学位論文要旨



No 215833
著者(漢字) 西谷,剛
著者(英字)
著者(カナ) ニシタニ,ツヨシ
標題(和) 実定行政計画法研究
標題(洋)
報告番号 215833
報告番号 乙15833
学位授与日 2003.12.18
学位種別 論文博士
学位種類 博士(法学)
学位記番号 第15833号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小早川,光郎
 東京大学 教授 碓井,光明
 東京大学 教授 森田,朗
 東京大学 教授 寺尾,美子
 東京大学 教授 宇賀,克也
内容要旨 要旨を表示する

行政計画に関する既往の法学的研究についてみれば、先進諸外国における計画法の分析研究が多くなされているのに対して、日本法についての全体的研究は比較的少ない状況である。 本論文においては、日本実定法に即してこれを網羅的に分析整理しつつ、行政法学上の既往の論点のほか新たな論点について考察するとともに、行政学上のいくつかの論点にも目配りした。さらに、実務経験からする知見も取り込むよう配慮した。

本論文は、序章と6つの章から構成される。

まず序章では、行政における計画手法の盛行の状況を明らかにした。約1800法律数のうち、314の計画法(計画手法を法定した法律)があり、法定計画数は約600種類に及ぶことを述べ、悉皆的に調査してこれを所管府省別に整理し、法律名と計画名とを付表として記載した。時間軸でみても、時の経過とともに計画手法の一層の活用がみられる。

第1章では、行政計画の定義と機能(働き)について述べる。

行政計画の定義を「目標を設定し、その目標を達成するための手段を総合することによって示される行政活動基準」とした上、「政策」概念との関係に触れ、計画は政策を確定表明する場としての性格を有するとした。

計画の機能については、まず、超長期的人類史からの視点の下に現代の特徴として「変化」と「専門分化」という現象をとらえ、目標設定性と手段総合性がそれぞれに対応することから、計画は現代において必須の手法であることを述べた。その際計画に対する消極的評価と積極的評価とがあることをも明らかにした。次いで戦後50年の日本社会の変化に着目して計画の実際上の機能性格の変化(先行目標達成計画、情報提供計画、利害調整計画)について述べた。なお、計画と公益性の問題について触れ、特に給付行政活動の公益性は法律の限界の故に計画に依存する程度が高いことを指摘した。

第2章では、法律と計画の関係について論じた。

現代法と計画は、いずれも現代の「変化」と「分化」に対応しようとして同一の方向をめざしつつ、しかし両者には相対的ながら基本と具体などの差異があり、その差異を意識的に強調認識して使い分けることの必要性を述べた。法律と計画の関係について従来から論じられてきた問題として、計画には法律の根拠を要するかの問題、計画は法規か処分かの問題などについて触れた。法律の根拠については、両論ありうるが、本論文では不要とする考え方を述べた。これと関連して計画をめぐる裁量の問題に触れ、「計画裁量」の概念について判例の分析をしつつ考察し、判例では一般裁量との区分はされていないが、なお一般裁量とは異なる計画裁量概念を立てることが有意であることを述べた。

なお、法律の根拠については、実定法上「策定しなければならない」「策定するものとする」「策定することができる」の差異があることに注意すべきことを明らかにし、それぞれの数の割合をも示した。

第3章では、計画体系を論じた。多数の計画がどのような関係にあるのかという問題である。

まず諸計画の分類を試みた。(1)計画内容による分類と(2)計画の効力による分類とを分かち、前者を物的計画・非物的計画、基本計画・実施計画などに区分し、それぞれをさらに細区分した。内容による分類は実務的側面を持つこともあって、講学上は比較的関心の薄いものであるが、この区分は計画の対外的効力や、計画策定手続のあり方と相関しており、重要なものである。例えば拘束的計画は物的計画に多くみられ、その計画手続も関係者参加型が多いこと、非物的計画たる産業計画には給付効を持ったものが多いこと、基本計画と実施計画の区分は行政計画全体の段階構造、すなわち基本抽象事項から個別具体事項にいたる動的構造を認識する基礎となること、などである。あまりにも多様な計画があるからこれらを行政計画として一律に論じ得ないという指摘に答えるためにも、内容分類は行政計画全体をとらえるための基礎作業である。

計画の効力による分類としては、外部効計画と内部効計画を区分し、前者をさらに規制効計画(拘束的計画)と給付効計画に区分した。行政法学が専ら行政活動の外部への効果を問題にするとすれば、この区分はいわば当然の区分であるが、特に給付効計画の概念を明確にした点は本論文の特徴である。

次いで、諸計画間の相互関係について考察した。上位計画たる基本計画(マスタープラン)の性格を分析するとともに、実定法上の計画間調整規定(基づき、適合し、即して、調和してなど13の用語を取り上げた)の意味を探った。そして、実際には計画策定手続において計画間の整合的調整が行われることを述べた。

第4章では、計画手続について考察した。

まず計画主体について論じ、約600の法定計画を策定主体別に分類した。その上で、しかし計画権限は一般の事務事業権限などと違って他者の所管事項にもわたる広範なものであること、すなわち計画権限の無限定性を明らかにした(ただし外部効計画においては権限は限定的に明確でなければならない)。さらに、国、都道府県、市町村間の権限配分に関する現行法の傾向を分析した。

次いで計画策定手続について論じ、多元的手続の必要性を述べた上、特に参加手続について深く考察し、立法論も展開した。また、参加の実を上げるための中間団体への注目、意見提出制度の構想につき記述した。

第5章では、計画の効力(実効性担保手法)について述べた。

外部効としての規制効と給付効について述べるとともに、計画の実効性を担保するための合意的手法を特記し、契約と行政指導につき論じた。計画と協定・契約手法との結びつきがかなりあることが明らかとなった。給付効計画については、私計画認定方式が一般的であることを明らかにした。すなわち、私人作成の計画を行政計画たる給付効計画適合性を要件として認定し、認定された私計画に公的支援給付措置を付ける方式である。内部効については実務経験をも踏まえつつ、行政内部の実態を整理した。

さらに、節を改め、給付効の論点として、租税特別措置と補助金との問題を取り上げ、両者の関係のあり方について考察した。

第6章では、計画訴訟を問題とし、判例分析を行った。

まず、計画の処分性の問題を取り上げ、 最高裁の2つの処分性を認めた例外を含め13判決を網羅した。この中で、例えば土地区画整理事業と土地改良事業の差異などについても分析を試みた。

次いで、計画の変更に伴う損害賠償の問題に関する判例を整理した。昭和56年最高裁判決の意義を「特定信頼保護」というキーワードで理解し、同判決前後の下級審関連判例との整合性につき考察した。

従来の学説では、以上の2点が論じられるにとどまったが、計画訴訟としてはなお、(1)処分の先行行為として計画が争われる場合、(2)住民訴訟の原因行為として争われる場合、(3)国賠の一環として争われる場合、があり、また逆に(4)処分の合理性を根拠付けるために計画が用いられる場合があることを明らかにし、関連判例を掲げた。これらの文脈で計画が争われる場合には、実定法に規定されている計画間適合則や計画処分間適合則が引き合いにだされることが多い。

本論文の特徴を箇条書的に例示すれば、次のとおり。

日本実定法を網羅的に調査分析し、計画法名と法定計画名を府省別に整理し、一覧式にまとめたこと。

政策概念と計画概念との関係について考察したこと。

計画裁量の概念について日本法に則してその必要性を明らかにしたこと。

行政計画の段階構造を明らかにしたこと。

行政計画策定主体について、実定法を分析整理し、各主体別数を示したこと。

計画権限の無限定性を明らかにしたこと。また計画権限に関する実定法の規定振り(「ねばならない」か「できる」か)にも注意すべきであることを明らかにしたこと。

今次の地方自治法改正による行政計画法の改正点を詳細に分析整理したこと。

給付効計画という概念を立て、私計画認定方式が一般的であることや、その具体的内容を明らかにしたこと。

計画の実効性を担保するための合意的手法という概念を提出したこと。

内部効について実務経験も踏まえて整理し、計画と予算との関連など、計画の実効性をめぐるジレンマについて述べたこと。

計画訴訟について、従来から論じられていた処分性論と計画変更賠償論のほか、処分の先行行為として争われる場合につき論じたこと。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、「行政上の目標を設定し、その目標を達成するための手段を総合することによって示された行政活動基準」と定義される「行政計画」を対象とし、日本の法定行政計画に関する現行法規定を悉皆的に調査したうえで、理論的な観点から種々の分類ないし整理を施しつつ、行政法学上の既存の論点とこれまで論じられなかった新たな論点を含めて、網羅的体系的な考察を展開するものである。全体は、短い「序」のほか、「第1章 行政計画の定義と機能」、「第2章 法と計画」、「第3章 行政計画体系」、「第4章 行政計画手続」、「第5章 行政計画の効力」、「第6章 行政計画救済」からなる。なお、論文の末尾には、著者の作成にかかる府省別計画名一覧が附されている。

第1章「行政計画の定義と機能」では、まず、従来の行政法学および行政学における行政計画の定義を概観し、著者としては、これを「行政上の目標を設定し、その目標を達成するための手段を総合することによって示された行政活動基準」と定義するのが適当であるとする。また、政策概念との関係を問題とし、両者は、政策の確定表現形式が行政計画であり、政策のうちで強く目的を指向し、強く手段の総合を指向するものが、行政計画によって確定表現されるという関係にあるとしている。

他方、計画の機能という観点からは、まず、現代社会における変化と分化の激しさが計画の盛行の背景にあるとの認識を示したうえで、行政計画の機能に関しては、(1)計画の目標が法律等により外から与えられていることを前提とし、目標達成のための公共投資その他の手段の組み合わせを行うという「先行目標達成機能」、(2)経済計画などのように企業や国民に対する指針としての一定の目標とその達成手段を記載するという「指針的情報提供機能」、(3)目標設定と手段選択の過程で諸利害の調整が行われる「調整計画」としての機能、という3分類が可能であること、最近の行政計画は調整計画としての性格がもっとも重要になっていることを、それぞれ指摘する。

第2章「法と計画」では、行政に関する法ないし法律と計画とがいずれも行政活動の基準を定める機能を持つことから出発して、両者の差異と関係が総論的に論じられる。そこにおいては、まず、計画のみならず法律それ自体が、一般性と国家強制を伴う権利義務の設定を国民に対して注意深く行うという従来の機能を超えて変化しつつあり、そのような新しい法律と計画とは、現代の個別多様な行政需要に応えるものとしての同調関係に立ちつつ、差異をもって機能を分担すべきものであるとする。そして、計画策定に法律の根拠を要するかの問題や、計画は法規か処分かの問題を、学説の吟味を含めて考察する。特に前者の問題に関しては、著者は、それは個々の施策や事業の根拠の問題ではなく、個々の施策や事業は行うことができるとした場合に、計画によってそれらに目的を与えたりそれらの組合せ方を決めたりすることについての問題であるとして、根拠不要論をとる。次いで、行政計画への立法府の関与、すなわ計画法がいかなる規定を置いているかにつき、計画策定根拠規定、計画内容規定、計画体系規定、計画手続規定、計画効力規定といった区別を立て、それにより整理を行っている。

続いて、「計画裁量」の問題が扱われる。著者は、この問題についての判例を分析したうえで、判例においては一般の行政裁量と計画裁量とが区別されていないが、行政計画に伴う広範な裁量を把握するために計画裁量という概念は有用であることを指摘しつつ、それは一般の行政裁量と連続したものであることも同時に認識しておくべきであるとする。

第3章では、「行政計画の分類」および「計画体系」について論じている。行政計画の分類としては、まず、対象事項別に、土地に対して直接的な影響を与える計画を物的計画、それ以外の計画を非物的計画として、両者を区別し、そのうち物的計画には、全国総合開発計画から公共施設整備計画に至る各種の開発計画と国土利用計画法のもとでの土地利用計画があり、非物的計画には、経済計画・産業計画・環境計画・雇用対策計画・福祉計画等があるとして、現行法上の多種多様な行政計画を鳥瞰する。次いで、行政計画の階層的段階的な構造から、比較的上位の基本的な目標をもった基本計画と比較的具体的な実施段階の計画である実施計画とを区分することは相対的な区分としては成り立つとする。そして、、通常行われている総合計画・個別部門計画の区別、長期計画・中期計画・短期計画の区別、全国計画・都道府県計画・市町村計画・特定地域計画の区別に関しても、それぞれの区別は結局はいずれも基本計画と実施計画の区別に内包されると考えるべきであるとする。著者はさらに、基本計画と実施計画との間は相互に干渉し合うダイナミックな関係であって、各計画主体間の協議等の手続が干渉関係を保障しており、その意味で計画の段階構造は動的な構造であるとしている。

行政計画は、また、その効力に着目すると、外部効計画と内部効計画に区分される。一方の外部効計画は、行政計画のうち外部効をもつもの、正確に言えば行政活動のうち私人に対して直接的効果が及ぶものについての基準となる計画であり、それはさらに、規制効計画ないし拘束的計画と、給付効計画とに、細分類される。前者は、土地利用規制を伴う土地利用計画、環境保全規制を伴う環境計画、産業活動規制を伴う産業計画などである。後者の給付効計画は、一定の行政目的の実現に誘導するための、私人に対する特例的融資、補助金、租税特別措置、技術指導等の給付を伴う誘導計画である。他方、内部効計画としては、異なる行政主体間において一方の行政主体の計画が他方の行政主体の施策・事業に対して何らかの効果を持つ、すなわち異種行政主体間効力をもつ計画と、同一行政主体の内部組織間において計画部門の計画が事業部門に対して何らかの効果を持つ、すなわち同一行政主体内部組織間効力をもつ計画とがあるとしている。

他方、多数の計画がどのような形で全体としての整合性を保っているかという、「計画体系」の問題に関しては、一つには、上位計画とりわけマスタープランが下位計画に対してどのような意味ないし機能を与えられているかという観点から、計画の階層性・段階性の問題を検討し、もう一つには、計画間調整に関する実定法規定の態様および実際の計画策定の際の調整の手法ないし工夫について考察し、著者のいう「手続的総合」、すなわち計画策定過程の諸手続を通じて行われる計画間総合調整の重要性を指摘している。

第4章においては、「計画主体」および「計画手続」が論じられる。まず、法定計画の計画主体が国・都道府県・市町村またはその他の公的主体のいずれとされているかの全体状況を概観し、それについての検討を行う。計画権限の配分の基準に関しては、原則は国と地方公共団体の事務配分の一般原則によるが、各主体の計画は、厳密に自己が権限を有する施策・事業についてのみ策定されるわけではなく、それを中核としつつもある種の「にじみだし」がみられるところに特徴があることなどを指摘し、そのうえでさらに、規制効計画・給付効計画・内部効計画のそれぞれに関する分析を付加し、また、現行法における都道府県および市町村の計画主体としての位置づけが実際にどのような考え方によって定められているのかにつき、歴史的変遷も含めて考察している。

他方、計画の策定手続に関しては、現行法上の諸手続を、「直接利害調整手続」(利害関係人の意見申出、公聴会等)、「間接利害調整手続」(国の行政機関相互間・国と地方公共団体間・地方公共団体相互間の協議、議会付議)、「客観性・科学性確保手続」(審議会付議、調査等)、「情報提供手続」(理由付記、説明会、縦覧、公示、通知等)の4つに分類して概観し、かつ、それぞれの手続のあり方について論ずる。とりわけ直接利害調整手続については、現行行政手続法の延長上に統一的な計画手続法がありうることをも想定しつつ、詳細な分析を加えている。そのなかではたとえば、中間団体の問題に関し、古い地域集団から機能的利益集団への変化を経た後にさらに登場してきた新しい地域集団ないし地域団体やNGOが、計画における多元的利害の調整の手続に実体を与えることとなりうるとして、種々の論点の検討が行われ、また、パブリックコメント制度を含めて計画をめぐる意見提出一般についての法制度論が試みられている。

第5章「行政計画の効力」では、行政活動の基準としての計画が法律によりいかなる効力を与えられているのか、計画の実効性を担保するためにいかなる手法が用意されているのかが、前述の外部効と内部効の区別に従って考察される。

外部効は、計画の実効性を担保するために計画に与えられた、私人に対する効力である。著者は、この外部効をもつ計画を、規制効をもつものと給付効をもつものと合意的手法を伴うものとに分け、それぞれについて検討する。規制効をもつ規制効計画(土地利用計画・環境計画・産業計画等)に関しては、後続する処分ないし効果との関係において、一方では計画が私人に対する各種許可の要件につながり、勧告・命令につながり、あるいは規制地域指定につながるというような「後続行政処分連結型」と、他方では計画が私権を変動させる効力をもつ「私権変動型」とがあることなどが指摘される。次に給付効計画は、計画の実効性を確保するために前述のような非規制的公的支援措置(租税特別措置、政策融資、補助金、その他)をとることとされている計画であるが、これに関しては、私人の作成する計画について行政庁が行政計画適合性を審査したうえで認定するという「私計画認定方式」が、現行法上一般的な方式であることが述べられている。行政計画の給付効の論点としては、さらに、計画に従って行われる事業等に租税特別措置が講じられる場合の、租税法律主義との関係における問題点、および、政策手段としての補助金との使い分け基準について、検討が加えられている。以上の規制および給付がいずれも行政の側からの一方的措置であるのに対し、著者は、計画の実効性確保に関しては合意的手法も重要であるとして、契約ないし協定の手法と行政指導の手法の2つを挙げ、現行法の規定例をふまえて考察を行っている。

内部効は、前述のように異種行政主体間(国の府省相互の関係を含む)の効力と、同一行政主体内部組織間の効力とがあるが、これについては、国の地方公共団体に対する財政支援、国の地方公共団体に対する指導、都道府県の市町村に対する措置、国の行政機関相互間の措置、地方公共団体内部組織の相互関係といった、それぞれの場面で、計画にいかなる役割が与えられているか、また、国の行政機関(府省)相互の関係のなかで計画をめぐって計画部門・実施部門・予算部門・評価部門がそれぞれどのように位置づけられているか、同様に地方公共団体における企画部門・実施部門・財政部門・評価部門についてはどうかということが、現行法の規定を中心に検討される。

以上の検討の後、本章の末尾では、計画の実効性の確保をめぐる議論の背後には計画という道具にどの程度の働きを期待するかという基本的態度の問題があること、計画には知的および資源的な限界が存在すること、しかし、限界があるからといって計画の存在意義がなくなるものではなく、むしろ、限界を認識した上での計画の実効性を高める工夫はさらに続けられるであろうことが述べられている。

第6章「行政計画救済」においては、計画争訟による法的救済についての判例分析が行われる。計画の抗告訴訟対象性に関する判例、計画の変更に伴ういわゆる計画担保責任に関する判例が検討された後、さらに、直接に訴訟の対象としてではなく先決問題として計画の内容や性格が争点になる種々の場合について考察が加えられている。

以上が本論文の要旨である。以下、評価を述べる。

第1に、本論文は、行政計画に関する現行法規定を網羅的に調査し、法定行政計画を多様な観点から分類し分析することにより、行政法学がいまだ十分に解明していない行政計画の現象について、その法的全体像を提示するとともに、そこでの種々の法的諸問題を著者自身の理論枠組みに従って位置づけ、詳細な分析と考察を展開している。内外の行政計画法の研究はこれまでにも行われてきたし、日本の行政計画法についてのモノグラフも存在するが、本論文は、何よりもその包括性・体系性およびその分析の詳細さにおいて、日本の行政計画法研究の水準を大きく高めるものといえる。

第2に、考察の内容に関しても、本論文で展開されている行政計画法論は、計画を万能視してその実効性の確保をひたすら追求するのではなく、計画の積極的な意義を肯定しつつも、予測の難しさや資源の制約等に由来する計画の限界を十分意識した、バランスのとれた認識および主張を述べるものとなっている。

第3に、本論文は、行政計画法という比較的新しい問題領域の研究を通じて、行政の組織および作用に関するこれまでの行政法学の枠組みを補完する新たな視角を提供している。具体的に言えば、これまで行政計画の効力として注目されてきたのは本論文でいう規制効の部分であるが、本論文は、それに加えて計画の給付効の概念を立て、給付効を持つ計画の仕組みについての本格的な検討を行っている。これは、従来の行政作用法理論に対して重要な要素を付加するものである。また、国や地方公共団体の組織における計画(企画)部門・実施部門・予算(財政)部門・評価部門等の相互関係についての考察は、従前の行政組織法理論に対して新たに豊かな内容を付け加えるものということができる。

もっとも、本論文にも問題点がないわけではない。本論文はその対象を主としては国の法律に規定された法定行政計画に限定しているが、それ以外の、地方公共団体の条例にもとづく行政計画や、さらには法定外の種々の行政計画にも、行政法学にとって重要な法的論点が存在することからして、それらをも検討の対象に含めるか、少なくとも本論文で取り扱われた法定行政計画との理論的な関係についての整理がされれば、本論文の射程はさらに広がったと思われる。

しかし、このような問題は本論文の価値を大きく損なうものではない。本論文は、行政計画法についての研究水準の向上に大きく貢献するものであると評価することができる。したがって、本論文は博士(法学)の学位を授与するに相応しいものと認められる。

UTokyo Repositoryリンク