学位論文要旨



No 216220
著者(漢字) 織田,和夫
著者(英字)
著者(カナ) オダ,カズオ
標題(和) 航空写真・デジタル地図・レーザスキャナデータのフュージョンによる都市3次元モデル構築
標題(洋)
報告番号 216220
報告番号 乙16220
学位授与日 2005.03.15
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16220号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 柴崎,亮介
 東京大学 教授 安岡,善文
 東京大学 教授 桑原,雅夫
 東京大学 教授 清水,英範
 東京大学 助教授 目黒,公朗
内容要旨 要旨を表示する

1.研究の背景と目的

 都市3次元モデルの自動構築の研究では、航空写真、デジタル地図、レーザスキャナデータの3つのデータソースが利用されることが多く、これらのデータを組み合わせた多くの利用方法が提案されている。しかしながら要求される3次元モデルの詳細さによって、どのようなソースデータをどのように組み合わせるのがよいのかを研究したものはない。

 本研究の目的は航空写真、デジタル地図、レーザスキャナデータそれぞれのデータ特性とコストを考慮した統合的な都市3次元モデルの自動構築を行うことである。

2.統合的都市3次元モデル構築プロセスの提案

 本研究で提案する統合的都市3次元モデル構築プロセスは、要求されるデータ詳細度とコストに応じた次の2つの自動データ生成過程を持つ都市3次元モデル構築を行う。

・簡易モデル生成:既存データ、すなわち航空写真と既存デジタル地図のフュージョン利用による低コスト都市3次元モデル構築を行う。

・詳細モデル生成:新規にデータ取得されたレーザスキャナデータと航空写真をフュージョンし、高品質モデル構築を行う。

 更に本プロセスは、実用的な運用を考慮し、自動的にモデリングできない対象を考慮した半自動モデル生成との併用や、デジタルステレオ図化機とのコラボレーションが可能なデータ処理フローをもつ。

3.統合的都市3次元モデル構築プロセスの研究

 統合的都市3次元モデル構築プロセスを構成する次の4つの主要プロセスそれぞれの技術的課題を抽出し、解決に取り組んだ。

・ 簡易モデル生成

・ 詳細モデル生成

・ 半自動モデル生成

・ 3次元地図の都市3次元モデルへの変換

3.1.多角形窓法による簡易モデル生成手法

 簡易モデル生成では、デジタル地図と低コストに都市3次元モデルを構築するため、航空写真を利用して2次元地図の建物多角形に標高付けを行う。このとき、一般に多角形内で一定の高さではない建物屋根標高をどのように割り当てるかが課題である。そこで、点を垂直に移動させたときの画像上の軌跡に従ってマッチングを行う方法を建物多角形全体に拡張し、建物内で卓越する屋根標高を建物位置のみを選択的にマッチングする手法で計測できる手法(多角形窓法)を提案した。実験の結果、本手法では1階程度の計測精度で標高付けを行うことができることを確認した。

3.2.画像エッジ援用型面構成法による詳細モデル生成手法

 詳細モデル生成では、レーザスキャナデータをより高精細な航空写真画像とフュージョンすることによって精度のよい建物境界を抽出することが課題である。本研究で提案する画像エッジ援用型面構成法は、まず領域分割されたDSM領域に合わせて複数の画像をオルソ化し、それぞれの画像でエッジ抽出を行う。この画像のエッジ情報とDSMの境界と両方に建物の直角性を考慮したHough変換を適用し直線エッジ抽出を行う(次ページのフロー参照)。実際に航空写真画像を適用したところ、画像のエッジを援用することによって抽出される建物多角形の境界精度が改善されることを確認できた。また、レーザスキャナデータを用いた実験の結果、既存地図内に存在する建物の95%が本手法によって抽出された。

3.3.平面ステレオマッチングによる半自動モデル生成手法

 ステレオ写真計測を用いて半自動モデル生成する場合、構造物を構成する各面の輪郭を計測していくことになるが、面の輪郭を構成する点を独立に計測するため、輪郭を構成する点が4つ以上のときはこれらがひとつの平面上にあるように計測することは難しい。本研究ではこのような問題において、エピポーラ幾何条件下で画像内の一部領域内の点を平面に拘束しながら最小自乗マッチングを適用する平面マッチング手法を提案した。本手法では、ステレオ画像の一方で面の輪郭をプロットすれば、もう一方の画像上のマッチング位置を面の輪郭を平面上に拘束しながら決定することができる。更に、平面位置や方向に拘束条件を簡単に設定することも可能である。

3.4.三角柱モデルによる都市3次元モデル生成

 都市3次元モデル生成においては、多くの研究では建物モデル(DBM:Digital Building Model)とDEMに分けて表現しているが、トゥルーオルソフォトを生成する際にDBMは、モデル間の隠蔽関係の隠蔽関係が複雑になることが問題である。本研究では、都市3次元モデルを表現する方法として、DEMとDBMを区別することなく三角柱で表現する三角柱モデル(TPM:Triangular-Prism Model)を提案した。すべての構成物を三角柱で表現する三角柱モデルは一般のTINモデルの概念を拡張したものであり、デジタルステレオ図化機で扱いが容易な3次元地図から簡単に生成することができる。また、モデルを構成する三角柱同士の隠蔽関係が単純化されるため、簡便に隠蔽の順番を決定することができる。本研究では三角柱モデルの隠蔽関係の諸性質について考察し、実際に三角柱モデルを用いて実際にトゥルーオルソフォトが生成できることを示した。また、三角柱モデルと航空写真を用いてテクスチャ付都市3次元モデルを構築できることも示した。

4.統合的都市3次元モデル構築システム

 統合的都市3次元モデル構築システムここでは外部標定要素付航空写真と3次元地図の入出力について、デジタルステレオ図化機と連携し、自動処理では不十分な部分について適宜デジタルステレオ図化機で入力・修正することができるように工夫されている。

 このシステムにより、簡易モデル生成では多角形1万個あたりコストを約半分に、詳細モデル生成では計算以外のコストを0に抑えることができる。

多角形窓法

画像エッジ援用型面構成法のフロー

平面ステレオマッチング手法

テクスチャ画像付都市3次元モデル

三角柱モデルから生成されたトゥルーオルソフォト

審査要旨 要旨を表示する

 IT技術の発展に伴い、従来の地図の概念が2次元から3次元へと拡張しつつある。特に都市空間を3次元表現するモデルは、われわれが見慣れた都市空間そのものに近いものであるため、表現に具体性があり、町の案内や防災シミュレーションなど、一般市民に分かりやすい形で地理情報を提供できるものとして期待が高い。都市3次元モデルの整備を進めるには、従来地図の整備とあわせて、いかに安価なコストで都市3次元モデルを整備できる方法を開発することが重要である。

 その中で、航空写真・デジタル地図・レーザスキャナデータを組み合わせた都市3次元モデル構築を行う研究、すなわちデータフュージョンによる都市3次元モデル構築の研究が注目を集めている。しかしながら、要求される3次元モデルの詳細さによって、どのようなソースデータをどのように組み合わせるのがよいのかを研究したものはない。実作業場面では、最終的なモデルに要求される品質、すなわち形状の詳細さ・正確さ・データの新鮮度などとコストを考慮したうえで、使用するデータと処理方法を決定しなければならない。しかし、従来のデータフュージョンによる都市3次元モデル構築の研究は、各論的な研究が多く、このような統合的な視点が欠けている。本論文は、こうした問題意識に基づき、要求される都市3次元モデルの詳細さによって、データの組み合わせとその処理手法について、体系的な手法開発を行い、実証実験により検証を行ったものである。

 本論文は、8章からなっている。第1章は序論であり、研究の背景、目的、意義、これまでの研究などを述べている。第2章は航空写真と既存デジタル地図のフュージョンによる簡易モデル生成であり、最も詳細度の低い都市3次元モデルを航空写真と既存のデジタル地図から作成する手法を提案している。そのなかで角形窓法と呼ばれる建物の高さ決定方法を提案している。第3章はレーザスキャナデータと航空写真のフュージョンによる詳細モデル生成であり、より詳細度の高い都市3次元モデルの構築を目標として、レーザスキャナデータから与えられる概形をもとに、航空写真画像のエッジ抽出による3次元形状決定を効率的かつ高精度に行う手法を提案している。具体的にはレーザスキャナから得られる建物形状の精度が低いことをカバーするために、形状線の周辺にあるエッジを連結し建物形状を高精度に再構成し、同時に高さも精密に決定する手法である。第4章は、ステレオ画像を用いた半自動計測手法であり、自動構築では十分表現できない詳細な形状を計測することが必要な場合に、オペレータによる計測作業をできるだけ簡略に行うための、半自動計測手法を提案している。これは平面の輪郭を手作業で抽出したあと、射影変換の幾何的な拘束の下に、その高さ・形状を高速に計測するものである。第5章は都市3次元モデルの構造を提案している。具体的には鉛直な壁面から飲み構成されるという仮定の下で、都市構造物を3角柱の組み合わせで表現し、その見え隠れ関係を容易にソートし得ることを示した。その結果として上空から撮影される航空写真データなどをテクスチャとして投影する際に無駄な投影を避けることができることが示された。第6章は統合的都市3次元モデル構築システムというタイトルのもとに、これまでの手法を統合し、3次元モデルの構築手順について実データを用いて、作業時間などが従来手法に比べて大幅に短縮されることを示した。7章はまとめであり、結論と今後の課題を整理している。8章は3次元地理情報の情報インフラとしての未来像を提案している。

 以上まとめると、本論文は、デジタル地図、航空写真、レーザスキャナデータという一般的に入手可能なデータを組み合わせてさまざまな詳細度をもつ都市3次元モデルを構築するための体系的な手法を提案し、その効果を実証的に示した。さらに3次元モデルの構造に関しても視覚化を念頭においた効率的なモデルを提案している。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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