学位論文要旨



No 216053
著者(漢字) 葛原,隆
著者(英字)
著者(カナ) クズハラ,タカシ
標題(和) 核に局在するFK506結合蛋白質の解析 : 単離からクロマチンへの作用の解析
標題(洋) Analysis of nuclear FK506-binding protein(FKBP)
報告番号 216053
報告番号 乙16053
学位授与日 2004.07.14
学位種別 論文博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 第16053号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 堀越,正美
 東京大学 教授 入村,達郎
 東京大学 教授 堅田,利明
 東京大学 教授 嶋田,一夫
 東京大学 教授 船津,高志
内容要旨 要旨を表示する

 免疫抑制剤FK506に結合する蛋白質であるFKBP(FK506−binding protein)は、原核細胞生物から真核細胞生物まで殆どの生物種に存在しており、生体内の機能分子である蛋白質の主鎖の向きを大きく変換することのできる酵素活性(peptidyl prolyl cis/trans isomerase (PPIase)活性)を有している。またFKBPはファミリーを形成し、それぞれが核・細胞質・小胞体など細胞内の多様な場所に局在していることから、多様な蛋白質の構造変換に関与していると考えられる。

 一方、染色体から遺伝情報がどのように読みとれるのかを解明することは、生体反応の基本的課題である。染色体DNAは、ヒストンなどの蛋白質と共にクロマチン構造を形成することによって、DNAの情報が必要でない時に読まれるのを抑制しており、染色体DNAの情報が発現するには、クロマチン構造を変換する必要がある。

 FKBPが蛋白質の構造を大きく変換できる活性を有していることに着目し、核型FKBPを新規に単離し、クロマチン構造変換に作用しているかを検証した。本研究は、核型のPPIaseが蛋白質構造変換活性のみならずクロマチン構造変換活性を有するということを初めて示したものであり、高次クロマチン構造変換機構に新局面を切り開くものである。

I.核型FKBPの単離と「構造と局在性のルール」

 転写基本因子TFIIDの相互作用因子としてヒトFKBPを単離し、さらに遺伝学的・生化学的な解析が可能である酵母の新規核型FKBPも単離した。その過程で、多様なFKBPファミリーの一次構造・三次構造と細胞内局在性の間に規則性があることを見出した。

1.PPIaseドメインと局在性

 FKBPファミリーは細胞内の多様な場所に存在することから、多様な場所で多様な基質を認識すると考えられる。そこで、これらFKBPファミリーが持つPPIaseドメインの系統樹を作成し分類したところ、細胞内局在による分類と一致することを見出した。さらに、それぞれのグループに特異的なアミノ酸が存在することを見出した。グループ特異的なアミノ酸は一次構造上分散していたが、それらを立体構造上にマップすると、まとまって存在していることが判明した。新規に単離したFKBPが核局在性を示すことがこのルールから予想されたので、蛍光抗体法により検討したところ、実際に核に局在していることが判明し、予測が実証された。

2.PPIaseドメイン以外のドメインと局在性

 次にPPIaseドメイン以外のドメイン領域に注目したところ、PPlaseドメインで分類したグループに対応して、付加的なドメインの構造的特徴が分類されることがわかった。核局在型はN末領域に長いドメインを有する。その領域には、進化的高保存ドメイン、高酸性ドメイン、高塩基性ドメインなどが見出された。高保存ドメインには対応した特定の相互作用因子の存在が考えられる。高酸性および高塩基性ドメインのそれぞれの相互作用相手として、塩基性物質であるヒストンや酸性物質であるDNAなどが考えられ、核型FKBPはDNAやヒストンからなるヌクレオソームに相互作用して働くのではないかと考えた。

II.核型FKBPはヒストンシャペロン活性を有する

1.ヒストン依存スーパーコイリング活性

 前述の理由から、核型FKBPのヒストンとDNAへの相互作用を想定し、ヒストンとDNAから形成されるヌクレオソーム構造の形成活性に核型FKBPは関与するのではないかと考え、ヒストン依存スーパーコイリング活性を検討したところ、ヒストン依存に活性が見出された。この活性は核型FKBPとヒストンが1:1の分子濃度で飽和する反応性を示したことから、ヒストンとの相互作用活性を中心とした化学当量論的な反応に由来すると考えられた。

2.ヌクレオソームアレイ活性(Mnaseアッセイ)

 核型FKBPによってヌクレオソームアレイが形成されるか否かを、MNaseによるリンカーDNA切断を通してヒストン・DNA相互作用部位のDNAの長さを測ることにより検討した。その結果、1個もしくは2個のヌクレオソーム様構造に対応するDNAが観察された。1,2両活性により、核型FKBPがヒストンシャペロン活性を有すると結論づけた。

3.新しいタイプのヒストンシャペロン活性

 従来のヒストンシャペロンが主に酸性蛋白質であるのとは異なり、核型FKBPは高塩基性領域と酵素領域を有することから、ヒストンシャペロン活性としての作用機構も従来のヒストンシャペロンとは異なることが予想された。そこで反応素段階を検討したところ、NAP1を代表とする従来のヒストンシャペロンとは異なり、ヒストンとの前処理を必要としなかった。このことは、従来とは性質の異なる新しいタイプのヒストンシャペロンであることを示している。

4.ヒストンシャペロンドメインとPPIaseドメインの独立性

 核型FKBPのヒストンシャペロン活性がどのドメインにより担われているかを(1)核型特異的活性、(2)PPIase活性阻害、(3)欠失変異体を用いて検定した。

 (1)FKBPのヒストンシャペロン活性が核型特異的かどうかを検討した。細胞質型FKBPと核型FKBPを用いて、ヒストンシャペロン活性を検討したところ、細胞質型FKBPにはヒストンシャペロン活性はなく、核型特異的に活性のあることがわかった。

 (2)次にPPIase活性がヒストンシャペロン活性に必要かどうかを検討した。PPIase活性の阻害剤であるFK506を用いて、ヒストンシャペロン活性が阻害されるかどうかを検討したところ、FK506はヒストンシャペロン活性を阻害しないことが判明した。したがって、PPIase活性はヒストンシャペロン活性に効果を及ぼさないと考えられる。

 (3)上記2種類の実験から、N末側領域の非PPIaseドメインのみでヒストンシャペロン活性を発揮することが予想された。そこで核型FKBPの欠失変異体を作成し、N末側領域だけでヒストンシャベロン活性を示すかどうかを検討したところ、核型特異的なN末側領域がヒストンシャペロン活性には必要十分であることが判明した。以上3種類の実験から、核型FKBPはヒストンシャペロンドメインとPPIaseドメインの2つの独立したドメインからなる蛋白質であることがわかった。

III.核型FKBPのrDNAサイレンシング反応への関与

1.核型FKBPとrDNAサイレンシング反応

 生体内での核型FKBPのクロマチン関連反応における役割を検討した。先ず、核型FKBPの細胞内局在性を再検討したところ核小体に濃縮されていることがわかった。さらにクロマチンIP法により、核型FKBPはrDNA領域に局在していることが見出された。出芽酵母細胞においては、rDNA領域においては、ヘテロクロマチン様の構造体が形成され、遺伝子発現がサイレンシングを受けていることがわかっている。これらの知見とヒストンシャペロンといった生化学的活性の知見から、核型FKBPはrDNAサイレンシング反応に関与するのではないかと考えた。そこで、核型FKBPの欠失変異体からなる酵母細胞株を作成し、rDNAサイレンシング反応活性を検討したところ、核型FKBPの欠失によりrDNAサイレンシング反応活性が解除されることがわかった。この結果は、核型FKBPがrDNAサイレンシング反応に関与していることを意味している。

2.ヒストンシャペロンドメインとrDNAサレンシング反応

 次に核型FKBPのどの領域がrDNAサイレンシング反応に関与するかを解析した。核型FKBPの欠失変異体酵母細胞において、全長あるいはヒストンシャペロンドメインの発現により、rDNAサイレンシング反応活性は回復を示したものの、PPIaseドメインでは活性の回復は見られなかった。したがってrDNAサイレンシング反応にはヒストンシャペロンドメインだけで十分であることが判明した。このことは、核型FKBPがヒストンシャペロン活性を通してrDNAサイレンシング反応に関わっていることを示唆している。

3.PPIaseドメインによるrDNAサイレンシング反応制御

 核型FKBPのPPIaseドメインはrDNAサイレンシング反応に必須ではないと判明したが、PPIase活性はrDNAサイレンシング反応にどのように関っているのか?PPIase活性中心部位にPPIase活性の低下する点変異を導入して、PPIase活性のrDNAサイレンシング反応への役割を検討したところ、PPIase活性の低下する点変異により、rDNAサイレンシング反応活性が増強されることが判明した。この知見から、PPIase活性はrDNAサイレンシング反応に必須ではないものの、その制御には働いていると予想できる。次に、核型FKBPの点変異体がヒストンシャペロン活性の制御に関わるか否かを検討したところ、この点変異はヒストンシャペロン活性には大きく影響を与えないことが判明した。したがってPPIase活性はヒストンシャペロン活性に効果をもたらすものではなく、他のタイプのクロマチン関連因子などとの相互作用を通してrDNAサイレンシング反応の制御に関与することが考えられた。

IV.今後、解析すべき課題

1.核型FKBPのDNA構造変換に対する作用

 従来のヒストンシャペロンは、前処理としてヒストンと結合させておくことによりヒストンシャペロン活性を発揮する。一方、核型FKBPのヒストンシャペロン活性を生み出すには、ヒストンとの前処理を必要としなかったため、核型FKBPにはピストン以外の標的があるのではないかと考えた。ヌクレオソームがヒストンとDNAにより構成されていることから、核型FKBPがDNAに対して作用すると考え、検討したところ、それに即した結果が得られている。今後核型FKBPのDNAへの作用活性機構を解析していく予定である。

2.PPIaseドメインの意義

 核型FKBPのPPIaseドメインに点変異を導入し、その反応活性を解析したところ、変異核型FKBPはrDNAサイレンシング反応活性を増強するものの、ヒストンシャペロン活性には効果を持たなかった。この結果から、PPIaseドメインがrDNAサイレンシングに関与する蛋白質を標的として働いていることが考えられる。PPIaseは、クロマチン構造変換因子と遺伝学的相互作用のあることが知られていることから、PPIaseドメインのクロマチン構造変換因子に対する制御活性によりサイレンシング反応の制御を行っていることも考えられる。

 FKBPと転写基本因子との相互作用を見出しており、転写基本因子TFIIDが転写活性化時に構造変換する可能性が既に示されていることから、PPIaseを介した転写基本因子群の構造変換は転写活性化機構の新しい局面を切り拓くのに寄与するかもしれない。また、転写調節因子の中には、高プロリン領域を転写活性化ドメインとして有するものが知られており、この高プロリン領域の構造変換を介して転写制御を行う可能性がある。

 PPIaseドメインとヒストンシャペロンドメイン双方とも構造変換活性を有することを考え合わせると、両ドメインを通して核型FKBPは効率よくクロマチン機能変換を行っていることが示唆される。

3.rDNAサイレンシング反応での役割(老化への関与の可能性)

 rDNAサイレンシングには、ヒストン脱アセチル化酵素などのクロマチン因子の関与することが知られていることから、核型FKBPとそれらの因子群との協調的または阻害的な作用を遺伝学的・生化学的に解析する。

 さらに、rDNAサイレンシング反応は細胞老化と密接に関係のあることが知られていることから、核型FKBPの働きは細胞老化に関与する可能性がある。細胞老化と関連することが既に知られているヘテロクロマチン因子との機能的相互作用を検討し、老化関連因子間の相互作用ネットワークを検討していく。また、細胞老化に伴ってrDNAが円形DNAとして染色体外に放出されることが知られており、これが核型FKBPのDNAへの作用活性と関連しているのかを検討する。

FKBPのヌクレオソームアセンブリ活性

核型FKBPはヒストンシャペロン活性を有し、サイレンシングに必要である

老化研究への応用の可能性

審査要旨 要旨を表示する

 FK506は、臓器移植やアトピーなどの病気の治療に用いられる免疫抑制剤である。FK506に結合する蛋白質であるFKBP(FK506-binding protein)は、原核細胞生物から真核細胞生物まで殆どの生物種に存在しており、生体内の機能分子である蛋白質の主鎖の向きを大きく変換することのできる酵素活性(peptidyl prolyl cis/trans isomerase (PPIase)活性)を有している。またFKBPはファミリーを形成し、それぞれが核・細胞質・小胞体など細胞内の多様な場所に局在していることから、多様な蛋白質の構造変換に関与していると考えられる。

 一方、「生命の設計図」である染色体から遺伝情報がどのように読みとれるのかを解明することは、生体反応の基本的課題である。染色体DNAは、ヒストンなどの蛋白質と共にクロマチン構造を形成することによって、DNAの情報が必要でない時に読まれるのを抑制しており、染色体DNAの情報が発現するには、クロマチン構造を変換する必要がある。

 本論文では、FKBPが蛋白質の構造を大きく変換できる活性を有していることに着目し、クロマチン構造変換にも作用しているのではないかと考え、試験管内で検証しており、核型FKBP蛋白質の核型特異的ドメインがクロマチン構造変換活性の一つであるヒストンシャペロン活性を有し、しかも従来から知られるヒストンシャペロン因子とは作用機作が異なることを報告している。さらに、申請者は、核型FKBPが生体内でリボソームDNA領域のクロマチンに結合し、この領域の遺伝子発現を抑制する活性(サイレンシング活性)を有していることを発見した。また、ヒストンシャペロンドメインがこのサイレンシング活性に十分であった。これらの結果は、核型FKBPがクロマチン構造の変換を通して、リボソームDNA領域のサイレンシング反応を制御していることを示しており、FKBP分野、クロマチン分野では全く予期できなかった知見である。

 第1章においては、核型FKBPの単離と「構造と局在性のルール」について論じている。転写基本因子TFIIDの相互作用因子としてヒトFKBPを単離し、さらに遺伝学的・生化学的な解析が可能である酵母の新規核型FKBPも単離した。その過程で、多様なFKBPファミリーの一次構造・三次構造と細胞内局在性の間に規則性があることを見出している。

 FKBPファミリーは細胞内の多様な場所に存在することから、多様な場所で多様な基質を認識すると考えられる。そこで、これらFKBPファミリーが持つPPIaseドメインの系統樹を作成し分類したところ、細胞内局在による分類と一致することを見出した。さらに、それぞれのグループに特異的なアミノ酸が存在することを見出した。グループ特異的なアミノ酸は一次構造上分散していたが、それらを立体構造上にマップすると、まとまって存在していることが判明した。新規に単離したFKBPが核局在性を示すことがこのルールから予想されたので、蛍光抗体法により検討したところ、実際に核に局在していることが判明し、予測を実証している。

 次にPPIaseドメイン以外のドメイン領域に注目したところ、PPIaseドメインで分類したグループに対応して、付加的なドメインの構造的特徴が分類されることがわかった。核局在型はN末領域に長いドメインを有する。その領域には、進化的高保存ドメイン、高酸性ドメイン、高塩基性ドメインなどが見出された。高保存ドメインには対応した特定の相互作用因子の存在が考えられる。高酸性および高塩基性ドメインのそれぞれの相互作用相手として、塩基性物質であるヒストンや酸性物質であるDNAなどが考えられ、核型FKBPはDNAやヒストンからなるヌクレオソームに相互作用して働くのではないかと論じている。

 第2章においては、「核型FKBPのヒストンシャペロン活性」と、「核型FKBPのrDNAサイレンシング反応への関与」を示している。核型FKBPのヒストンとDNAへの相互作用を想定し、ヒストンとDNAから形成されるヌクレオソーム構造の形成活性に核型FKBPは関与するのではないかと考え、ヒストン依存スーパーコイリング活性を検討したところ、ヒストン依存に活性が見出されている。この活性は核型FKBPとヒストンが1:1の分子濃度で飽和する反応性を示したことから、ヒストンとの相互作用活性を中心とした化学当量論的な反応に由来するとした。核型FKBPによってヌクレオソームアレイが形成されるか否かを、MNaseによるリンカーDNA切断を通してヒストン・DNA相互作用部位のDNAの長さを測ることにより検討した結果、1個もしくは2個のヌクレオソーム様構造に対応するDNAが観察された。1,2両活性により、核型FKBPがヒストンシャペロン活性を有すると結論づけている。従来のヒストンシャペロンが主に酸性蛋白質であるのとは異なり、核型FKBPは高塩基性領域と酵素領域を有することから、ヒストンシャペロン活性としての作用機構も従来のヒストンシャペロンとは異なることが予想された。そこで反応素段階を検討したところ、NAP1を代表とする従来のヒストンシャペロンとは異なり、ヒストンとの前処理を必要としなかった。このことは、従来とは性質の異なる新しいタイプのヒストンシャペロンであることを示している。

 核型FKBPのヒストンシャペロン活性がどのドメインにより担われているかを(1)核型特異的活性、(2)PPIase活性阻害、(3)欠失変異体を用いて検定している。(1)FKBPのヒストンシャペロン活性が核型特異的かどうかを検討した。細胞質型FKBPと核型FKBPを用いて、ヒストンシャペロン活性を検討したところ、細胞質型FKBPにはヒストンシャペロン活性はなく、核型特異的に活性のあることがわかった。(2)次にPPIase活性がヒストンシャペロン活性に必要かどうかを検討した。PPIase活性の阻害剤であるFK506を用いて、ヒストンシャペロン活性が阻害されるかどうかを検討したところ、FK506はヒストンシャペロン活性を阻害しないことが判明した。したがって、PPIase活性はヒストンシャペロン活性に効果を及ぼさないと考えられた。(3)上記2種類の実験から、N末側領域の非PPIaseドメインのみでヒストンシャペロン活性を発揮することが予想された。そこで核型FKBPの欠失変異体を作成し、N末側領域だけでヒストンシャペロン活性を示すかどうかを検討したところ、核型特異的なN末側領域がヒストンシャペロン活性には必要十分であることが判明した。以上3種類の実験から、核型FKBPはヒストンシャペロンドメインとPPIaseドメインの2つの独立したドメインからなる蛋白質であることを解明した。

 生体内での核型FKBPのクロマチン関連反応における役割を検討した。先ず、核型FKBPの細胞内局在性を再検討したところ核小体に濃縮されていることがわかった。さらにクロマチンIP法により、核型FKBPはrDNA領域に局在していることが見出された。出芽酵母細胞においては、rDNA領域においては、ヘテロクロマチン様の構造体が形成され、遺伝子発現がサイレンシングを受けていることがわかっている。これらの知見とヒストンシャペロンといった生化学的活性の知見から、核型FKBPはrDNAサイレンシング反応に関与するのではないかと考えた。そこで、核型FKBPの欠失変異体からなる酵母細胞株を作成し、rDNAサイレンシング反応活性を検討したところ、核型FKBPの欠失によりrDNAサイレンシング反応活性が解除されることがわかった。この結果は、核型FKBPがrDNAサイレンシング反応に関与していることを意味している。次に核型FKBPのどの領域がrDNAサイレンシング反応に関与するかを解析した。核型FKBPの欠失変異体酵母細胞において、全長あるいはヒストンシャペロンドメインの発現により、rDNAサイレンシング反応活性は回復を示したものの、PPIaseドメインでは活性の回復は見られなかった。したがってrDNAサイレンシング反応にはヒストンシャペロンドメインだけで十分であることが判明した。このことは、核型FKBPがヒストンシャペロン活性を通してrDNAサイレンシング反応に関わっていることを示唆している。核型FKBPのPPIaseドメインはrDNAサイレンシング反応に必須ではないと判明したが、さらにPPIase活性中心部位にPPIase活性の低下する点変異を導入して、PPIase活性のrDNAサイレンシング反応への役割を検討したところ、PPIase活性の低下する点変異により、rDNAサイレンシング反応活性が増強されることを解明している。この知見から、PPIase活性はrDNAサイレンシング反応に必須ではないものの、その制御には働いていると予想できる。次に、核型FKBPの点変異体がヒストンシャペロン活性の制御に関わるか否かを検討したところ、この点変異はヒストンシャペロン活性には大きく影響を与えないことが判明した。したがってPPIase活性はヒストンシャペロン活性に効果をもたらすものではなく、他のタイプのクロマチン関連因子などとの相互作用を通してrDNAサイレンシング反応の制御に関与すると考えている。

 この核型FKBPが作用するリボソームDNA領域のクロマチン構造の変換制御と遺伝子の発現制御は細胞の老化に密接に関与することが明らかにされつつあることから、染色体DNAの遺伝子発現制御という基本的な反応のメカニズム解明だけでなく、老化研究にも寄与できると考えられる。したがってこの核型FKBPの研究により、これまで考えられてこなかったFKBPとクロマチン構造変換を介した遺伝子発現制御反応を結びつけることができ、FKBPが老化制御に対する新しい薬剤開発の標的になることも期待される。これらの成果は、遺伝子発現制御機構の要となるクロマチン構造変換制御機構に新たな機構を提唱するものである。さらに、クロマチン構造変換とPPIaseの両分野を密接に繋げる結果を示し、クロマチン分野と蛋白質のフォールディング分野の発展にも大きく貢献すると考えられる。また、免疫抑制や老化などの医薬品化学にも貢献することが期待される。したがって、本論文は博士(薬学)の学位に値するものと判定した。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/51221