No | 216211 | |
著者(漢字) | 山口,剛 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ヤマグチ,タケシ | |
標題(和) | 都市化がアリ類の個体群システムに与える影響 | |
標題(洋) | The influence of urbanization on population systems of ants | |
報告番号 | 216211 | |
報告番号 | 乙16211 | |
学位授与日 | 2005.03.10 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(学術) | |
学位記番号 | 第16211号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 世界的規模で都市化が進行し、都市住民は増加を続けている。都市環境は人類にとって最も身近な環境と言え、都市において生物的多様性を維持することは重要な課題である。しかし、様々な人為的活動が卓越する都市において、生物的環境を保全したり、人為的攪乱後に速やかに生物的環境が回復するように配慮することは簡単なことではない。都市において生物的多様性を維持するためには、都市化が生物群集に与える影響を評価・予測して、適切な改善策をとる必要がある。本研究では、様々な生態系の指標生物として関心がもたれているアリ類と都市域に散在している公園に注目して都市化が生物群集に与える影響を評価する方法を検討し、都市における生物的多様性の維持に貢献することを目的とした。 第1章では、都市化が生物群集に与える影響を公園に生息するアリ類の種数で評価することを試みた。日本において最も都市化が進行した地域である東京23区にある公園と、その近隣に位置し都市化が進行中の千葉市にある公園のアリ類の種類を比較した。その結果、都市化が進行した東京の公園では千葉の公園に比べてアリ類の種数が貧困化していた。さらに、都市域が拡大するにつれて生じる地形改変を伴う開発行為が現存する生物群集に与える影響を推定するために、千葉市の公園のアリ類の種数と各公園がある地形域(自然地形:台地、低地、人工地形:切土地、盛土地、埋立地)の関連性を調べた。その結黒、低地と埋立地にある公園のアリの種数は他の地形域より少なかった。この結果は、これらの地形域において、都市化に伴う高度な土地利用や開発規模が著しく大きいことなどにより公園が周辺の生息場所から孤立して種(個体)の供給が困難になったことに一因があると推定された。また、公園の面積が広いほど、公園が設立されてからの時間が長いほど、アリ類の種数が増加する傾向もあった。本章の結果は、公園のアリ相は地域の生物的環境を反映していると考えられた。 第2章では、第1章で調査したデータを種レベルで分析して、都市化に敏感に反応する種を探索した。その結果、都市化に伴い出現頻度が変化する種が認められた。こうした種は都市化の進行を示す有効な生物指標として期待できる。また、収穫アリの1種であるクロナガアリの公園における分布と各公園がある地形域(自然地形:台地、低地、人工地形:切土地・盛土地、埋立地)の関連性を調べた。クロナガアリは地下4mにも及ぶ深い巣を作るので地下環境の状況を他のアリ類より敏感に反映する生物指標となることが期待されたからである。調査の結果、盛土地と埋立地の公園では本種の生息頻度が低かった。この結果は、これらの地形域で排水性が悪いことに一因があると考えられた。クロナガアリは、地下環境の状況を示す生物指標として期待できる。 都市では攪乱(開発等)が頻発する。攪乱は既存の生物群集を破壊するが、攪乱を受けた場所にはその後に周辺からの種(個体)の再侵入や残存した個体群の画復によって新たな生物群集が再形成される。攪乱を受けた個体群が回復する過程やそのメカニズムに関する知見は、その個体群が生息が続けられるような生息場所の管理方法の開発に応用することが期待できる。第3章では、事例研究として最近人為的な攪乱(公園整備の為の土木工事等)を受けた都市公園においてクロナガアリの個体(コロニー)群の変化を5年間にわたり調査した。また、第4章では同公園において本種の種内競争について研究した。アリ類の場合、個体(コロニー)群の密度は比較的安定していると一般に考えられている。また、個体群動態に種内競争が重要な役割を果たしていると推定されている。第3章の調査は、公園整備に伴う人為的攪乱の後、クロナガアリのコロニー数は増加を続けて5年後には2倍以上になったことを示した。また、人為的攪乱がそれまで生存していた一部のコロニーを消滅させ、その影響が5年後の巣の分布にも及んでいることも示唆した。隣接する巣(コロニー)同士の関係を分析した結果は、攪乱前から生き残っているコロニー(その多くはすでに充分成長したコロニーであると思われる)は、周辺に新たに侵入・定着しようとする創設コロニーを排除していることを示唆した。第4章の種内競争についての研究は、クロナガアリの隣接するコロニー間では特異な儀式的闘争が行われ、コロニー間に順位があり、コロニーサイズに著しい違いがある場合は小さい方が滅ぼされる可能性等が示された。これら第3章と第4章の結果より、人為的攪乱(土木工事等)は、既存の個体(コロニー)群の一部を破壊することのよって、創設コロニーにとって強力な競争者である成長したコロニーを排除し、新たに創設コロニーが加入する余地を創り出したと考えられる。また、この攪乱は既存の植生を破壊して新たに裸地や草地を創り出した。これは、収穫アリであるクロナガアリにとって餌である種子を多数供給する好適な環境であり、この個体群の成長を促進した可能性がある。 本研究は、都市の公園のアリ類の生息状況が地域の生物的環境を評価するうえで有効であることを示している。こうした評価は、特定の地域の生息場所の生物群集の回復の為には自然な生物のコロナイゼーションを待つか積極的に生物の導入をすべきかの判断等の検討に役立つことが期待できる。また、本研究は、都市における生物的多様性に維持に配慮した生息場所の管理方法の開発等にも貢献するであろう。第1章と第2章の結果は、都市の公園のような場所でも植栽植物の管理方法の改善や少しでも生物が生息可能な空間を増加する工夫等により、より多くの野生生物が生息できるような場所に改良できる可能性を示している。さらに、第3章と第4章の結果より、クロナガアリのような草地性の動物の個体群を維持するうえでは、既存の個体群を破壊し尽くさないような攪乱を人為的に起こすような生息場所の管理が必要であると考えられる。 本研究において、調査地として選んだ東京圏は世界最大級の都市であり、ここで得られた都市において生物的多様性を維持するうえで貢献するであろう知見は世界の都市における生物的多様性の維持にも貢献することが期待できる。 | |
審査要旨 | 本研究は、様々な生態系の指標生物として注目されているアリ類を対象として、都市化が生物群集に与える影響を評価する方法を検討し、都市における生物的多様性の維持活動に貢献することを目的としている。本論文は、4章から構成されている。 第1章では、都市化が生物群集に与える影響に関して、特に都市公園に生息するアリ類の種数で評価することを試みている。そのために、日本において最も都市化が進行した地域である東京二十三区内の41公園と、その近隣に位置し都市化が進行中の千葉市内の57公園におけるアリ類の種数を比較している。その結果、都市化が進行した東京二十三区の公園では、千葉市の公園に比べてアリ類の種数が貧困化していることを見いだしている。さらに、都市域が拡大するにつれて生じる地形改変を伴った開発行為が、現存する生物群集に与える影響を推定するために、千葉市内の公園におけるアリ類の種数と各公園がある地形の関連性を調べた。その結果、低地と埋立地にある公園のアリの種数は他の地形域より少なかった。この原因は、これらの地形域において、都市化に伴う高度な土地利用や開発規模が著しく大きいことなどによって公園が周辺の生息場所から孤立して種(個体)の供給が困難になったことにあると推定している。さらに本章では、公園の面積が広いほど、公園が設立されてからの時間が長いほど、アリ類の種数が増加する傾向も見いだしている。 第2章では、第1章で調査したデータを種レベルで分析して、都市化に敏感に反応するアリ種を探索していて、その結果、都市化に伴い出現頻度が変化するアリ種の存在を認めている。このような種類は都市化の進行を示す有効な生物指標として期待できるものである。さらに、収穫アリの1種であるクロナガアリの公園における分布と、各公園が存在する地形との関連性を調べている。クロナガアリは地下の深さ4mにも及ぶ長い巣を作るので、地下環境の状況を他のアリ類より敏感に反映する生物指標となることが期待されたからである。調査の結果、盛土地と埋立地に存在する公園においてクロナガアリの生息頻度が低かったが、その原因はこれらの地形域において排水性が悪いことと考えている。 攪乱を受けた個体群が回復する過程やそのメカニズムに関する知見から、その個体群が生息し続けられるような場所の管理方法の発展が期待できる。このような視点から、第3章では、最近になって公園整備の土木工事などで人為的な攪乱を受けた都市公園において、クロナガアリの個体群(コロニー群)の変化を5年間にわたり継続調査している。また、第4章では同公園において本種の種内競争について研究している。 第3章での調査結果は、公園整備に伴う人為的攪乱の後、クロナガアリのコロニー数は増加を続けて5年後には2倍以上になったことを示している。また、入為的攪乱がそれまで生存していた一部のコロニーを消滅させ、その影響が5年後の巣の分布にも及んでいることも見つけている。隣接する巣(コロニー)同士の関係を分析した結果では、攪乱前から生き残っているコロニーは、周辺に新たに侵入・定着しようとする創設コロニーを排除していることを明らかにしている。これらからアリ類の個体群(コロニー群)の密度は比較的安定していて、また、個体群動態に種内競争が重要な役割を果たしていると推察している。 第4章の種内競争についての研究は、クロナガアリの隣接するコロニー間で特異な儀式的闘争が行われ、コロニー間に順位があるので、もしコロニーサイズに著しい違いがある場合は小さい方が滅ぼされる可能性を示している。これら第3章と第4章の結果より、土木工事等による人為的攪乱は、既存の個体群(コロニー群)の一部を破壊することによって、創設コロニーにとって強力な競争者である成長したコロニーを排除し、新たに創設コロニーが加入する余地を創り出したとしている。 本論文の第1章と第2章の結果は、都市の公園のような場所でも植栽植物の管理方法の改善や少しでも生物が生息可能な空間を増加する工夫等により、より多くの野生生物が生息できるような場所に改良できる可能性を示している。さらに、第3章と第4章の結果より、クロナガアリのようなレリック的な草地性の動物個体群を維持するうえでは、既存の個体群を破壊し尽くさないような小規模攪乱を人為的に与えるといったアリ生息場所の管理が必要であると考えられる。このように本論文は、都市公園におけるアリ類の生息状況が、該当地域の生物的環境を評価するうえで有効であることを示している。こうした評価は、特定の地域の生息場所の生物群集の回復の為に、生物の自然なコロナイゼーションを待つか積極的に生物の導入をすべきかの判断等の検討に役立つことが期待できる。また、本論文は、都市における生物的多様性の維持に配慮した生息場所の管理方法の改善等にも貢献するであろう。本論文における研究はアリ類を生物指標として、都市公園における自然環境の評価を試みた世界的にもユニークなものであり、アリ類が指標生物として優れた特質を持つことを詳細に明らかにしていて意義が大きい。 したがって、博士(学術)の学位を授与できると認める。 | |
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