学位論文要旨



No 216195
著者(漢字) 丸山,啓介
著者(英字)
著者(カナ) マルヤマ,ケイスケ
標題(和) 脳動静脈奇形に対する定位放射線手術後の出血リスクの経時的変化に関する統計学的検討
標題(洋)
報告番号 216195
報告番号 乙16195
学位授与日 2005.03.09
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第16195号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大友,邦
 東京大学 教授 名川,弘一
 東京大学 教授 辻,省次
 東京大学 教授 加藤,進昌
 東京大学 助教授 中川,恵一
内容要旨 要旨を表示する

背景:脳動静脈奇形 (arteriovenous malformation; AVM) は20代から40代の若年者に最も多く発症する頭蓋内血管病変である。定位放射線手術を施行すると、3年から5年の待機期間にて80%から95 %程度のAVMで血管撮影上の閉塞が得られることが知られている。この待機期間中の出血率は年間1.7%から5%であり、自然歴での出血率、年間2%から4%程度とほぼ同等であると考えられてきた。しかし、過去の報告はいずれも自然歴と比較したもののみで、同じ母集団での治療前と治療後の出血率を厳密に統計学的に比較した研究はこれまでに行われていない。また、一般的には血管撮影上の閉塞が治療のゴールと考えられているが、治療後に長期にわたって経過観察すると閉塞を確認された後にも稀ながら出血を来たす症例が近年なり散見されるようになってきている。

研究目的:(1) AVMからの出血のリスクが定位放射線手術後も閉塞までは変わらないのかどうか、変わるとした場合はどの程度変化するか、また、(2) その出血リスクは血管撮影によって閉塞を確認した後どの程度低下しているのかを検討した。

研究方法:当院でAVMに対してガンマナイフによる定位放射線手術を施行し、治療後継続的な経過観察が可能であった500例を対象とした。患者の年齢は平均31.5歳 (標準偏差 15.5歳)、出血発症が62%で、平均の最大径は平均2.1cm (標準偏差0.9cm)、辺縁線量は中央値20Gyであった。診断してから治療するまでの年数と閉塞するまでの年数を時間依存共変量と設定することによって、コックス比例ハザードモデルを用いて、治療する前後、治療してから血管撮影でAVMの閉塞が確認される前後、治療前と閉塞を確認後までのハザード比を求めた。それぞれの時間的区切りでの年間出血率も求めた。また、Kaplan-Meier法を用いて累積出血率の傾向を調べた。

結果:経過観察期間は平均6.4年 (標準偏差5.2年)であった。全観察期間は3,745人・年となり、その期間内に70の出血が確認された。出血が確認された時期は定位放射線手術前が500例中42例(8 %)、待機期間が458例中23例(5 %)、閉塞後が250例中5例(2 %)であった。年間出血率は治療前が5.0%、治療後待機期間中が1.8%、閉塞後が0.37%であった。このような段階的な出血率の減少傾向は出血で発症した群310例、出血以外で発症した群190例においても同様に認められた。比例ハザードモデルでは出血率は治療後閉塞待機中に54%減少し (ハザード比0.46、95%信頼区間: 0.26-0.80, p=0.006)、さらに閉塞後に78%減少した (ハザード比0.22、95%信頼区間: 0.08-0.61, p=0.004)。閉塞後の出血リスクは治療前の10%にまで低下していた (ハザード比0.10、95%信頼区間: 0.04-0.26, p<0.01)。出血率の低下は出血で発症した310例においてより顕著であったが、出血以外で発症した群では有意差は認められなかった。想定されるバイアスとして、(1) 一度破裂したAVMからの再出血率が自然に低下する可能性と、(2) 血管撮影で閉塞が確認される時期より相当期間前に実際の閉塞が起こっており、閉塞するまでの期間が不当に長く計算されている可能性を考えた。(1)については再出血率が高いと報告されている出血発症から1年間を除外しても結果は同様であり、Kaplan-Meier法による治療前の累積出血率の解析では再出血率の2年目以降の自然な低下は認められなかった。(2)については、血管撮影で閉塞を確認した日の半年前に実際の閉塞が起こったと仮定したが、結果は同様であり、Kaplan-Meier法による治療前の累積出血率の解析では治療後早期から出血率の低下が認められた。したがって、いずれのバイアスについても、もしあったとしても解析結果に影響する程度ではなかった。血管撮影上閉塞が確認された後に出血を来たした症例の病理学的検討では、AVMの一部には依然として閉塞に至っていない部分が認められ、これが出血の原因であることが示唆された。血管撮影の検出限界以下の血管腔が残存している可能性が否定できないことが明らかとなった。

結論:本研究によって、定位放射線手術はAVMからの出血率を治療後に54%、閉塞後にさらに78%減少させ、治療前から閉塞後では90%減少させる効果があることが明らかとなった。治療後の出血率低下には、出血後2年目以降の再出血率の自然な低下の影響や、実際の閉塞と画像上閉塞と診断する時期の解離はほとんど関与していなかった。逆に血管撮影上の閉塞後にも治療前の10%程度とわずかながら出血のリスクが残ることがわかった。したがって、定位放射線手術を施行する際には画像上消失した後にも出血する危険性が残るということを十分インフォームド・コンセントとして説明すべきである。血管撮影上の所見は、おそらく定位放射線手術後におこる一連の病理学的変化のある一点を観察しているに過ぎないと思われる。この研究結果は定位放射線手術の効果を証明する重要な意義を持っており、AVMに対する治療方針の決定に大きな影響を与えると思われる。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は20代から40代の若年者に最も多く発症する頭蓋内血管病変である脳動静脈奇形 (arteriovenous malformation; AVM) に対して、定位放射線手術を施行後の出血のリスクの経時的変化を明らかにするため、過去に治療が行われた大規模なコホート集団において統計学的解析を行ったものであり、下記の結果を得ている。

1.経過観察期間は平均6.4年 (標準偏差5.2年)であった。全観察期間は3,745人・年となり、その期間内に70の出血が確認された。出血が確認された時期は定位放射線手術前が500例中42例(8 %)、待機期間が458例中23例(5 %)、閉塞後が250例中5例(2 %)であった。

2.年間出血率は治療前が5.0%、治療後待機期間中が1.8%、閉塞後が0.37%であった。このような段階的な出血率の減少傾向は出血で発症した群310例、出血以外で発症した群190例においても同様に認められた。

3.比例ハザードモデルでは出血率は治療後閉塞待機中に54%減少し (ハザード比0.46、95%信頼区間: 0.26-0.80, p=0.006)、さらに閉塞後に78%減少した (ハザード比0.22、95%信頼区間: 0.08-0.61, p=0.004)。閉塞後の出血リスクは治療前の10%にまで低下していた (ハザード比0.10、95%信頼区間: 0.04-0.26, p<0.01)。出血率の低下は出血で発症した310例においてより顕著であったが、出血以外で発症した群では有意差は認められなかった。

4.想定されるバイアスとして、(1) 一度破裂したAVMからの再出血率が自然に低下する可能性と、(2) 血管撮影で閉塞が確認される時期より相当期間前に実際の閉塞が起こっており、閉塞するまでの期間が不当に長く計算されている可能性を考えた。(1)については再出血率が高いと報告されている出血発症から1年間を除外しても結果は同様であり、Kaplan-Meier法による治療前の累積出血率の解析では再出血率の2年目以降の自然な低下は認められなかった。(2)については、血管撮影で閉塞を確認した日の半年前に実際の閉塞が起こったと仮定したが、結果は同様であり、Kaplan-Meier法による治療前の累積出血率の解析では治療後早期から出血率の低下が認められた。したがって、いずれのバイアスについても、もしあったとしても解析結果に影響する程度ではなかった。血管撮影上閉塞が確認された後に出血を来たした症例の病理学的検討では、AVMの一部には依然として閉塞に至っていない部分が認められ、これが出血の原因であることが示唆された。血管撮影の検出限界以下の血管腔が残存している可能性が否定できないことが明らかとなった。

 以上、本論文はAVMに対して定位放射線手術は出血のリスクを治療後に54%、閉塞後にさらに78%減少させ、治療前から閉塞後では90%減少させる効果があることを明らかにした。逆に血管撮影上の閉塞後にも治療前の10%程度とわずかながら出血のリスクが残ることが明らかとなった。本研究はこれまで正しい理解が得られていなかったAVMに対する定位放射線手術の治療効果の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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