学位論文要旨



No 215926
著者(漢字)
著者(英字) Purwanto,Mohamad Yanuar Jarwadi
著者(カナ) ブルワント,モハメッド ヤヌアル ジャルワディ
標題(和) インドネシアにおける作物生産ロス最小化を考慮した灌漑計画
標題(洋) Irrigation Planning for Minimum Crop Production Loss in Indonesia
報告番号 215926
報告番号 乙15926
学位授与日 2004.03.01
学位種別 論文博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 第15926号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 佐藤,洋平
 東京大学 教授 田中,忠次
 東京大学 教授 宮崎,毅
 東京大学 助教授 塩沢,昌
 東京大学 助教授 島田,正志
内容要旨 要旨を表示する

インドネシアにおいては、毎年、総農地面積の少なくとも4%において、渇水による深刻な収量の損失を被っている。この渇水による問題は河川の流量不足と灌漑用水不足と共に、不適切な灌漑計画に起因するものである。貯水池を使う灌漑計画は渇水被害に対する解決策の一つであり、損失を最小限に食い止めるための貯水池の水管理について一層の研究の進展が必要とされるところである。しかしながら、貯水池があろうとも、流出データが少なければ灌漑計画を作ることが困難だという問題がある。限られた入手可能な流出データの範囲内で、適正な灌漑計画がなされねばならない。本稿の目的は、上記のようなインドネシアの状況下において、灌漑計画策定の適切な方法を確立することにある。

本稿は次の三部構成である。

(a)土壌水分調査による灌漑地域における作物生産量損失予測についての実態調査(b) 貯水池への流入となる流域流出データが不足しているため、これを予測するのための河川流出調査(c)降雨流出モデルと灌漑地域における作物生産量に対する土壌水分変動効果の統合による貯水池操作方法確立の研究

ジャワ島の灌漑水田農耕地域においては米一米-畑作(Palawija栽培)の三期作が行われることが一般的である。米作は水不足によって影響を受けるが、畑作においては水不足のみならず水の過剰によっても収穫量減少が生起される。水分過剰による影響は、水田地帯における古代の地層に形成された不透水性硬土層の存在によってしばしば発生するもののようである。調査は、畑作の生産ロスにおける水分不足および水分過剰による水ストレスを分析するために、ジャワ島の三地域において行った。

作物に対するストレスを決定するためにSDI(Stress Day Index)指標を使用した。それはストレスを、度合いを表すSDと作物感受性ファクターであるCSを用いるものである。各作物栽培時期におけるSDIは、土壌水分状の各作物の収穫量に対する影響を表し、各作物の収穫量と大変強い相関を示している。本研究の結果は収穫量予測にとってSDI概念における過剰および不足ストレスの両方を利用することが適当であることを明らかにした。作物がストレスなしで生育できる適切な範囲は、この二つのストレスの範囲を除いた土壌水分範囲となる。適切な範囲の上限と下限は実地調査データによって各々、pF2.0とpF2.5と決定された。

タンクモデルを使った降雨流出分析では、基本流出に対応するいくつかのパラメーターの値がジャワ島のいくつかの流域に対して決められた。この目的に従って次の四段階の分析がおこなわれた。(a) いくつかの水源それぞれに対する一セットの適当なパラメータ値の設定、(b) それら水源すべてに適合すると考えられる一セットのパラメータの標準値の決定、(c) 各水源の物理的特性による分類 (d) ハイドログラフに関して合致するために基本流出に関係するパラメータ値を各グループに対する標準値から調整、である

本調査においてはジャワ島(中央および西部ジャワ)の九つの水源における降雨と流出データが使用されている。これら九つの水源は三つのグループに分類され、その水源の各グループの流出は一セットのパラメータによってうまく説明できた。その一式のパラメータとは、基本流出に関係すると見られる下段タンクと浸透のパラメータを標準値から変化させたものである。その三組のパラメータ値は年間の総流出に対して良好な結果を与えた。このように、中央および西部ジャワにては、水源のグループ分けが正確に行われれば、水源における流出データが得られなくても、このパラメータ値のセットが水源の流出予測に有効である。

貯水池管理計画の発展は降雨流出モデルと収量損失分析を含む。

貯水池管理計画を確立するための過程には二段階ある。それは(a) 収量損失を考慮した一時的水配分の最適化、(b) 貯水池計画のための貯水目標ライン(TSL)の決定と貯水池放水ルール(RRR)の確立である。最適化の過程では、降雨データは貯水池の流入量としての流域からの流出予測に使った。一時的水配分の最適化された水田地帯における貯水池からの水の供給は、計画期間中の水田地帯のSDIの評価によってなされた。TSLは第一段階の生成された流出と一時的水配分を使った貯水池計画の中でのシミュレーションの貯水レベルの平均に設定した。TSLに関する貯水池計画基準と日々の実際の貯水レベルを導くためには、RRRの二つのルールが提案される。

この方法は、カカバン水源に適用された。それは、カカバン貯水池とカカバン灌漑地域を含む地域である。過去の降雨データについては、提案した方法を検証するために十年間と三年間の貯水池操業の実データを使用した。実作業とシミュレーションの作物に対する水ストレスの比較では、提案した貯水池計画のほうが同時期においては実際の操業よりも少ない水ストレスを生み出した。総ストレスの差は二つの作業の間では明らかに大きな差が出、特に、第三期では大きな差が出た。

本論における結論として、貯水池を利用した灌漑システムに関する灌漑計画策定方法が確立された。その方法は貯水池管理について次のルールを生み出した。それは、全三期の耕作期において十分に灌漑用水が供給されることが保障されるということである。さらに、その方法は収量損失を減少させることにおいても有効であることが示されねばならない。その方法の優越性を要約すれば次のごとくである:タンクモデルを採用することによって、降雨データのみを使用し、実際の貯水池操業以前の計画段階から適用できることである。

審査要旨 要旨を表示する

インドネシアにおいては、毎年、総農地面積の少なくとも4%において、渇水による深刻な収量の損失を被っている。この渇水による問題は河川の流量不足と灌漑用水不足と共に、不適切な灌漑計画に起因するものである。貯水池を使う灌漑計画は渇水被害に対する解決策の一つであり、損失を最小限に食い止めるための貯水池の水管理について研究の進展が望まれている。しかし、貯水池があろうとも、流出データが少なければ灌漑計画を作ることが困難だという問題がある。限られた入手可能な流出データの範囲内で、適正な灌漑計画がなされねばならない。本論文の目的は、上記のようなインドネシアの状況下において、灌漑計画策定の適切な方法を確立することにある。

本論文は次の三部構成を成している。

(a) 土壌水分調査による灌漑地域における作物生産量損失予測についての実態調査

(b) 貯水池への流入となる流域流出データが不足しているため、これを予測するための河川流出調査

(c) 降雨流出モデルと灌漑地域における作物生産量に対する土壌水分変動効果の統合による貯水池操作方法の確立

ジャワ島の灌漑水田地域においては米一米-畑作(Palawija栽培)の三毛作が行われるのが一般的である。米作は水不足によって影響を受けるが、畑作においては水不足のみならず水の過剰によっても収穫量減少が起きる。水分過剰による影響は、水田地帯における古代の地層に形成された不透水性硬土層の存在によってしばしば発生する。調査は、畑作の生産ロスにおける水分不足および水分過剰による水ストレスを分析するために、ジャワ島の三地域で実施している。

作物に対するストレスを決定するために、ストレスの度合いを表すSDと作物感受性ファクターであるCSによって表されるSDI(Stress Day Index)指標を使用している。各作物栽培時期におけるSDIは、各作物の収穫量と大変強い相関を示している。この結果は、収穫量予測にとってSDI概念における水分過剰および水不足ストレスの両方を利用することが適当であることを明らかにした。作物がストレスなしで生育できる適切な範囲は、この二つのストレスの範囲を除いた土壌水分範囲となる。適切な範囲の上限と下限は実地調査データによって各々、pF2.0とpF2.5とが求められた。

タンクモデルを使った降雨流出分析では、基本流出に対応するパラメータの値をジャワ島の複数の流域に対して求めるために、4段階の分析をおこなっている。すなわち、(1) 複数の流域それぞれに対する1セットの適当なパラメータ値の設定、(2) それら流域すべてに適合すると考えられる1セットのパラメータの標準値の決定、(3) 各流域の物理的特性による分類 (4) ハイドログラフに関して合致するために基本流出に関係するパラメータ値を各グループに対する標準値から調整する。

本論文では、ジャワ島(中央および西部ジャワ)の9つの流域における降雨と流出データを使用した。これら9つの流域は3つのグループに分類され、その流域の各グループの流出は1セットのパラメータによってうまく説明できている。このように、中央および西部ジャワにては、流域のグループ分けが正確に行われれば、流域における流出データが得られなくても、このパラメータ値のセットが流域の流出予測に有効であることを明らかにしている。

貯水池管理計画を確立するための過程には2段階ある。すなわち、(1) 収量損失を考慮した一時的水配分の最適化、(2) 貯水池計画のための貯水目標ライン(TSL)の決定と貯水池放水ルール(RRR)の確立、である。一時的水配分の最適化された水田地帯における貯水池からの水の供給は、計画期間中の水田地帯のSDIの評価に基づきなされる。TSLに関する貯水池計画基準と日々の実際の貯水レベルを導くために、RRRについて2つを提案している。

この方法をカカバン流域に適用し提案した方法を検証するために、10年間と3年間の貯水池操業の実データを使用し、実作業とシミュレーションの作物に対する水ストレスの比較を行った。提案した貯水池計画の方が同時期においては実際の操業よりも少ない水ストレスを示している。

以上のように、本論文は、インドネシアにおける貯水池を利用した灌漑システムに関して、各作物栽培時期におけるSDI(Stress Day Index)指標と各作物の収穫量との関係を明らかにし、収量損失を減少させることにおいても有効である灌漑計画策定方法を提案するとともに、実際の流域に適用してその策定方法の妥当性を評価したものであり、学術上、応用上貢献するところが少なくない。よって、審査委員一同は、本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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