No | 215829 | |
著者(漢字) | 河原,哲郎 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | カワハラ,テツロウ | |
標題(和) | 半導体光触媒による環境浄化機能材料とその製造プロセスの開発 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 215829 | |
報告番号 | 乙15829 | |
学位授与日 | 2003.12.12 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第15829号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | マテリアル工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 緒言 半導体光触媒、特に酸化チタンを利用した環境浄化機能材料の応用が様々な分野で進められている。ソーダライムガラスを基板とする空気清浄窓ガラスは、太陽光や室内照明光を利用してシックハウスや悪臭の原因となる有機揮発性物質を分解できることから実用化への期待が大きいが、通常のガラス並みの硬度が要求されることから、酸化チタン膜の厚みや気孔率を上げずに光触媒活性を向上させることが必要となる。本論文では異種酸化物の接合によって高活性な光触媒を開発すること、ならびにその工業的な製造プロセスを開発することを目的とした。 パターニング・積層薄膜光触媒 化学蒸着(CVD)法によってFドープされたSnO2膜をコートしたガラス基板上に、チタンアルコキシド溶液をディップコートし、フォトマスクを介して紫外線(UV)を照射後エタノールでリーチングすることでゲル膜をストライプ状にパターニングし、500°Cで1時間焼成してpat-TiO2/SnO2薄膜光触媒(TiO2膜厚70 nm)を作製した。また方向を90度回転させてTiO2ストライプ成膜プロセスを繰り返してcross pat-TiO2/SnO2薄膜光触媒(TiO2ストライプの重なり部分は膜厚130 nm)を作製した。X線回折(XRD)測定により、TiO2層はアナターゼ型であることを確認した。 作製した試料(1.6 cm2)を1 Mのメタノール水溶液10 mL中に浸漬し、高圧水銀灯によりUV(14.3 mW/cm2)を照射し、H2の発生量を測定した結果を図1に示す。TiO2サンプルと単純なTiO2/SnO2積層サンプルの比較では、後者のH2発生量が約1/3と少なく、TiO2/SnO2接合の結果TiO2中で励起された電子が下地のSnO2層へ移動し、H+の還元反応が抑制されたと考えられた。上層のTiO2をパターニングしてSnO2を一部露出させたpat-TiO2/SnO2サンプルでは、TiO2サンプルよりもH2発生量は約5倍と大きく、TiO2中で励起された電子がSnO2表面での反応に預かることによってメタノールからの脱水素反応速度が向上したと考察された。 次にスパッタ法によってTiO2(ルチル型)をコートしたガラス基板上に、前記と同様にゾルゲル法でTiO2(アナターゼ型)をストライプ状にパターニングして、pat-TiO2(A)/TiO2(R)薄膜光触媒(TiO2(A)膜厚65 nm)を作製した。 作製した試料(4 cm2)を容積0.64 LのPyrexガラス製容器に入れ、XeランプによりUV(4.8 mW/cm2)を照射して、アセトアルデヒドの気相分解反応を観測した結果を図2に示す。ルチル下地のないpat-TiO2(A)サンプルとpat-TiO2(A)/TiO2(R)サンプルの比較では、後者のアセトアルデヒド分解速度が同じTiO2面積当たりで約2から2.5倍大きく、半導体接合構造によってアセトアルデヒド分解に対する光触媒活性が向上したことが分かった。 溶解・再析出法によるアナターゼ−ルチル接合微粒子光触媒 微粒子形態のTiO2光触媒では、ひとつの微粒子中にルチル型とアナターゼ型が混在するものがしばしば高活性を示すことが報告されている。そこで、市販のルチル型微粒子(平均粒径約150 nm)7.2 gを硫酸水溶液200 mL中で加熱・溶解した後、14%アンモニア水をpHが約10.5になるまで加えてTi分を再析出させ、固形分を遠心分離、洗浄、乾燥、焼成してアナターゼ−ルチル接合微粒子を作製した。XRD測定により焼成温度が500〜800 °Cでは再析出したTiO2はアナターゼ型と考えられ、硫酸濃度を変えることで両結晶型の混在割合を変化させることができた。またTEM観察と電子エネルギー損失スペクトル(EELS)測定からアナターゼ−ルチル相が接合しているものが存在することを確認した。 作製した試料(約0.1 g)を容積0.64 LのPyrexガラス製容器に入れ、XeランプによりUV(1.8 mW/cm2)を照射して、アセトアルデヒドの気相分解反応を行った。分解速度がアセトアルデヒド濃度に比例するとして求めた見かけの反応速度定数k'を図3に示す。同様の方法で作製したアナターゼ微粒子とルチル微粒子を物理的に混合したサンプルとの比較から、アナターゼ−ルチルが接合することによってアセトアルデヒド分解速度が大きくなっていること、アナターゼ比率が約0.5 %のところにピークが観測された。 グラビア印刷法によるパターニング・積層型光触媒の作製 窓ガラスを利用した環境浄化機能材料を工業的に生産するためには、安価に大面積の製品を製造可能なプロセスの開発が必要である。そこで、建築用に市販されているCVD法によるSnO2膜付ソーダライムガラス上に、自動車用ガラスのコーティングに利用されているグラビア印刷法でチタンアルコキシド溶液をストライプ状にパターン印刷し、500 °Cで焼成して300 mm×300 mmサイズでpat-TiO2/SnO2サンプルを作製した(図4)。作製した試料(25 cm2)に、容積0.8 Lの石英ガラス容器中でブラックライトによりUV(3 mW/cm2)を照射した時のアセトアルデヒド気相分解実験結果を図5に示す。pat-TiO2/SnO2サンプルは標準的なTiO2サンプルよりもアセトアルデヒド分解速度が大きく、工業的なプロセスによって高活性な光触媒材料が製造できることが確認できた。 結論 本研究では、ゾルゲル法を用いてSnO2、TiO2(ルチル型)上にTiO2(アナターゼ型)をパターニングしたパターニング・積層構造薄膜光触媒を作製し、液相メタノールからの脱水素反応、アセトアルデヒドの気相酸化分解反応に対して光触媒活性が向上することを確認した。また溶解・再析出法によりアナターゼ比率を変化させてアナターゼ−ルチル接合TiO2微粒子光触媒を作製することに成功し、両相を接合することによってアセトアルデヒドの気相酸化分解反応に対する活性が向上することを確認した。さらに市販のSnO2膜付ソーダライムガラスを基板としてグラビア印刷法により、工業的にパターニング・積層構造の薄膜光触媒製造プロセスを開発した。これにより窓ガラスなどに使用できる半導体接合構造を持つ高活性な環境浄化機能材料の実用化の可能性を開いた。 発表状況 "A Patterned TiO2/SnO2 Bilayer Type Photocatalyst 2. Efficient Photocatalytic Dehydrogenation of Methanol", T. Kawahara, Y. Konishi, H. Tada, N. Tohge, S. Ito, Langmuir, 17, pp.7442-7445 (2001) "A Patterned-TiO2(Anatase)/TiO2(Rutile)Bilayer Type Photocatalyst: Effect of Anatase-Rutile Junction on the Photocatalytic Activity",T. Kawahara, Y. Konishi, H. Tada, N. Tohge, J. Nishii, S. Ito, Angew. Chem. Int. Ed., 41, pp.2811-2813 (2002) "Positive-Type Patterned ZnO Films by a Chemically Modified Sol-Gel Method",T. Kawahara, T. Ishida, H. Tada, N. Tohge, S. Ito, J. Mat. Sci. Lett., 21, pp.1423-1425 (2002) "Photoreaction of a ZnO Gel Film Chemically Modified with β-Diketones",T. Kawahara, T. Ishida, H. Tada, N. Tohge, S. Ito, J. Mat. Sci., 38, pp.1703-1707, (2003) "A Large-Area Patterned TiO2/SnO2 Bilayer Type Photocatalyst Prepared by Gravure Printing",T. Kawahara, K. Doushita, H. Tada, J. Sol-Gel Sci. & Techn., 27, pp.301-308, (2003) "Photocatalytic Activity of Rutile-Anatase Coupled TiO2 Particles Prepared by a Dissolution-Reprecipitation Method",T. Kawahara, T. Ozawa, M. Iwasaki, H. Tada, S. Ito, J. Colloid Interface Sci.. 投稿中 | |
審査要旨 | 半導体光触媒、特に酸化チタンを利用した環境浄化機能材料の応用が様々な分野で進められている。ソーダライムガラスを基板とする空気清浄窓ガラスは、太陽光や室内照明光を利用してシックハウスや悪臭の原因となる有機揮発性物質を分解できることから実用化への期待が大きいが、通常のガラス並みの硬度が要求されることから、酸化チタン膜の厚みや気孔率を上げずに光触媒活性を向上させることが必要となる。 本研究は異種酸化物の接合によって高活性な環境浄化光触媒となる材料を開発すること、およびその工業的な製造プロセスを開発することを目的としたものであり、6章と1つの附章よりなる。 第1章は、序論であり、半導体光触媒による環境浄化に関するこれまでの研究を、主に有機物分解活性の観点から概観し、本研究の目的と論文の構成について述べている。 第2章は、パターニング・積層型薄膜光触媒における励起電子の挙動に関する結果である。化学蒸着(CVD)法によるFドープSnO2膜をコートしたガラス基板上に、化学修飾ゾルゲル法によりTiO2(アナターゼ型)層をストライプ状にパターニング成膜して、pat-TiO2/SnO2薄膜光触媒(TiO2膜厚70 nm)を作製し、励起電子によるH+還元反応を含むメタノール水溶液からの脱H2反応実験を行い、通常のTiO2薄膜光触媒よりもH2発生速度が大きいことを明らかにした。 これらの結果から、パターニングによる電荷分離が励起電子の関与する還元作用について有効であり、電荷分離効率を上げる接合界面構造の条件を見いだした。さらに、化学修飾ゾルゲル法を用いて従来とは異なるメカニズムによるパターニングが可能であることを見いだし透明電極などへの応用の可能性を見いだした。 第3章は、パターニング・積層構造における下地膜の種類とパターンサイズの影響に関する結果である。スパッタ法で成膜したルチル型TiO2膜上に、化学修飾ゾルゲル法によりTiO2(アナターゼ型)層をストライプ状に成膜したpat-TiO2(A)/TiO2(R)薄膜光触媒により、アセトアルデヒドの気相分解反応速度が約2倍に向上することを明らかにした。銀の光析出反応を利用してアナターゼ−ルチル接合によって光励起された電荷の分離が起こることを実証し、これがアセトアルデヒド分解活性向上の原因であると説明している。また、pat-TiO2/SnO2とpat-TiO2(A)/TiO2(R)構造の両方でパターンサイズの大きさを変えて測定を行った結果、数百mmのオーダーではサイズの影響は小さいことを明らかにしている。 第4章は、微粒子形態のTiO2光触媒におけるアナターゼ−ルチル接合の効果に関する結果である。溶解・再析出法によってアナターゼ−ルチル接合微粒子光触媒を作製して、アセトアルデヒドの気相分解反応速度を測定し、微粒子形態においても両結晶相の接合によってアセトアルデヒド分解活性が向上することを報告している。またアナターゼ相とルチル相の混在比率と焼成温度を600〜800°Cで変えた系統的な実験によって、アナターゼ比率が約0.5%で光触媒活性の極大値が観測されること、焼成温度が高いほど接合の効果が大きいことを明らかにした。さらに、これらの結果からアナターゼルチルの接合効果を高めるためには両相が表面に露出していること、接合が高分散であること、界面に粒界等の再結合中心になる欠陥のないことが重要であることを見いだした。 第5章は、窓ガラスを利用した環境浄化機能材料を工業的に生産するための製造プロセスの開発に関する報告である。安価に大面積の製品を製造可能とするため、建築用に市販されているCVD法によるSnO2膜付ソーダライムガラス上に、自動車用ガラスのコーティングに利用されているグラビア印刷法でTiO2膜をストライプ状に印刷、500 °Cで焼成して300 mm×300 mmの大きさのpat-TiO2/SnO2薄膜光触媒を作製し、アセトアルデヒドの気相分解反応速度を測定した結果、この工業的なプロセスによって高活性な光触媒材料が製造できることを確認している。 第6章は、本研究の総括である。 附章は、空気清浄窓ガラスの実用上重要な、窓ガラスに照射する太陽光中紫外線強度の計算法についてまとめたものである。 以上を要するに、本研究はパターニング・積層型薄膜光触媒および半導体接合微粒子光触媒を作製し、有機物分解活性の向上を図り、併せてグラビア印刷法による工業的な製造プロセスの開発を図ったものである。その結果、パターニングの効果を理論的に解明し、異種酸化物の接合による光励起電荷の分離効果によって光触媒活性が向上することを明らかにした。さらにこれを延長し、粒子上に二相を分散させた新しいタイプの活性材料を開発した。また高活性なパターニング・積層型薄膜光触媒機能材料が工業的プロセスで製造可能であることを示したものであり、材料工学の発展に寄与している。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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