学位論文要旨



No 215827
著者(漢字) 堀内,進
著者(英字)
著者(カナ) ホリウチ,ススム
標題(和) 原子力発電所放射性廃液の中間減容処理システムに関する開発研究と実用化
標題(洋)
報告番号 215827
報告番号 乙15827
学位授与日 2003.12.12
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15827号
研究科 工学系研究科
専攻 システム量子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 田中,知
 東京大学 教授 勝村,庸介
 東京大学 教授 寺井,隆幸
 東京大学 助教授 長崎,晋也
 内閣府   鈴木,篤之
内容要旨 要旨を表示する

原子力発電所の運転に伴って発生する放射性廃棄物の内、固化処理後におけるドラム缶本数で主要数量を占める放射性廃液の処理方法について、最終処分方法が未決定の段階で増え続けるドラム缶発生量に伴う発電所サイト内貯蔵施設増設の問題に鑑み、既往の処理方法より合理的で実用効果が期待できる新しい処理方法を導き出した。

本論文は、この新しい処理方法(放射性廃液中間減容処理システム)に関する開発研究内容を原子力化学工学的な視点より纏めたものである。

筆者は(株)日立製作所で長年に亘り放射性廃棄物処理技術の開発研究と設計に従事し、その中でこの新しい処理方法の開発研究を行ない実用化したもので、本論文は基礎実験から実用運転実績の評価まで含めた全容について述べたものである。

本論文で対象となる課題は大きく二つある。

放射性廃棄物を処理したドラム缶詰め固化体の最終処分方法即ち、陸地処分か海洋処分(投棄)か我が国として未決定で先が見通せない時期での対応をどうするかということ。

発電所サイト内におけるドラム缶貯蔵庫の増設問題(トイレ無きマンションと椰楡され社会問題化した)をどうするかということ。

筆者は、この二つの課題を解決することを目的として、以下に示す放射性廃液の中間減容処理システムの開発研究を行ない、これを実用化した。

処理対象である放射性廃液(濃縮廃液)は、原子力発電プラントの一次冷却水系復水脱塩器の再生に伴い発生するNa2So4を主成分とする再生廃液である。

本論文は、開発研究の進め方に合わせ、即ち原子炉の開発実験炉→原型炉→実証炉→商用炉と同様に基礎実験→パイロットプラント(1)→パイロットプラント(2)(実廃液試験)→実機適用の各開発研究ステップに合わせ、それぞれ第2章・3章・4章・5章で構成している。第6章では実機の概要と運転実績データを分析・評価し、設計当初の仕様と比較検討した内容について述べる。

構想した放射性廃液中間減容処理システムの実用性を検討する為の廃液を乾燥粉体化後、ペレットに造粒する方法が既往のセメント固化法より主に減容比の点で有力な方法とされているアスファルト固化法に比較して、最終処分への適応性、技術的な柔軟性、経済性等、実用上の観点から、より適切であると考えた。

中間減容処理システムの各構成プロセスについて、主要プロセスごとに方式選定を目的とした各種の基礎実験を行い、評価した結果、乾燥に遠心薄膜蒸発法とペレット化にブリケッテイング法を選定した。

基礎実験の結果、選定した各プロセス方式に基づき、パイロットプラント(1)を製作し、模擬廃液によるシステム性能試験を実施し、粉体化特性やペレット化特性等の主要な基本性能を把握した。

主要基本性能の他、全システムの構成プロセスに係る粉塵爆発特性やペレット貯蔵等、要素技術の開発と最終処分時に必要となる固化処理技術としてセメントガラス固化技術を開発した。

本システムの中で機能上重要な二つの基本プロセスについて、以下のように実用上大きな効果が期待できる技術を開発し有効であることを実験により実証確認した。

遠心薄膜乾燥機の限界処理能力について、理論解析し実験で実証確認した。従来設計毎に多くの処理実験を行ない、実験式を基に設計してきたが、限界処理能力が予測できることで、実験および設計の工数を大幅に低減することが可能となった。

ペレットの圧潰強度を安定的に確保できる機械−制御系を主に粉体の内部剪断応力と圧縮率の評価結果から実験的に見出し、実用技術として有効であることを確認した。

(1)および(2)に係るデータの一例を以下に示す。

(1)は、遠心薄膜乾燥機の限界処理能力について、理論解析結果と実験結果を示したもので、精度の高い予測が可能であることが分かる。

(2)は、粉体組成をパラメータに剪断応力と圧縮応力を表したので、黒丸の組成物(樹脂)混入により粉体の物性が変わることが分かる。

パイロットプラント(2)により、福島第一原子力発電所で実施した実廃液処理性能確証試験の結果、パイロットプラント(1)で実施した模擬廃液による性能試験結果とよく一致した他、運転保守等、実機の運用時に重要な要素になる各機器の表面線量率等、基本データを得た。一連の開発研究の結果、実用1号機として福島第一原子力発電所1〜4号機の廃棄物処理設備に適用された。

実用1号機の試運転結果等、概要と実用運転実績の調査結果を分析・評価した内容について述べる。

本開発研究の成果として、実用1号機以降現在までに日本国内の原子力発電所(PWRを含む)7サイトにおいて、いずれも順調に稼働しており、更に海外用1号機が建設中で、このように原子力産業界に少なからず貢献している実状である。

なお、本開発研究の結果に対し、(社)日本原子力学会(技術賞)、(社)火力・原子力発電技術協会(論文賞)、(社)発明協会(発明奨励賞)他の表彰があったことを付記する。

審査要旨 要旨を表示する

原子力発電所の運転に伴って発生する放射性廃棄物の内、固化処理後におけるドラム缶本数で主要数量を占める放射性廃液の処理方法について、最終処分方法が未決定の段階で増え続ける発電所サイト内貯蔵施設増設の問題に鑑み、既往の処理方法より合理的で実用効果が期待できる新しい処理方法に関する開発研究を原子力化学工学的な視点より纏めたものである。本論文では、開発のキーとなる主要な化学工学的な課題解決についての研究成果が示されているとともに、基礎実験から実用運転実績の評価まで含めた一連のプロセス開発研究が述べられている。

論文は7章で構成されている。第1章は緒論であり、従来の原子力発電所放射性廃液処理システムを調査し、放射性廃棄物を処理したドラム缶詰め固化体の最終処分方法が見通せない時期での対応、及び、発電所サイト内におけるドラム缶貯蔵庫の増設問題の2点が重要な課題であると整理している。これらを解決するために、従来の固化処理法のようにすぐに固化せずに最終処分法が整備・運用される時期までに最大限に減容した状態で中間的に安全に貯蔵保管し、この間に放射能の減衰効果を得て最終処分時に固化剤を自由に選択し固化して処分する方策を提案している。

第2章は中間減容処理システムの導出と開発について論じている。すなわち第1章で述べた方策について従来の処理方式と減容比・経済性・技術信頼性などを総合比較した結果、濃縮乾燥、造粒ペレット化という放射性廃液減容処理システムが最適であるとの結論に達している。その主要プロセスについて基礎実験を行い、遠心薄膜乾燥機とブリケット型造粒機が適していることを示している。このとき、プロセスの適用にあたって解決すべき課題を明らかにし、それらについて、基礎実験を通して解決している。すなわち、遠心薄膜乾燥機は回転摺動による磨耗が寿命を決定するため、材料について検討し、磨耗試験によりインコネルとステライトの組み合わせが有望であることを確認している。また、ペレットの長期安定貯蔵を担保するためNa2SO4の潮解性について研究し、相対湿度80%以下で潮解を防止できることを実験で確認している。さらに、粉体を取り扱うシステムのため、粉塵爆発の限界条件を確認し、酸素濃度17%以下または粉体含水率が14w%以上で爆発も燃焼もおこらないことを見出している。

第3章ではパイロットプラントを用いた模擬廃液によるシステム確認試験について述べている。このとき、本システムの中で機能上重要な廃液の乾燥粉体化と造粒プロセスについて次のような重要な知見を得ている。(1)遠心薄膜乾燥機の限界処理能力について粉体化のメカニズムを理論解析と可視実験により明らかにしている。(2)ペレットの圧潰強度に対して粉体組成中の特定物質および圧縮率と内部せん断応力が主因子であることを明らかにし、これらにもとづく造粒機の運転条件と制御法は確立している。

第4章では実廃液を用いた性能確証試験について述べており、パイロットプラントで実施した模擬廃液による性能試験結果とよく一致していることを示している他、運転保守等、実機の運用時に重要な要素になる各機器の表面線量率等、基本データを得ている。

第5章では第4章までの開発研究の成果をもとに行った実機設計について説明している。諸基準に対応する方針が述べられているとともに、開発研究の基礎データをもとに物質・放射能収支が取られ、システムの系統設計手法が確立できることを示している。

第6章では実用第1機の建設・試運転の概要、実用運転管理の状況および運転実績の調査結果と評価内容について説明している。計画通りの性能が得られたことは、基礎研究、パイロットプラントでの試験、及び実機試験という一連の開発研究の成果の反映であるとともに、特に、化学工学的な研究のブレークスルーが必要であった、乾燥、造粒に関わる筆者の研究によるところが大きいと考えられる。

第7章は研究のまとめであり、結論と今後の課題が整理されている。

このように本論文は原子力発電所放射性廃液の中間減容処理について実用化にいたる一連の発研究をまとめたものである。有用なシステムが開発され実際に原子力発電所で有効に使用されているという貢献以外にも、特に化学工学的には次の2つの成果が評価される。

遠心薄膜乾燥機について、従来不明であった粉体化メカニズムを理論解析と可視化実験装置により明らかにした。これにより、従来設計法である実験に基づく実験式だけに頼ることなく高精度の設計が可能となった。

廃液中間減容処理システムの主要機能の一つであるペレットの圧潰強度に関し、粉体の一次物性(密度や粒径分布など)だけでは因果関係が明らかでなかった強度不足についてこれを解決する新たな知見を得ている。すなわち、従来不明であった、粉体物性と造粒されたペレットの物性を相関づける指標として、粉体の内部せん断応力が重要な役割を担っていることを見出しており、これを手がかりにして、ペレットの圧潰強度不足の技術課題を解決している。

このように本論文は原子力工学とくに放射性廃棄物処理工学に対する貢献が少なくない。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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