学位論文要旨



No 216205
著者(漢字) 李,允煥
著者(英字)
著者(カナ) リ,ユンハン
標題(和) 臭化リチウム水溶液のエジェクタ内断熱吸収特性と二相ノズル内膨張特性
標題(洋)
報告番号 216205
報告番号 乙16205
学位授与日 2005.03.09
学位種別 論文博士
学位種類 博士(環境学)
学位記番号 第16205号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 飛原,英治
 東京大学 教授 丸山,茂夫
 東京大学 助教授 長崎,晋也
 東京大学 助教授 大宮司,啓文
 東京大学 助教授 白樫,了
内容要旨 要旨を表示する

 民生分野のエネルギー消費の約半分は冷暖房などの空調,給湯等の熱としての消費に使われていることを考えると,分散電源を用いたコージェネレーションシステムの普及が省エネルギーにとって重要となる.民生業務部門のオフィスビル等にコージェネレーションを導入するには,排熱から効率良く冷熱を発生させる吸収冷凍機の開発が必要である.しかし, 従来の水冷吸収冷凍機は冷却塔や冷却水配管,冷却水循環ポンプなどが必要であるため機器全体が大型になってあり,吸収冷凍機の全体機器容積の小型化のためには,冷媒吸収効率向上による吸収器の小型化と空冷化による冷却塔などの補機の削除が要望される.

 空冷化を実現することによって,冷却塔や冷却水配管,冷却水循環ポンプなどと関連費用が削減できるなどの経済性や設置スペースが半減し,各階空調方式への対応が容易となるなどの設置性での利点が期待される.

 本論文では,このように熱・物質伝達過程の分離による吸収冷凍機の空冷化と吸収器の小型化という考え方に基づき,従来の流下液膜型吸収器の代わりに混合型吸収器を提案した.その手法としては,先冷却混合型吸収器と先吸引混合型吸収器の二つの新しい概念の吸収器を提案した.混合型吸収器にはエジェクタを用いており,エジェクタ内の均質二相混合流形成による気-液界面積の増大や強力な乱れを伴う気-液混合特性を吸収過程に適用することにより,吸収面積の増大,吸収速度の向上などの効果が期待される.第1章でその概念を述べている.

 混合型吸収器は,その作動流体の物性,作動条件などが従来のジェットポンプと異なるため,設計法を確立するには,混合型吸収器を構成する各要素の流動特性とそれと関連する吸収特性を把握することが重要となる.そのため本論文では,先冷却混合型吸収器におけるエジェクタ内流動と断熱吸収,そして先吸引混合型吸収器における二相ノズル内膨張を取り上げ,その特性を明らかとし,設計に有用な知見とデータを取得することを目的とした.すなわち,先冷却混合型吸収器におけるエジェクタに関してはエジェクタ内流動の基本的な特性,噴流パタンーの吸収量への影響に関する研究を行い,また先吸引混合型吸収器における二相膨張ノズルについては,ノズル内二相膨張特性把握,圧力アンダシュートと気液間スリップの低減手法に関する研究を行った.各々得られた知見について第2, 3, 4章で述べている.

 まず,第2章では,駆動噴流のパタンーとエジェクタ形状を変化させた臭化リチウム-水蒸気系エジェクタに対し,駆動噴流をサブクール状態とした水溶液噴流への冷媒蒸気断熱混合・吸収試験を行った.その結果,次のことがわかった.

(1)実験条件において,エジェクタ内の蒸気-水溶液二相流動はエジェクタ内でチョークしない.また,駆動流の噴流による冷媒蒸気エントレンメントは認められず,冷媒蒸気の吸引はサブクール臭化リチウム水溶液噴流への冷媒蒸気の吸収によるものである.

(2)吸収量は噴流パタンーにより相違を示すが,液流量の増加に伴う微粒化によって増加する傾向を,ノズルによってはホローコーンスプレーが最大濃度差を示した.

(3)ホローコーンスプレーの場合,エジェクタ内全体吸収量の85 %が強い乱れとサブクールにより長さ10-15 mm程度の液シート領域内で行われる.

 第3章では,末広部形状をパラメタとした先吸引混合型吸収器用先細末広ノズルに対し,入口をサブクール臭化リチウム水溶液とした流動実験と解析を行った.その結果,次のことがわかった.

(1)本実験条件において喉部付近の流動状態は喉部エッジを初生点とする蒸気生成を伴う液ジェット流であり,下流のノズル末広部はミスト流であった.

(2)喉部には圧力アンダシュートが存在し,入口温度の上昇とともに増加する傾向を,Rec数の増加とともに減少する傾向を示す.

(3)ノズル流出係数は本実験条件範囲において0.93の一定の値を示し,Finckeらの相関を用い算出した臨界流量は実験値と良く一致する.

(4)圧力分布測定と解析結果からノズル末広部内の流れは気液間スリップが大きいが,広がり角が小さい場合,気液間スリップは低減する.

(5)先細部からの液ジェット流は入口温度と入口圧力の上昇に伴い微粒化する傾向にあった.

 第4章では,ノズル効率低下の原因であるノズル喉部での圧力アンダシュートとノズル末広部二相流域での気液間スリップを低減させるため,喉部近傍にグリッドを設ける方法と平行喉部内でキャビテーションを発生させる方法を提案し,それが圧力アンダシュート,ノズル末広部内圧力分布に及ぼす影響を実験的に考察した.

(1)喉部直前にグリッド設置することによる乱れ効果は喉部圧力アンダシュートを低減させるが,喉部下流の末広部での気液間スリップの低減に及ぼす影響は認められない.

(2)平行部内のキャビテーション流動を観察した結果,発生したキャビテーション気泡により入口圧力の増加につれて下流はかく乱,混合される.その際,圧力アンダシュートは大幅に低減する.

(3)キャビテーション発生の際,下流側のかく乱と混合によりノズル末広部の圧力分布はシャープエッジノズルと比較し,均質平衡流れに近づくことから,気液間スリップが低減する.

 第5章では,本研究で得られた結果を総括した.

 本研究により,既存の管内縦型流下液膜吸収器の代わりに,冷却と蒸気吸収を分離する多段先冷却混合型吸収器を構成すると,大部分の蒸気吸収は非常に短い区間内で行われ,その体積は無視できる程度であるため,吸収器の大きさはエジェクタの前段階である過冷却器設計によるとの知見を得ることができた.しかし,エジェクタ内における臭化リチウム水溶液のホローコーンスプレーへの冷媒蒸気断熱吸収過程は複雑である.その解析と最適化のためには,蒸気吸収時の噴流液シートの分裂長さとシート厚み,液滴粒径分布,液滴粒子の形状と流速,管壁液膜流量,液シート,液滴,液膜への吸収機構,蒸気流の影響などが明らかにされなければならない.

 また先細末広ノズルについてはノズル内二相膨張特性とノズル噴流の微粒化特性が把握でき,ノズル平行部内でキャビテーションを発生させる方法がノズル性能改善に有効であることが示された.

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は5章からなり,第1章は序論で,第2章では先冷却混合型吸収器の構成に必要なノズル,エジェクタ内の流動特性,吸収特性を明らかにし,第3章ではノズル入口がサブクール液状態にある臭化リチウム水溶液を用いてフラッシング現象を伴う先細末広形の二相膨張ノズル内の流動を解明し,第4章では二相流ノズルの性能低下を改善する方法を考案し,それが喉部圧力アンダシュートとノズル末広部内圧力分布に及ぼす影響を解明している。第5章は結論である。

 第1章では,吸収過程の物質伝達過程と熱伝達過程を分離することによって,空冷熱交換技術を適用することができ,吸収冷凍機の空冷化が可能となるとともにそれぞれの伝達現象の促進が容易になるという考え方に基づき,従来の流下液膜型吸収器の代わりに,冷媒蒸気吸収と冷却を分離する手法として先吸引混合型吸収器と先冷却混合型吸収器の二つの新しい概念の吸収器を提案している。

 第2章では,作動条件とノズル,エジェクタ形状を変化させ,エジェクタ内の流動特性,吸収特性を明らかにするとともに,先冷却混合型吸収器の構成に必要な定量的なデータを取得するために臭化リチウム-水系エジェクタ内流動を取り上げ,実機レベル条件で臭化リチウム水溶液噴流への冷媒蒸気断熱混合・吸収試験を行っている。実験条件において,エジェクタ内の水溶液流動はエジェクタ内でチョーク現象は見られなかった。また,駆動流の噴流による冷媒蒸気エントレンメントは認められず,冷媒蒸気の吸引はサブクール臭化リチウム水溶液噴流への冷媒蒸気の吸収によるものである。吸収量は噴流パターンにより相違を示すが,液流量の増加に伴う微粒化によって増加する傾向を,ノズルによってはホローコーンスプレーでは1.56 wt%の最大濃度差を示した。ホローコーンスプレーの場合,エジェクタ内全体吸収量の85%が強い乱れとサブクールにより長さ10-15 mm 程度の液シート領域内で行われることを明らかにした。

 第3章では,ノズル入口がサブクール液状態にある臭化リチウム水溶液を用い,フラッシング現象を伴う先細末広形の二相膨張ノズル内の流動を取り上げ,実験的・解析的研究を行っている。先吸引混合型吸収器に用いるエジェクタでは,臭化リチウム水溶液の駆動流が液単相から気液二相への相変化に伴って音速値の低下により,ノズル内で二相臨界流となるため,膨張機として先細末広形の二相膨張ノズルを用いる必要がある。先細末広ノズル内喉部近傍のフラッシングの位置や形の相違は臨界流量だけでなく,先細部から流出するジェット流の分裂など,下流側の挙動にも大きく影響を及ぼす。喉部近傍の流動を観察した結果,喉部付近の流動状態は喉までの先細部流れでは壁面キャビティや液バルクからの非均質核生成による気泡生成の様子は認められず,喉部エッジを初生点とする蒸気生成を伴う液ジェット流であり,下流のノズル末広部はミスト流であった。喉部には圧力アンダシュートが存在し,入口温度の上昇とともに増加する傾向を, Rec数の増加とともに減少する傾向を示した。また,ノズル流出係数は本実験条件範囲において0.93 の一定の値を示し,Fincke らの相関を用い算出した臨界流量は実験値と良く一致する。ノズル末広部内の流れに関しては,圧力分布測定と解析結果からノズル末広部内流れの気液間スリップが大きいことがわかるが,広がり角が小さいノズルの場合,気液間スリップは低減する。先細部からの液ジェット流は入口温度と入口圧力の上昇に伴い微粒化する傾向を示した。

 臭化リチウム水溶液を作動流体とする先細末広形の二相流ノズルは,喉部に存在する圧力アンダシュートとノズル末広部の二相流域で生じる気液間スリップのため,ノズル効率が低下する。第4章では,二相流ノズルの性能低下を改善するため,喉部近傍にグリッドを設ける方法とノズル内でキャビテーションを発生させる方法を用い,それが喉部圧力アンダシュートとノズル末広部内圧力分布に及ぼす影響を検討するための実験的な研究を行っている。喉部直前にグリッド設置することによる乱れ効果は喉部圧力アンダシュートを低減させるが,喉部下流の末広部での気液間スリップの低減に及ぼす影響は少ない。平行部内のキャビテーション流動を観察した結果,発生したキャビテーション気泡により入口圧力の増加につれて下流はかく乱,混合される。その際,キャビテーション気泡の発生により相間熱非平衡が緩和され蒸気発生量が増加するため,相変化遅延による圧力アンダシュートがほとんど存在しない。キャビテーション発生の際,下流側の乱れと混合によりノズル末広部の圧力分布はシャープエッジノズルと比較し,均質平衡流れに近づき,気液間スリップが低減することを明らかにした。

 第5章は,本論文の結論である。本研究の第3章,第4章は飛原英治,竹村文男との共同研究であるが,論文提出者が主体となって分析及び検証を行ったもので,論文提出者の寄与が十分であると判断する。

 以上のように,本論文では吸収冷凍機の吸収器を熱移動と物質移動を分離させる混合型吸収器を提案し,その重要な要素機器であるノズルおよびエジェクタの性能を実験及び理論により検討し,先冷却混合型吸収器が有望であるとの知見を得ており,博士(環境学)の学位を授与できると判定する。

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