No | 216178 | |
著者(漢字) | 森永,芳弘 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | モリナガ,ヨシヒロ | |
標題(和) | 骨転移癌による溶骨反応活性化メカニズムの解析 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 216178 | |
報告番号 | 乙16178 | |
学位授与日 | 2005.02.23 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 第16178号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 乳癌及びメラノーマの患者においては、しはしば溶骨性骨転移を発症するが、そのメカニズムは明らかとなっていない。今回、ヌードマウスに溶骨性骨転移を発症させるメラノーマ細胞株(A375M)及び乳癌細胞株(MDA-MB-231)を用いて、そのメカニズムの解析をヒト骨芽細胞様細胞株(Saos-2)及びマウス頭蓋骨培養系を用いて行った。これらの癌細胞の培養上清をヒト骨芽細胞様細胞株(Saos-2)と共に培養すると、培養液中に骨吸収促進因子が産生されることが明らかとなった。検討した結果、この骨吸収促進因子は、Saos-2より産生されるインターロイキン11(IL-11)であることが明らかとなった。骨芽細胞からのIL-11産生誘導因子としては、数多くのサイトカインやホルモンが知られているが、中和抗体を用いた検討の結果、抗TGF-β中和抗体がSaos-2からのIL-11の産生を抑制することが明らかとなった。しかしながら、これらの癌細胞の培養上清中にはTGF-β活性は認められず、Saos-2の培養上清に潜在型TGF-βの存在が確認された。癌細胞培養上清をSaos-2細胞と培養すると、活性型TGF-βが増加してくることが見出された。したがって癌細胞とSaos-2の間には、癌細胞が産生するTGF-β活性型変換因子が引き金となり、カスケード的にIL-11の産生を誘導する経路が存在することが明らかとなった。 次にIL-11の骨吸収促進活性メカニズムの解析を行った。IL-11は、マウス頭蓋骨に対して、骨吸収活性を有し、破骨細胞様細胞の数を増加させたが、類似の生物活性を有するIL-6にはそのような活性は認められなかった。マウス頭蓋骨の骨芽細胞様細胞におけるIL-11及びIL-6のレセプターの存在を確認したところ、mRNAレベルでIL-11レセプターα鎖の発現量がIL-6レセプターα鎖の発現量より明らかに多いことが明らかとなった。つまり、マウス頭蓋骨に対するIL-11とIL-6の作用発現の違いは、特異的レセプターの発現量の違いによると考えられた。またIL-11添加によってマウス頭蓋骨培養液中のプロスタグランジンE2(PGE2)が増加することも明らかとなった。インドメタシン(10-5M)、COX-2特異的阻害剤NS-398(10-5M)、デキサメタゾン(10-6M)の添加は、PGE2の産生を抑制すると同時に骨吸収促進活性も抑制した。またインドメタシンによって抑制された骨吸収促進活性は、単独では骨吸収促進活性を有しない量のPGE2の添加によって回復した。すなわち、IL-11はCOX-2によって合成されたPGE2を介する骨吸収促進活性作用を有するが、さらに産生されたPGE2の効果を増強する作用も有すると考えられた。 更に、癌細胞自身のPGE2産生能及びマウス頭蓋骨に対するPGE2産生誘導能についても検討した。溶骨性骨転移を形成するA375M及びMDA-MB-231は自身でPGE2を産生しており、いずれもインドメタシン又はNS-398の添加によって産生は阻害された。また自身ではPGE2を産生していなかった4種の乳癌細胞株(MCF-7、HBC-4、HBC-5、SK-BR-3)及び1種の前立腺癌細胞株(PC-3)の培養上清を用いてマウス頭蓋骨培養系で検討したところ、MCF-7、HBC-4、HBC-5の3種の乳癌細胞株の培養上清によりPGE2の産生が誘導され、同時に骨吸収促進活性も認められた。それらの活性はいずれもインドメタシン及びNS-398で抑制された。 以上の結果より、骨転移癌の溶骨反応においては、転移局所におけるIL-11及びPGE2(特にCOX-2によって合成されたPGE2)の産生誘導が重要な役割を果たしていると考えられ、それらは転移局所で癌細胞自信あるいは癌細胞と局所の正常細胞との相互作用により過剰産生されると考えられた。 なお本研究は、骨転移癌の溶骨反応におけるIL-11の関与、骨吸収作用におけるIL-11とPGE2関係、更にはIL-11活性におけるCOX-2の関与を初めて示したものであり、その後の研究の進展に重要な役割を果たしたものである。 | |
審査要旨 | 本研究は、癌、特に乳癌患者において臨床上問題となっている溶骨性骨転移発症メカニズムの一端を明らかにするため、ヌードマウスに溶骨性骨転移を起こすヒトメラノーマ細胞株(A375M)を主に使用し、マウス頭蓋骨骨吸収測定系にて、骨吸収活性に関与する因子の解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1.A375M細胞の培養上清をヒト骨芽細胞株(Saos-2)に添加培養したところ、培養液中の骨吸収活性が上昇していることが見出された。これにより、骨に転移したA375M細胞が転移局所の骨芽細胞を刺激して、骨吸収因子を産生誘導するというメカニズムが存在しうることが示された。 2.培養上清中のインターロイキン-11(IL-11)の濃度をELISA法で定量したところ、A375Mの培養上清をSaos-2細胞に添加培養することによって、培養液中のIL-11濃度が上昇することが示された。IL-11の生物活性測定系においても、A375Mの培養上清をSaos-2に添加培養することによって、培養液中のIL-11生物活性が上昇し、その活性は中和抗体で消失した。一方、インターロイキン-6(IL-6)の産生は誘導されなかった。更にA375Mの培養上清をSaos-2に添加培養することによって上昇した骨吸収活性は、IL-11の中和抗体によって有意に減少した。これらのことから、A375M細胞は骨芽細胞から特異的にIL-11の産生を誘導し、産生誘導されたIL-11が骨吸収因子として作用しうることが示された。 3.A375M細胞によってSaos-2細胞から産生誘導されるIL-11量は、TGF-βの中和抗体の存在によって減少することが示された。Saos-2細胞は潜在型TGF-βを産生していること、及びA375M細胞の培養上清をSaos-2細胞に添加培養すると培養液中の活性型TGF-β活性が有意に上昇すること、TGF-β1はSaos-2細胞からIL-11を産生誘導させること、が示されたことから、A375M細胞のIL-11産生誘導には、培養液中に存在する潜在型TGF-βの活性化が関与しうること、TGF-βの活性化にはA357M細胞の培養上清中の未知因子が関与しうることが示された。 4.IL-11はマウス頭蓋骨に対してプロスタグランジンE2(PGE2)産生誘導活性とともに骨吸収活性を示し、いずれの活性についても、COX阻害剤であるインドメタシン(IND)、NS-398(NS)、デキサメタゾン(DEX)によって抑制されることが示された。IL-11の骨吸収活性には、PGE2が関与しうること、関与するPGE2はCOX-2によって産生されうることが示された。 5.IL-11のマウス頭蓋骨に対する骨吸収活性はINDで抑制されるが、微量のPGE2を再添加することによって、再度活性が出現することが示された。添加された量のPGE2単独では、骨吸収活性を示さないことから、IL-11はPGE2の産生を誘導するのみならず、PGE2の活性そのものも増強させうることが示された。 以上、本論文は溶骨性骨転移能を有するA375M細胞において、溶骨活性に関与する因子の解析から、溶骨性骨転移におけるIL-11の関与を初めて示したものである。さらにIL-11の骨吸収活性におけるPGE2・COX-2の関与を初めて示したものである。本研究内容は、この分野の研究の進展に重要な役割を果たしたと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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