学位論文要旨



No 216025
著者(漢字) 風間,誠
著者(英字)
著者(カナ) カザマ,マコト
標題(和) PFIプロジェクトにおける「公益」の評価に関する基礎的研究
標題(洋)
報告番号 216025
報告番号 乙16025
学位授与日 2004.05.20
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16025号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 野城,智也
 東京大学 教授 神田,順
 東京大学 教授 國島,正彦
 東京大学 助教授 湊,隆幸
 東京大学 助教授 清家,剛
内容要旨 要旨を表示する

 国の中央建設業審議会は、平成5年12月公共調達の公共工事の発注に関し、『公共工事に関する入札・契約制度の改革について』を建議した。その結果、公共工事に対する「入札・契約制度」の、不正行為に対するチェックシステムがないことが表面化し、この問題に対して、「入札契約」手続きの「透明性」を高めるため、「不正のおきにくいシステム構築」の必要性がまとめられた。

 その後、平成6年1月 閣議了解された「公共事業の入札・契約手続きの改善に関する行動計画」や、法律127「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(「公共工事入札契約適正化法」)」平成12年11月に制定されるにいたっている。

 このような公共工事に関する入札・契約制度改革の経緯の中、本研究は、上述建議の「不正行為に対するチェックシステムがないこと」と、「不正のおきにくいシステム構築の必要性」の点に着目した。

 本研究では、その解決のための一つの方法として、公共工事の公益度合いを測定するツール「公益評価インジケーター」を提言、その中の中核部分である公益評価のための基準に関する基礎的研究により、公共工事用「公益評価基準」を研究開発することを目的としたものである。

 また、開発された公共工事用「公益評価基準」を基に、国が、「不正のおきにくいシステム構築」の一つの方法として、導入した「PFI方式」の「公益評価基準」を開発し、仮設の「公益評価インジケーター」と、仮置きの採点を行い、公益評価の有効性について検証をし、その有効性を確認した。

 結論として、本論文で開発した、「公共工事用公益評価基準」と、「PFIプロジェクト用公益評価基準」はその有効性を確認し、実務に使用することが出来ることが確認された。従って、開発されたままあるいは、テンプレートとして広く、利用普及を図りたい。

 研究の主たる内容を以下に概説する。

 はじめに、「公益」に関連性の深い4つのファセットの考察から、「公益評価基準」の開発について概説する。

 1つの目のファセットは、約100年の間に、時と人に膾炙されて人類が継承してきた「公益ノウハウ」は、人間や社会にとって普遍化されたものと考えて、歴史的な面からの考察を行なった。

 その結果、時代の前半では、公共の社会ニーズがあらわれ、公益思想が国民の共通的認識になるまでの時代となっている。2000年代に入ると、公益が社会の中で、具体的に運用されかつ、地域や市民全体の協同、連帯感および公益に対する共有意識として、透明性が求められ、それを構築する、そのカテゴリーとして公正性、客観性、競争性、経済性が認識される時代となった。また「公益」の将来のあり方が社会をどのように変えていくか、が研究テーマとなるような、成熟期初期の時代が整理された。

 2つ目のファセットは、社会を動かしている主役は、人間であることから、「人間の本性」の理解を、人間学論的面から考察した。

 その結果、人間は「5つの悪」を生まれながらにして持っていることを前提に考えるべきであることを、1900年前半のイギリスのマンデヴィルや、人間学論的な面で、哲学者などがその研究成果を残している。

 特に、公益に関して、1900年代初期にイギリスのマンデヴィルは、「人間の性悪説的な部分をどのように公益的行為にすべきか」、「悪は、元気、活力に通ずるものであり、悪人という見方は間違いであり、社会の利益につながるように「透明性」や、「公正性」をもつ社会の仕組みを作り、人間の本性を有効に活用させるべきだ」と考えている。また、この思想を経済学者の上田は、「人類がついに到達した合理的社会組織の本質を射る不朽の洞察が、18世紀初頭にあった、また、自由主義経済の根底にある思想である。」と評価している。本研究では、この思想を基に、社会の利益につながるように「透明性」や、「公正性」をもつ社会の仕組み作りや、人間の本性を有効に活用させる組織つくりを考えて考察している。

 また、人間学論的な見方からは、公益に反する諸問題の発生原因を、人間の持つ「5悪」が連鎖的に関係しあっておきていると考えられていて、人間の持つ「5悪」を基に、諸問題の理解を深めるほど、本質的な解決がされることが理解できる。

 例えば、人間学論的見方で、談合問題の本質的な原因は、「人間の5悪」のうち、人間の生存上どうしても避けられない悪が根底にあり、しかも、「変貌しやすい体質」を持つ生存上必要な「組織」とが、連鎖的に関連していることを説いている。

 従ってこれらの悪の本質を理解することにより、一つの方策として、例えば、組織化できないように、電子入札化する方法や、「人間の持つ5悪」に対する意識付けとして、直接個人に刑罰を課すなどの対策が考えられ実施されている。

 3つ目のファセットは、「公益」の扱われ方が表面化する、公共契約に関して、制度面や実務面などの調査考察を行なつた。

 公共契約の手続き」については、2つの要素があり、一つは、歴史的な法律や根本的な制度改革の出来ない事務手続き的な局面と、もう一つは社会情勢や経済情勢、国際取引等、時々刻々変化している現実の局面がある。

 本項でも、公共契約面と、現行制度や現行の法律をわけて考察し、それを融合させて公益確保のための評価項目にまとめた。

 その概要は、公共契約からは主に、「評価項目」として、「公正性」が、現行制度からは、公共契約の公正性を具体的にした、「競争性」、「客観性」、「経済性」に関する項目のカテゴリーとの融合を結論とした。

最後のファセットは、実務上の現行法律や制度あるいは、国が見直しをした法律や制度について、調査考察を行なつた。現行制度面からは、「評価項目」は、客観性、競争性、信頼性が主に整理された。

 以上4つのファセットを集約して、

 「透明性」の基に4つのカテゴリー、「公正性」、「経済性」、「客観性」、「競争性」に分類し、公益実現のための具体的方法を整理し「公共工事の公益評価基準」を開発した。

 さらにこの「公共工事の公益評価基準」を基に、PFIプロジェクト特有の業務を選択し、例えば、「審査能力の向上「市場動向の把握」、「評価委員会」、「性能発注などへの新技術の育成」、「優れた経営能力」などの固有の公益評価項目を抽出、付加しPFIプロジェクト用「公益評価基準」を開発した。

 開発した、PFIプロジェクト用「公益評価基準」の有効性を確認するために、社会実験的に実際のPFIプロジェクト事例を対象にして、仮の「公益評価インジケーター」の設定と、仮置きの点数を用いて、有効性のあることを確認した。

 一例として、プラントPFIプロジェクトの検証結果の一部を、表一1に示しその有効性のあることを確認した。

本論文は、「第1章」から「第5章」までで構成され、各章の概要を以下に述べる。

 第1章「序論」は、「研究の背景」と「研究の目的」、「用語の説明」、「論文の構成と研究の方法」で構成される。

 第2章「公益評価インジケーターの一般概念整理」は、「研究の目的」、「考察の方法」、「公益評価インジケーターのイメージ」、「実務における公益評価インジケーターの使用局面」で構成した。

 考察内容は、「公益評価インジケーター」について比喩的に、天秤ばかりの原理を用いて説明し、「公益評価インジケーター」の中核となる「公益評価基準」の階層構造につい述べた。

 第3章「公共工事のための評価基準(クライテリア)の整理」は、「本章の研究の目的と研究方法」、「公益概念に関する歴史的考察」、「公益概念に関する人間学論的考察」、「公益概念に関する公共手続きの考察」、「公益概念に関する現行制度の考察」、「公益工事の公益評価基準」の開発」で構成した。

本章の目的は、インジケーターの中核機能である評価のための基準を、開発することを自的とした。

 第4章「PFIプロジェクトの評価基準(クライテリア)の整理」は、「本章の研究の目的と方法」、「PFIプロジェクト方式の概要」、「評価基準の抽出とその開発」、「公益評価基準の有効性の確認」で構成される。

 開発した、「公益評価基準」評価の有効性の考察は、「考察の目的と方法」、「統一採点用紙の作成」、「PFIプロジェクト事例から「公益評価基準」有効性の考察」で構成した。

 第5章は、「結論と今後の課題」で構成され、各章で考察した結果と、本論文の研究テーマ考察中に派生した今後の研究課題をまとめた。

 「文献出典」は、考察項目毎に主に使用した文献を記載しているが、本項目では、各考察項目で示した文献も含めて、本研究を行なうに当たりベースになる内容の文献や、直接論文に記載した文献、や、新聞報道、事例など論文への引用や、参考にした文献類を記載した。

 以上、各項目の考察に関する概説をした。

以上

例 表-1 %表示による「経済性確保」の採点結果(単位%)

審査要旨 要旨を表示する

一般に、施設を建設するプロジェクトは、技術的にも、あるいは当事者の利害関係においても複雑であり、その施設の技術的性能仕様を決定するプロセスや、そのプロジェクトを遂行するにプロセスにおいて、当事者は複数の評価基準(クライテリア)をもとに意志決定を行っている。これらの複数の評価基準は必ずしも全てが明示的ではなく暗黙的なものもあり、かつ、評価基準間の優先度づけも必ずしも明示されないことも多い。

当該プロジェクトが、公共調達にかかわるプロジェクトの場合、建設さられる施設における公益の実現、及び実現過程における公益との適合が求められる。法令や、種々の組織のもつ諸規定類は、公益に実現・適合をうたっているがそれらは一般的な原則であり、技術的にも利害関係上も複雑なプロジェクトにおいて、意志決定の当事者が具体的に参照できるような評価基準が存在していなかった。

そのため、例えば、適用範囲が若干異なる公的技術基準への適合性が厳格に求められるがために、技術的合理性が低下し、かえって公益が低下してしまうような事例もあった。このような、硬直的運用による合理性低下を避けるために、「柔軟な運用」を当事者が行った例もあるが、それは無原則な恣意的運用を生む温床となり、倫理的な問題が介入する余地を与えてきた。特に、PFIプロジェクトは新しい公共調達方式であり、技術的にも、利害関係構成も個別的であることから、恣意性が介入する余地はより大きかった。

本論文は、このような公益の評価基準が実務上曖昧であるがために、公益が必ずしも最大化されていない現状を踏まえて、PFIプロジェクトにおいて実現される公益を増進させるため、公共工事の公益度合いを測定するツールとして「公益評価インジケーター」を開発するとともに、その有効性を検証したものである。

本論文は、公共的性格をもったプロジェクトにおける公益に関して、既往文献分析なども踏まえつつ、公益概念に関して、人間哲学、歴史的変遷、公共手続き、現行制度における諸規定など側面から考察し、本論文において用いられる公益概念を定義し、これをもとに、「公益評価基準」を階層的に作成した。

続けて、本論文では、公共工事の運用現状を分析したうえで、一般原則としての「公益評価基準」をもとに、「公共工事における公益評価基準」を整理した。さらに、PFIプロジェクトにおいて特有にする業務を、プロジェクトの分析を踏まえて抽出したうえで、これらの業務にかかわる公益評価項目を整理し、これを「公共工事における公益評価基準」に付加することにより、「PFIプロジェクトの公益評価基準」を整理した。そのうえで、これをもとにPFIプロジェクトに適用される「公益評価インジケーター」を作成している。

本論文では、作成した「公益評価インジケーター」の有効性を検証するため、いくつかのPFIプロジェクト事例を対象にして、実際に適用し、公益の差異は明確に表現できること、及び一貫性・再現性をもっていることを確かめている。

このように、本論文は、技術的意志決定と、社会経済的意志決定が交錯し、暗黙的な意志決定すらが行われてきた曖昧領域において、当事者が明示的・自覚的な意志決定を行うための手がかりをインジケーターとして与えたという意義をもっている。本論文で開発された「公益評価インジケーター」がPFIプロジェクトなど公共工事において適用されていくならば、当事者の恣意性が排除され、かつ複数の評価基準に対してもよくバランスのとれた意志決定がなされていくために有効に機能していくことが期待される。このことは、PFIプロジェクトをはじめとする公共工事における説明責任や検証可能性を高めることになり、これにより実現される公益を最大化していくことに大いに寄与していくことを意味する。このように、本論文は学術的意義と、高い社会的意義をもっている。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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