年11月以降-現在、AW-GC製ネジ型椎間スペーサー使用65例)の3群に分け、現在行っている術式の手術結果を第III群65例にて、また、手術時期および使用した椎間スペーサーの違いによる手術結果の差を3群それぞれの手術結果の比較にて検討した。他の椎間スペーサーを使用したPLIFの術式との比較は、現在普及している主な術式の文献報告内容にて行った。

結果

現在の術式(第III群)の手術効果はすべり変形の平均矯正率45.4%、平均椎間高開大3.5mm、平均椎間高減少(術後2年)0.3mm、最終椎間高開大3.3mm、臨床症状(JOAスコアー)の平均改善率(術後2年)83.1%、骨癒合率100%であった。合併症は術中硬膜裂傷3例、術後1mm以上の椎間高の減少3例、椎間スペーサーの後方移動1例、手術創遷延治癒1例で重篤な合併症や神経合併症はなく、また、偽関節や再手術例もなかった。手術時間は平均3時間18分、術中出血量は平均702mlであった。他の椎間スペーサーを使用した術式のPLIFと比較して、本法の手術効果と安全性は同等以上で、手術侵襲は少なかった。また、手術開始初期の約3年間に行った手術例群(第I群と第II群)と術式が完成したあとに行った手術例群(第III群)との比較では、手術効果、合併症、手術時間、術中出血量に差はなかった。

考察と結論

本法実施のために新たに開発作製した手術器具の使用により、PLIF の煩雑な手術手技の画一化簡素化が可能となったと考えられた。また、新たに開発作製したバイオアクティブセラミック製ネジ型椎間スペーサーの使用することにより、その生物学的特性と力学的特性が十分に生かされ早期の骨癒合とその後の安定した椎体間の骨癒合状態が獲得されたと考えられた。その結果、本法の手術結果は現在行われている他の椎間スペーサーを使用したPLIFの手術法と比較し同等かそれ以上の優れたものであった。また、経時的な手術結果の比較より、本法の手術手技は短期間に習熟できることが示唆された。これらのことから、本法はPLIFの最大の欠点である手術手技の煩雑さを解決し、手術手技の簡素化と画一化が十分に図られた有用な手術法であることが検証された。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、後方進入腰椎椎体間固定術(PLIF)における新たな術式の手術成績より、その術式の臨床上の有用性を検証したものである。著者は自作の手術器具とバイオアクティブセラミック製ネジ型椎間スペーサーを新たに作製し、PLIFの術式の画一化と簡素化を試み、100例の手術成績を提示している。この手術成績をもとに、他のPLIFの手術成績との比較および自験例の経時的な手術成績の比較により、著者の開発した新たなPLIFの術式の優位性を示すことを試み、以下の結果を得ている。

現在の術式の手術効果はすべり変形の平均矯正率45.4%、平均椎間高開大3.5mm、平均椎間高減少(術後2年)0.3mm、最終椎間高開大3.3mm、臨床症状(JOAスコアー)の平均改善率(術後2年)83.1%、骨癒合率100%で、他の椎間スペーサーを使用したPLIFと同等以上の手術効果が得られた。合併症は術中硬膜裂傷3例、術後1mm以上の椎間高の減少3例、椎間スペーサーの後方移動1例、手術創遷延治癒1例で重篤な合併症や神経合併症はなく、また、偽関節例や再手術例もなかった。他の椎間スペーサーを使用したPLIFと同等以上の安全性が確認された。手術時間は平均3時間18分、術中出血量は平均702mlであった。他の椎間スペーサーを使用したPLIF他の方法より手術侵襲が少なく、手術術式が簡素化されていることが示唆された。以上より、本法は他の椎間スペーサーを使用したPLIFの術式の手術結果と比較して、優位な手術結果が得られる手術法であることが示された。

手術開始初期の約3年間に行った手術例群と術式が完成したあとに行った手術例群との比較にて、手術効果、合併症、手術時間、術中出血量に差はなく、本法は短期間に習熟できることが示唆された。このことより、本法はPLIFの術式の画一化・簡素化を実現し、PLIF の最大の欠点である手術手技の煩雑さを解決した手術法であることが示された。

本法による最終的な骨癒合の判定は画像診断では不可能で、客観的な骨癒合判定法の新たな開発が本法の今後の課題と考えられた。

以上、本論文により、著者の開発した新たなPLIFの術式は現在行われている他の多くのPLIFより優れた手術成績が得られるとともに、手術手技の画一化と簡素化が実現されていることを明らかにしている。本研究は、従来 PLIF が椎間不安定性を伴った神経根および馬尾神経の圧迫病変に対する優れた手術法である反面、術式が煩雑で手術成績が一定せず合併症も多いという欠点を有していたが、著者による新たな術式の開発によりこの欠点が解消され、良好な手術成績が安定して得られることを客観的に示し、腰椎疾患の臨床における治療技術の向上に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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