No | 215996 | |
著者(漢字) | 溜,幸生 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | タマリ,ユキオ | |
標題(和) | 液状化地盤と埋設柔構造物断面の動的相互作用に関する実験的研究 | |
標題(洋) | SHAKING TABLE MODEL TESTS ON DYNAMIC INTERACTION BETWEEN CROSS SECTION OF FREXIBLE UNDERGROUND STRUCTURES AND LIQUEFIED SOIL | |
報告番号 | 215996 | |
報告番号 | 乙15996 | |
学位授与日 | 2004.04.15 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第15996号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 社会基盤学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 近年の地震被害の教訓から、地下鉄駅舎、共同溝、下水道など公共地中構造物の耐震設計の重要性はますます高まっている。また、重要構造物の耐震設計において強い地震動を考慮するのが一般的になってきたことから、構造物の耐震設計基準類においては、構造部材の非線形性や土の液状化の影響を考慮して設計することが要求されるようになってきた。 一方、地中構造物と地盤の動的相互作用に関する従来の研究は、地中構造物の地震動による顕著な被害はごく最近まで発生しなかったこと、被害事例において液状化地盤との動的相互作用が被害の直接的な原因となっているかは明確でなかった等の理由により、ほとんどは地盤が液状化しない場合を想定して行われてきている。 したがって、地中構造物の周辺地盤の過剰間隙水圧が上昇し、液状化に至るまでの地盤と構造物の動的相互作用に関しては、その基本的なメカニズムが必ずしも明らかにされていないのが現状であり、それゆえに、動的相互作用に伴う地中構造物の挙動を詳細に把握して、構造物への影響を定量的に評価する手法を開発することが必要となる。そこで本研究では、地中ボックスカルバートなど、地震時において断面方向に柔に変形しうる地中構造物を対象に、動的相互作用に起因して発生する基本的な挙動やそのメカニズムを実験的に把握し、構造物に作用する動的土圧を定量的に評価する方法を提案することを試みた。 まず、ボックスカルバートを模擬した地盤-構造物系を対象に、重力場における一連の振動台実験を行った。地盤-構造物系は、アルミニウム製の箱型断面の模型を飽和砂中に設置したもので、幅1.2m、高さ1.0m、奥行き0.8mのせん断土槽内に作成した。地盤材料には豊浦砂を用いており、地盤-構造物系の初期状態において、構造物は地盤より柔なもの(地盤の固有振動数:約20Hz、構造物の固有振動数:約7.5Hz)とした。 地盤と構造物の動的相互作用を考えるとき、振動中における地盤および構造物の振動特性を調べることは非常に有用である。特に、地盤が液状化は極めて強い非線形挙動であるので、これを把握することが重要である。そこで、実験においては、計測記録から構造物側壁に隣接する土塊における振動中の応力-ひずみ関係や有効応力経路を再現し、それらをもとに液状化に至るまでの地盤の固有振動数の時間的な変化を把握するという新しい試みを行った。土塊の水平面内に生じるせん断応力を構造物側壁による水平方向の直応力の影響を考慮して算出するために、加速度計と土圧計を深度方向に設置した。また、液状化に伴う有効上載圧の減少を求めるために土中に間隙水圧計を設置した。さらに、構造物側壁の影響を考慮してせん断ひずみを求めるために、側壁にひずみゲージを設置してたわみを算出できるようにした。 振動台実験は、地盤の相対密度、入力加速度、周波数などを変化させて行った。実験の計測結果から、周辺地盤の加振中における応力ひずみ関係と有効応力経路を再現し、加振中における土のせん断剛性の時間的な変化を求めた。せん断剛性は、加振の継続とともに低下し、液状化状態においてほぼゼロになるまでの過程が定量的に把握された。また、得られたせん断剛性に模型地盤の高さと土の質量密度を考慮して、地盤の固有振動数の時間的な変化を求めた。緩い地盤を取り扱った実験では、周辺地盤の固有振動数は、初期においては構造物断面そのものの固有振動数より高いが、加振とともに低下し、ある時点で構造物の固有振動数より小さくなり、さらに、ある時点で入力波の振動数を下回り、最終的にはゼロになる様子が実験的に把握された。 周辺地盤が液状化に至る過程の構造物断面の挙動を把握するために、構造物の底版と頂版における加速度応答倍率・位相差を詳細に分析した。加速度応答倍率は加振とともに増加し、土が完全に液状化する直前でピークとなり、土が完全に液状化すると低下した。位相差は、応答倍率がピークの時に90度となり、周辺地盤が完全に液状化すると150°程度にまで大きくなった。応答倍率の大きさは、共振時で2.5〜3.0、液状化時で1.0〜1.5であった。応答倍率がピークとなる時の周辺地盤の固有振動数を調べたところ、この現象は地盤の固有振動数が入力波の振動数を下回る瞬間に発生していることが判明し、液状化による地盤剛性の低下が地中構造物断面において共振をもたらしうることが明らかとなった。 地中構造物における共振時の応答倍率を決定しうる要因を把握するために、周辺地盤の加振中における応力ひずみ関係から履歴減衰を求め、これと応答倍率の関係を調べた。その結果、両者に強い関係があることが実験的に示された。これより、地中構造物断面の共振時の応答倍率は周辺地盤の減衰特性より推定可能なことが示唆された。 密度が高い土においては、加振によるせん断により膨張的な挙動を示すことが知られている。密な地盤を用いた実験ケースでは、水圧の挙動から周辺地盤において膨張的な挙動が発生したことが推察された。その場合の土の応力ひずみ関係を分析した結果、膨張的な挙動は土のせん断剛性に変化をもたらし、結果として構造物の応答に影響を及ぼすことも明らかとなった。 構造物断面に作用する土圧と変形の対応を明らかにするために、弾性はり理論に基づき、計測された土圧から構造物断面の側壁の曲率やたわみを算定した。まず、加振前の初期状態において計測された土圧を作用させる計算結果から、土圧と曲率は内部で整合していることを確認した。さらに、加振時を対象とした計算の結果、加振により地盤のせん断剛性が低下し、地盤の固有振動数が構造物そのものの固有振動数の半分程度以下になった状態、つまり、構造物そのものの固有周期を十分に越える地盤の長周期化がおこった状態では、計算により得られた側壁のたわみは実際のたわみと良い一致を示し、土圧は変形と対応していることが示された。一方、地盤の固有振動数が構造物そのものの固有振動数の半分程度より高い場合、あるいは、土が膨張的な挙動を示す場合においては、計算結果は実際と一致しないことが示された。このことから、地盤の固有振動数が構造物そのものの固有振動数の半分程度以下になった状態で、かつ、土に膨張的な挙動が現れない状態であれば、構造物が弾性挙動する範囲で、土圧より弾性はり理論に基づき構造物の変形が評価できることが明らかにされた。 振動により刻々と変化する地盤の固有周期や密な地盤に見られる膨張的な挙動が、動的相互作用に及ぼす影響について調べた。まず、地盤の固有周期と動的土圧-構造物変位の位相差の関係から、動的土圧は、構造物そのものの固有周期を越える地盤の長周期化がおこってから、構造物に荷重として作用することが明らかとなった。次に、膨張的な挙動が発生した場合の動的土圧について調べたところ、構造物に荷重として作用していた動的土圧は、膨張的な挙動が発生すると反力としても作用することが示された。これらのことから、周辺地盤の固有振動数と土に膨張的な挙動は、柔な構造物断面との動的相互作用に大きく影響することが明らかとなった。 動的土圧を定量的に評価する方法を見出すためには、液状化した地盤の動的土圧の振幅や位相を決定する支配的パラメータを明らかにすることが重要である。そこで、支配的パラメータとして、既往の設計法などで用いられている周辺地盤の直ひずみと側壁における加速度を選定し、動的土圧とそれぞれのパラメータの実験的な関係を調べた。その結果、動的土圧と側壁加速度の関係においては、動的土圧と直ひずみの関係に比べてより明確な相関関係が見られ、地盤が液状化する場合の土圧に関する支配的パラメータは、側壁の加速度であることが判明した。 この結果を踏まえて、側壁の加速度を、動的土圧を規定するパラメータとみなして、周辺の地盤が地震動の継続により液状化状態になった場合に、柔な構造物断面に作用する動的土圧の解を求めた。その解は、液状化した土をせん断剛性がゼロの物質と考えた支配方程式(Westergaard,1933)に、本研究の一連の振動台実験で見られた構造物の底部と頂部の加速度応答倍率、および、位相差を考慮した境界条件を設定して、級数解として導出したものである。 求めた解の妥当性を検証するために、完全液状化直前の共振時と完全液状化時を対象に、計算による動的土圧と実験による動的土圧を比較した。誘導した解による動的土圧は、最大で3割程度の誤差はあるものの、構造物を剛体と考えて算出された動的土圧に比べて、はるかに実際に近い土圧分布となっていることがわかった。また、液状化直前の共振時など、せん断剛性が初期の1/100程度で完全にゼロではない状態においても適用可能であることが示された。 これらの一連の検討により、液状化地盤との動的相互作用に伴う地中構造物の挙動や、液状化地盤が地中構造物に及ぼす影響が明らかになるとともに、簡単かつ明解な動的土圧の定量的な評価方法が提案された。 | |
審査要旨 | 本論文は、カルバートや共同溝など、解析上も剛体とは見なし得ない埋設構造物を対象として、周辺地盤が地震時に液状化した場合に、地盤から構造物へ作用する土圧について、詳細な模型実験と結果の分析を行ない、設計に有用な土圧推定手法を研究したものである。従来から埋設構造物を剛体と見なして構成されて来た土圧理論と比べて今回得られた土圧値は小さく、従来の手法が過大な土圧を与えていたことが見い出された。 本論文は全体で九章から構成されている。第一章はまえがきであり、研究を始めるにあたって既往の知見を取りまとめ、本研究の主題を定義している。 第二章は実験の方法を説明している。本研究ではせん断土槽と呼ばれる容器の中に、埋設構造物模型およびゆる詰め砂層を設け、全体を水平加振して液状化を起こさせ、構造物や地盤の応答を計測した。砂の締め固め度や加振周波数、加速度振幅を変化させて繰り返し実験を行なった。実験の回数は合計15である。 第三章では、振動台実験の結果をまとめて報告している。模型地盤中で間隙水圧が上昇するに伴って、地盤・埋設構造物の系の固有振動数が低下し、ある時点で加振振動数と一致、共振し、動的応答の最大になる現象が観察された。また、この時以降、埋設構造物の基礎と頂部の振動に、位相差が顕著になる現象も、観察された。 第四章は、本研究の核心を構成する部分である。従来の同種の研究では、振動の強弱や過剰間隙水圧の上昇率を構造物に作用する土圧に直接関連づけ、経験的な相関公式を導いたり、ないしは剛体壁の理論式の妥当性を検討することが、多かった。これに対して本研究では、構造物側壁に接触する部分の地盤では応力ひずみ関係がどのようになっているのかを実験的に再構成し、それをもとに地震時土圧の発生機構を解明することを目指した。このような作業に使用できる実験データには、地盤中の横方向土圧(土圧計で計測)、地盤の動的水平変位(水平加速度応答を二度積分)、構造物の側壁の変位と土圧(壁の曲げひずみをもとに算定)、そして地中の過剰間隙水圧があった。これらを用いれば壁に作用する土圧と地盤の水平直ひずみ(およびひずみ速度)との関係が再構成できるのみならず、地盤の水平方向のせん断応力/ひずみ関係も、構造物の影響を加味して再構成できる。従来の実務では、壁面土圧を土のひずみに関連づける応答変位法が広く使われているが、液状化問題に関しては原理的に疑問が持たれており、前者のデータ検討は、この疑問に対する解答を目指すものであった。また後者のデータ検討は、構造物の影響まで含めてより信頼性の高い研究を目指したものであり、構造物を無視するデータ検討法に比べて、はるかに妥当な応力ひずみ挙動や応力経路を得ることができた。 第五章では埋設構造物の動的応答を検討した。上記の第四章で構成したデータ検討手法にもとづき、過剰間隙水圧上昇に伴って地盤の剛性が低下する状況を定量的に追跡し、模型地盤の共振周波数低下と最大応答発生とが、定量的に把握できた。構造物頂部と底部との振動の比率(増幅度)は共振時に2.5-3.0で、このころから両者の位相差が90度に達して明瞭になった。さらに完全液状化の時点では、増幅率が1.0-1.5に下がる一方で、位相差は150度以上に拡大した。 第六章は、側壁の曲げひずみから壁のたわみ変位を逆算する作業と結果の検証に費やされている。数学的には変位逆算はひずみの鉛直方向への二回積分に過ぎないが、上述したように地盤の直ひずみの推定に重要なデータであり、論文提出者は変位推定値の検証を重視した。構造物の頂部で変位計により実測された変位時刻歴と推定値とを比較し、共振や液状化後のように変位が大きくなった時点では、両者がよく一致した。しかし、まだ変位の小さい加振初期では、両者の対応があまりよくなかった。このことから、地盤ひずみの議論は、共振の時点以降に限られる。 第七章は、埋設構造物に作用する土圧の実験データを検証する、本論文で最も重要な部分である。まず周辺地盤の水平方向のせん断応力とひずみも関係を検討し、構造物の影響を考慮することによって、要素せん断実験の結果と整合する、よい結果が得られていることを示した。次に土圧と地盤直ひずみとの相関を検討した。従来から設計によく使われる応答変位法では、土圧と直ひずみとの間に正の相関を期待し、両者の関係をバネで表現して来た。この視点から本研究の成果を再検討すると、液状化以前の、地盤に剛性が残留している状態では、ある程度の非線形性が現われるものの、応答変位法的考え方があてはまる。そして、構造物の変位を抑制する支持/抵抗機構として、地盤は機能している。しかし共振から完全液状化の段階では挙動が全く変化し、土圧と直ひずみは相関を失う。この状態で土圧を支配しているのは振動の加速度/慣性力であり、よい相関が見い出された。そして土圧の作用方向は構造物の変位を拡大する方向であり、地盤は構造物を支えるのではなく、むしろ荷重として機能している。ただし例外は、周辺地盤に正のダイレイタンシーが著しく、一時的に有効応力が回復して地盤に剛性が発生する時である。 第八章では、本研究のテーマである土圧の成果を実務に展開することを目指し、土圧の実用的な推定方法を構築した。推定結果を実測データと比較し、共振と液状化時によい一致を得るとともに、従来の剛体壁の理論では、土圧を過大推定してしまうことも示した。 第九章は全体のまとめ、今後の課題の提示である。 以上を要するに、本研究は地中構造物の耐震設計上の重要な課題である液状化問題を取り上げ、荷重としての土圧似ついて模型実験を通じて詳しい検討を行なったものである。そして従来つかわれていた考え方が不適切であることを実証し、それに代わる実用的な土圧推定法を提案した。これは地震工学上での学術および技術水準向上への貢献が著しく、よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/49038 |