No | 216229 | |
著者(漢字) | 荒谷,介和 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | アラタニ,スケカズ | |
標題(和) | 分子分散ポリマーの電荷輸送特性に関する研究 | |
標題(洋) | Charge transport properties of molecularly doped polymers | |
報告番号 | 216229 | |
報告番号 | 乙16229 | |
学位授与日 | 2005.04.11 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(理学) | |
学位記番号 | 第16229号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文では、分子分散ポリマーの電荷輸送特性に関して以下の研究を行った。 1)ドーピングする物質(4-ジトリルアミノスチレン誘導体)の分子構造の電荷輸送特性に及ぼす影響に関する研究 2)バインダポリマーの分子構造の電荷輸送特性に及ぼす影響に関する研究 3)本研究で見出した新規な高移動度材料をドーピングした分子分散ポリマーの光導電特性の研究 4)分子分散ポリマーを電子輸送層に用いた有機LEDの特性に関する研究 1)の研究においては、ドーバントのHOMOの電子密度とホール移動度が良い相関を示すことを見出した。移動度のどの因子がHOMOの電子密度との相関があるかを明らかにするため、移動度の温度及び電界強度依存性を測定し、disorderモデルを用いて解析した。その結果、disorder-free mobilityが電荷輸送特性を決定しており、HOMOの電子密度のトリフェニルアミン部分への存在割合とdisorder-free mobilityが良い相関を示すことを見出した。また、これまでに報告されている移動度に影響を及ぼす可能性のある因子(イオン化ポテンシャルなど)の影響についても検討し、それらの因子では本研究の結果を説明できないことも明らかにした。 2)の研究においては、テトラベンゾブタジエン誘導体をドープした分子分散ポリマーの電荷輸送特性を数種類のバインダポリマーについて測定し、ポリサルフォンを用いた場合に非常に移動度が小さくなることを見出した。その結果を解釈するため、吸収スペクトルや光電子スペクトルの解析を行った。 3)の研究においては、新規なトリフェニルアミン誘導体である、2-[p-di (p-tolyl)aminostyryl]-4-methylthiazoleをドプした分子分散ポリマーを用いた有機光導電体(OPC)を作製し、その光導電特性を評価した。その結果、光応答は早いが残留電位が高いことを見出した。残留電位が高い原因をOPCのゼログラフィックゲインの測定から明らかにし、電荷発生材料を適当な材料に置き換えることでその対策が可能なことを示した。 4)の研究においては、オキサジアゾール誘導体をドーピングした分子分散ポリマーを電子輸送層に用い、発光層にPPV誘導体を用いた有機LEDの特性を評価した。その結果、A1やI nの空気中で安定な電極を用いても高い発光効率を実現できることを見出した。 | |
審査要旨 | 本論文は6章から成る。 第1章は序論であり本論文の目的が述べられている。コピー機やレーザービームプリンターの感光体,有機 LEDにおいて,その電荷輸送特性が果たす役割は大きい。本論文では,ポリマーに分散した分子,およびバインダーポリマーの構造が輸送特性にどのような影響を及ぼすかを調べること,そして,この研究から得られた新規高移動度材用の光伝導特性を研究することが目的ある。 第2章では,ヘテロ環とトリフェニルアミン部分を有するスチリル化合物の分子構造と分散ポリマーの移動度との相関について述べられている。実験は各種トリフェニルアミン誘導体のドリフト移動度を飛行時間差(TOF)法で求め,解釈では半経験的分子軌道法計算を行っている。そして,トリフェニルアミン部分と複素環部分を有するスチリル誘導体を分散したポリマーのキャリア移動度は,トリフェニルアミン部分にHOMOの電子密度が大きい材料ほど移動度が大きいことを明らかにした。また,本実験によって,2-[p-di(p-tolyl) aminostyryl]-4-methylthiazole(TASMT)が高い移動度を持つことを見出した。 第3章では,分子分散ポリマーの移動度に対するバインダーポリマーの構造の影響について述べられている。具体的な系としてはブタジエン誘導体を選び,それらの移動度に対するバインダーポリマーの化学構造の影響を検討した。ポリスチレン,ポリカーボナイト,ポリエステルカーボネイトについてはその比誘電率の影響で移動度が決定されていること,ポリスルフォンの場合はTOF波形が分散型であり、移動度が非常に小さいことからトラップが存在すると考えられること,そのトラップの原因はその他のポリマーと比較して低エネルギーに存在するポリスルフォンのエネルギー準位の可能性が高いことなどを明らかにした。 第4章では,本研究で見出した高い移動度を示す新規なトリフェニルアミン誘導体,TASMTを電荷輸送材料(CTM)として用いた有機光導電体(OPC)の光導電特性を検討している。そして,これが従来用いられている材料に比べて応答特性が高いこと,残留電位が大きいことを見出した。残留電位が大きい原因は電荷発生材料からTASMTへの電荷移動が低電圧で悪化することを明らかにし,仕事関数が大きい電荷発生材料を用いることにより解決できることを実験的に示した。 第5章では,陰極と共役系高分子の間に電子輸送性分子を分散したポリマーを電子輸送層として形成し,空気中で安定な電極(Al,In)で高効率化が可能かどうかを検討している。発光層にPPV誘導体 poly(2,5-bis(cholestanoxy)-1,4-phenylene vinylene)を用いた有機LED素子に,2-(4-biphenyllyl)-5-(4-tert-butylphenyl)-1,3,4-oxadiazoleを分散したポリマーを電子輸送層に用いることにより,空気中で安定な電極であるAlやInを用いても比較的高い効率が得られることを示した。(Al電極で0.25%, In電極で0.4%.)これは,発表当時(1993年),共役系高分子を用いた有機LEDの中で空気中安定な電極を用いた条件下では世界最高効率を示すものであった。 第6章は結論であり,全体の要約が述べられている。 以上のように本論文は近年,有機デバイスとして注目されている有機LEDやコピー機の感光体において,その有機材料の電子輸送特性,発光特性を向上させるための分子設計指針を示すものとして,基礎化学だけでなく,応用面でも重要な価値を持ち,今後の発展に寄与するところ大である。 なお、本論文に述べられている研究成果は共著論文の形で公表済みであり、共著者は研究の指導者、研究協力者であるが、論文提出者の寄与が最も大きいと判断される。また、共著論文の内容を学位論文にすることについては、全ての共著者の承諾を得ている。したがって、荒谷介和氏は博士(理学)の学位を授与できるものと認める。 | |
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