学位論文要旨



No 216241
著者(漢字) 佐藤,進
著者(英字)
著者(カナ) サトウ,ススム
標題(和) ボイラの加熱単相流管群の流動安定化に関する研究
標題(洋)
報告番号 216241
報告番号 乙16241
学位授与日 2005.04.21
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16241号
研究科 工学系研究科
専攻 機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 松本,洋一郎
 東京大学 教授 笠木,伸英
 東京大学 教授 西尾,茂文
 東京大学 教授 金子,成彦
 東京大学 助教授 高木,周
内容要旨 要旨を表示する

1960〜1980年代にかけて我が国に建設された発電用大型ボイラは、高負荷ベースロード運用に用いることを前提に設計され、高温・高圧蒸気による高効率発電により、高度経済成長期の電力需要を担ってきた。しかし1990年代に入ると原子力発電の増加と電力需要パターンの変化に伴い、頻繁な起動停止や、夜間低負荷運用が課されるようになってきた。

この低負荷運用の増加に伴い、ボイラの火炉水冷壁管や過熱器管の管内を流れる水や蒸気の流量が減少し、流動の不安定現象とそれに伴う伝熱管のバーンアウトの発生が見られるようになってきた。

本研究では、このようなボイラの低負荷運用時に発生した問題として、亜臨界圧蒸気の加熱下降流および超臨界圧流体の加熱上昇流管群の低流量時の流動不安定現象、即ち単相流におけるLedinegg形不安定・流量逸走現象の解析と実験・実機試験結果について報告するものである。

このLedinegg形不安定は、1938年の同氏の研究発表以来、半世紀以上に亘って多数の研究がなされてきたが、殆どが沸騰を伴う気液二相流に関するものであった。即ち、加熱を受ける垂直上昇管の流量が低下してくると、圧力損失も減少していくが、あるところでサブクール沸騰が開始し、水の沸騰に伴う大きな密度変化により摩擦損失と加速損失の増加が生じ、この点を極小点として、流量が減っても逆に圧力損失が増加していく。流量が更に下がると摩擦損失の低下により、圧力損失は減少する。このように、流量に対する圧力損失の特性曲線は、沸騰を伴う二相流の場合には、いわゆるN字型の曲線を呈する。

原子炉やボイラの運転において、負荷降下していくと、管の流量が低下し、圧力損失の極小点付近まで流量が下がった場合には、流量が逸走・激減し、管の冷却が不可能となり過熱・破断に至る可能性がある。

この現象は従来から、沸騰を伴う気液二相流に固有の問題として取り扱われ、蒸気単相流では殆ど研究事例が発表されていない。即ち、沸騰に伴い気液二相流では、大きな密度変化(1気圧では、1/1,600、1MPaでも1/173)があるため、特に低圧の場合に圧力損失の変化が大きく、不安定が発生しやすい。

これに対し、蒸気単相流の場合には、加熱に伴う密度変化は非常に小さい。(大気圧では、飽和蒸気から500℃まで加熱しても、1/2.1、10MPaでも飽和蒸気から500℃まで加熱しても、1/1.8)また、超臨界圧流体(単相流)でも、加熱に伴う密度変化は小さい。(25 MPaにて、360℃から500℃へ加熱しても1/6.5)

従って、低圧の沸騰を伴う気液二相流では、実際の機器の運転において不安定現象が頻繁に発生して大きな問題となったが、一方、蒸気単相流や超臨界圧流体(単相流)においては、滅多に流動不安定の発生は無く、研究事例も少なかったものと考えられる。

本研究においては、実機の亜臨界圧ボイラの蒸気の加熱下降流および超臨界圧ボイラの火炉水冷壁の加熱上昇流管群の低流量時の流動不安定現象の発生に際して、広範囲の実機試験・計測を行い逆流現象の発生を明らかにした。

この実機計測データを用いて、モデル解析を行ない、系統の流量―圧力損失特性の解析を行なった。その結果これら単相流においても、低流量時には加熱による温度上昇(あるいは、冷却)による蒸気密度変化に基づく位置損失の変化に基づく圧力損失の極小点が存在し、負の勾配を持つN字型特性を有すること、流動不安定はこの特性に基づくLedinegg形流量逸走現象であることを明らかにした。

また、亜臨界圧蒸気の加熱下降流においては、実機計測において、流動不安定の発生負荷にヒステリシスが確認されていたが、上述の静特性解析に加えて、過渡応答解析を実施した結果、このヒステリシス現象がN字型の流量―圧力損失特性に基づくものであることを、明らかした。

次にこれら加熱管の低流量時の流動不安定現象の改善のための解析を行った結果、(1)亜臨界圧蒸気の加熱下降流管については、管の入口部に摩擦損失を付加して、最低負荷時でもN字型特性の極大点よりも高い圧力損失を確保することにより、(2)超臨界圧の加熱上昇管については、管の冷却を防止することにより、流動を安定化できる見通しを得た。(この(2)の解析に当たっては、実機サイズのモデルを作成して、バーナ部伝熱試験を行い、複雑な形状の管群の熱伝達率を明らかにした)

この解析結果に基づいて実機の改造を行ない、広範囲の実機計測を行なった結果、最低負荷から最大負荷まで予想通りの流動安定化が得られ、問題が解決したことを実証できた。

他の多数の類似設計の発電用ボイラにこの解析手法を適用して解析を行い、流動安定化対策を適用した結果、同様な改善効果が実機計測により実証できた。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、発電用ボイラの低負荷運用時に発生した問題として、亜臨界圧蒸気の加熱下降流および超臨界圧流体の加熱上昇流管群の低流量時の流動不安定現象、即ち単相流におけるLedinegg型不安定・流量逸走現象の解析と実験・実機試験結果について報告したものである。

このLedinegg型不安定は、1938年の同氏の研究発表以来、半世紀以上に亘って多数の研究がなされてきたが、殆どが沸騰を伴う気液二相流に関するものであった。即ち、加熱を受ける垂直上昇管の流量が低下してくると、圧力損失も減少していくが、あるところで沸騰が開始し、水の沸騰に伴う大きな密度変化により摩擦損失と加速損失の増加が生じ、この点を極小点として、流量が減っても逆に圧力損失が増加していく。流量が更に下がると摩擦損失の低下により、圧力損失は減少する。このように、流量に対する圧力損失の特性曲線は、沸騰を伴う二相流の場合には、いわゆるN字型の曲線を呈する。原子炉やボイラーの運転において、負荷降下していくと、管の流量が低下し、圧力損失の極小点付近まで流量が下がった場合には、流量が逸走・激減し、管の冷却が不可能となり過熱・破断に至る可能性がある。この現象は従来から、沸騰を伴う気液二相流に固有の問題として取り扱われ、蒸気単相流では殆ど研究事例が発表されていなかった。即ち、沸騰に伴い気液二相流では、大きな密度変化があるため、特に低圧の場合に圧力損失の変化が大きく、不安定が発生しやすい。実際の機器の運転において不安定現象が頻繁に発生して大きな問題となった。これに対し、蒸気単相流や超臨界圧流体単相流の場合には、加熱に伴う密度変化は非常に小さい。従って、滅多に流動不安定の発生は無く、研究事例も少なかった。

本研究においては、実機の亜臨界圧ボイラの蒸気の加熱下降流および超臨界圧ボイラの火炉水冷壁の加熱上昇流管群の低流量時の流動不安定現象の発生に際して、広範囲の実機試験・計測を行い逆流現象の発生を明らかにしている。すなわち、この実機計測データを用いて、モデル解析を行ない、系統の流量―圧力損失特性の解析を行なっている。その結果、これら単相流においても、低流量時には加熱による温度上昇(あるいは、冷却)に伴う蒸気密度変化により圧力損失の極小点が存在し、負の勾配を持つN字型特性を有すること、流動不安定はこの特性に基づくLedinegg形流量逸走現象であることを明らかにしている。また、亜臨界圧蒸気の加熱下降流においては、実機計測において、流動不安定の発生負荷にヒステリシスが確認されていたが、上述の静特性解析に加えて、過渡応答解析を実施した結果、このヒステリシス現象がN字型の流量―圧力損失特性に基づくものであることを、明らかしている。次にこれら加熱管の低流量時の流動不安定現象の改善のための解析を行った結果、(1)亜臨界圧蒸気の加熱下降流管については、管の入口部に摩擦損失を付加して、最低負荷時でもN字型特性の極大点よりも高い圧力損失を確保することにより、(2)超臨界圧の加熱上昇管については、管の冷却を防止することにより、流動を安定化できる見通しを得ている。この解析に当たっては、実機サイズのモデルを作成して、バーナ部伝熱試験を行い、複雑な形状の管群の熱伝達率を明らかにしている。さらに、この解析結果に基づいて実機の改造を行ない、広範囲の実機計測を行なった結果、最低負荷から最大負荷まで予想通りの流動安定化が得られ、問題が解決したことを実証している。その他、多数の類似設計の発電用ボイラにこの解析手法を適用して解析を行い、流動安定化対策を適用した結果、同様な改善効果が得られることを実機計測により実証している。

このように、従来殆ど研究されていなかった単相流の不安定現象について、実機の実測から、解析・対策の立案と適用を行い、改善結果を実証したものである。またこの解析手法は他の多数の実機に対しても適用され、成果をあげている。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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