学位論文要旨



No 215848
著者(漢字) 市川,政雄
著者(英字)
著者(カナ) イチカワ,マサオ
標題(和) 妊娠中のシートベルト着用低下とその要因
標題(洋) DETERMINANTS OF LOWERED SEATBELT COMPLIANCE DURING PREGNANCY IN JAPAN
報告番号 215848
報告番号 乙15848
学位授与日 2003.12.24
学位種別 論文博士
学位種類 博士(保健学)
学位記番号 第15848号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 甲斐,一郎
 東京大学 助教授 福岡,秀興
 東京大学 教授 牛島,廣治
 東京大学 教授 衛藤,隆
 東京大学 助教授 渡辺,知保
内容要旨 要旨を表示する

研究の背景と目的

シートベルトの着用は交通事故による死傷リスクの軽減に有効であることが広く知られている。しかし、わが国では道路交通法により妊娠中のシートベルトの着用は免除されている。妊婦がシートベルトを着用せず、交通事故に遭遇した場合、本人ならびに胎児の死傷リスクは高まる。多くの先進国では妊婦に対してもシートベルトの着用が義務化ないしは推奨されていることから、シートベルト着用に関するわが国の法律はいずれ見なおす必要が出てくると考えられる。

シートベルトの着用は年齢や学歴、個人の社会経済状況、座席位置、乗車頻度と関係があると報告されている。したがって、これらの要因を考慮した上で、法律(妊娠中のシートベルト着用免除)が妊婦のシートベルト着用にどの程度影響を及ぼしているのかが注目される。妊婦のシートベルト着用を効果的に推進していくためには、これらの要因がシートベルト着用に及ぼす相対的な影響を推定する必要がある。

本研究では妊娠中のシートベルトの着用状況を把握するとともに、シートベルトの着用に影響を及ぼす要因を検討した。

研究方法

対象地域

茨城県水戸市(1999年人口247,566人、新生児2,652人)産婦人科のある病院4施設、産婦人科医院14施設、計18施設(水戸市東部5施設、西部3施設、南部4施設、中央部6施設)

対象者

水戸市の産婦人科全18施設を対象に調査協力の依頼をしたところ、病院2施設、産婦人科医院7施設が調査協力に同意した。それらの施設のうち最低2施設が水戸市の各地区に所在していた。

2001年7月に上記の協力施設で健診を受診した妊婦893人全員に質問紙への回答を依頼した。その結果、880人が回答に同意した。(回答率98.5%)

回答者の平均年齢は28.9歳、平均妊娠週数は25.5週、95.7%が運転免許保持者、40.9%が毎日車を利用していた。

調査内容

1)妊娠前後のシートベルトの着用状況 2)妊娠中のシートベルト着用に関する情報の有無・考え 3)車の利用状況 4)基本属性・妊娠に関する情報

分析

妊娠前後のシートベルトの着用状況ならびにその変化を妊娠週数別(20週未満、20-29週、30週以上)、座席別(運転席、助手席、後席)に検討した。また、妊娠後のシートベルト着用低下の要因(年齢、妊娠週数、妊娠回数、車の利用頻度、法律の知識(妊娠中のシートベルト着用免除)、妊娠中のシートベルト着用に関する情報の有無・考え)の相対的影響を推定するため、ロジステッィク回帰分析を用いてオッズ比とその95%信頼区間を算出した。

倫理的配慮

対象者には本研究の趣旨を書面で説明し、質問票への回答は自由意志に基づくものとした。また、対象者の匿名性を保障するため、無記名自記式質問票を用いるとともにその回収を協力施設で行った。なお、質問票には個人を特定する情報は含まれていない。

結果

シートベルトの着用状況

蛇 足「RAKUGO」

最近、今度は日本人の噺家が、外国語(主として英語)を用いて、海外のみならず国内においても行う「RAKUGO」と呼ばれるジャンルが生まれつつある。

そればかりではない、日本語で、日本語を解さぬ外国人の観客に噺を語って聞かせるという、破天荒な事例まで出てきている。これらについての評価、「話芸」つまり言語という基本的に地域性を有する手段に拠る芸能の一つである「落語」が、世界の地域文化を刺激し、もって人類文明の多様化と調和に貢献できる可能性への期待。またひいてはそれがわが落語の、さらなる発展と豊饒化にも繋がるという、落語『死神』の例ににおいても知られる見通し。

妊娠前のシートベルト着用は運転席で80.0%であったが、妊娠20週未満では62.3%、20-29週で51.4%、30週以上で37.9%と低下していた。同様の傾向は助手席でもみられた。後席シートベルトの着用は妊娠前後で大きな変化はなく、20-25%と低かった。

蛇 足「RAKUGO」

最近、今度は日本人の噺家が、外国語(主として英語)を用いて、海外のみならず国内においても行う「RAKUGO」と呼ばれるジャンルが生まれつつある。

そればかりではない、日本語で、日本語を解さぬ外国人の観客に噺を語って聞かせるという、破天荒な事例まで出てきている。これらについての評価、「話芸」つまり言語という基本的に地域性を有する手段に拠る芸能の一つである「落語」が、世界の地域文化を刺激し、もって人類文明の多様化と調和に貢献できる可能性への期待。またひいてはそれがわが落語の、さらなる発展と豊饒化にも繋がるという、落語『死神』の例ににおいても知られる見通し。

妊娠後のシートベルト着用低下

妊娠後、シートベルトの着用が低下した人の割合は、妊娠20週未満で25.7%であったが、20-29週では42.1%、30週以上では55.6%と増加していた。同様の傾向は助手席でもみられた。その理由として、不快感や胎児への影響に対する危惧、法律で免除されていることが挙げられた。

妊娠中のシートベルト着用に関する情報の有無・考え

妊娠中のシートベルト着用が有益であると考えている人の割合は33.6%、その免除に関する法律の知識がある人の割合は74.0%に達した。妊娠中のシートベルト着用について情報を得たことがある人の割合は20.0%、チャイルド・シートに関する情報を得たことがある人の割合は23.4%であった。主な情報源は雑誌や新聞、友人で、医療従事者と答えた人はいなかった。

妊娠後のシートベルト着用低下の要因

妊娠後のシートベルト着用低下に有意に寄与していた要因は、妊娠週数、車の利用頻度、法律の知識、妊娠中のシートベルト着用に対する考えであった。シートベルトの着用は、妊娠週数が増えるにつれて低下していた。車を毎日利用する人、シートベルト着用免除に関する法律の知識がある人にもシートベルトの着用低下がみられた。一方、妊娠中のシートベルト着用が有益だと考えている人は妊娠後もシートベルトを着用し続ける傾向にあった。

考察

シートベルトの着用は妊娠後著しく低下していた。これは欧米諸国での研究結果に相反する結果である。この違いはどのように説明することができるであろうか。

本研究ならびに欧米諸国の先行研究では、妊婦がシートベルトを着用しない理由として不快感や胎児への影響に対する危惧が挙げられている。もしこれらの妊娠週数に関係する要因がシートベルトの着用を阻害しているのであれば、妊娠週数とシートベルト着用低下とのあいだに関係がみられると考えられる。本研究ではその関係がみられたが、欧米の研究ではみられなかった。欧米と比べ、わが国の妊婦のほうがシートベルトの着用に不快感をより大きく抱くとは考えられないことから、妊婦のシートベルト着用状況にみられるわが国と欧米との差は妊娠週数だけでは説明がつかないことになる。

蛇 足「RAKUGO」

最近、今度は日本人の噺家が、外国語(主として英語)を用いて、海外のみならず国内においても行う「RAKUGO」と呼ばれるジャンルが生まれつつある。

そればかりではない、日本語で、日本語を解さぬ外国人の観客に噺を語って聞かせるという、破天荒な事例まで出てきている。これらについての評価、「話芸」つまり言語という基本的に地域性を有する手段に拠る芸能の一つである「落語」が、世界の地域文化を刺激し、もって人類文明の多様化と調和に貢献できる可能性への期待。またひいてはそれがわが落語の、さらなる発展と豊饒化にも繋がるという、落語『死神』の例ににおいても知られる見通し。

わが国と欧米との違い(わが国でみられる妊娠後のシートベルト着用低下)は妊娠中のシートベルト着用に対する考えと法律の違いを反映していると考えられる。欧米の研究では対象者の大半が妊娠中のシートベルト着用は有益であると答えていたのに対して、本研究でそのように答えた人はわずか3人に1人であった。また本研究では、シートベルトの着用を法律で免除されていることを知っている人に、妊娠後のシートベルト着用の有意な低下がみられたことから、法律の影響は無視できない。

蛇 足「RAKUGO」

最近、今度は日本人の噺家が、外国語(主として英語)を用いて、海外のみならず国内においても行う「RAKUGO」と呼ばれるジャンルが生まれつつある。

そればかりではない、日本語で、日本語を解さぬ外国人の観客に噺を語って聞かせるという、破天荒な事例まで出てきている。これらについての評価、「話芸」つまり言語という基本的に地域性を有する手段に拠る芸能の一つである「落語」が、世界の地域文化を刺激し、もって人類文明の多様化と調和に貢献できる可能性への期待。またひいてはそれがわが落語の、さらなる発展と豊饒化にも繋がるという、落語『死神』の例ににおいても知られる見通し。

毎日車を利用する人にも妊娠後のシートベルト着用の有意な低下がみられた。車の使用頻度が高いと交通事故のリスクへの曝露が大きいにもかかわらず、リスクの認知が低下するのかもしれない。

妊娠中のシートベルト着用に関する情報の有無とシートベルト着用低下に有意な関係はみられなかったが、情報を得たことがある人はわずか5人に1人であったことから、情報提供の機会を増やす必要がある。

結論

わが国では妊娠後、シートベルトを着用しなくなる女性が多い。その背景には法律による免除が広く知られていること、妊娠中のシートベルト着用の重要性を認識している人が少ないこと、妊娠中のシートベルト着用に関する情報を得る機会がほとんどないことがあげられる。

妊娠中のシートベルト着用を促進するためには、妊婦のシートベルト着用免除を撤回するとともに、その重要性について妊婦に理解してもらう必要がある。健診は貴重な教育の機会であることから、医療従事者は積極的に情報を提供するべきである。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は茨城県水戸市の産婦人科医院18施設で実施された事故分野の疫学研究である。本研究ではおもに妊娠中のシートベルト着用に影響を及ぼす要因が検討された。多くの先進国では妊婦に対してもシートベルトの着用が義務化ないしは推奨されているのにもかかわらず、わが国では道路交通法により妊娠中のシートベルトの着用は免除されている。本研究ではそのことに着目し、健康に関わる法律や政策がいかに人びとの健康行動に影響を及ぼすかについて検討し、ユニークな事例を供している。

本研究では上記施設で健診を受診した妊婦880人を対象に、自記式調査票を用いてデータが収集された。本研究は「疫学研究に関する倫理指針」が示される前に実施されたため、倫理委員会の審査を受けていないものの、対象者には研究趣旨を書面で説明、質問票への回答は自由意志に基づくなどの配慮がなされるとともに、対象者の匿名性も保障されていることから現在の倫理基準をクリアするものと考えられた。

調査票では妊娠前後のシートベルトの着用状況をはじめ、妊娠中のシートベルト着用に関する情報を得たことがあるか、妊娠中のシートベルト着用は有益であるかどうかなどの妊婦自身の考えが問われるとともに、対象者の基本属性・妊娠に関する情報、車の利用状況などのデータが収集された。それらのデータに基づき、妊娠中のシートベルト着用低下に影響を及ぼす要因がロジステッィク回帰分析により推定された。また、シートベルトの着用状況や妊娠前後のその変化も検討された。

本研究で得られた新たな知見は以下のとおりである。

わが国ではシートベルトの着用率が妊娠を契機に低下する。妊娠週数が進むほど、シートベルトを着用しなくなる人の割合は増える。

欧米の研究結果に相反するこの現象は、特に法律による妊娠中のシートベルト着用免除と、妊娠中のシートベルト着用が重要であることに対する認識の不足に起因すると考えられた。

毎日車を利用する(交通事故のリスクに対する曝露が大きい)妊婦のほうが妊娠後シートベルトを着用しなくなる傾向にある。

妊婦は妊娠中のシートベルト着用に対して正しい知識をもつことができる環境にはない。妊娠中のシートベルト着用について情報を得たことがある人はわずか5人に1人、医療従事者から情報を得た人はいなかった。

本研究では妊娠後のシートベルト着用低下に寄与する要因として、妊娠週数、妊娠中のシートベルト着用に対する誤解、法律(ベルト着用免除)の知識、車の利用頻度が見出された。そのうち改善ないし介入が可能な要因を特定できたことは、今後妊娠中のシートベルト着用を促進するにあたり有用である。医療従事者による積極的な情報提供の必要性も示唆された。

本研究は、妊婦の交通事故における母体と胎児の死傷を軽減するための方策として、妊婦に対するシートベルト着用免除の撤回と正しい知識の普及の必要性を示した。これは健康科学から提示された道路交通政策に対する政策提言でもあり、学際的アプローチがとられる事故疫学研究の発展に重要な貢献をなすといえる。よって、本研究は学位の授与に値するものと考えられる。

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