No | 216039 | |
著者(漢字) | 大塚,浩文 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | オオツカ,ヒロフミ | |
標題(和) | メタンを還元剤とする窒素酸化物選択還元用Pd系触媒の劣化に関する研究および同反応用新規触媒の開発 | |
標題(洋) | A Study on the Deactivation of Pd-based Catalysts for the Selective Catalytic Reduction of Nitrogen Oxides by Methane and Development of Novel Catalysts for the Reaction | |
報告番号 | 216039 | |
報告番号 | 乙16039 | |
学位授与日 | 2004.06.21 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(理学) | |
学位記番号 | 第16039号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 炭化水素を還元剤とする窒素酸化物の選択還元反応は、1970年代に実用化されたアンモニアを還元剤とする窒素酸化物の選択還元反応に比べ、還元剤の取り扱いや未反応で残存した還元剤の処理が容易であることから、近年活発な研究の対象となってきた。とりわけ、メタンを還元剤とする窒素酸化物の選択還元反応は、燃料として広く普及している天然ガスの主成分がメタンであるため、注目を集めてきた。これまでに、Pdイオン交換ゼオライトが水蒸気共存下でも実用レベルの活性を示すことが報告されているが、耐久性や劣化機構には不明な点も多い。 本研究の前半では、メタンを還元剤とする窒素酸化物選択還元反応におけるPdイオン交換ゼオライト触媒の耐久性を活性の経時変化測定により明らかにすると共に、試験後の触媒のキャラクタリゼーションに基づいて劣化機構を検討した。 まず、Pd-ゼオライト触媒の活性の経時変化を水蒸気の共存および非共存下で検討し、試験前後の触媒について、ラマンスペクトル、in situ赤外吸収スペクトルおよびCO吸着量の測定によりキャラクタリゼーションを行った。Pd-MOR(Si/Al比8,Pd0.47wt%)は水蒸気非共存では安定した活性を示したが、水蒸気共存下では経時的に緩やかなNOx転化率の低下を示した。Pd-ZSM-5(si/Al比25,Pd0.58wt%)では、水蒸気非共存でも緩やかなNox転化率の低下が見られ、水蒸気共存下ではNOx転化率は急速に低下した。NOx還元活性の低下とCO吸着量およびPd2+に吸着したNOの赤外バンド強度の変化は良く対応した。CO吸着量の低下した試料ではラマンスペクトルによりPdOの生成が確認された。以上の結果から、Pd-ゼオライト触媒の劣化には水蒸気が大きな影響を及ぼすこと、劣化は高分散に担持されたPdカチオンが凝集してPdOを生成するためであることが示された。 次いで、Pd担持量が活性劣化に及ぼす影響を検討した。Pd-MOR(Pd担持量0.2〜0.8wt%)のNOx還元活性は、673KではPd担持量に比例して上昇したが、773Kでは、0.2%Pd-MORが最も高いNOx転化率を示した。担持量の高い触媒では、773KのCH4-O2反応におけるメタン転化率がほぼ100%となった。(吸着CO)/(触媒中Pd)モル比は、初期は担持量によらず0.62〜0.65であったが、試験後は担持量の多いものほど低くなった。ラマンスペクトルでは、初期は担持量によらずPdOは観測されなかったが、試験後は担持量の多いものほど顕著なPdOの生成が見られた。以上の結果から、担持量の多いものでは、試験中に分散Pdカチオンの凝集が進行し、生成したPdOがメタンの単純酸化を促進して高温でのNOx転化率が低下したと考えられる。分散Pdカチオンが安定に維持されるPd担持量は0.2wt%で、これはイオン交換率では1%に過ぎない。100%付近のイオン交換率でも安定であるとされるCuやCoと、Pdとでは、担持されたカチオンの安定性が本質的に異なることが明らかとなった。 さらに、ゼオライトのSi/Al比が活性劣化に及ぼす効果について、Si/Al比15〜75、Pd担持量0.3および0.5wt%のPd-ZSM-5を用いて検討した。活性の安定性はSi/Al比が低いものほど高かった。Si/Al比15の触媒では、試験後もほとんどPdOが見られず、また分散Pd量の低下も小さかったのに対し、Si/Al比の高い触媒では、ラマンスペクトルでPdOが観測されると共に、分散Pd量の低下も著しかった。Pd-ZSM-5(Si/Al比15,Pd0.53wt%)とPd-ZSM-5(Si/Al比25,Pd0.33wt%)では、後者の方が経時的な活性低下が大きかった。単一のAlサイトにPdが担持されると考えて計算される通常のイオン交換率ではこの結果は説明し難いが、2つのAlサイトからなるAlサイトペアに担持されたPdカチオンのみが安定であると仮定すると得られた結果をよく説明できることが分かった。 以上の結果は、ゼオライトにイオン交換担持された金属カチオンの安定性に関する、Pdと他の金属との本質的な差異を示唆する。そこで、ゼオライトのAlサイトに担持された各種担持金属イオン(Co2+,Ni2+,Cu2+,Pd2+)の安定性を分子軌道計算により比較検討した。金属イオン交換ゼオライトのモデルとして、M2+(OH-)-[Al(OH)4]-およびM2+(OH-)H2O-[Al(OH)4]-を用い、BP86/LANL2DZ計算により金属イオンの凝集に関わる過程の反応熱を計算した。M2+(OH-)-[Al(OH)4]-からのMO脱離(M(OH)-Al(OH)4→H-Al(OH)4+MO)については、Pdが他の3金属よりも小さい反応熱を与えた。これはPdでは配位不飽和による不安定性が特に小さいことと関連している。本蒸気の共存下では、分子状水酸化物として脱離する機構(M(OH)-Al(OH)4+H20→H-Al(OH)4+M(OH)2)が考えられる。この過程はGibbsエネルギー増加が小さく、水蒸気の共存による金属カチオンの凝集促進に関わっている可能性がある。 以上の結果から耐久性に優れると考えられるPd-MoR(Si/Al比8,Pd0.42wt%)について、燃焼排ガスを模擬した条件で耐久試験を行った。SO2のない条件では活性低下は緩やかであったが、3ppmのSO2の共存により急速な活性低下が見られた。SO2による活性阻害は、細孔閉塞に起因している可能性があり、ゼオライト系触媒では不可避の問題である可能性がある。 本研究の後半では、硫酸根ジルコニア(SZ)を担体とする新規触媒を提案すると共に、担持された金属が反応および触媒の耐久性に関して担う役割を明らかにした。 まず、Pd-Pt/SZが、Pd/SZおよびPt/SZのいずれよりも遥かに高いNOx還元活性を示すと共に、水蒸気およびSO2の共存する条件でも高い耐久性を示すことを示し、その実用触媒としての可能性を示した。 次いで、Pd-Pt/SZ,Pd/SZ,Pt/SZをNox-CH4-O2,NOx-O2およびCH4-O2反応において詳細に検討した。NO-O2およびNO2-O2反応における反応後のNO2/(NO+NO2)比の比較から、PtがNO酸化に高い活性を持つことが示された。Pd/SZではNO2-CH4-O2反応において623KにおいてもNO2/(NO+NO2)比が0.1以下となったことから、PdがNO2とCH4の反応に高い活性を持つことが示された。また、共担持触媒と物理混合触媒は同等の活性を示した。以上の結果から、Pd-Pt/SZにおいては、PtがNOのNO2への酸化を、PdがNo2とCH4との反応を触媒する二元機能機構によりNOx還元反応が進行していると結論した。 さらに、種々の貴金属をSZに担持した触媒について、同様にNOx還元活性を検討し、各金属を(1)NOのNO2への酸化活性は低く、NO2のN2への還元活性は高い(Rh,Pd)、(2)NOのNO2への酸化活性は高く、NO2のN2への還元活性は低い(Ru,Ir,Pt)、(3)いずれにも低活性(Ag,Au)に分類した。Pd-Ptと同様の効果がRh-Ptなどの組合せでも発現することを確認した。 SZへのFeの添加が触媒活性を向上させる例が知られていることから、Pd-Pt/SZへのFeの添加効果を長期耐久試験により検討した。773Kにおいて、Pd-Pt/SZは顕著な活性低下を示したが、Pd-Pt/Fe-SZは安定したNOx還元活性を示した。メタン転化率はFeの添加により抑制された。Fe濃度依存性の検討により、Fe濃度が0.5wt%では活性の安定化は不十分であること、1〜2wt%でNOx還元活性が最大となり、4wt%ではやや低下することが示された。Pd-Pt/SZでは、耐久試験後には単斜晶が42%まで増加していたが、Fe添加量の増加と共に単斜晶の出現は抑制され、Fe濃度2wt%では、耐久試験後の単斜晶の割合は9%であることがXRDにより示された。Fe濃度4wt%では、Feの一部はα-Fe2O3を形成していることをラマンスペクトルにより確認した。以上の結果から、Pd-Pt/SZへのFeの添加によるNOx還元反応における耐久性の向上は、SZの正方晶の安定化とメタン酸化の抑制によりもたらされていることが示唆された。 上記のSZへのFeの添加による正方晶の安定化効果を詳細に検討するため、遷移金属(Fe,Co,Ni)添加SZを823K〜1023Kで焼成し、XRDおよびラマンスペクトル等により解析した。1023K焼成後の単斜晶の割合は、SZでは58%であったが、Fe添加量の増加と共に単斜晶の割合は低下し、2.7wt%Fe-SZでは13%であった。Niでも同様の効果が見られたが、Coには正方晶の安定化の効果は見られなかった。硫酸根を担持しないFe添加ジルコニアでも同様の正方晶の安定化が見られた。ジルコニアに添加されたFeが固溶により正方晶を安定化することは既に報告がある。Fe-SZの正方晶(101)回折線もFeの添加量の増大と共に広角シフトしたことから、Fe-SZにおいてもFeはSZ中に固溶していると考えられる。 前述のFe添加によるメタン酸化の抑制がもたらす効果を検討するため、Pd-Pt/遷移金属(Fe,Co,Ni)添加SZのNOx還元活性を検討し、Co,Niでは、メタンの単純酸化の抑制がNOx転化率の向上の主因であること、Feでは、これに加え酸強度の上昇など他の効果も寄与している可能性が示唆された。 以上のように、著者は本研究を通じ、Pd-ゼオライト触媒上のメタンを還元剤とする窒素酸化物の選択還元反応に関し、多角的な検討により水蒸気共存下の劣化に関して新たな知見を提示すると共に、同反応において優れた耐久性を示す硫酸根ジルコニア系の新規触媒を提案し、同触媒において各担持金属の担う役割の解明、さらには長期耐久性評価に基づいて、メタンを還元剤とする窒素酸化物の選択還元が実用技術となりうる可能性を示した。 | |
審査要旨 | 炭化水素を還元剤とする窒素酸化物の選択還元反応は、アンモニアを還元剤とする窒素酸化物の選択還元反応に比べ、還元剤の取り扱いや未反応で残存した還元剤の処理が容易であることから多くの研究がなされてきた。とりわけ、メタンを還元剤とする窒素酸化物の選択還元反応は、燃料として広く普及している天然ガスの主成分がメタンであるため注目を集め、これまでにPdイオン交換ゼオライトが水蒸気共存下でも実用レベルの活性を示すことが報告されている。しかし、耐久性や劣化機構には不明な点も多く、それら課題の解決や新たな触媒の開発が待たれている。本論文は、Pd系触媒の劣化機構と新規触媒の開発に関する研究をまとめたものである。本論文は4章よりなる。 第1章では本論文の目的と背景を述べている。 第2章では、メタンを還元剤とする窒素酸化物選択還元反応におけるPdイオン交換ゼオライト触媒の耐久性と劣化機構について述べている。触媒性能と水蒸気、Si/Al比等との相関、およびラマンスペクトル、FT-IR、CO吸着量の測定等による触媒のキャラクタリゼーションから、Alペアサイトに分散したPdカチオンが活性種であり、PdOに凝集することで劣化が起こると結論した。 第3章では、硫酸根ジルコニア(SZ)を担体とする新規Pd-Pt触媒の開発と、担持されたPdとPtの役割について述べている。まず、Pd-Pt/SZが、Pd/SZおよびPt/SZのいずれよりも遥かに高いNOx還元活性を示すと共に、水蒸気およびSO2の共存する条件でも高い耐久性を示すことを見出し、開発した触媒が実用的にも十分な性能を有することを示した。次いで、Pd-Pt/SZ,Pd/SZ,Pt/SZの特性を比較検討し、PtがNOを酸化してNO2に転換する役割を持ち、PdがNO2とCH4の反応を促進するという二元機能機構によりNOx還元反応が進行していると結論した。 第4章では、Pd-Pt/SZへのFeの添加効果を長期耐久試験により検討している。773KにおいてPd-Pt/SZは顕著な活性低下を示したが、Pd-Pt/Fe-SZは安定したNOx還元活性を示した。XRDとラマン分光法とから、FeがSZに固溶することにより主方晶から単斜晶への転換が抑制され、かつメタン酸化も抑制される結果、NOx還元活性が増大することを明らかにしている。 第5章では、本論文全体の結論と今後の展望を述べている。 以上、本研究は、Pd-ゼオライト触媒上のメタンを還元剤とする窒素酸化物の選択還元反応に関し劣化機構を分光学的解析や分子軌道計算等多角的な検討により明らかにし、同反応において実用レベルの高い活性と耐久性を示す硫酸根ジルコニア系の新規触媒の開発に成功して、各担持金属の役割を解明した。これらの成果は触媒化学に貢献するところ大である。また、本論文の研究は、本著者が主体となって考え実験を行い解析したもので、本著者の寄与は極めて大きいと判断する。 従って、博士(理学)の学位を授与できると認める。 | |
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