No | 215874 | |
著者(漢字) | 宮島,博志 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ミヤジマ,ヒロシ | |
標題(和) | 電磁型MEMS光スキャナの開発と走査型共焦点レーザ顕微鏡への応用 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 215874 | |
報告番号 | 乙15874 | |
学位授与日 | 2004.01.22 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第15874号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 精密機械工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1980年代に生まれたMEMS(Microelectromechanical Systems)技術は機械の小型化の究極の技術として注目され、活発に研究開発が進められてきた。しかし、これまでのところ実用化例はそれほど多くない。その中では自動車用に代表される各種センサ(圧力センサ、加速度センサ、角速度センサなど)の実用化が先行した。一方アクチュエータについては1990年代後半に液晶に対抗する画像表示素子としてTexas Instruments社のDMDTM (Digital Micromirror Device)が実用化され、今後の発展が期待されている。また、21世紀に入り、インターネットの普及による通信容量の増加から、DWDM(Dense Wavelength Division Multiplexing)に代表される光通信が注目され、MEMSによるアクチュエータはそのキーコンポーネントを実現する技術として期待されている。一方、小型化、集積化技術の発展はその評価・検査技術なしでは実現されない。半導体やMEMSにおいては微細化に加えて構造が複雑化、三次元化する傾向にあり、高倍率、高分解能でかつ三次元観察が可能な技術が要求された。共焦点走査型レーザ顕微鏡は、光学顕微鏡の技術をベースとしながら以上の要求を満たす装置として、工業用、生物・医療用として広く使用されてきた。 本論文は、レーザ顕微鏡のキーコンポーネントである光スキャナを、MEMS技術で製作し、実用化するに至った研究をまとめたものである。従来のスキャナが有していた課題を解決するために必要な要素技術の検討を行い、2種類のトーションバーヒンジ材料を利用したスキャナの試作、評価結果および2種類の振動センシング方式の比較結果より最終的な構成を決定し、レーザ顕微鏡の要求仕様に合わせた光スキャナの試作、評価結果より製品搭載に必要な全ての仕様を満たしていることを確認した。また信頼性についても実験的に確認し、製品搭載用として十分な信頼性を有していることを示した。 第1章ではまず現状のレーザ顕微鏡における光走査技術とその課題を概観し、その課題を克服する技術として本論文のテーマであるMEMS光スキャナを提案した。次に、レーザ顕微鏡用MEMS光スキャナを実現するための課題を明らかにした。 第2章では、本研究の光スキャナについて、その基本性能および信頼性に大きな影響を与えるトーションバーヒンジを構成する材料について、その単体での基本特性評価結果を述べた。ポリイミドおよび単結晶シリコンを候補材料として、材料およびヒンジ寸法と特性の関連性を効率的に検討するために新規に評価手法を考案し、それぞれの長所・短所および設計に必要なポイントを明らかにした。 第3章では、光スキャナの低消費電力化を図るために低抵抗メッキコイルを提案し、その作成プロセスについての基礎検討結果について述べた。高アスペクト比の電解メッキを行うために不可欠の技術である高アスペクト比フォトリソグラフィー技術および電解銅メッキについてその開発成果を述べ、作成可能なコイルの仕様を明らかにした。 第4章では、レーザ顕微鏡用スキャナに不可欠である閉ループ制御を実現するためのセンシング技術および駆動・制御技術について説明し、その原理検証結果について述べた。電磁駆動型スキャナに適したセンシング方式として、二重コイルおよび単一コイルを用いる方式について比較検討を行い、長所、短所を明らかにするとともに、実際に光スキャナ試作品を評価して採用する方式を決めるという方向付けをした。また、駆動時の消費電力低減および小走査角時の性能確保に不可欠なセンシング感度向上に有効である、高効率磁気回路設計と独自に開発したスキャナ実装方式についても説明した。 第5章、第6章では、第2章で検討した2種の材料をそれぞれ用いて光スキャナを設計、試作、評価した結果について述べた。 第5章においては、ポリイミドヒンジ光スキャナについて、その特徴である耐衝撃性や耐久性について製品化技術としての有望性を見出せたものの、レーザ顕微鏡用光スキャナとしての基本的な性能である走査角や共振周波数、ミラー平面度等が目標に対して未達であり、この用途では使用が難しいと判断するに至った経過を述べるとともに、用途によってはポリイミドヒンジの特徴が有効に生かせる可能性があることを示した。 第6章では、単結晶シリコンヒンジ光スキャナについて、初期性能として目標仕様達成が確認できたことについて述べ、開発ターゲットを単結晶シリコンヒンジに絞り込んだ経緯を総括した。さらに、第4章で検討したセンシング方式を評価・比較し、二重コイル方式を選択した。 第7章では、第6章までで開発した光スキャナを実際のレーザ顕微鏡製品に搭載して評価を行い、顕微鏡用として十分な性能を有していることを確認した。また、製品搭載用として最重要である耐久性についても十分であることが実験結果として得られたことを述べた。以上の結果としてこの光スキャナがレーザ顕微鏡新製品に搭載された。 第8章では、MEMS光スキャナの将来展望として、一体型二次元スキャナによるレーザ顕微鏡光学系小型化の可能性や、MEMSスキャナのその他の応用可能性について述べた。特に本研究で取り上げたポリイミドヒンジの応用可能性について示した。また、スキャナ機能以外の機能集積化可能性についても言及した。 第9章では本研究を総括し、結論を述べた。 | |
審査要旨 | 本論文はトーションバー型電磁駆動MEMS(Microelectromechanical Systems)光スキャナの設計技術を研究し、これに基づく試作を経て走査型顕微鏡へ応用してその実用性を証明したものである。 従来のMEMS技術は機械小型化の究極の技術として注目され、各分野で活発に研究開発が進められてきた。しかし、これまでのところ設計法の研究や実用化例が不十分である。一方、微細な構造体を観察するうえで不可欠の共焦点走査型レーザ顕微鏡(LSM)は共振周波数が高くて高速走査が要求される。これに応え得るのがアクチュエータとミラーと一体になった構造体の設計によるMEMS光スキャナーである。 上記課題に対して、本論文では光スキャナへの要求仕様を満たすようにMEMSスキャナの構成、材料、駆動/センシング方式等を研究するとともに、採用する方式と各部寸法等のパラメータを決定し、その設計法を示している。さらにスキャナを試作して本評価方法を確立し、実際の評価を行っている。これをLSMに搭載して各種実験を行い、LSM用として使用可能であることを確認している。また、製品に要求される信頼性試験を実施することにより、トーションバー型電磁駆動MEMS光スキャナがLSM用Xスキャナとして使用可能であることを証明した。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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