学位論文要旨



No 216077
著者(漢字) 野村,敏雄
著者(英字)
著者(カナ) ノムラ,トシオ
標題(和) 近接する並列円柱群の耐風設計法に関する研究 : 鋼管・コンクリート複合構造橋脚の架設時を対象として
標題(洋)
報告番号 216077
報告番号 乙16077
学位授与日 2004.09.15
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16077号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 藤野,陽三
 東京大学 教授 神田,順
 東京大学 助教授 石原,孟
 東京大学 助教授 崔,恒
 九州工業大学 助教授 木村,吉郎
内容要旨 要旨を表示する

 道路網を中心とするインフラ整備では,近年,耐久性向上と経済性向上が強く求められ,関連する各機関においては橋梁の新技術や新工法の開発が精力的に進めれらている.

 山岳橋梁の下部工においても例外ではなく,橋脚施工の大幅な省力化と急速施工による工期短縮を図ることを目的とした工法として,鋼管・コンクリート複合構造を有する高橋脚の施工法がある.この施工方法の特徴は,内側の鋼管を立ち上げた後にコンクリートをハイブリットスリップフォーム工法で一括して打設する点にあり,これにより施工の省力化と急速化を可能にしている.しかし,数本から十数本の円柱群が鋼管直径の1.3〜2.0倍程度の中心間距離で近接する自立状態に数ヶ月にわたって晒されることになるので,風の作用が架設時の安全性を支配するため風荷重の評価が重要となる.この風の作用に対する安全性が確保できない場合,鋼管厚さの変更や補強,多段階のコンクリート打設などが必要となり,工期短縮の大きな妨げとなってしまう.

 本研究は群状構造物に作用する風外力の合理的な評価方法を確立するとともに,鋼管・コンクリート複合構造橋脚架設時の耐風設計法を確立することを目的としている。すなわち,風外力を明らかにするために実施した風洞実験および構造解析,静的照査方法および動的照査方法の提案,実橋脚の架設時における動態観測による照査方法の妥当性などについて論じている.

 まず,円柱群に作用する空力特性を明らかにするために,超臨界域における流れを乱流により模擬した二次元三分力実験および圧力測定実験を実施した.その結果,円柱群の全体に作用する抗力係数は従来の設計値より小さくなる可能性があることや,各円柱に作用する抗力係数分布が従来の仮定と異なっている事などが明らかになった.また,従来の設計法では橋軸方法と橋軸直角方向のみを対象としているが,それ以外の風向において空気力が最大となる可能性があることも明らかになった.そして,円柱間隔を直径の1.4〜2.0倍の間で変化させた場合,揚力特性は円柱間隔により作用方向が逆転することや空力モーモーメント係数は円柱間隔が小さいほど増加する傾向を示すことが明らかになった.

 静的照査方法に関しては,9〜12本の円柱で構成される3種類の円柱配置に対して,ブレースおよび横繋ぎ材で剛に連結された鋼管・コンクリート複合構造橋脚の断面力算定に使用する風荷重の載荷方向や載荷方法などを検討した.解析を通じて,鋼管群に作用する空気力は分配されるので各鋼管の断面力はほぼ等しくなることや設計においては鋼管群全体に作用する空気力を入力値として用いれば,個々の鋼管に作用する断面力を求めることが可能である事を明らかにした.これらの結果を踏まえ,鋼管間隔や鋼管配置,風荷重が卓越する風向を考慮した静的照査方法を提案した.これにより,従来と比較して合理的かつ安全に設計を行うことが可能であると考えられる.

 動的照査方法に関しては,構造物が近接する場合には複雑な振動現象が想定されることから,二次元バネ支持実験を中心に振動振幅と発現風速に関する検討を行った.この場合も超臨界域における流れを乱流により模擬した手法を用いるとともに,最大応答を把握するとともに振動の発生メカニズムを明確にするために一様流中に置いても実験を実施した.風洞実験から鋼管配置よりも鋼管間隔が渦励振の発現に大きな影響を与えることや渦励振の発生メカニズムには各鋼管から発生する渦に起因する場合と鋼管群全体から発生する渦に起因する場合の2つのタイプがあることなどが明らかになった.また,鋼管間隔が直径の1.4倍程度の時に振幅が最も大きくなることが確認された.これらの結果を踏まえ,渦励振を抑制するために必要な付加減衰を尺度とする動的照査方法を提案した.

 実橋脚の架設時挙動に関しては,加速度計を用いて応答の変動成分を計測するとともに直接変位計測をも実施して平均変位成分の検討を行った.トータルステーションによる測定値を評価するためにレーザ変位計による測定値を比較し、トータルステーションでは高振動数の振幅は除外され,概ね平均的な応答値が得られることを別途確認した.実橋脚における観測結果は実験結果に基づく予測値と概ね対応する結果が得られ,提案した照査方法の妥当性が確認された.

 第1章「序論」では本研究の背景と目的,近接する構造物,特に円柱群に関する既往研究について述べる.

 第2章「近接する円柱群の空気力特性」では,実際の橋梁で用いられる可能性の高い3段3列9本の種類の鋼管配置に対して,鋼管間隔をパラーメタとした風洞実験を行い,鋼管群全体に作用する空気力特性および各鋼管に作用する空気力特性を説明する.

 第3章「静的空気力の評価」では,鋼管連結方法や連結部材の剛性,風荷重の載荷方法の影響を調査し,鋼管に作用する断面力と応力度を評価して静的照査方法について述べる.

 第4章「動的空気力の評価」では,鋼管群に発生する振動現象を調査し,振動発生メカニズムを解明するとともに,振動抑制方法を評価して動的照査方法に関して述べる.

 第5章「実橋脚の架設時挙動」では,実構造物における動態観測結果を基に実験結果より得られた予測値の妥当性に関して検討を行う.

 第6章「結論」では鋼管群に作用する空気力特性,静的照査方法,動的照査方法,風洞実験結果と実橋脚の応答との整合性およびレイノルズ数の相似に関する今後の課題などについての結論を述べる.

 以上のように,本論文では,これまでほとんど報告例のなかった円柱群が全体として挙動する場合の空気力特性とその応答特性について検討し、風外力の合理的な評価方法を示すとともに,空気力特性に基いて鋼管群が自立状態にある場合の静的耐風設計方法および動的耐風設計方法方法を提案したこと,さらに,動態観測を実施して実験結果との整合性を検討したこと,これらにより橋脚の施工期間が大幅に短縮することが可能であると考えられることが示されている.

審査要旨 要旨を表示する

 100mに達するような鋼管・コンクリート複合高橋脚の施工の省力化,急速化を目的とした施工法の一つに,内側の鋼管を立ち上げた後にコンクリートをハイブリットスリップフォーム工法で一括して打設する工法がある.この工法では,数本から十数本の円柱群が鋼管直径の1.3〜2.0倍程度の中心間距離で近接する自立状態に数ヶ月にわたってさらされるため,風の作用が架設時の安全性を支配し,風荷重の評価が重要となる.

 本研究は,上記の鋼管・コンクリート複合構造橋脚架設工法の耐風設計法の確立を目的とし,風洞実験および構造解析に基づき,静的照査方法および動的照査方法を提案し,実橋脚の架設時における動態観測による照査方法の妥当性などを検討した論文である.

 第一章では,研究の背景,既往の研究,研究の目的と論文構成を述べている.

 第二章では,円柱群に作用する空力特性を明らかにするために行った,超臨界域における流れを乱流により模擬した二次元三分力実験および圧力測定実験とその結果を説明している.そこでは,1)円柱群の全体に作用する抗力係数は従来の設計値より小さくなる可能性がある,2)各円柱に作用する抗力係数分布が従来の仮定と異なる 3)従来の設計法では橋軸方法と橋軸直角方向のみを対象としているが,それ以外の風向において空気力が最大となる可能性がある ことなどを明らかにしている.また,円柱間隔を直径の1.4〜2.0倍の間で変化させた場合,揚力特性は円柱間隔により作用方向が逆転することや空力モーメント係数は円柱間隔が小さいほど増加する傾向があることなど,興味深い実験的知見を得ている.

 第三章では,静的照査方法に関連し,9〜12本の円柱で構成される3種類の円柱配置に対して,ブレースおよび横繋ぎ材で剛に連結された鋼管・コンクリート複合構造橋脚の断面力算定に使用する風荷重の載荷方向や載荷方法などを解析的手法により検討し,1)鋼管群に作用する空気力は分配されるので各鋼管の断面力はほぼ等しくなる,2)設計においては鋼管群全体に作用する空気力を入力値として用いれば,個々の鋼管に作用する断面力を求めることが可能である ことなどを明らかにした.これらの結果を踏まえ,鋼管間隔や鋼管配置,風荷重が卓越する風向を考慮した静的照査方法を提案した.

 第四章の動的照査方法に関しては,構造物が近接する場合に想定される複雑な空力振動現象の解明を目的に,二次元バネ支持実験を中心に振動振幅と発現風速に関する検討を行っている.ここでも超臨界域における流れを乱流により模擬した手法を用い,最大応答を把握するとともに振動の発生メカニズムを明確にするために一様流中に置いても実験を実施し,1)鋼管配置よりも鋼管間隔が渦励振の発現に大きな影響を与える,2)渦励振の発生メカニズムには各鋼管から発生する渦に起因する場合と鋼管群全体から発生する渦に起因する場合の2つのタイプがある 3)鋼管間隔が直径の1.4倍程度の時に振幅が最も大きくなる ことなどを明らかにしている.これらの結果を踏まえ,渦励振を抑制するために必要な付加減衰を尺度とする動的照査方法を提案している.

 第五章では,実橋脚の架設時挙動のモニタリングを実施し,速度計を用いた応答の変動成分を計測した.実橋脚における観測結果は実験結果に基づく予測値と概ね対応する結果が得られ,提案した照査方法の妥当性が確認された.

 第6章「結論」では鋼管群に作用する空気力特性,静的照査方法,動的照査方法,風洞実験結果と実橋脚の応答との整合性およびレイノルズ数の相似に関する今後の課題などについての結論を述べている.

 以上のように,本論文では,これまでほとんど報告例のなかった円柱群が全体として挙動する場合の空気力特性とその応答特性について検討し、風外力の合理的な評価方法を示すとともに,空気力特性に基いて鋼管群が自立状態にある場合の静的耐風設計方法および動的耐風設計方法を提案し,これらにより橋脚の施工期間が大幅に短縮することが可能であることを示している.このように,本論文は工学上多大な知見を呈示していると判断される.よって,博士(工学)の学位請求論文として合格と認める.

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/49037