学位論文要旨



No 215960
著者(漢字) 住吉,英樹
著者(英字)
著者(カナ) スミヨシ,ヒデキ
標題(和) 階層化番組情報を用いた番組制作システムの開発とその応用に関する研究
標題(洋)
報告番号 215960
報告番号 乙15960
学位授与日 2004.03.15
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第15960号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 坂内,正夫
 東京大学 教授 安達,淳
 東京大学 教授 喜連川,優
 東京大学 教授 相田,仁
 東京大学 教授 相澤,清晴
内容要旨 要旨を表示する

近年,デジタル放送やインターネットといったメディアにより,視聴者の要求に応じて表示するマルチメディアコンテンツの提供が可能になり,放送局には放送番組だけでなく,これらのメディアへの情報提供が求められるようになった.一方,番組制作現場では,90年代からのパーソナルコンピュータの能力拡大とともに,コンピュータを利用した制作ツールが配備され,作業やデータの電子化が始まったが,統一的な情報管理の枠組みが無いために制作情報は,従来の紙媒体を主とする個人管理に任されたままの状態だった.

マルチメディアコンテンツの制作や情報管理による制作作業の効率化を進めるためには,番組制作者の意図など映像の持つ深い意味や,意味を持った映像区間の指定など,各種の番組制作情報を統合的に蓄積した映像データベースの構築が不可欠だが,既存の映像や音声の分析によるインデキシング技術だけでは番組意図や映像の意味といった情報の抽出は困難である.

本論文は,番組制作に適用できる階層化された情報管理構造と,それを用いた番組制作手法を提案し,番組制作者が制作作業を行う中で情報の入力を行うことで映像と各種情報を連携させた番組情報データベースを構築する番組制作システムの開発とその応用に関しての研究をまとめたものであり,8章から構成される.

1章では,「序論」として本研究の背景となったテレビ放送のデジタル化など新しいコンテンツの動向について触れ,本研究の意義について述べた.

2章では,「番組制作システムに関する検討」として本研究に関連する従来の研究について概説するとともに,番組制作過程で用いられる情報の分析を行い,放送局のコンテンツ制作者という特質を活かして番組情報を蓄積するためには,制作時に用いられる構成表などから得られた階層構造が適することを明らかにした.また,番組制作システムに求められる情報処理システムの機能要件をまとめた.

3章「階層化番組制作手法の提案」では,2章での検討をもとに番組制作で用いられる情報を階層的な構造を持つ「階層化番組情報」で表現し,その元で番組制作を行う「階層化番組制作手法」の提案を行った.この手法は番組の構成を階層的な情報の枠組みとして組み立て,映像や文字といった情報を枠組みに関連付けることで統一的に管理しながら番組制作を行ことにより,番組の企画段階から構成,編集,2次利用まで一貫して利用できる情報管理機能を特徴としている.本手法により既存技術では情報の抽出が困難であった映像の意味や意図を番組制作者が制作時に入力することにより,種々の応用が可能な番組映像データベースを構築可能とした.

4章「構成編集システム」では,階層化番組制作手法を適用した構成編集システムの開発と,番組制作実験について述べた.階層化番組制作手法の有効性を確認するために,階層化番組情報のオブジェクトデータベースによる実装,ノンリニアアクセスが可能な媒体での映像編集機能を特徴とする構成編集システムを試作し,番組制作実験を行った.実験では情報系の番組において編集作業期間が約30%短縮できるなど,企画,構成から編集という番組制作の中心的な作業を階層構造による統一的な情報の枠組みで効果的に支援できることを確認した.本手法および構成編集システムの概念は,NHKにおける番組制作の情報管理システムとして実用化し有効性を示した.

5章「撮影システム」では,階層化番組情報を応用した撮影システムの提案と試作について述べた.従来,映像と音声,記録内容についてのわずかなメモ程度しか受け渡されなかった撮影と編集の作業間の情報交換を高度化し,構成情報に関連付けて撮影映像を管理する撮影システムを実現し,コンピュータを利用した映像制作システムの利用で最も作業負荷の大きな映像素材データベース作成の効率改善を撮影システムの試作と実験により確認した.

6章「ネットワーク対応システム」では,協調作業という番組制作の形態に適した機能として,ネットワーク対応システムについて研究を進めた.スクリプト編集という特長を活かしたデータベース共有,協調作業環境の実現方法とネットワーク構成方法について明らかにするとともに,階層化番組情報の構造がネットワーク化にも適したものであることを示した.

7章「番組情報利用アプリケーション」では蓄積された情報を,応用したアプリケーションについて述べた.制作者による番組映像の検索を想定し,XMLなど2次利用に適したデータに変換して構造間の関係を利用した検索システムを開発した.また,蓄積された番組情報を活用する新たな放送サービスとして教育放送サービスを提案し,そこで利用する対話型検索システムおよび,番組制作技術を応用した映像レポート作成システムの試作について述べた.対話型検索システムでは,簡易シナリオ機能の実装により検索結果を組み合わせて提示するなど番組情報を活用する新たなコンテンツ提供システムの方向性を示した.

8章は,「結論」とし,本論文のまとめを行っている.

以上,本論文では,従来構築が困難であった番組の深い意味内容を記述した映像データベースの構築を,番組制作過程で統一的な階層情報の枠組みを用いることで,放送局というコンテンツ制作者のメリットを活かし,制作者により制作時に情報入力することで情報の蓄積を可能にした.同時に,番組の構造的な編集や制作作業中における情報活用が可能となり,情報提供分野の番組制作においては大きな効率の向上が確かめられた.本研究の成果は,大規模な放送局における番組制作情報化システムの中心的な要素として採用されるなど有効性が確認された.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は,「階層化番組情報を用いた番組制作システムの開発とその応用に関する研究」と題し,映像を主とする番組情報の効率的な蓄積,管理のために階層化された情報管理構造を開発し,番組制作システムとしての実装・応用についてまとめたものであり,8章から構成されている.

第1章は,「序論」として,本研究の背景となったテレビ放送のデジタル化など新しいコンテンツの動向と,本研究の意義について述べている.

第2章は,「番組制作システムに関する検討」と題し,本研究に関連する従来の研究について概説するとともに,番組制作過程で用いられる情報の分析と,番組制作システムに求められる機能要件をまとめ,番組情報を蓄積するためには,制作時に用いられる構成表などから得られた階層構造が適することを明らかにしている.

第3章は「階層化番組制作手法の提案」と題し,第2章での検討をもとに,映像や文字,番組の構造や表現意図といった番組制作時に利用されている種々の情報を一括して格納できる「階層化番組情報構造」を定義し,その枠組みの中で番組制作作業を行う「階層化番組制作手法」を提案している.

第4章は,「構成編集システム」と題し,階層化番組制作手法を適用した番組制作システムの開発と実験による評価を行っている.実験は,試作した構成編集システムをNHKの放送番組制作に適用して行われた.その結果,既存の制作方法に比較して作業効率が大きく改善されることを示し,本システムの有効性を明らかにしている.

第5章は,「撮影システム」と題して,階層化番組情報を応用した撮影システムの提案と試作について述べている.コンピュータを利用した映像制作システムで課題となる素材映像の管理,情報付加の労力削減を行うために,番組の設計図である階層化番組情報との関連付けを撮影時に行う手法を提案し,システムの試作を行っている.

第6章は,「ネットワーク対応システム」と題し,協調作業という番組制作の形態に適応した機能として,ネットワーク化についての検討を行っている.スクリプト編集という本手法の特長を活かした階層化番組情報の共有方法や素材の共用方法を示すとともに,階層化番組情報構造がネットワーク化にも適したものであることを示している.

第7章は,「番組情報利用アプリケーション」と題し,蓄積された情報を応用するアプリケーションについて述べている.制作者による番組映像の検索を想定して構造間の関係を利用した検索システムを開発し,階層化番組情報の検索への適用例を示している.また,ネットワークを利用した新たな教育サービスを提案し,蓄積されたコンテンツ提供システムの方向性を示している.

第8章は,「結論」であり,番組制作に適した情報管理構造である階層化番組情報とそれを利用した番組制作システムに関する本研究の成果をまとめ,今後の課題が示されている.

以上これを要するに,本論文では,従来,蓄積されていなかった,番組制作者が制作時に用いる情報を,階層化された情報管理の枠組みにより効率的に管理,蓄積する手法を示し,実用的な利用局面での制作効率の向上や情報蓄積の有効性を実証したもので,テレビ番組制作に関する情報処理にとって有用な知見を示しており,電子工学上貢献するところが少なくない.

よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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