学位論文要旨



No 215899
著者(漢字) 小向,哲郎
著者(英字)
著者(カナ) コムカイ,テツロウ
標題(和) 高品質ファイバグレーティングの作製法とその光通信への応用に関する研究
標題(洋)
報告番号 215899
報告番号 乙15899
学位授与日 2004.02.12
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15899号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 保立,和夫
 東京大学 教授 菊池,和朗
 東京大学 教授 荒川,泰彦
 東京大学 教授 中野,義昭
 東京大学 助教授 廣瀬,明
 東京大学 助教授 山下,真司
内容要旨 要旨を表示する

本論文は、ファイバグレーティングの次世代の光通信システムへの導入を目的として、高品質なファイバグレーティングの作製技術並びにその光通信システムへの基本的な応用について検討した結果を報告している。

紫外線を光ファイバに照射することにより作製するファイバグレーティングは、光通信システムを変革する有望な光デバイスとして期待されているが、現状では高度な応用には至っていない。その原因のひとつとして、一般に作製されるファイバグレーティングの特性が、理想的な特性に遠く及ばない場合が多いことが考えられる。本研究ではまずこの点に着目し、その原因を追求して高品質なファイバグレーティングを作製する技術を確立している。さらに得られた技術を用いて様々なファイバグレーティングを作製し、高性能な特性が得られることを示すとともに、基本的な応用での有用性も実証している。論文は全体で7章から構成されている。

第1章は、序論である。光通信の歴史を概観し、光デバイス研究の重要性を説いている。ついでファイバグレーティングの成り立ちと光デバイスとしての有用性を説明した後、本研究の目的を述べている。最後に本論文の構成を示すとともに、各章の概略を説明している。

第2章では、ファイバグレーティングの原理と技術動向を整理して述べ、本研究の背景と位置付けを明らかにしている。

第3章と第4章では、高品質なファイバグレーティングの作製技術について検討した結果を述べている。

第3章では、光ファイバに紫外線を照射する際に発生する蛍光を常時モニタし、その変動をファイバの位置制御にフィードバックして、高品質で長尺なファイバグレーティングを安定して作製する方法を提案している。本方法は、Bragg波長が長手方向に一定であるユニフォームタイプのファイバグレーティングに限らず、Bragg波長が長手方向に徐々に変化するチャープタイプのファイバグレーティングでも有効である。しかし、このような方法を用いても、実際に作製されるファイバグレーティングの特性には依然として問題があることを指摘している。すなわち、ユニフォームタイプのファイバグレーティングには抑圧困難なサイドローブが発生する一方、チャープタイプのファイバグレーティングには著しい群遅延リップルが発生し、どちらも光通信システムに重大な影響を及ぼす可能性があることを提起している。

第4章では、作製に用いる位相マスクの不完全性が、ファイバグレーティングの屈折率変調の周期に乱れを誘起し、サイドローブや群遅延リップルを生じさせていることを明らかにしている。さらに位相マスクを高品質なものとするために、マスクパターン形成法として一括描画法や多重描画法を提案している。これらの手法によりユニフォームタイプにおいてもチャープタイプにおいても、作製されるファイバグレーティングの特性が著しく改善されることを実証している。

第5章と第6章は、このようにして得られた高品質なファイバグレーティングの光通信への基本的な応用について述べている。

第5章では、ファイバグレーティングのスペクトルフィルタリングへの応用について述べている。まず効率的なファイバグレーティングのBragg波長チューニング法を提案している。ついで高品質なファイバグレーティングを用いると高機能な光フィルタリングができることを示している。例えば、従来の光フィルタでは実現困難な狭帯域のフィルタリングが可能であり、高性能なファイバリングレーザが実現することを述べている。これは高分解能の分光や波長標準向けの光源に有望である。また、チャープタイプのファイバグレーティングを用いた、広帯域で方形的な光フィルタを提案している。

第6章では、チャープタイプのファイバグレーティングを用いた分散等化器について述べている。本章では、いくつかのチャープタイプのファイバグレーティングを組み合わせることにより、光ファイバの任意の分散特性(群遅延特性)に対応した分散等化器を構成することができることを示すとともに、その設計法について明らかにしている。また得られた設計法に基づいて、実際に分散シフトファイバに対する分散スロープ等化器を試作してほぼ設計通りの特性を得ている。本等化器による超短光パルスの波形等化も確認しており、将来の超高速TDM(Time division multiplexing)伝送システムへの応用が有望であることを示している。また二次分散等化器を長距離光ソリトン伝送実験に応用し、ファイバグレーティングを伝送路の分散等化(補償)に用いた実験としては、最長の距離の伝送に成功するとともに、群遅延リップルが伝送距離を制限することを実験的に明らかにしている。

第7章は、結論であり、本研究の成果をまとめるとともに、今後の課題を展望している。

以上のように本論文では、高品質なファイバグレーティングの作製技術を提案し、それに基づいて作製したファイバグレーティングを実際に光通信技術に応用することにより、その有用性を検証するとともに、従来技術では実現不可能であった高機能な装置が実現できる応用例をいくつか提案している。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、「高品質ファイバグレーティングの作製法とその光通信への応用に関する研究」と題し、7章より構成されており、光ファイバグレーティングを次世代光通信システムへ導入することを目的として、光ファイバグレーティングの性能を高めるための作製技術を提案・実証するとともに、その光通信システムへの応用について検討した結果が述べられている。

光ファイバグレーティングは、紫外線を光ファイバに照射することによりコア部分の屈折率が変化する現象を利用して実現される波長フィルタ機能を持つ光デバイスであり、光通信システムの機能と構成法を変革するものとして期待されている。しかし、一般に作製される光ファイバグレーティングの特性は、理想的な特性には遠く及ばない場合が多く、高度な性能の実現には種々の問題を解決する必要があった。本研究では、まず、このような問題が生じる原因を追求し、高品質な光ファイバグレーティングを作製する技術を提案・確立している。さらに得られた技術を用いて様々な光ファイバグレーティングを作製し、高性能な特性が得られることを示すとともに、光通信分野への基本的な応用についても検討して、その有用性を実証している。

第1章は序論である。ここでは、まず光通信技術の歴史を概観し、その高性能化のために光デバイスの研究が重要であることを説いている。次に、光ファイバグレーティングの原理と光デバイスとしての有用性を説明した後、本研究の目的が述べられている。最後に本論文の構成を示して、各章の概略を説明している。

第2章では、光ファイバグレーティングの原理と、その技術動向を概観し、本研究の背景と位置付けを明らかにしている。種々の作成法が提案されていたものの、高性能を実現するには至っていなかった状況が詳述され、また、種々の応用の可能性についても示されている。つづく2つの章では、高品質な光ファイバグレーティングの作製技術について検討した結果が述べられている。

第3章では、光ファイバに紫外線を照射する際に発生する蛍光を常時モニタして、その変動を光ファイバの位置制御に活用することにより、高品質で長尺な光ファイバグレーティングを安定して作製する方法を提案している。本方法は、ブラッグ波長が光ファイバの長手方向に一定であるユニフォームタイプの光ファイバグレーティングに限らず、ブラッグ波長が長手方向に徐々に変化するチャープタイプの光ファイバグレーティングに対しても有効であることも実証される。つづいて、このような方法を用いても、実際に作製される光ファイバグレーティングの特性には、依然として問題があることが指摘される。すなわち、ユニフォームタイプの光ファイバグレーティングには抑圧困難なサイドローブが発生する一方、チャープタイプの光ファイバグレーティングには著しい群遅延リップルが発生し、どちらも光通信システムに重大な影響を及ぼす可能性があることを提起している。本問題の解決法を提案しているのが第4章である。

第4章では、作製に用いる位相マスクの不完全性が、光ファイバグレーティングの屈折率変調の周期に乱れを誘起し、上述したサイドローブや群遅延リップルを生じさせていることを明らかにしている。さらに、位相マスクを高品質なものとするために、マスクパターン形成法として、一括描画法や多重描画法を提案している。これらの手法によりユニフォームタイプにおいてもチャープタイプにおいても、作製される光ファイバグレーティングの特性が著しく改善されることが実証されている。以降の各章では、このようにして得られた高品質な光ファイバグレーティングの光通信分野への基本的な応用が述べられる。

第5章では、光ファイバグレーティングの光スペクトルフィルタリングへの応用について述べている。まず、光ファイバグレーティングのブラッグ波長を効率的に変化させる方法を提案している。ついで、高品質な光ファイバグレーティングを用いると高機能な光フィルタリングができることを示している。例えば、従来の光フィルタでは実現困難であった狭帯域な光フィルタリングが可能であり、高性能な光ファイバリングレーザが実現できることが述べられている。これは高分解能の分光や波長標準のための光源として有望である。また、チャープタイプの光ファイバグレーティングを用いた、広帯域で方形的な光フィルタも提案している。

第6章では、チャープタイプの光ファイバグレーティングを用いた分散等化器について述べている。本章では、いくつかのチャープタイプの光ファイバグレーティングを組み合わせることにより、光ファイバの任意の分散特性(群遅延特性)に対応した分散等化器が構成できることを示すとともに、その設計法についても明らかにしている。また、得られた設計法に基づいて、実際に分散シフトファイバに対する分散スロープ等化器を試作して、設計通りの特性を得ている。本等化器による超短光パルスの波形等化も確認しており、将来の超高速時分割多重光伝送システムへの応用が有望であることを示している。また、二次分散等化器を長距離光ソリトン伝送実験に応用し、光ファイバグレーティングを伝送路の分散等化(補償)に用いた実験としては最長距離の光ソリトン伝送に成功するとともに、群遅延リップルが伝送距離を制限することを実験的に明らかにしている。

第7章は結論であり、本研究の成果をまとめるとともに、今後の課題を展望している。

以上のように本論文は、高品質な光ファイバグレーティングの作製技術として、蛍光モニタ法ならびに位相マスクの精度向上技術を提案・開発し、それらを用いて光フィルタ特性や分散等化特性に優れた光ファイバグレーティングを実際に作製することに成功した他、これら光ファイバグレーティングを光通信技術に応用して、高性能な光ファイバリングレーザならびに長距離光ソリトン伝送等の実証実験に成功し、本デバイスにより従来技術では不可能であった高度な光通信用装置が実現できることを示したものであって、電子工学の発展に大きな貢献を果たしている。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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