学位論文要旨



No 216081
著者(漢字) 今井,義博
著者(英字)
著者(カナ) イマイ,ヨシヒロ
標題(和) 7万kW級超電導発電機の特性・性能に関する実証的試験研究
標題(洋)
報告番号 216081
報告番号 乙16081
学位授与日 2004.09.15
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16081号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 仁田,旦三
 東京大学 教授 日高,邦彦
 東京大学 教授 横山,明彦
 東京大学 助教授 大崎,博之
 東京大学 助教授 古関,隆章
 東京大学 助教授 藤井,康正
内容要旨 要旨を表示する

1.はじめに

 従来の超電導発電機の研究開発では、実用化を目指した大容量機の研究では、超電導発電機の単体としての特性、性能の実証および評価が中心であり、また、比較的小容量機の研究開発では、基本特性および、系統特性の実証に関する研究が中心であって、超電導発電機と冷凍システムを組み合わせた超電導発電システムとしてハードウエアからシステムに至る実証的研究が少ない。

 本論文では、超電導発電システムに関して、以下の5点を主要な研究課題とした。

・超電導発電機の特長、すなわち低同期リアクタンス、進相運転能力、高効率、ダンパ特性の実証と評価。

・実用機として必要と考えられる長時間の実負荷運転とDSS運転の実証と評価。

・系統事故時にも現用機と同等の信頼性を有することの実証と評価。

・実電力系統における各種電圧変動に対する超電導発電機の特性検証および評価。

・コンバインドサイクル発電等に超電導発電機を適用するにあたっての起動方法の検証と評価。

2.試験設備の概要

 試験に用いた7万kW級超電導発電機の仕様を表1に示す。超電導発電機の開発課題は多岐にわたるため、実証試験には3種類のロータ(低速応型A機、低速応型B機、超速応型機)と共用のステータを用いた。また、試験は電力系統への影響なしに実負荷試験や過酷試験が出来るM-G方式(返還負荷法)を採用した。実証試験の項目は、現用発電機の試験法(JEC-114)をベースに実用段階における超電導発電機に必要と考えられる試験項目に加え、開発機としての各種技術課題の検証を目的に計画、実施した。さらに、超電導発電機の実運用上の性能検証の充実を図るため、系統連系試験およびコンバインドサイクル発電等における起動方法に関する試験を追加実施した。

3.低速応型および超速応型超電導発機の実証試験結果と評価

 実証試験では、超電導発電機の基本的な性能および特長の実証と評価を行った。そのうち、超電導発電機の性能・特長について、実証試験結果から以下の点を明らかとした。

(1) 超電導発電機の特長の実証

・機器定数測定結果およびその解析結果から超電導発電機の低同期リアクタンスを、効率試験及びその解析から超電導発電機の高効率を実証した。

・各種負荷条件において、熱的・機械的に安定な運転特性を実証するとともに、現用機に比較して約2倍の進相運転能力を実証した。

・逆相電流試験では、JEC114で規定されている現用機の1.5倍以上の試験条件で連続逆相耐量試験および短時間逆相耐量試験を実施したが、超電導発電機に異常はなく、優れた逆相耐量を実証した。また、連続逆相試験結果から、常温ダンパの温度上昇と許容温度から逆相電流0.28pu程度までの連続運転が可能と考えられる。

・変圧器高圧側3相突発短絡に相当する試験として、短絡電流、電磁トルク、初期界磁電流、界磁電流最大変化率を等価指標として、リアクトル短絡法および異位相短絡法により想定事故と同等な条件で試験を行ったが、熱負荷、振動に異常はなく、また、解析により求めた回転子各部応力に対して、材料の許容値は十分な耐力のあることを検証した。

 また、実証試験結果の評価から、超電導発電機の設計および運用に関して下記の知見を得た。

・超電導発電機は、ロータとステータの両方の巻線が非磁性体に装着された空隙巻線構造となるため、磁気回路設計において3次元電磁界解析が必要である。

・超電導発電機の界磁巻線抵抗はほぼ零であることから、時定数は現用機に比較して一桁以上大きくなる。しかしながら実用上は、励磁電源の内部抵抗に大きく依存することから、ブラシに加え励磁電源の等価的な抵抗を考慮して時定数を算出する必要がある。

・超電導発電機固定子の磁気シールド端部構造は、損失低減の観点からテーパーコア構造とする必要がある。

・ダンパシールド特性は、その磁気遮蔽効果は、低速応型では0.1Hz程度から、超速応型では数Hz程度から顕著となり、逆相成分周波数(120Hz)でそれぞれ10-3および10-4オーダーとその特性は、設計値と実測値が良く一致し設計手法の妥当性を検証した。

・発電機の出力変更時における液体ヘリウムの供給は、デュワ圧力および送液弁開度一定の条件において自律的に制御できる。

・超速応型機の巻線取付軸に使用した改良インコネル718は、わずかな磁化特性を有しており、この影響により磁束が強められ定格界磁電流は、設計値より約10%低減された。この結果より、改良インコネル材の使用により界磁巻線の仕様が緩和できることが示唆された。

・超電導発電機の励磁装置では、サイリスタ変換器が発生する5次以上の高調波のリップル電圧は、界磁巻線取付軸に渦電流損失の増加や界磁巻線の自己インダクタンスの低下、さらには界磁巻線のリップル電流増大と損失増加を引き起こす。したがって、これらの損失を低減するためにサイリスタ変換器の後に平滑回路としてL-R型フィルタを付加する必要がある。

4.系統連系試験結果と評価

 実際の電力系統システムでの超電導発電機の運転性能を検証するため、超速応型超電導発電機を77kV系の送電線を介して商用電力系統へ連系した。超電導発電機の電圧は、系統連系のため新設した変圧器の定格電圧にあわせ6.9kVとした。この連系試験において、同モデル機を超電導同期調相機として使用し、実系統の電圧変動下において安定に運転できることおよび電圧安定化効果や運転性能を実証的に明らかにした。本試験においては、励磁装置にPSS機能を付加しておらず、またダンパ構成が常温ダンパのみで、低温ダンパを有する低速応型よりダンピング力が弱いにもかかわらず、各種変動に対して良好なダンピング特性を示した。また、5機無限大系統における超電導発電機の導入による系統電圧の安定化効果についてシミュレーションを行い、現用機に比して電圧変動を安定化する効果が大きいことを明らかにした。

 さらに、超電導発電機の特長の検証として、高調波吸収効果および進相運転能力の実証を行った。高調波吸収効果については、受電点から流入する電流の高調波のフーリエ解析を行った結果、超電導機ありの場合、5次の高調波成分が超電導機なしの場合より多く、超電導発電機の高調波吸収効果を実証した。この結果、超電導発電機の高い逆相耐力を考慮すれば電力系統の高調波抑制機器として期待できる。また、進相運転の能力については、77kV系統の分路リアクトルのスケジュール運転の代替運転を行い、無効電力の安定運転に成功した。この間、超電導発電機のヘリウム液面、軸振動、フェーシング温度の異常が無く、リアクトルの代替運転が可能であることを実証した。この結果から、超電導発電機の導入により、系統の調相設備の削減が期待できる。

 以上の実証試験結果およびシミュレーションから、超電導発電機は、系統の擾乱に対して安定に運転でき、現用機に比べXdが1/3、進相運転能力が倍などの優れた性能を有することから、高い系統電圧安定化能力を有するといえる。

5.コンバインドサイクル発電等における超電導発電機の起動方式の検討

 現状のコンバインドサイクル発電システムやガスタービン発電システムでは、ガスタービン着火速度まで別途起動装置を用いて昇速する必要があるが、超電導発電機ではその構造上、現用機で用いられている方法をそのまま適用することが出来ない。このため、超電導発電機の起動方法についての検討が必要であるが、これについては従来十分な検討がなされていなかった。

 考えられる起動方法のひとつとして、超電導発電機の常温ダンパを活用して超電導発電機を誘導機として起動する方式がある。これは、低速ターニングから液体ヘリウムを安定に貯液できる回転数まで、誘導機として起動および昇速を行い。貯液完了後は、界磁巻線に通電して現用機と同様にサイリスタ起動によりタービン着火速度まで昇速する方法である。ここでは、超速応型超電導発電機を可変周波数可変電圧の定電流インバータ(VVVF)電源と組み合わせて誘導機起動方式の試験を行い、数rpmのターニング状態から液体ヘリウムの貯液が安定して出来る360rpmまで昇速できることを実証するとともに、解析により20万kW級超電導発電機でも誘導機起動方式が可能であることを明らかにした。

 実証実験に先立ち、解析により誘導機起動方式が適用可能か検討を行った。図1に電機子電流587Aにおける発生トルクとすべり周波数の結果を示す。超速応型超電導発電機の場合、巻線取付軸を代表とする極低温部材に使用している改良インコネル材の磁化の影響を受け、磁化なしに比し発生トルクが大きい。起動に必要な450Nmを十分に確保できることを確認した。

 実証試験では、超速応型超電導発電機をターニング状態から液体ヘリウムの貯液が安定して行える360rpmまで誘導機起動方式により昇速し、液体ヘリウムの貯液完了後に界磁巻線に通電した。この間、超電導発電機の振動及び各部温度に異常はなく、この結果から、この回転数以上での昇速時、超電導発電機を同期電動機としてサイリスタ起動できる可能性を見出した。さらに、解析により実用規模である20万kW級超電導発電機においても、電機子の通電電流を定格の10%以上にすれば、本起動方式が適用可能であることを明らかとした。また、貯液時の極低温部材の損失発生を抑えるには、電機子の通電電流を増加することが有効であることを明らかにした。

6.まとめ

 本研究では、超電導発電機の実用化を目指し、超電導発電機の特性、性能および実運用における性能検証の実証と評価を行った。その結果、超電導発電機の特長を実証するとともに、設計の妥当性および解析精度の確認ができ、また、系統事故時における耐力も十分であることを実証した。さらに、超電導発電システムの構築に関して新たな知見も得られた。これらの結果を通して、技術的には、超電導発電システムの実用化は、現在の技術水準で十分可能と考えられる。今後は、一層のコスト削減を図り、原動機を含めた総合検証を経て実用化に至るものと考えられる。

表1 7万kW超電導発電機の仕様

図1 誘導機起動時の発生トルク

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は「7万kW級超電導発電機の特性・性能に関する実証的試験研究」と題し,超電導発電機の実用化を目指し,超電導発電機と冷凍システムを組み合わせた超電導発電システムとしてハードウエアからシステムに至る間の実証的研究を目的とし,超電導発電機の特長の実証と評価,実用機としての運転の実証と評価,信頼性に関する実証,実系統連系時の特性と評価,コンバインドサイクル発電機としての検証と評価についてまとめたものであり,7章から構成される.

 第1章は序論で,超電導発電機開発の意義・背景・特徴・原理・構造を述べ,従来の研究における問題点と対比させながら本研究の目的と内容について述べている.

 第2章は「実証試験設備および試験内容」と題し,供試機である2種類の低速応型超電導発電機と1種類の超速応型発電機と冷凍機等を含む発電システム,およびその性能実証方法と実証試験設備について述べ,発電機としての実証試験項目及び超電導発電機特有の実証試験項目,その試験方法と原理について述べ,実系統連係試験とその方法,コンバインドサイクル発電適用実証方法について提案している.

 第3章は「低速応型超電導発電機の実証試験結果と評価」と題し,低速応型超電導発電機に関して,発電システムの効率試験,連続運転試験,DSS(Daily Start and Stop)運転,超電導界磁巻線の励磁試験,逆相耐量試験,突発短絡試験を行うと共に解析結果と比較し,設計・製作への反映とその評価について述べ,特に,進相運転領域の拡大の実証,液体ヘリウム供給自律制御の実証,磁気シールド端部の構造の提案など顕著な結果と評価を述べている.

 第4章は「超速応型超電導発電機の実証試験結果と評価」と題し,超速応型超電導発電機に関して,上記と同様な種々の実証試験を行い,その能力が実証されたことを述べており,とくに,超速応励磁の可能性の実証とその評価,巻線取り付け軸の磁化特性とその評価,速応励磁用励磁装置のあり方の提案,界磁巻線温度上昇試験方法の提案など速応励磁型超電導発電機の実証試験評価の特徴について述べている.

 第5章は「系統連系による超電導発電機の特性」と題し,超速応型超電導発電機を77kVの送電系統にかいして商用電力系統に接続し,超電導同期調相機として運転し,系統併入・解列試験,高調波電流吸収効果,分路リアクトル削減効果,負荷変動における電圧安定化効果を実証するための試験設備の構築,実証試験結果を述べ,超電導発電機の有用性を評価している.

 第6章は,「コンバインドサイクル発電等における超電導発電機の起動方法」と題し,超電導発電機の用途拡大の一つとして,高効率発電のコンバインドサイクル発電への適用を考察し,その起動方法の検討を行い,超電導発電機のダンパーを利用した誘導機起動方式を提案し,液体ヘリウム貯液から起動に至る特性を考察し,試験において実証したことを述べている.

 第7章は,「本研究の結論と実用化に関する課題」と題し,本論文の成果を総括すると共に超電導発電機の実用化に関する課題を具体的に提示し,今後の展望について述べている.

 以上これを要するに本論文は,超電導発電機の実用化を目指し,3種類の超電導発電機を用い,性能検証のための試験方法,試験の実施,設計の妥当性と解析精度の確認を行い,実受け入れ試験項目を明確化すると共に,長時間運転,DSS運転,系統連系運転,コンバインドサイクル運転など実用発電機としての超電導発電機を評価し,実証を通じて実用化への道を開いたものであり,電気工学,特に電力工学,超電導工学に貢献するところが多い.

 よって本論文は,博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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