学位論文要旨



No 216258
著者(漢字) 金光,真一
著者(英字)
著者(カナ) カナミツ,シンイチ
標題(和) In vitroデータに基づいたin vivo薬物間相互作用の定量的予測
標題(洋)
報告番号 216258
報告番号 乙16258
学位授与日 2005.05.18
学位種別 論文博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 第16258号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 杉山,雄一
 東京大学 教授 入村,達郎
 東京大学 教授 岩坪,威
 東京大学 助教授 西山,信好
 東京大学 助教授 楠原,洋子
内容要旨 要旨を表示する

【序論】

1993年,日本においてフルオロウラシル系抗ガン剤を服用していた患者が抗ウイルス薬sorivudineを服用したところ,5-fluorouracil (5-FU)の血中濃度が上昇し,その毒性により死亡するという悲惨な事故が生じた。多剤併用療法が一般的となった近年,こういった事例を背景に薬物間相互作用の問題は大きな社会問題となり,医薬品を服用している患者あるいは医療関係者にとっても,その問題の重要性は高い。製薬企業の医薬品開発においても,スクリーニング段階から薬物間相互作用のリスクを可能な限り避ける努力がなされている。

薬物間相互作用の機序として,薬物代謝に起因した事例が最も多い。したがって,目的とする薬物の肝代謝を阻害することが知られている他の薬物を併用した場合に,その薬物の体内動態がどの程度変動するかについて定量的に予測することは,薬物間相互作用による毒性の発現を未然に防ぐ上で極めて重要な課題である。本研究では,生理学的薬物速度論の手法を用いて,in vitro代謝データに基づくin vivoにおける薬物間相互作用の定量的な予測を試みた。このとき,false negativeを避ける基本方針で予測を行い,相互作用は生じないとin vitroで予測されたにもかかわらず,in vivoでは相互作用が生じることがないように注意した。

【本論】

In vivo薬物間相互作用の予測における阻害剤濃度の検討

臨床における基質濃度は多くの場合,ミカエリスーメンテン式におけるミカエリス定数(Km)と比較して十分低く,代謝阻害の程度(R=AUC(+inhibitor)/AUC(control),AUC:血液中濃度下面積)は競合阻害と非競合阻害のとき,R=1+lu/Kiと表される(lu:阻害剤フリー濃度,Ki:対象薬物の代謝に対する阻害剤の阻害定数,肝臓での挙動はwell-stirred modelを仮定)。代謝過程における相互作用の予測に関してfalse negativeを避けるため,肝臓内代謝阻害剤の最大フリー濃度を肝動脈血と門脈血が合流して肝臓へ流入する部分(Fig.1中lin)の最大フリー濃度(lin,u)に近似し,luの最大値として考えた。文献情報より得たKi値とlin,uとの比較から印in vivoでの相互作用を定量的に見積もり,多くの相互作用について実測値に近い予測値が得られた。しかし,阻害剤濃度は時々刻々と変化するものであり,固定値のlin,uをluに代入して計算する本方法がどれだけ妥当であるかは明らかにされていない。そこで,前述した方法により見積もった阻害剤のlin,uと生理学的フローモデルを用いて推定した循環血,門脈血および肝臓中フリー濃度を比較した。

阻害剤の吸収速度定数,肝固有クリアランスおよび肝外クリアランスの変動により,lin,uは各コンパートメント中濃度に対して誤差を生じた。門脈血中最大フリー濃度に対しては1.6倍の範囲内であり,また肝臓中最大フリー濃度に対しては固有クリアランス(CLint)が高値を示す場合において最も大きく影響され,最大11倍の誤差であった。どのような阻害剤についても肝臓中フリー濃度を過小評価しないことから,false negativeを避ける方針において,最大のlu値としてlin,uを用いた薬物間相互作用の予測法は妥当であると考えた。

さらに,tolbutamide/sulfaphenazoleの場合を例にあげ,相互作用を定量的に予測した。Sulfaphenazole(500mg,b.i.d.)は,抗糖尿病薬tolbutamideのCYP2C9関与の代謝を阻害することにより,tolbutamideのAUCを5.3倍に増加させることが報告されている。Sulfaphenazole濃度をlin,uに固定して予測した場合,tolbutamideのAUCは4.1倍に増加し,またsulfaphenazole濃度推移を考慮した場合は4.2倍に増加することが予測され,in vivoの実測値とよく一致した。実際の肝臓中フリー濃度を過大評価しているlin,uを用いても良い予測が得られた理由として,sulfaphenazoleの臨床投与量においてはCYP2C9関与の代謝は完全に阻害されているものと考えられた。

阻害剤の肝臓における能動輸送に関する検討

阻害剤が受動輸送により肝臓へ移行する場合,肝臓中フリー濃度は肝毛細血管中フリー濃度に等しいと仮定できる。しかし,能動輸送が関与する際に,阻害剤の血中濃度を基準にして阻害の程度を予測すると過小評価することになる可能性があるため,ラット遊離肝細胞を用いた検討を行った。

P450代謝に対して阻害活性を示すquinidine, sulfaphenazole, erythromycin, ketoconazole, omeprazoleを被験物質として用いた。遊離肝細胞を37℃で3分間プレインキュベーションした後に薬液を添加して取込み実験を行った。細胞懸濁液を経時的にサンプリングし,mediumとcellはシリコンレイヤー法で遠心分離して,それぞれの濃度を放射活性あるいはHPLC-UVにより定量して取込み速度を算出した。Medium中にFCCPあるいはrotenoneを添加して細胞内のATPを枯渇させ受動輸送を測定し,一方コントロールでは受動輸送と能動輸送の合計が測定できることから能動輸送の寄与率を求めた。

いずれの薬物についても大きな能動輸送性(C/M ratio:肝細胞への濃縮率)は認められず,予測されるAUC上昇率にも大きな影響はなかった(Tablel)。しかしながら,ラットとヒトの細胞で種差があることも考えられるため,ヒト肝細胞あるいは肝スライスでの実測をすることで予測精度の向上が可能となるであろう。

Mechanism-based inhibitionに基づいたtriazolam/erythromycin相互作用の定量的予測

Erythromycinなどのマクロライド系抗生物質による薬物間相互作用には,CYP3Aによる代謝過程で生成したニトロソアルカンがCYP3Aと解離しにくい複合体を形成するため,CYP3Aが不活性化されるmechanism-based inhibitionが関与していることが報告されている。この場合,阻害剤が体内から消失した後でも,なおかつ阻害効果が残存することになり,一般的な可逆的阻害の場合よりも深刻な副作用につながることが考えられ,十分な注意が必要である。さらに,このような場合にはin vivoの相互作用を予測する際,阻害剤と酵素との接触時間や酵素のturnoverを考慮した解析を行うことが必要である。

CYP3A4の基質としてtriazolamを例にあげ,その代謝物としてα-および4-OHtriazolamに着目した。ヒト肝ミクロソームおよびCYP3A4発現系を用いた代謝阻害実験では,3分間のインキュベーション後にα-および4-OH triazolamを定量し,NADPH存在下erythromycinとミクロソームとのプレインキュベーション時間とerythromycin濃度の影響を検討した。プレインキュベーションをしない場合にはほとんど阻害が観察されなかったのに対して,プレインキュベーション時間依存的に阻害が増強された。また,CO差スペクトルにより求めた残存している活性型CYP3A濃度もerythromycinとのインキュベーションにともなって減少することから,阻害はmechanism-based inhibitionによることが示唆された。kinactとK'appに表される阻害の速度論パラメータと文献情報より得られた薬物動態パラメータを用いて,生理学的フローモデルによりin vivoの相互作用を定量的に予測した。ヒトミクロソームおよびCYP3A4発現系から得られた阻害パラメータからerythromycinの前投与(333mg,t.i.d.,3 days)によりtriazolamのAUCはそれぞれ2.0および2.6倍に増加することが予測され,in vivoにおける報告値(2.1倍)とよく一致した。

Mechanism-based inhibitionに基づいた5-FU/sorivudine相互作用の定量的予測

5-FU/sorivudine相互作用機構は,sorivudineが腸内細菌により(E)-5-(2-bromovinyl)uracil(BVU)になり,さらに5-FUの代謝律速酵素であるdihydropyrimidine dehydrogenase(DPD)により代謝活性化されて,生じた活性型BVUがDPD自身と結合するmechanism-based inhibitionであったことが明らかにされている。したがって,sorivudineによる阻害の場合にも,in vitro試験によりin vivoの相互作用を予測する際には,erythromycinの場合と同様な解析を行うことが必要である。

In vitro試験では,ラット,ヒト肝サイトゾルおよびヒトrecombinantDPD(rhDPD)を用いて,5-FU代謝に対するBVUの阻害試験を行った。いずれの酵素を用いても,NADPH存在下でBVUと酵素をプレインキュベーションした時間とBVU濃度に依存した阻害の増強が認められた(Fig.2)。kinactとK'appに表される阻害の速度論パラメータと文献情報より得られた基質と阻害剤の薬物動態パラメータを用いて,生理学的フローモデルによりin vivoの相互作用を定量的に予測した。ラットにおいてはBVUの投与によりDPDは完全に阻害され,5-FUのAUCが11倍に増加する予測値を得て,in vivoにおける報告値とよく一致した。ヒトにおいては150mg/day,5日間のsorivudine投与により5-FUのAUCが5倍に上昇することが予測された。Sorivudine 1錠(50mg)を服用したとき,肝臓中DPDは95%が不活化され,正常レベルまでに回復するにはおよそ2週間が必要であることがシミュレーションにより確認された。薬物代謝阻害にmechanism-based inhibitionが関与する場合には,ヒトに薬物が投与されたとき多大な危険を伴うことが推測された。

【結論】

遺伝子工学が発展したことでヒト型代謝酵素発現系も市販され,ヒト試料も購入可能な近年,本研究で示したin vitro試験結果を用いたシミュレーションによる薬物間相互作用の検討も容易に実施できるようになった。厚生労働省医薬局審査管理課長通知「薬物相互作用の検討方法について」(医薬審発第813号,2001年6月4日)には,ここで示した薬物間相互作用の定量的予測法が色濃く反映されている。代謝酵素と被験物質をプレインキュベーションする時間と被験物質濃度の影響を検討することで,阻害機構を見極めることが非常に重要なポイントとなる。特に,mechanism-based inhibitionが関与する場合,可逆的阻害としてin vivo薬物間相互作用を予測すると過小評価する可能性に留意しなければならない。医薬品を開発する段階でこういった検討を実施することで,より安全な医薬品を上市することが可能になるであろうし,併用することが危険な医薬品あるいは食品も見出すことができるだろう。再びsorivudine薬害のような悲惨な事故が起きることがないよう,人類のQOL(Quality of Life)を高めることが製薬企業の使命であると考えている。

Fig.1. Model for estimating inhibitor concentration at the inlet to the liver after oral administration.

Table 1. Prediction of in vivo drug-drug interactions in humans.a)The lin,u calculated based on the model in Fig.1 was used as lu.b)The product of the lin,u and the C/M ratio was used as lu.

Fig.2.lnhibitory effects of BVU on 5-FU metabolism in rat hepatic cytosol(A),rhDPD(B),or human hepatic cytosol(C).BVU concentrations were: ●,0;◇,0.03;▲,0.1;□,0.3;○,1;◆,5;and△,20μM for(A)and(B);●,0;○,1;▲,3;△,10;■,50;and□,200μM for(C).

審査要旨 要旨を表示する

多剤併用療法が一般的となった近年,sorivudine薬害といった事例を背景に薬物間相互作用の問題は大きな社会問題となり,医薬品を服用している患者あるいは医療関係者にとっても,その問題の重要性は高い。製薬企業の医薬品開発においても,スクリーニング段階から薬物間相互作用のリスクを可能な限り避ける努力がなされている。

薬物間相互作用の機序として,薬物代謝に起因した事例が最も多い。したがって,目的とする薬物の肝代謝を阻害することが知られている他の薬物を併用した場合に,その薬物の体内動態がどの程度変動するかについて定量的に予測することは,薬物間相互作用による毒性の発現を未然に防ぐ上で極めて重要な課題である。本研究では,生理学的薬物速度論の手法を用いて,in vitro代謝データに基づくin vivoにおける薬物間相互作用の定量的な予測を試みた。このとき,false negativeを避ける基本方針で予測を行い,相互作用は生じないとin vitroで予測されたにもかかわらず,in vivoでは相互作用が生じることがないように注意しながら研究が行われた。

In vivo薬物間相互作用の予測における阻害剤濃度の検討

臨床における基質濃度は多くの場合,代謝阻害の程度(R=AUC(+inhibitor)/AUC(control),AUC:血液中濃度下面積)は競合阻害と非競合阻害のとき,R=1+Iu/Kiと表される(Iu:阻害剤フリー濃度,Ki:対象薬物の代謝に対する阻害剤の阻害定数)。代謝過程における相互作用の予測に関してfalse negativeを避けるため,肝臓内代謝阻害剤の最大フリー濃度を肝動脈血と門脈血が合流して肝臓へ流入する部分(Iin)の最大フリー濃度(Iin,u)に近似し,Iuの最大値として考えた。文献情報より得たKi値とIin,uとの比較からin vivoでの相互作用を定量的に見積もり,多くの相互作用について実測値に近い予測値が得られた。しかし,阻害剤濃度は時々刻々と変化するものであり,固定値のIin,uをIuに代入して計算する本方法がどれだけ妥当であるかは明らかにされていない。そこで,前述した方法により見積もった阻害剤のIin,uと生理学的フローモデルを用いて推定した循環血,門脈血および肝臓中フリー濃度を比較した。

阻害剤の吸収速度定数,肝固有クリアランスおよび肝外クリアランスの変動により,Iin,uは各コンパートメント中濃度に対して誤差を生じたが,どのような阻害剤についても肝臓中フリー濃度を過小評価しないことから,false negativeを避ける方針において,最大のIu値としてIin,uを用いた薬物間相互作用の予測法は妥当であると考えた。

さらに,tolbutamide/sulfaphenazoleの場合を例にあげ,相互作用を定量的に予測した。Sulfaphenazoleは,抗糖尿病薬tolbutamideのCYP2C9関与の代謝を阻害することにより,tolbutamideのAUCを5.3倍に増加させることが報告されている。Sulfaphenazole濃度をIin,uに固定して予測した場合,tolbutamideのAUCは4.1倍に増加し,またsulfaphenazole濃度推移を考慮した場合は4.2倍に増加することが予測され,in vivoの実測値とよく一致した。

阻害剤の肝臓における能動輸送に関する検討

阻害剤が受動輸送により肝臓へ移行する場合,肝臓中フリー濃度は肝毛細血管中フリー濃度に等しいと仮定できる。しかし,能動輸送が関与する際に,阻害剤の血中濃度を基準にして阻害の程度を予測すると過小評価することになる可能性があるため,ラット遊離肝細胞を用いた検討を行った。 P450代謝に対して阻害活性を示すquinidine,sulfaphenazole,erythromycin,ketoconazole,omeprazoleを被験物質として用いた。Medium中にFCCPあるいはrotenoneを添加して細胞内のATPを枯渇させ受動輸送を測定し,一方コントロールでは受動輸送と能動輸送の合計が測定できることから能動輸送の寄与率を求めた。いずれの薬物についても大きな能動輸送性は認められず,予測されるAUC上昇率にも大きな影響はなかった。しかしながら,ラットとヒトの細胞で種差があることも考えられ,今後、ヒト試料を用いた実測により予測精度の向上が可能となると考えられる。

Mechanism-based inhibitionに基づいたtriazolam/erythromycin相互作用の定量的予測

Erythromycinなどのマクロライド系抗生物質による薬物間相互作用には,CYP3Aによる代謝過程で生成したニトロソアルカンがCYP3Aと解離しにくい複合体を形成するため,CYP3Aが不活性化されるmechanism-based inhibitionが関与していることが報告されている。この場合,阻害剤が体内から消失した後でも,なおかつ阻害効果が残存することになり,一般的な可逆的阻害の場合よりも深刻な副作用につながることが考えられ,十分な注意が必要である。さらに,このような場合にはin vivoの相互作用を予測する際,阻害剤と酵素との接触時間や酵素のturnoverを考慮した解析を行うことが必要である。

CYP3A4の基質としてtriazolamを例にあげ,その代謝物としてα-および4-OH triazolamに着目した。ヒト肝ミクロソームおよびCYP3A4発現系を用いた代謝阻害実験では,NADPH存在下erythromycinとミクロソームとのプレインキュベーション時間とerythromycin濃度の影響を検討した。プレインキュベーションをしない場合にはほとんど阻害が観察されなかったのに対して,プレインキュベーション時間依存的に阻害が増強された。また,CO差スペクトルにより求めた残存している活性型CYP3A濃度もerythromycinとのインキュベーションにともなって減少することから,阻害はmechanism-based inhibitionによることが示唆された。kinactとK'appに表される阻害の速度論パラメータと文献情報より得られた薬物動態パラメータを用いて,生理学的フローモデルによりin vivoの相互作用を定量的に予測した。ヒトミクロソームおよびCYP3A4発現系から得られた阻害パラメータからerythromycinの前投与によりtriazolamのAUCはそれぞれ2.0および2.6倍に増加することが予測され,in vivoにおける報告値(2.1倍)とよく一致した。

Mechanism-based inhibitionに基づいた5-FU/sorivudine相互作用の定量的予測

5-FU/sorivudine相互作用機構は,sorivudineが腸内細菌により(E)-5-(2-bromovinyl)uracil(BVU)になり,さらに5-FUの代謝律速酵素であるdihydropyrimidine dehydrogenase(DPD)により代謝活性化されて,生じた活性型BVUがDPD自身と結合するmechanism-based inhibitionであったことが明らかにされている。したがって,sorivudineによる阻害の場合にも,in vitro試験によりin vivoの相互作用を予測する際には,erythromycinの場合と同様な解析を行うことが必要である。

In vitro試験では,ラット,ヒト肝サイトゾルおよびヒトrecombinant DPD(rhDPD)を用いて,5-FU代謝に対するBVUの阻害試験を行った。いずれの酵素を用いても,NADPH存在下でBVUと酵素をプレインキュベーションした時間とBVU濃度に依存した阻害の増強が認められた。Erythromycinの場合と同様の手法によりin vivoの相互作用を定量的に予測した。ラットにおいてはBVUの投与によりDPDは完全に阻害され,5-FUのAUCが11倍に増加する予測値を得て,in vivoにおける報告値とよく一致した。ヒトにおいてはsorivudine投与により5-FUのAUCが5倍に上昇することが予測された。Sorivudine 1錠を服用したとき,肝臓中DPDは95 %が不活化され,正常レベルまでに回復するにはおよそ2週間が必要であることがシミュレーションにより確認された。薬物代謝阻害にmechanism-based inhibitionが関与する場合には,ヒトに薬物が投与されたとき多大な危険を伴うことが推測された。

遺伝子工学が発展したことでヒト型代謝酵素発現系も市販され,ヒト試料も使用可能な近年,本研究で示したin vitro試験結果を用いたシミュレーションによる薬物間相互作用の検討も容易に実施できるようになった。厚生労働省医薬局審査管理課長通知「薬物相互作用の検討方法について」には,ここで示した薬物間相互作用の定量的予測法が色濃く反映されている。代謝酵素と被験物質をプレインキュベーションする時間と被験物質濃度の影響を検討することで,阻害機構を見極めることが非常に重要なポイントとなる。特に,mechanism-based inhibitionが関与する場合,可逆的阻害としてin vivo薬物間相互作用を予測すると過小評価する可能性に留意しなければならない。ここで提唱された予測法は、再びsorivudine薬害のような悲惨な事故が起きることがなくなるように、医薬品の探索・開発過程を改良することに役立つものと考えられる。

以上のように本研究は,in vitroデータに基づいたin vivo薬物間相互作用の定量的予測に関する研究に対する端緒を開く研究であると考えられ,博士(薬学)の学位に値するものと認める。

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