学位論文要旨



No 215898
著者(漢字) 笹木,亮
著者(英字)
著者(カナ) ササキ,トオル
標題(和) 非定形柔軟物給送機構の研究
標題(洋)
報告番号 215898
報告番号 乙15898
学位授与日 2004.02.12
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15898号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 保坂,寛
 東京大学 教授 板生,清
 東京大学 助教授 佐々木,健
 東京大学 助教授 鈴木,克幸
 東京大学 講師 山本,晃生
内容要旨 要旨を表示する

本研究では,既存の給送技術では給送困難物とされているものや,従来は自動化技術において給送対象として扱われなかったものが給送可能な機構の開発を目指す.従来の振動輸送理論において前提とされている慣性について,その影響がほとんど無視できるような薄箔材や微小物体,あるいは吸着や振動などでは容易に破損してしまう給送物を給送対象とする.

1章では,まず生産技術の現況に触れ,それらの生産現場で従来用いられてきた既存の給送技術を紹介した.弾性体振動を利用する機器についても述べ,特に進行波を利用する機構の駆動原理について説明した.また,各生産分野において給送対象と適用される給送機構の検討を行い,それを基に本研究で実現する給送機構をその駆動周波数と駆動振幅により分類し,従来の給送機構に対する位置付けを示した.本研究では,給送対象として現在,給送困難品とされている薄箔材や極小部品,さらには高付加価値食品や生体などを扱うことを目的としており,それらが給送困難となる原因について述べた.これらを扱う新規の給送機構は,駆動周波数と振幅によって大きく2つに分けられる.1つは,3章で述べる楕円振動を発生できる振動子を複数個並べ給送面とする群体フィーダであり,高周波数・小振幅領域の給送対象を扱う.もう1つは4章で述べる柔軟な波動面を用いた波動フィーダで,低周波数・大振幅領域を狙うものである.

2章では,3章の群体フィーダのための振動子の基本構造解析と,打ち抜きなどマイクロ加工への適用を狙い,圧電素子で駆動される振動子を単体で応用した駆動機構について述べる.レバーとトグルをバイモルフ部材で構成した機構で積層型素子の変位を拡大し,さらにバイモルフ部材で出力を補強するフレキシブルな構造を提案して,検討を加えた.

3章では,2章の前述のマイクロハンドリングをさらに動的に発展させ,主に従来の振動フィーダでは給送困難とされる微小物・薄箔材を対象とし,楕円運動を行なう複数個の振動子で構成される群体フィーダについて述べる.これは給送対象の適用範囲として,比較的,小振幅・高周波数を狙ったものである.振動子は入力位相を変化させることで,だ円振動を発生させ,軌跡の主軸の長さ,傾き,軌跡の回転方向が任意に変えられる利点を持つ.この振動子を並べて位相をずらせて駆動することで,振動子上面で搬送するフィーダなどへの応用が望める.有限要素法解析により振動子形状が動特性に与える影響を調べ,試作機を用いて任意の形状・回転方向のだ円振動を発生させる実験および搬送実験を行った.

4章では,従来は剛体で構成されていた振動面を柔軟な弾性体とすることで給送困難物に対応した進行波を用いた波動フィーダについて述べる.この給送機構では,高付加価値食品や生体など,搬送対象を柔軟かつ給送困難なものに絞り,大振幅・低周波数の領域を狙う.進行波を発生させる波動面の一端を駆動するだけでなく,波動面を伝播してきた進行波による両端の振れの位相ずれに合わせて他端を振動させることで,能動的に進行波を吸収して反射波を抑える方式を考案した.試作機を用いて,進行波の発生に成功し,薄箔材や微小物体が給送可能であった.

5章では,前述までの波動フィーダより更に大振幅・低周波数の領域を狙うため,駆動アクチュエータに形状記憶合金(SMA)適用を試みについて述べる.給送困難物の中でも軟粘体を対象として,高粘性下における駆動機構を考える.軟粘性を持つ給送物の特徴として大振幅・低周波数が求められる場合があるが,これに対応する装置の開発を行なった.駆動メカニズムである鞍型クリック板ばねの基本特性について調べ,試作したはいずり型微少走行機械を用いて液中および乾摩擦面上におけるはいずり走行実験を行なった.

6章では,各章で実現した給送機構と従来の給送機構との比較を行い,総合的に検討した.また,今後取り組むべき課題について総括している。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は,「非定形柔軟物給送機構の研究」と題し,全6章からなっている.既存の製品生産工程では給送困難とされてきたものや,新規に自動給送のニーズが増大してきたものを対象に,新しい振動輸送機構を開発している.具体的には,従来の振動輸送理論において前提とされている慣性について,その影響がほとんど無視されるような薄箔材や微小物体,あるいは吸着で給送不可能となる軟粘性物体を対象に,進行波を発生する群アクチュエータと柔軟駆動面を用いた給送機構を考案し,その基本技術の検討を行ったものである.

第1章「緒論」では,生産技術の現況に触れ,これまで現場でいられてきた給送技術を紹介している.関連して,弾性体振動を利用するアクチュエータも述べ,特に進行波を利用する機構の駆動原理について説明している.また,各生産分野において給送対象と適用される給送機構の検討を行い,それを基に本研究で実現する給送機構をその駆動周波数と駆動振幅により分類し,従来の給送機構に対する位置付けを示している.また,現在給送困難物とされている薄箔材や極小部品,さらには高付加価値食品や生体などを給送対象とし,それらが給送困難となる原因について述べている.

第2章「マイクロアクチュエータ」では,3章「群体フィーダ」のための振動子の基本構造解析と,打ち抜きなどマイクロ加工への適用を狙い,圧電素子で駆動される振動子を単体で応用した駆動機構について述べている.レバー部とトグル部をバイモルフ部材で構成した機構で積層型素子の変位を拡大し,さらに出力を補強するフレキシブルな構造を提案し,バイモルフ部材出力の効果について検討している.

第3章「群体フィーダ」では,2章「マイクロアクチュエータ」をさらに動的に発展させ,主に従来の振動フィーダでは給送困難とされる微小物・薄箔材を対象とし,楕円運動を行なう複数個の振動子で構成される群体フィーダについて述べている.この給送機構は給送対象の適用範囲として,比較的,小振幅・高周波数を狙い,振動子は入力位相を変化させることで,だ円振動を発生させ,その軌跡の主軸の長さ,傾き,軌跡の回転方向が任意に変えられる利点を持つ.この振動子を並べ位相をずらせて駆動することで,振動子上面で給送するフィーダが構成できる.有限要素法解析により振動子形状が動特性に与える影響を調べ,試作機を用いて任意の形状・回転方向のだ円振動を発生させる実験および給送実験を行い,薄箔材を主とした給送困難物が給送可能であることを確認している.

第4章「波動フィーダ」では,従来は剛体で構成されていた振動面を柔軟な弾性体とし,進行波を用いた波動フィーダについて述べている.この給送機構は,高付加価値食品や生体など,給送対象を柔軟かつ粘性を持つものに絞り,大振幅・低周波数の領域を狙うものである.進行波を発生させる波動面の一端を駆動するだけでなく,波動面を伝播してきた進行波による両端の振れの位相ずれに合わせて他端を振動させ,能動的に進行波を吸収し反射波を抑える方式を考案している.試作機を用い,進行波の発生に成功し,薄箔材や軟粘体が給送可能であることを確認している.

第5章「液中移動機構」では,4章「波動フィーダ」より更に大振幅・低周波数の領域を狙うため,駆動アクチュエータに形状記憶合金(SMA)適用する試みについて述べている.給送困難物の中でも軟粘体を対象とする場合について,高粘性下における駆動機構を考慮している.駆動メカニズムである鞍型クリック板ばねの基本特性について調べ,試作したはいずり型微少走行機械を用いて液中および乾摩擦面上におけるはいずり走行実験を行い,適用の有用性を確認している.

第6章「結論」において,以上で得られた結果を総括している.

以上のように,本論文は,従来の生産工程では振動による自動給送が不可能とされてきた軟粘体や,微小・薄箔材に適用できる新たな給送機構を実現している.対象を給送機構に要求される振動周波数と振幅の観点から分類し,それに基づき種々の駆動機構を考案し,それらを組合わせて効率的な給装機構を製作している.また,本研究で開発した圧電素子を用いたマイクロアクチュエータ,群体フィーダ,波動フィーダ,SMAを用いた駆動メカニズムは,給送分野のみならず,加工,ハンドリングなどにも適用可能で,精密機械工業,及び精密機械工学の発展に貢献するところが大きい.

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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