No | 215815 | |
著者(漢字) | 岡田,吉隆 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | オカダ,ヨシタカ | |
標題(和) | Echo planar imaging (EPI) を用いた肝腫瘍のMRI診断の研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 215815 | |
報告番号 | 乙15815 | |
学位授与日 | 2003.11.26 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 第15815号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 研究の背景と目的 エコープラナー法(echo planar imaging, 以下EPI)は1スライスあたりの撮像時間が1秒以下の超高速MRI撮像法であり,中枢神経系の分野などで応用され成果を上げている.しかし,EPIを肝に応用した報告は少ない.EPI では数秒〜十数秒で肝全体を容易に撮像することができ,体動によるアーチファクトをほとんど除去できると期待される.加えて,EPIにおいては1回の励起に引き続いてすべての画像データを収集するため,T1緩和時間の影響をほとんど受けない純粋なT2強調画像を得ることができる.したがって,EPIはアーチファクトの少ない呼吸停止下のT2強調画像を得るのに適した手法であると考えられる. 本研究では,肝腫瘤性病変のMRI診断におけるEPIの意義を明らかにすることを目的とし,まず肝腫瘍の診断に適したEPIの撮像条件について検討し,臨床的検討に用いる撮像シーケンスを決定した.次に,その撮像シーケンスを用いて臨床例のMRI検査でEPIを施行し,肝腫瘤性病変の検出率を評価した.最後に,得られたEPI画像がどのような情報を表現しているかを検討するため,EPI画像と切除標本の病理学的所見との対比を行った. EPI撮像シーケンスの基礎的検討 肝腫瘍の臨床例の診断に適したEPIの撮像シーケンスについて検討を行った. 励起 RF パルスの形式は,90°-180°パルスの組み合わせを用いるスピンエコーEPI(SE-EPI)と,単一の90°(またはそれ以下の任意の flip 角α°)パルスを用いるグラディエントエコーEPI(GRE-EPI)が考えられる.磁場不均一の影響を受けやすい肝臓のMRIでは,グラディエントエコー法のT2*強調画像は信号の減衰が著しく,本研究ではSE-EPIが適していると考えられる. EPIでは短時間に多数回の信号収集を行っており,読み取り磁場は高速に反転を繰り返す必要がある.これには矩形波(厳密には台形波)を用いる場合(nonresonant EPI)と,正弦波を用いる場合(resonant EPI)とが考えられる.使用装置のハードウェアの制約もあり,本研究では resonant EPIを用いた. Resonant EPIの場合,データ収集時間内において読み取り勾配磁場の強度が一定でないので,時間的に等間隔でサンプリングを行うと,k空間上でサンプリングポイントが等間隔に並ばなくなってしまう.これを解決するため,k空間上のサンプリングポイントが等間隔に並ぶようにあらかじめタイミングを調節して,不等間隔のサンプリング(non-linear sampling)を行う方法を採用した. 位相エンコード方式として,信号収集の前に blip と呼ばれる非常に印加時間が短いパルス状の勾配磁場を加える blipped phase encoding を用いた. EPIではデータ収集時間の間にT2*緩和が進んで信号は減少していくので,できる限り短時間にデータ収集を終了しないと,高周波成分の信号が失われてしまう.局所的な磁場の不均一が生じやすい腹部のMRIの場合は,特に短いエコー間隔を用いることが重要であり,使用装置において設定可能な最短のエコー間隔(0.6msec)を用いた. EPIでは,位相エンコード方向に非常に大きな化学シフトアーチファクト(20〜30ピクセル程度)が出現する.これを抑えるため,binomial型の周波数選択飽和パルスと,反転時間(inversion time, TI)170msec の short-TI inversion recovery(STIR)法を併用して脂肪抑制を行った. 拡散強調画像で用いられる motion probing gradient(MPG)パルスは,血流による動きのあるプロトンの信号を低下させ,小病変の検出能の向上に役立つと考えられる.脈管信号の消去に適したb値を決定するため,初期の10症例に対してb値を可変としたシーケンスで撮像を行った.MPGパルスの強度gを一定値(24mT/m)とし,印加時間δを変化させることによって,b=0(MPGパルスを加えない場合),b=1.6, b=55[mm/sec2]の3種類のシーケンスを作成して撮像を行い,得られた画像を比較した.その結果,脈管の信号を消去して小さな腫瘍の検出を容易にする目的で用いる場合,b=55は必要にして十分と考えられたので,以下の臨床的検討においてはこの値を使用することにした. 臨床的検討 肝腫瘤性病変の精査の目的でMRI検査を施行した49例(男性29例,女性20例,年齢33〜80才)を対象とした.対象病変の内訳は肝細胞癌22例,胆管細胞癌1例,転移性肝癌9例(大腸癌6例,乳癌・子宮頚癌・子宮体癌各1例),海綿状血管腫16例,嚢胞2例 (うち1例は転移性肝癌の症例に合併したもの)である.1患者あたりの病変数は,1個のみが29例(肝細胞癌14例,胆管細胞癌1例,転移性肝癌4例,海綿状血管腫10例),2個が13例,3個が3例,4個以上が4例であった. シーメンス社製 Magnetom Vision(静磁場強度1.5テスラ)を用いて,(a)T2強調FSE法(繰返し時間[TR](msec)/エコー時間[TE](msec)=3300/128, エコートレイン長23), (b)T1強調グラディエントエコー(GRE)法 (TR/TE=180/6, flip angle 90°), (c)EPI(SE-EPI, 実効TE 78 msec, エコー間隔0.6msec), (d)MPGパルス(b=55 sec/mm2)を印加したEPI(他の撮像パラメータは(c)と同じ),の4種類のシーケンスを施行した. 定量的検討では,腫瘍と肝実質の信号強度比(signal intensity ratio, SI ratio)を〓により算出して比較した(Sliver: 肝実質の信号強度,Slesion: 腫瘍部の信号強度).通常のEPI, MPGパルスを加えたEPIのいずれも,T2強調FSE法に比べて有意にSI ratioがすぐれていた(P<0.05). この結果は,転移性肝癌・海綿状血管腫の各群ごとに個別に検討しても同様であり,特に転移肝癌において著しい差が見られた(T2強調FSE法2.08±0.55, MPGパルスを加えたEPI 5.33±2.14).一方, 肝細胞癌に関しては,T2強調FSE法とEPIの間にSI ratioの有意差は認められなかった. 定性的検討において,各撮像法で検出可能な病変の個数を比較した.肝細胞癌と海綿状血管腫については,T2強調FSE法とEPIの間に有意差はなかった.転移性肝癌の場合は,MPGパルスを加えたEPIはT2強調FSE法に比べて有意に多くの病変を検出可能であった(28病変中それぞれ28病変と16病変;P<0.01). MPGパルスを加えると,肝内脈管や門脈周囲域からの高信号が著明に抑制され,小さな肝転移が明確になった. 病理学的所見との対比 臨床的検討の対象症例のうち,MRI撮像後に肝切除術が行われた15例20病変(肝細胞癌9例10病変,転移性肝癌6例10病変)を対象として,EPI画像と病理組織像との対比を行った. 肝細胞癌では,病変全体が均一な高信号を示したものが3例,高信号域の中に低信号域が混在するものが7例であった.低信号域の形状は,病変内に不規則に分布するものが5例,病変中心部に分布するものが1例,病変の辺縁部を輪状に取り巻くものが1例であった.組織学的には,低信号域を示す部分は,細胞密度が低く線維性成分を主体とする組織に相当していた.病変中心部に比較的広範囲に低信号域が見られた1例では,組織学的に脂肪化が認められ,EPI撮像時に脂肪抑制を加えていることが病変内部の信号低下に関与している可能性が考えられる. 転移性肝癌では病変全体が均一な高信号を示したものが7例,高信号病変の中心部に特に強い高信号の部分を伴ったものが1例,辺縁が高信号で中心部が低信号を示したものが1例,辺縁から順に高信号・低信号・著しく強い高信号の部分が同心円状に見られたものが1例であった.組織学的には,病変内の低信号域は線維性の組織に,著しい高信号の部分は融解壊死に相当すると考えられた.一方,全体が高信号を示した病変のうち7例中4例では腫瘍中心部の壊死が認められ,これらの病変ではEPI画像上で壊死部と非壊死部を区別することはできなかった. まとめと今後の展望 以上の検討から,EPIは呼吸停止下T2強調FSE法に比べて空間分解能は劣るものの,病変部のコントラストがすぐれており,特に小さな転移性腫瘍の診断に有力な検査法となり得ることが示された.また,比較的小さなMPGパルスをEPIに加えることによって,肝内脈管や脈管周囲域からの紛らわしい高信号を抑制でき,小腫瘤の検出が容易になることがわかった.現状のEPIの問題点(不十分な空間分解能,画像の歪みやアーチファクト,肝以外の上腹部臓器の評価が困難など)も考慮すると,呼吸停止下T2強調FSE法と必要に応じて併用していくのが適切と考えられる.結論として,EPI(特にMPGパルスを加えたEPI)を肝のMRI検査に併用することで,肝腫瘍のより正確な評価を行うことができ,特に転移性肝癌の検索において小病変の見落としの少ない精度の高い診断を行うことができる. | |
審査要旨 | 本研究は,超高速MRI撮像法である Echo planar imaging(以下EPI)を肝腫瘍の画像診断に応用して,基礎的,臨床的,および病理学的検討を加えたものであり,以下の結果を得てしる. EPIの撮像パラメータに関する基礎的検討を行い,肝のMRI検査に適した撮像シーケンスを決定した.検討の結果,励起RFパルスとして90°-180°パルスの組み合わせを用いるスピンエコーEPI (SE-EPI)を採用し,読み取り磁場に正弦波(resonant EPI), 位相エンコード方式として blipped phase encoding を用いた.拡散強調画像で用いられる motion probing gradient(MPG)パルスについて,初期の10症例に対してb値を可変としたシーケンスで撮像を行い比較した結果,脈管の信号を消去して小さな腫瘍の検出を容易にする目的で用いる場合,b=55[mm/sec2]が必要にして十分と考えられた. 肝腫瘤性病変49例(肝細胞癌22例,胆管細胞癌1例,転移性肝癌9例,海綿状血管腫16例,嚢胞2例)を対象とした臨床的検討において,腫瘍と肝実質の信号強度比(SI ratio)を指標として定量的に検討した結果,通常のEPI, MPGパルスを加えたEPIのいずれも,T2強調 fast spin echo(FSE)法に比べて有意にSI ratioがすぐれていた(P<0.05). 特に転移肝癌において著しい差が見られた(T2強調FSE法2.08±0.55, MPGパルスを加えたEPI 5.33±2.14).定性的検討で,転移性肝癌の場合にMPGパルスを加えたEPIはT2強調FSE法に比べて有意に多くの病変を検出できることが示された. MRI撮像後に肝切除術が行われた15例20病変を対象として,EPI画像と病理組織像との対比を行った.肝細胞癌では,EPIで病変全体が均一な高信号を示したものが3例,高信号域の中に低信号域が混在するものが7例であり,低信号域を示す部分は,組織学的には細胞密度が低く線維性成分を主体とする組織に相当していた.転移性肝癌では10例中7例がEPIで均一な高信号を示したが,組織学的には7例中4例で腫瘍中心部の壊死が認められ,これらの病変ではEPI画像上で壊死部と非壊死部を区別することはできないことが明らかとなった. 以上,本論文はEPIが小さな転移性腫瘍の診断に有力な検査法となり得ることを明らかにした.また,比較的小さなMPGパルスをEPIに加えることによって,肝内脈管や脈管周囲域からの紛らわしい高信号を抑制でき,小腫瘤の検出が容易になることがわかった.これらの成果は従来ほとんど報告されていない新知見であり,臨床的にきわめて重要である肝腫瘍の画像診断の精度向上において貴重な貢献をなすものと考えられ,学位の授与に値する. | |
UTokyo Repositoryリンク |