No | 216224 | |
著者(漢字) | 林部,充宏 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ハヤシベ,ミツヒロ | |
標題(和) | 術中幾何情報の獲得を特徴とする手術ナビゲーションに関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 216224 | |
報告番号 | 乙16224 | |
学位授与日 | 2005.03.15 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第16224号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 産業機械工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 内視鏡下外科手術において術者は術野の映像が映し出されたモニタ画面を見ながらさまざまな器具を用いて腹壁を介して間接的に臓器に触れながら手技を行うことが求められる.視覚的にも操作的にも制限された環境の中で安全性を保ちながら術者の負担を軽減するインターフェイスを提供することが工学的な支援システムによって可能となる. 本論文では術中の臓器変形を含む手術操作に関わる幾何学的な情報をリアルタイムに獲得し,積極的にこれを術中に用いることで,変化する手術環境に対応した手術ナビゲーションを可能とする技術の開発を目的とした.特に術中容易に変形する軟性臓器に対し腹腔鏡を介してその形状を高速に計測可能とし,この情報を用い術中の臓器内部構造をナビゲーション表示する技術の開発は,今後より低侵襲化に向かう手術手技の中で術者が直視できない対象臓器の幾何情報を定量的に獲得する手法として不可欠となっていくと考える.また,近年開発が進む手術ロボットの効果的な運用のためのセットアッププランニングシステムおよび手術対象となる領域の幾何情報を用いた安全管理システムは手術ロボット本体の開発に比べ,まだ研究開発が望まれる領域で本論文はロボット手術における新しい支援技術の開発を行ったものである. 本論文は全9章から構成される.以下に各章の概要について述べる. 第1章「緒言」では,本研究の背景および目的また関連研究について述べる. 第2章「術中幾何情報を用いた手術ナビゲーションシステムの設計思想」では本論文における手術ナビゲーションシステムの設計思想について述べる.手術ナビゲーションにおける術中の臓器幾何情報の重要性および手術ロボットのナビゲーションにおける安全対策のための術中幾何情報の利用について提案する. 第3章「レーザポインティング内視鏡システム」では955fps高速度カメラとガルバノレーザスキャナを用い,術中に内視鏡下で高速に三次元幾何情報を獲得するレーザポインティング内視鏡を開発について述べる.レーザポインティング内視鏡とタッチパネルモニタを用い,直感的なタッチ入力により注視点の三次元位置情報を抽出する位置指示インターフェイスを開発した.1眼2カメラ内視鏡のハーフミラープリズムを利用し,高速度カメラの画像を計測用,NTSCカラーCCDの画像を術者提示用とした.これにより0.3秒以内に注視点の位置情報を提示できるリアルタイム性を実現した.点の集合として獲得されたデータセットに対し,自動的に多面体としてサーフェスをVRML形式で記述することで幾何形状の獲得と可視化を実現した.計測精度に関しては最大誤差1mmという結果を得た.豚を用いたin-vivo実験により本システムの有効性を検証し,術中に内視鏡下の肝臓の三次元幾何情報を獲得することができた. 第4章「形状・テクスチャの高速計測とデータフュージョンのためのレーザスキャン内視鏡」では262fps高速度カメラを用い術中に腹腔鏡下で高速に三次元幾何情報及びテクスチャを獲得するレーザスキャン内視鏡を開発し,出力されたデータセットに対し多面体としてのサーフェス及び対応したビデオテクスチャを生成することで臓器幾何形状の獲得と可視化をリアルタイムに実現した.この情報を用い臓器変形の状態をリアルタイムにモニタリングすることが可能となった.また臓器幾何形状と腹腔鏡用器具先端の位置情報を用い干渉判定問題に適用することで近接状態を音で提示する機能を実装した.スキャンした幾何形状上の特徴点とあらかじめ取得しておいた術前三次元モデルとの対応点を指定することで剛体としての術中レジストレーション試験を行い,その精度検証を行った.ブタを用いたin-vivo実験において肝臓に対する本システムの動作実験により本システムの有効性を検証した. 第5章「開腹手術に適した術中生体変形計測法の開発」ではPCプロジェクタから投影した幾何学パターンとDVカメラのリアルタイムキャプチャにより術場に容易に設置でき関心部位の三次元形状とテクスチャ情報を同時に計測・可視化する開腹手術のための生体変形計測法を開発した.動物実験を行い生体に対する本システムの動作検証及び有効性を確認した.本システムによって術中随時更新される表面形状データを用い術前臓器内部構造モデルをレジストレーションし,体幹部ボリュームデータに対する現在位置のナビゲーション表示を行うことができた. 第6章「ロボット手術のための術前プランニングシステム」では腹部手術に対応した手術ロボットのための最適なトロッカーサイトの検討が可能な術前プランニングシステムを開発した.トッロカー挿入点における拘束及び手術ロボットの逆運動学計算処理により術前にda VinciおよびZEUSロボットシステムのセットアップのリハーサルを仮想空間上で行うことが可能である.ハプティックインターフェイスとの統合により,術者は実機と同じ運動学に基づき駆動される仮想手術ロボットのアームに触れながら直感的に位置決めを行い,トロッカー設置位置を検討することができる.術前に取得される臨床の患者医用画像情報を用いた本システムによるロボット手術のプランニング実験において有効性を確認した. 第7章「パッシブセイフティを実現するロボット手術ナビゲータ」では手術支援ロボットを導入した腹腔鏡下外科手術において,術者への術中幾何情報の提示と負担の軽減,およびパッシブセイフティによる患者の安全確保を行う手術ナビゲータを開発した.手術ロボットコントローラと,共有メモリによってリンクパラメータを情報管理PCの間で共有することで術中に遅れなく手術ロボットの運動を仮想空間上に再現した.レーザポインティング内視鏡により得た対象臓器の幾何情報と術中の鉗子位置情報を用い多面体同士の干渉計算を行うことで安全管理機能を実現した.位置指示インターフェイスの応用により,手術ロボットの非マスタースレーブ操作を実現した.内視鏡画像上で手術ロボットの到達目標点をタッチ入力することでその部位にロボットを直接誘導可能なロボット操作のインターフェイスを開発した.豚を用いたin-vivo実験により本システムの有効性を検証した.術中に内視鏡下の肝臓の三次元幾何情報,手術ロボット及び腹腔鏡等の機器を仮想空間上に配置することができた.これらの臓器と手術ロボットの幾何情報を用い干渉チェック技術により近接警告を行うことができた. 第8章「考察と今後の展望」では今後の展望として実際の手術室に適したナビゲーション表示装置の設計思想について述べ,手術室に組み込んだデータフュージョンディスプレイを試作し,モニタアームを動かしながら対象を観察しそれと連動して更新される術野画像に対して内部構造モデルを重畳表示した出力結果を示した.また今後望まれるナビゲーション手術に必要な技術についてまとめた. 第9章「結語」ではこれまで各章で述べた内容をまとめ,本研究を総括する. 腹腔鏡下手術・ロボット手術および手術室における術中幾何情報を用いた手術ナビゲーションに関する新しい支援システムの提案を行いその有効性を確認することができた.特に腹腔鏡下において対象臓器の幾何情報を高速に抽出可能とし,積極的にこれを用いることで遠隔的な作業が要求される腹腔鏡下手術において有効なインターフェイスを設計・開発した. | |
審査要旨 | 本論文は「術中幾何情報の獲得を特徴とする手術ナビゲーションに関する研究」と題し,術中の臓器変形を含む手術操作に関わる幾何学的な情報をリアルタイムに獲得し,積極的にこれを術中に用いることで,変化する手術環境に対応した手術ナビゲーションを可能とする技術を開発したものである.特に,腹腔鏡を介しても術中の臓器に対しその幾何的位置情報,および,形状・テクスチャを高速に抽出することを可能とすることで,既存のシステムでは有効活用されていない手術ロボットの幾何学的な運動情報と術中の臓器幾何情報とを統合管理し,その遠隔的な操作環境を安全面において支援するシステムの開発を行った. 本論文の第1章は緒言であり,本研究の背景・目的および関連研究についてまとめている. 第2章では,低侵襲手術における術中の臓器幾何情報の重要性について考察し,手術ロボットを含む外科手術における新しい手術ナビゲーションシステムの設計思想を提案した. 第3章では,955fps高速度カメラとガルバノレーザスキャナを用い,術中に内視鏡下で高速に3次元幾何情報を獲得するレーザポインティング内視鏡を開発した.高速度カメラとタッチパネルモニタを用い,直感的なタッチ入力により注視点の3次元位置情報を高速に抽出する位置指示インターフェイスを開発し,0.3秒以内に注視点の位置情報を提示できるリアルタイム性を実現した.ブタを用いたin-vivo実験により本システムの有効性を検証し,術中に内視鏡下の肝臓の3次元幾何情報を獲得することができた. 第4章では,術中に腹腔鏡下で高速に3次元幾何形状及びテクスチャを獲得するレーザスキャン内視鏡を開発し,6fpsにて臓器形状の獲得と可視化を並列に処理するシステムを実現した.また,臓器幾何形状と腹腔鏡用器具先端の位置情報を用い干渉判定問題に適用することで近接状態を音で提示する機能を実装した.さらに,スキャンした幾何形状上の特徴点とあらかじめ取得しておいた術前3Dモデルとの対応点を指定することで術中レジストレーションを行い,臓器内部構造を腹腔鏡画像上にデータフュージョン表示するシステムを開発した.in-vivo実験において肝臓に対する本システムの動作実験により本システムの有効性を検証した. 第5章では,PCプロジェクタから投影した幾何学パターンとDVカメラのリアルタイムキャプチャにより,術場に容易に設置でき関心部位の3次元形状とテクスチャ情報を同時に計測・可視化する開腹手術のための生体変形計測法を開発した.本システムによって得られた表面形状データを用い,術前の臓器内部構造モデルをレジストレーションすることで,体幹部ボリュームデータに対する現在位置のナビゲーション表示を行うことができた. 第6章では,腹部手術に対応した手術ロボットのための最適なトロッカーサイトの検討が可能な術前プランニングシステムを開発した.トッロカー挿入点における拘束及び手術ロボットの逆運動学を考慮して術前にセットアップのリハーサルを仮想空間上で行うことが可能である.ハプティックインターフェイスとの統合により,術者は実機と同じ運動学に基づき駆動される仮想手術ロボットのアームに触れながら直感的に位置決めを行い,トロッカー設置位置を検討することができる. 第7章では,手術支援ロボットを導入した腹腔鏡下外科手術において,術者への術中幾何情報の提示と負担の軽減,およびパッシブセイフティによる患者の安全確保を行う手術ナビゲータを開発した.手術ロボットコントローラと,共有メモリによってリンクパラメータを情報管理PCの間で共有することで術中に遅れなく手術ロボットの運動を仮想空間上に再現した.位置指示インターフェイスの応用により,手術ロボットの非マスタースレーブ操作を実現した.内視鏡画像上で手術ロボットの到達目標点をタッチ入力するという直感的なロボットの誘導が可能となった.豚を用いたin-vivo実験により本システムの有効性を検証した.術中に内視鏡下の肝臓の3次元幾何情報,手術ロボット及び腹腔鏡等の機器を仮想空間上にて位置管理を行い,干渉チェック技術により手術ロボットの対象臓器に対する近接警告を行うことができた. 第8章では,全体を通じての考察をまとめ,今後の展望として手術室に適したナビゲーション表示装置の設計思想について述べ,手術室に組み込んだデータフュージョンディスプレイについて解説した.モニタアームを動かしながら対象を観察しそれと連動して更新される術野画像に対して内部構造モデルを重畳表示したナビゲーション結果を示した. 第9章は結語であり,本研究の成果を要約している. 腹腔鏡下手術・ロボット手術における術中幾何情報を用いた手術ナビゲーションに関する新しい支援システムの提案を行い,その有効性を確認した.特に,腹腔鏡下において対象臓器の幾何情報を高速に抽出可能としたことは,今後より低侵襲化に向かう手術手技の中で術者が直視できない対象臓器の定量的位置情報を獲得する手法として不可欠となっていくと考える.また,近年開発が進む手術ロボットの効果的な運用のため,機構・運動学という幾何学的制約条件に依存する手術ロボットの運動に関する術前プランニングシステム,および,手術対象となる領域の幾何情報を用いた安全管理システムは手術ロボット本体の開発に比べ,まだ今後も研究開発が望まれる領域で本論文はロボット手術における新しい支援技術の開発に貢献するところが多い. よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/49039 |