No | 215878 | |
著者(漢字) | 武田,道夫 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | タケダ,ミチオ | |
標題(和) | 耐熱性炭化ケイ素繊維の開発とセラミックス基複合材料への適用 | |
標題(洋) | Preparation of Silicon Carbide Fibers and Their Application to Ceramic Matrix Composites | |
報告番号 | 215878 | |
報告番号 | 乙15878 | |
学位授与日 | 2004.01.22 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第15878号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | マテリアル工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本研究では、電子線照射不融化法による耐熱性炭化ケイ素(SiC)繊維の開発を行い、セラミックス複合材料への適用によりその本開発SiC繊維の有効性を明らかにしたものである。 本研究の目的は以下の通りである。繊維強化セラミックス(CFCC)は一般のモノリシックのセラミックスに比較して高い破壊エネルギーと累積的な破壊様式を示すため、1000℃以上の高温での構造材料としての適用が期待される材料である。しかしながら、現状のSiC繊維は耐熱性に限界があり、最高使用温度はおよそ1300℃である。そのため、図1に示すようにCFCCの製作に必要な高温では繊維の劣化が生じ、満足な複合材を得ることができないない。これまでの研究により、繊維の高温劣化は繊維に含有される酸素に起因しており、高温でのCOガス放出と繊維の重量減少、およびSiC結晶の成長とともに強度低下が起こることが知られている。図2にSiC繊維の製造プロセスを示すが、SiC繊維は前駆体ポリマー(ポリカルボシラン)を溶融紡糸して、不融化、焼成といった工程により製造される。ここで、Si-C-Oからなる繊維の含有酸素は、不融化工程において酸素による架橋反応を起こすため導入される。そこで、岡村、瀬口らの研究グループは、SiC繊維の不融化に際しガンマ線や電子線を使用して低酸素量のSiC繊維の試作を行い、その耐熱性が高いことを明らかにした。そこで、この低酸素量のSiC繊維の開発と工業化に取り組むことにした。以下に本論文の各章について要約する。 第二章では電子線照射不融化法による低酸素SiC繊維(Si-C繊維)を試作してその特性解析と製造条件を適正化した。図3に、繊維の酸素含有量と強度維持率αの関係を示すが、酸素量0.4wt%のものではα≒0.9と高い熱的安定性を示した。また、図4に示すように従来Si-C-O繊維に比べて耐熱性が大幅に改善された。 第三章では、熱分解て雰囲気の制御によりC/Si比率の異なるSiC系繊維を試作してその特性を調べた。不融化したポリカルボシランからSiC系セラミックスへの熱分解は水素やメタンを主とする分解ガスの放出とともに無機化反応が進行するが、その化学平衡を制御することで同一の前駆体からC/Si=0.86〜1.56のセラミックス繊維を試作し得た。C/Si化学組成の違いにより繊維の機械的特性(図5)や物理的性質が大きく変化することを見出した。この研究を基礎にしてC/Si≒1と化学量論組成のSiC繊維の開発に成功した。このSiC繊維は高弾性率であり、高温での耐酸化性が優れているといった特長を有する。 第四章ではSiC系繊維の高温での引張り強さやクリープなど機械的特性に及ぼす繊維構造の影響について解析した。その結果、化学組成と結晶性が高温での機械的特性と密接な関連のあることを見出した。 第五章では、開発したSi-C繊維(ハイニカロン)織布で強化したSiC/SiC複合材料をポリマー含浸・熱分解法(PIP法)で試作し作製条件を適正化した。ポリマー含浸回数Nの増加に伴い、三点曲げにおける比例限界荷重、最大荷重の増大が測定された。また破壊のモードは、N <10 では圧縮側での破壊が、またN≧10では引張り側での破壊が生じていた。 第六章では、SiC/SiC(PIP)における強化繊維と界面コーティングの違いと耐熱性に及ぼす影響について解析した。SiC系繊維はSi-C-O繊維、Si-C繊維を、また界面コーティングはC、BNコーティングおよびコーティング無しをそれぞれ選定してSiC/SiCを試作し、高温長時間の熱サイクル試験を行った。その結果BNコートしたSi-C繊維で強化したSiC/SiC複合材(図6中でHNSiC/BN/SiC)では高い室温での強度を有し、1273Kでの1000時間までの熱曝露においてもほとんど強度低下がみられなかった。このように本開発繊維で強化した複合材では、高い熱的安定性を有することが実証できた。 以上の研究により、高温安定性の高められたSiC繊維の開発が成功したが、これが社会の材料開発に及ぼす影響について記す。図7にSiC繊維の比弾性率と高温曝露後の強度維持率αをパラメータにして特性改善の状況をグラフに示した。これまで開発してきた繊維では耐熱性が1500℃まで改善され、また弾性率が高められた。それにともない、従来Si-C-O繊維では不可能であったCVD-BNコーティングや溶融シリコン浸透法(MI法)による複合化が適用できるようになった。また高弾性となったことでSiC/SiC複合材の機械的特性(比例限界と弾性率)が高まると期待された。 図8にこれまでのCFCCの開発の歴史を模式的に示す。CFCCの開発目標としては、既存材料であるニッケル基耐熱合金の代替が有望であるが、これは最高使用温度が1100℃である。これまでのCFCCでは目標特性を超えることができず、実用化への障害となっていた。しかし、この耐熱性SiC繊維の登場によりBNコーティング、MI法による複合化が実現されこの要求を満足できるようになったといえる。以上のようなCFCCの特性改善により、たとえばガスタービン部品などの高温構造材料への適用も可能となった。 学術的な観点からは、研究対象としての本開発SiC繊維は材料開発の研究者から強く注目されている。図9は、米国セラミックス学会エンジニアリングセラミックス部会年会での発表件数を強化繊維別に分類、整理したものである。SiC繊維は常にCFCCの強化繊維として最も注目され、アルミナ繊維や炭素繊維と比べて依然主流となっている。その中でも開発繊維(Si-C、SiC繊維)の発表件数が増大してきており従来繊維(Si-C-O繊維)をすでに超えるに至った。このことからもこの開発繊維がCFCCの強化繊維として有望であり、世界的にも注目されていることを如実に示す例であるといえる。 複合化プロセス温度と現行SiC繊維の耐熱性の限界 SiC繊維の製造プロセス 3Si-C繊維の酸素含有量と強度維持率 開発Si-C繊維の熱曝露試験後の強度 Si-C繊維のC/Siと弾性率の関係 各種SiC/SiC複合材料の熱曝露試験後の強度変化 SiC繊維の特性の改善状況 セラミックス基複合材の耐熱性改善 米国セラミックス学会における本開発SiC繊維の研究状況 | |
審査要旨 | 高温構造材料としてSiC繊維強化SiC複合材料の研究開発が行われている。この種の複合材料では、繊維の持つ高比弾性率や高比強度を利用して大きな破壊抵抗を付与できることが従来のセラミックス材料単体では実現できない最大の特長である。しかし、大きな破壊抵抗を発現させ、その特性が長時間保持するためには既存のSiC繊維では限界があり、より高性能な繊維の実現が複合材料の工業化には欠かせないものであった。本論文は、耐熱性のあるSiC繊維を開発し、セラミックス複合材料へ適用し、開発した繊維の有効性を明らかにしたものであり、全7章よりなる。 第1章は序論であり、無機ポリマーを溶融紡糸して、不融化、焼成の工程により製造されるSiC繊維の研究開発状況を整理し、耐熱SiC繊維の必要性および現状での問題点を明らかにし、本論文の目的を明確にしている。 第2章ではポリカルボシランを原料とし、電子線照射不融化法による低酸素SiC繊維を試作してその特性解析と製造条件を最適化した。繊維の強度維持率αという新たなパラメータを導入し、このパラメータを用いて繊維の酸素含有量と熱的安定性との関係を求めた。酸素含有量0.4wt%のものではαが0.9と高い熱的安定性を示し、既存の酸素含有量の大きなSiC繊維に比べて耐熱性を大幅に向上できることを証明した。 第3章では、熱分解過程での雰囲気制御によりCとSi比率の異なるSiC系繊維を試作してその特性を詳細に調べた。まず、不融化したポリカルボシランからSiC系セラミックスへの熱分解は水素やメタンを主とする分解ガスの放出とともに無機化反応が進行することを明らかにした。ついで、その化学平衡を制御することで同一の前駆体からCとSiのモル比(C/Si)がC/Si=0.86〜1.56の範囲の繊維を試作し、CとSiのモル比の違いにより繊維の機械的特性や物理的性質が大きく変化することを見出した。この結果を用いて、C/Si≒1と化学量論組成のSiC繊維の開発に成功した。また、このSiC繊維は高弾性率であり、従来のSiC 系繊維では持ち得なかった高温での耐酸化性が優れているという特長を有することも明らかにしている。 第4章ではSiC系繊維の高温引張り強さや高温クリープなど機械的特性に及ぼす繊維構造の影響について解析した。第3章の結果を用いて、異なる化学組成や結晶構造のSiC繊維を作製し、高温での引張り試験や応力緩和試験を行った。その結果、化学組成と結晶性が高温での機械的特性と密接に関連していることを見出し、これらの因子の最適化への指針を得ている。 第5章では、開発したSiC繊維を織布に加工し、その織布で強化したSiC繊維強化SiC複合材料をポリマー含浸・熱分解法で作製し、複合材料の作製条件を曲げ強さを通して最適化した。ポリマー含浸回数の増加に伴い、三点曲げ試験から得られる荷重−変位曲線から得た比例限界荷重、最大荷重が大きくなることを明らかにし、繰り返し含浸回数が10回で十分であるという結論を得ている。 第6章では、界面コーティングを含めた複合材料の総合的な評価を行った。まず、開発したSiC繊維では繊維の劣化を伴わずにBNのコーティングを行うことが可能となったことを示した。ついで、BNコーティングしたSiC繊維を用いて第5章と同様の複合材料を作製し、高温長時間保持の熱サイクル試験を行った。その結果、BNをコーティングしたSiC繊維で強化した複合材料では大気中1273K、1000時間の熱曝露において、極めてわずかの強さの低下しか生じないことを実験的に証明し、従来の複合材料では得られない耐熱性を持つことを証明した。 第7章は結論であり、本論文で得られた成果をまとめている。さらに、得られたSiC繊維のセラミックス系複合材料分野への波及効果及び将来展望を述べている。 以上のように、本論文は従来のSiC繊維の耐熱性を著しく向上させ、その繊維を用いた複合材料の力学特性評価を通して繊維の持つ高温構造用SiC繊維強化SiC複合材料実現の可能性を明らかにしたものである。また、実用的な観点からもSiC繊維が工業用複合材料の素材として用いられる道を切り開いたものであり、無機材料学への学術的価値が大であるのみならず、実用化を通して社会の役に立つ高温構造用セラミックス系複合材料を実現した実績は高く評価される。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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