学位論文要旨



No 216179
著者(漢字) 国見,基瑩
著者(英字)
著者(カナ) クニミ,モトエイ
標題(和) ドーパミンはウサギと正常血圧ラットの腎臓内ナトリウム重炭酸共輸送体の作用を抑制するが自然発生高血圧ラットでは抑制しない。
標題(洋) Dopamine inhibits renal Na+ : HCO3- cotransporter in rabbits and normotensive rats but not in spontaneously hypertensive rats.
報告番号 216179
報告番号 乙16179
学位授与日 2005.02.23
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第16179号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 五十嵐,隆
 東京大学 教授 北村,唯一
 東京大学 助教授 平田,恭信
 東京大学 講師 福本,誠二
 東京大学 講師 野入,英世
内容要旨 要旨を表示する

研究目的 ドーパミンは数多くの作用を有する内因性のカテコラミンである。ドーパミンは今日では腎臓の血流動態や水分、電解質を変化させ、全身の血圧の重要な調節因子としても認識されている。このドーパミンは腎近位尿細管でL-Dopaから産出されることが知られており、腎内局所でのNa利尿作用が注目されている。特に腎近位尿細管において、ドーパミンはナトリウムポンプ(Na+,K+-ATPase)やナトリウム、プロトン交換輸送体(Na+/H+)の抑制を通じてナトリウムの再吸収を抑制していると考えられている。このドーパミンとその受容体システム(D1)の欠損は遺伝的な高血圧の病理学的な要因であると提唱されている。しかしながら、従来からの報告ではドーパミンの尿細管直接作用について一定の見解は得られておらず、ドーパミンの近位尿細管作用には不明の点も多く残っている。

方法 単離した近位尿細管機能をできるだけin vivoの条件に近づける為にノルエピネフリン(NE)を加えたダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)にて尿細管基底側を灌流した。細胞内ナトリウム濃度([Na+]i)や細胞内pH(pHi)は蛍光色素であるSBFI/AMとBCECF/AMを用いて測定した。

結果 まずウサギの近位尿細管を管腔側が虚脱した状態でDMEM+NE液を用いて微小灌流するとNaポンプが活性化し、細胞内のナトリウム濃度([Na+]I)はin vivoに近い状態(約20mM)まで低下した。この状態でドーパミンを基底側に添加すると[Na+]Iが速やかに上昇したが、この上昇反応はナトリウムポンプ(Na+,K+-ATPase)抑制剤であるウアバインによっても抑制されず、ナトリウムポンプの抑制を介したものではないことが示された。一方ナトリウム重炭酸共輸送体(NBC)のstoichiometryを調べると、DMEM+NE存在下ではin vivoと同じ1Na+:3HCO3-で機能していることが確認された。次いで溶液の重炭酸濃度低下に対するpHi低下反応を解析した結果、ドーパミンはDMEM+NE存在下でNBC活性を有意に抑制することが判明した。このドーパミンによるNBC抑制作用はDA1拮抗作用策であるSCH23390により消失し、さらにプロテインキナーゼA抑制剤であるH-89によっても消失した。またこの作用はDA2拮抗作用策であるスルピリドでは消失せず、DA1のアゴニストであるSKF38393や、細胞膜透過性のアデノシン3,5サイクリックモノフォスフェイト(CPTcAMP)により再現された。以上からドーパミンはDA1受容体を介して、細胞内cAMP濃度を増加させることによりNBC活性を抑制することが初めて示された。一方、ドーパミンによるNBC抑制作用はWKYラットではウサギと同様に認められたが、自然発生高血圧ラット(SHR)においては認められなかった。しかしCPTcAMPによるNBC活性の抑制についてはWKYとSHRで差を認めず、また炭酸脱水素阻害薬や副甲状腺ホルモンによるNBC活性の抑制についてもWKYとSHRで差を認めなかった。

結論 ドーパミンは腎近位尿細管基底側でのナトリウム重炭酸共輸送体(NBC)をD1受容体を介して抑制する。SHRではD1情報伝達系に何らかの異常があり、ドーパミンによるNBC抑制作用が欠如している。その結果起こるナトリウム貯留がSHRにおける高血圧発症に関与する可能性が示唆された。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究は水分、電解質濃度維持、全身の血圧調整や血流動態の重要な調節因子であるドーパミンについて、これの腎臓内での作用機序を明らかにする為に、ウサギ、正常血圧ラット(WKY)及び自然発生高血圧ラット(SHR)を用いて単離した腎臓の近位尿細管を微小環流させて、ドーパミンのイオン輸送チャンネルへの作用を解明し、さらにこのドーパミンとその受容体システム(DA1)の欠損が及ぼす影響について解析も試みたものであり、以下の結果を得ている。

1.これまでの実験ではintactな尿細管をリンガー溶液にて還流してもin vivoと同様の条件を保持できずにいた。例えば細胞内ナトリウム濃度は高く、膜電位は低値を示した。また細胞膜でのイオン輸送チャンネルにおけるイオン分子の輸送比率は異なっていた。その為これまでは正当な実験を施行出来なかった。しかしこれに対し、ノルエピネフリン(NE)を加えた組織培養液を用いて尿細管を還流することで、生体内と同じ条件に近づけることが可能となり、ここにおいて初めてintactな尿細管をin vitroにおいて還流実験が行えるようになった。

2.ドーパミンはこれまで腎臓近位尿細管において、ナトリウムポンプ(Na+, K+-ATPase)やナトリウム、プロトン交換輸送体(Na+/H+)の抑制を通じてナトリウムの再吸収を抑制していると考えられたが、今回の実験により、これまで思われていたこととは異なり、ナトリウム重炭酸共輸送体(NBC)を抑制することによってナトリウムの再吸収を抑制していることを初めて明らかにした。

3.このドーパミンのNBC抑制作用はDA1拮抗作用薬により消失するがDA2拮抗作用薬では消失せず、さらにPKA抑制薬によっても消失した。またこの作用は、DA1のアゴニストやDA1の細胞内シグナル伝達系のより下流に存在するアデノシン3,5サイクリックモノフォスフェイト(CPTcAMP)により再現可能であった。以上からドーパミンはDA1受容体を介して細胞内cAMP濃度を増加させることによりNBC活性を抑制することが初めて示された。

4.ドーパミンによるNBC抑制作用はWKYではウサギと同様に認められたが、SHRにおいては認められなかった。しかしCPTcAMPによるNBC活性の抑制ではWKYとSHRで差を認めず、以上からSHRにおける異常はNBC自体では無く、より上流に位置するD1情報伝達系に存在することが考えられた。

 以上、本論文はin vitroでintactな尿細管の作用をin vivoとほぼ同じ条件で実験する方法を開発し、その結果これまでの考えとは異なり、ウサギ、WKYにおいて腎近位尿細管でのドーパミンの作用はNBC活性の抑制作用を通じてナトリウムの再吸収を抑制することを発見した。この作用はD1受容体を介しており、SHRではこの部位に何らかの異常がある為にこの作用が欠如していることも明らかにした。そしてその結果生じるナトリウム貯留がSHRにおける高血圧発生に関与していることが強く示唆された。本研究は高血圧機序解明において重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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