学位論文要旨



No 216253
著者(漢字) 豊田,誠治
著者(英字)
著者(カナ) トヨダ,セイジ
標題(和) シリコン高分子の構造と光物性の相関に関する研究
標題(洋) Study on the relation between conformation and optical properties of silicon-based polymers
報告番号 216253
報告番号 乙16253
学位授与日 2005.05.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 第16253号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 太田,俊明
 東京大学 教授 川島,隆幸
 東京大学 教授 西原,寛
 東京大学 教授 長谷川,哲也
 東京大学 教授 小林,昭子
内容要旨 要旨を表示する

ポリシリレンは、シリコン原子が一次元に連鎖した高分子であり、従来より知られているπ共役系高分子と異なる性質を有するσ共役系高分子として近年注目されている。ポリシリレンは主鎖骨格構造に基づいて紫外領域に強い吸収および発光を示し、これは一次元方向に十分広がった波動関数がバンド構造を形成していることを意味している。また、側鎖に有機側鎖を有しており、側鎖の化学的修飾による主鎖構造の制御ひいては光物性の制御が可能となる。さらに、同様な概念に基づき温度、溶媒、電場などの外部刺激に応答する側鎖を導入して外部刺激によるポリシリレンの光物性制御が行われている。また、物理的観点からポリシリレンは、一次元光半導体のモデル物質としても大変注目されている。

本論文では、主鎖骨格構造と光物性の相関を探り、σ共役系高分子特異な性質を見出すことを目的として研究を行った。本論文では、主に1)バンドギャップと主鎖骨格構造の相関、2)可視ブロード発光と主鎖骨格構造の相関、3)キラル側鎖導入による主鎖骨格螺旋構造の制御、4)溶媒、イオンに応答する側鎖を導入したときの主鎖骨格構造と光物性の相関に関する知見を見だした。得られた結論は主に以下の5つである。

一次元半導体のモデル材料として考えられているポリシリレンの励起子準位およびバンドギャップを求めた。第二励起子準位は二光子吸収スペクトル、第三励起子準位は、電場変調分光法によりそれぞれ求めた。ポリシリレンの側鎖を変えて主鎖骨格構造を変化させたポリシリレンの励起子構造を比較したところ、励起子の束縛エネルギーおよびバンドギャップは、 σ共役結合が弱くなるにつれて大きくなることがわかった。これらの結果は従来の量子化学的計算より得られていた結果を支持した。

ポリアルキルアリルシリレンの可視ブロード発光の原因について調べた。薄膜中では従来ポリアルキルアリルシリレンは紫外領域での主鎖発光以外に、必ず400-600nm付近におよぶ可視ブロード発光を示すと考えられていた。ペンチル基以上の長鎖のアルキル基を用いると、可視ブロード発光が消失することを見出した。29SiNMRを用いた分析より、可視ブロード発光を示すポリアルキルアリルシリレンは、局所的にシリコン結合が歪んだ構造を有することがわかった。一方、可視ブロード発光を示さないポリアルキルアリルシリレンは、このような歪んだ構造は有さないことがわかった。また、ポリアルキルアリルシリレンの吸収スペクトルと発光スペクトルは鏡像関係にあり、巨視的構造が均一で欠陥の少ない主鎖構造であることを確認した。耐熱性に優れるポリアルキルアリルシリレンは紫外領域発光材料や電界発光材料としても注目されているため、純粋な紫外発光デバイスを開発する方法として長鎖のアルキル基を用いる上記の方法は有用である。

ポリメチルフェニルシリレンおよびポリヘキシルm-トリルシリレンおよびそれぞれの側鎖に微量(5%)の(S)-2-メチルブチル基を導入したコポリマーを合成した。このコポリマーは円二色(CD)スペクトルで正の信号を示し、スペクトルプロファイルは、吸収スペクトルと一致した。従って、このコポリマーは螺旋構造を有し、右巻きあるいは左巻きいずれかの螺旋構造の分率が多い主鎖骨格構造であることを確認した。また、ホモポリマーと(S)-2-メチルブチル基を導入したコポリマーの吸収および蛍光スペクトルプロフィルは一致したので、ホモポリマーも螺旋構造を有していることがわかった。キラル側鎖導入していないホモポリマーは、螺旋構造を有して右巻き螺旋および左巻き螺旋が等量存在した主鎖骨格構造をとっていることを意味する。このように、微量のキラル側鎖を導入することにより、ポリシリレンの主鎖骨格構造を分光的手法のみにより推察する方法を提案した。また、CD信号の(S)-2-メチルブチル基の分率依存性を両ホモポリマーについて測定したところ非線形な関係を確認し、キラル側鎖導入時の主鎖骨格構造が一方向螺旋の構造をとる協奏現象を確認した。ポリメチルフェニルシリレンについては、30%のキラル側鎖導入で約80%の一方向螺旋構造の協奏的な分率の増加を確認した。

側鎖に酸素を含有する6,9,12-トリオキサテトラデシルおよび(S)-2-メチルプチル基を有する光学活性でリジットロッドなポリシリレンを新規に合成し、温度および溶媒の外部刺激に対する応答を調べた。60℃から-104℃まで温度を変化させたところこのポリシリレンのセグメント長さの増加およびCD信号の増加を確認した。一方、-104℃で右巻きおよび左巻き螺旋構造の分分率を求める重要なパラメータである非対称性因子の減少を確認し、逆方向の螺旋分率が増加する螺旋反転現象を確認した。また、このポリシリレンは側鎖に酸素を有するため水に対して親和性が大きいため、水/エタノールの分率を変化させたときのCDスペクトルの変化を考察した。水の分率を増加させたところCDスペクトルの正負に別れた分裂を確認した。これは、キンクで分けられた2種類のキラルセグメントによるエキシトンカップリングのためであると考えられた。

アルカリ金属イオンに対して親和性を有する酸素を両側鎖に有するPoly[bis(6,9-dioxaundecyl)silylenelのイオノクロミズムを調べた。ジブチルエーテル中にてTrifluoromethanesulfonateをPoly[bis(6,9-dioxaundecyl)silylene]に添加していったところ吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルの長波長シフトを確認した。また、添加量の増加に伴い蛍光量子収率が増加し、その最大値は約0.93におよびポリシリレンの蛍光量子収率としては最大であった。このポリシリレンは溶液中で顕著なサーモクロミズムを示し、イオンに対する側鎖の親和性とともに、主鎖の柔軟性がイオノクロミズム発現のために重要であることがわかった。量子蛍光収率は電界発光デバイスの特性向上のため重要なパラメータの一つであり、イオン添加が発光特性向上のためのひとつの方策である可能性を示した。

このようにポリシリレンは、汀共役系高分子とは異なる特異な化学的、物理的性質を示す。側鎖の修飾により直接主鎖骨格構造を制御したり、外部刺激に応答する側鎖を導入し外部刺激により主鎖骨格構造を制御することによりポリシリレンの光学的特性を制御できること示した。本研究は、光学特性を利用したデバイス応用上重要な指針を与えるとともにπ共役系高分子とは異なる特異なσ共役系高分子の光学特性を示した。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は7章から成る。

第1章は序論であり,本論文の目的が述べられている。ポリシリレンはシリコン原子が一次元に連鎖したG共役系高分子として近年注目されている。このポリシリレンは側鎖の化学的修飾によって主鎖構造の制御,ひいては光物性の制御が可能となる。本論文の目的は,主鎖骨格構造と光物性の相関を探り,cT共役系高分子特異な性資を見出すことにある。

第2章では,側鎖を変えて主鎖骨格構造を変化させたポリシリレン二光子吸収スペクトル,および電場変調吸収法により励起子準位およびバンドギャップを求めた。そして,励起子の束縛エネルギーおよびバンドギャップがcf共役結合が弱くなるにつれて大きくなることを実験的に確かめた。

第3章では,ポリアルキルアリールシリレンの可視ブロード発光の原因解明について述べられている。そして,ペンチル基以上の長鎖のアルキル基を用いると,可視ブロード発光が消失することを見出した。そして,このようなシリレンは歪んだ構造は持たず,吸収スペクトルと発光スペクトルは鏡像関係にあり、巨視的構造が均一で欠陥の少ない主鎖構造であることを確認した。

第4章では,螺旋構造を持つポリアルキルアリールシリレンのコポリマーにキラルな側鎖を導入することによって,右巻き,あるいは,左巻き螺旋の分率の変化を円二色(CD)分光法によって調べた結束について述べられている。そして,キラル側鎖導入時の主鎖骨格構造が一方向螺旋の構造をとる現象を見出している。ポリメチルフェニルシリレンについては、30%のキラル側鎖導入で約80%の一方向螺旋構造の協奏的な分率の増加を確認した。

第5章では,側鎖に酸素を含有する6,9,12-トリオキサテトラデシルおよび(S)-2-メチルプチル基を有する光学活性で固い棒状ポリシリレンを新規に合成し,温度および溶媒の外部刺激に対する応答を調べた結果が述べられている。60oCから-104℃まで温度を変化させると,このポリシリレンのセグメント長さが増加し,CD信号が増加した。一方,-104℃で逆方向の螺旋分率が増加する螺旋反転現象を確認した。また、水/エタノールの分率を増加させたところCDスペクトルの正負に別れた分裂が観測された。これはキンクで分けられた2種類のキラルセグメントによるユキシトンカツプリングのためと解釈した。

第6章はアルカリ金属イオンに対して親和性を有する酸素を両側鎖に有するPoly[bis(6.9-dioxaundecyl)silylene]のイオノクロミズムの結果が述べられている。リチウム添加によって顕著なイオノタロミズムを吸収,蛍光スペクトルで確認し,いずれのスペクトルもスペクトル半値幅が狭くなることを見出した。このポリシリレンは溶液中で顕著なサーモクロミズムも示し、イオンに対する側鎖の親和性とともに、主鎖の柔軟性がイオノクロミズム発現のために重要であることがわかった。量子蛍光収率は電界発光デバイスの特性向上のため重要なパラメータの一つであり、イオン添加が発光特性向上のためのひとつの方策である可能性を示した。

第7章は結論で,要約が述べられている。

以上のようにポリシリレンは、π共役系高分子とは異なる特異な化学的,物理的性質を示す。側鎖の修飾により直接主鎖骨格構造を制御したり,外部刺激に応答する側鎖を導入し外部刺激により主鎖骨格構造を制御することによりポリシリレンの光学的特性を制御できること示した。本研究は光学特性を利用したデバイス応用上重要な指針を与えるとともにTE共役系高分子とは異なる特異なG共役系高分子の光学特性を示したものとして,基礎化学だけでなく,応用面でも重要な価値を持ち,今後の発展に寄与するところ大である。

なお、本論文に述べられている研究成果は共著論文の形で公表済みであり,共著者は研究の指導者、研究協力者であるが,論文提出者の寄与が最も大きいと判断される。また、共著論文の内容を学位論文にすることについては、全ての共著者の承諾を得ている。したがって.豊田誠治氏は博士(理学)の学位を授与できるものと認める。

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