No | 216007 | |
著者(漢字) | 谷口,茂夫 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | タニグチ,シゲオ | |
標題(和) | 定量的RT-PCR法の開発と、それを用いた、腎におけるEP3型プロスタグランジン受容体mRNAのネフロン内分布、および、片腎摘後のAT1A型アンジオテンシン受容体mRNA発現の解析 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 216007 | |
報告番号 | 乙16007 | |
学位授与日 | 2004.04.21 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 第16007号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 遺伝子発現の検討は,今日の医学,生命科学の研究の根幹的な分野をになっている.しかし,mRNA発現の検討に一般によく用いられるNorthern blot法などの組織のhomogenateのmRNAを抽出後検討する方法は,腎の様なheterogeneousな細胞の集合体である組織への適応には限界がある.組織内のmRNA発現のtopologyを検討するためには,in situ hybridization法がよく用いられるが,定量的な検討には適していない.一方,近年,ネフロンセグメントのmicrodissection法とRT-PCR法を組み合わせる事により,腎の組織を構成するそれぞれの細胞での特定遺伝子の発現の解析が可能になった.しかし,この方法でも,定量的な検討は難しく,遺伝子発現の調節の検討への適応には限界があった. 定量的なRT-PCRとして広く用いられている方法にcompetitive RT-PCRがある.これは,検体に対照となる核酸を一定量混じ,検出すべき核酸と対照を同一チューブ内で同じプライマーで増幅し,それぞれの産物の量を比較する事により,検体の核酸量を知るという方法である.しかし,この方法は手技的に煩雑であり,また,あらかじめ採取した検体量をの正確に測定する事が必要であるので,microdissectionnによって得たネフロンセグメントの様な極めて微量な検体への適応は容易ではなかった.そこで,我々は,簡便に用いられる新たな定量的なRT-PCR法を開発した. この方法では,competitive RT-PCRと同様,対照となる核酸を目的とする核酸と同一チューブ内で同じプライマーを用いて増幅し比較するという原理を用いた.しかし我々の方法では,細胞内のゲノムDNAをそのまま量的対照として用いる事とした.具体的には,まず組織を処理する際に,RNAとDNAを分離する過程を入れないで,両者をそのまま回収するようにする.逆転写の段階では,特殊なプライマーを用いる事によりcDNAに変異を導入する.PCRは同一エクソン上のプライマーを用いて行い,cDNAと平行してゲノムDNAの対応する部分も増幅する.mRNAの量は,変異の入ったcDNAからの産物と変異の入っていないゲノムDNAからの産物の量を比較し,その比として表す. しかし,cDNAをゲノムDNAと比較して検討が可能なのは,それら両者の量が同程度(細胞あたり数コピー)である場合に限られており,mRNA量が微量であったり,多量である場合には,この方法の適応は困難であった. この問題を解決するために,次のような方法を導入した.mRNA量が微量である場合には,cDNAとゲノムDNAを平行して増幅する前に,特別なプライマーを用いた少数サイクルのPCRにより,cDNAだけを選択的に増幅し,ゲノムDNAと比較できる量とした.その後両者を同時にPCRで増幅し,比較検討した.cDNAのみを増輻する際に,検体を複数のチューブに分注し,それぞれについて異なったサイクル数のPCRを行い,そのサイクルごとの増加率から,増幅する前のcDNA量を推定した.逆に多量に発現しているmRNAに関しては,PCRの前にゲノムDNAだけを増幅して検討した.これにより,微量なものから多量なものまで,広い範囲のmRNAに関してこの方法が適応可能となった. この新しい定量的RT-PCR法はcompetitive PCRに比して,RNAのみを抽出する過程を要せず,対照の核酸を別途に合成する必要が無く,またmRNAの量が直接細胞あたりの量として表せるので,採取した検体の量を測定する必要が無い.これらの特徴により,この方法は,特に微量な検体でのmRNAの発現の検討に適していると考えられる. プロスタグランジンE2は腎でparacrine,またはautocrine factorとして,腎機能の調節に重要な役割を果たしている.プロスタグランジンE2の受容体には,現在では,EP1からEP4の4つのタイプが知られているが,このうちGi蛋白に結合して働く型(EP3型)は腎に多量に存在する事が知られていた.そこで我々は,新たに開発した定量曲RT-PCR法を用い,マウスEP3型プロスタグランジンE2受容体mRNAのネフロン内分布を検討した.EP3型受容体mRNAは,ヘンレの太い上行脚を中心とする遠位尿細管に分布していた.この結果は,プロスタグランジンE2が腎遠位尿細管での物質輸送の調節に重要な働きをしている事を裏付ける結果であった. アンジオテンシンIIはプロスタグランジンE2と同様,腎機能の調節に重要な働きをしており,その受容体は,血管系,糸球体,尿細管に分布している事が示されている.アンジオテンシンIIは慢性腎不全の際の腎障害の進行に重要な役罰を果たしている事が,数々の基礎的な実験や,アンジオテンシン変換酵素阻害剤,受容体拮抗剤を用いた臨床的検討により示されている.腎障害時のアンジオテンシンIIの作用に関しては,糸球体での血行動態を介するものとする考えが一般的であるが,腎障害進行は,糸球体障害よりも間質尿細管での障害により強く関連するとされており,最近では,尿細管へのアンジオテンシンIIの直接作用が進行性腎障害に関与しているという知見も得られている.慢性腎不全では,機能するネフロン数の減少し,残存ネフロンへ過度な負荷がかかる事が,障害が進行する要因であると考えられており,残存腎でのその機能の生理学的検討が,慢性腎不全進行の機序の理解につながると考えられる.そこで我々は片腎摘後の残存腎でAT1A型アンジオテンシンII受容体mRNAの発現を,我々が開発した定量的RT-PCR法を用いて検討した.その結果,残存腎では,近位尿細管においてはAT1A型受容体mRNAが増加していたが,糸球体では変化は見られなかった.これは,アンジオテンシンIIの作用が残存腎の近位尿細管で増強している事を示唆する.この結果は,アンジオテンシンIIによる腎障害の進行に,その尿細管に対する直接作用が関与している可能性を支持するものであると考えられた. | |
審査要旨 | 本研究は,腎における遺伝子発現の解析のために,定量的RT-PCR法を開発し,それをmicrodissectionによって得たネフロンセグメントに用いて,マウス腎におけるEP3型プロスタグランジンE2受容体mRNAのネフロン分布,および,ラット腎におけるAT1A型アンジオテンシン受容体mRNAの片腎摘後の変化を検討したものであり,下記の結果を得ている. 1. 逆転写の段階でcDNAに変異を導入し,PCRではcDNAとゲノムDNAを平行して増幅し,ゲノムDNAを量的な対照とする事により,mRNAの量を定量するという,新たな定量的RT-PCRの開発に成功した.さらにその方法において,uracy-DNA glycosylaseを用いて,残存するRT用のプライマーを除去する事,平行したPCRの前に必要に応じてcDNAのみ,あるいはゲノムDNAのみを増幅する事により,広い範囲のmRNAに適応できるように改善した. 2. この方法を用いて,マウスるEP3型プロスタグランジンE2受容体mRNAが,太いヘンレの上行脚にもっとも多く発現し,それ以降の遠位尿細管にも発現しているが,糸球体や近位尿細管には発現していない事を示した. 3. さらに,ラット近位尿細管において,ATlA型アンジオテンシン受容体mRNAが片腎摘1週聞後に有意に増加するが,糸球体では変化しない事を示した. 以上,本論文は,新たな定量的RT-PCR法により,ごく少量の組織でのmRNAの定量的な解析が可能になり,腎では,microdissecion法と組み合わせる事により,腎でのmRNA発現の検討が詳細に行える事を示した.この結果は今後の腎臓での各種遺伝子の解明に重要な貢献をはたすと考えられ,学位の授与に値するものと考えられる. | |
UTokyo Repositoryリンク |