学位論文要旨



No 216268
著者(漢字) 岡崎,潤
著者(英字)
著者(カナ) オカザキ,ジュン
標題(和) 焼結用鉄鉱石の鉱物特性と焼結反応に関する基礎研究
標題(洋)
報告番号 216268
報告番号 乙16268
学位授与日 2005.06.08
学位種別 論文博士
学位種類 博士(科学)
学位記番号 第16268号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 月橋,文孝
 東京大学 教授 小関,敏彦
 東京大学 助教授 三尾,典克
 東京大学 助教授 森田,一樹
 東京大学 助教授 山本,剛久
内容要旨 要旨を表示する

 鉄鋼業の中で資源や環境ならびに省エネルギー問題に最も深く関わっているのが製銑部門である。その中でも、粉状製鉄原料を塊成化(焼結鉱)する焼結プロセスは、厳しい環境規制を克服しつつ、資源の劣質化に対応しながら、高炉の要求する品質の焼結鉱を生産している。

現在、世界の鉄鉱石埋蔵量は約1800億トンであり、その中で使用可能な鉄鉱石は1200億トンといわれている。しかし、我が国では地理的条件からAl2O3含有量の高い豪州鉄鉱石への依存度が大きく、その比率は50%を越えている。製銑部門におけるAl2O3の悪影響はよく知られており、焼結操業では成品歩留や強度の低下、焼結鉱の還元粉化率の増大をもたらし、高炉操業においては、焼結鉱の1100℃近傍での還元停滞や、溶融スラグ粘度の上昇などの問題点が報告されている。

その豪州の鉄鉱石資源は、優良な低りん鉱石(ヘマタイト(Fe2O3)主体)の枯渇化に伴い、安価ではあるが難焼結性鉄鉱石(高結晶水鉄鉱石)の比率が急激に高くなっている(Fig.1)。

Fig.2に難焼結性鉄鉱石の代表である高Al2O3ピソライト鉱石の1000℃加熱前後の組織を示す。本鉱石は高結晶水鉱石であり、加熱により結晶水が脱水し、鉄鉱石中に大きな亀裂が発生するため、成品歩留や強度を低下させることが知られている。

安価な難焼結性鉄鉱石を多量に使用して、高強度、高歩留の焼結鉱を製造するには、使用する各鉄鉱石の鉱物科学的な特徴と焼結反応形態との関係を明確にし、それぞれの鉄鉱石が持つ特性値による焼結原料配合設計の構築が必要である。

本研究は、焼結用鉄鉱石の鉱物特性と焼結反応との関係を明確にするとともに、今後資源の枯渇化に伴い使用量の増加が見込まれる、難焼結性鉄鉱石(高Al2O3ピソライト鉱石)の多量使用技術の確立を目的とした。

論文の概要を以下に記す。

第1章では、鉄鉱石資源動向、鉄鉱石研究の必要性、過去の研究事例を踏まえながら、本研究の目的、研究方針について述べ、本論文の構成を示した。

第2章では、新しく考案した鉄鉱石の鉱物特性(造粒性、溶融性)を評価する手法について述べ、それに従って主要銘柄鉄鉱石を造粒性では5つのグループに、溶融性では4つのグループに分類できることを示した。溶融性に関しては焼結鍋実験においてその影響を検証し、分類結果の妥当性を得た。安定な焼結操業には、鉄鉱石の選択や組み合わせが重要であり、鉄鉱石の持つ100μm以下の気孔量がその指標になることを明らかにした。

第3章では、第2章で分類した鉄鉱石毎に、主要焼結反応であるCaOとの同化反応を模擬した同化試験を実施し、同化反応を支配する因子を明らかにすることを試みた。その結果、鉄鉱石毎に同化組織はルシウムフェライト、気孔率や気孔形状)が異なること、同化量(同化率)は鉄鉱石の持つ気孔量と脈石成分の影響が大きいことを明らかにした。さらに、擬似鉱石の同化試験から、従来からの課題であった豪州産高Al2O3ピソライト鉱石の、同化時における粗大気孔生成挙動は、加熱によりゲーサイト部に生成する粗大亀裂が原因であることを明らかにした。

第4章では、高炉内の還元性が優れている針状化したカルシウムフェライトの生成機構の解明について述べた。焼結反応をIn-Siluで観察できる、電気炉内蔵型の走査型電子顕微鏡(ダイナミックSEM)を開発し、針状カルシウムフェライトの生成機構として提案されている、三つの説について解析を行った。その結果、針状カルシウムフェライトの生成は、固-液反応説が妥当であることを実証した。さらに、初期融液の生成起点は、昇温過程の1150℃付近においてFe2O3とCaOの固相反応により鉄鉱石表面に生成する「CaO・Fe2O3組成相当の小粒物質」であることを明らかにした。

第5章では、実機擬似粒子を想定し、核となる粗粒鉱石と付着粉となる細粒鉱石の同化実験から、焼結体の気孔形成に及ぼす諸因子を解析し、気孔構造と強度の関係を検討した。その結果、粗粒鉱石同化時の気孔生成は、鉄鉱石に含まれる化学組成(脈石成分)よりも、鉄鉱石中結晶水と酸化鉄の形状によって決まることを明らかにした。また、細粒鉱石の同化時の気孔生成は、粗粒鉱石と異なり、結晶水や酸化鉄形状よりも鉄鉱石中Al2O3量の影響を大きく受けることを明らかにした。さらに、Al2O3量が高い鉄鉱石(1.5mass%<Al2O3)ほど気孔の形状は不規則になり、かつ気孔数の増加が気孔率の増加につながることを明らかにした。

第6章では、焼結鉱の強度、歩留を向上させるためには、まず結合材となる融液が擬似粒子内でいかに早く移動できるかが重要であると考え、結合相形成の起点となる、初期融液の擬似粒子内移動現象を解析した。各鉄鉱石における初期融液の移動現象の定量化(融液浸透距離)を行い、その移動現象と鉄鉱石特性の関係を明確にした。

第7章では、これまで研究成果を基に、難焼結性原料である高Al2O3ピソライト鉱石の同化後組織を改善するための技術として開発した(1)鉄鉱石表面に高融点微粉(蛇紋岩と高Al2O3ピソライト鉱石の事前造粒)を被覆する自己緻密化焼結法と、(2)擬似粒子の核となる粗粒鉱石と、付着粉となる細粒鉱石の同化特性を活用した新配合法の開発経緯と、効果及びその実用化について述べた。

第8章は本研究を総括した。

Fig.1 Trend of amount of purchased ores in Nippon steel.

Fig.2 Large cracks formed in pisolite ore heated(rapidly up to lOOO℃

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、製鉄プロセスにおいて、良質鉄鉱石資源の枯渇という資源問題に対応して使用量が増加している焼結性の悪い鉄鉱石を多量に使用するため、鉄鉱石の焼結反応性におよぼす鉱物特性の影響を明らかにし、焼結の難しい鉄鉱石原料を溶鉱炉で使用するときの還元・溶融反応性の問題を解決する焼結鉱製造技術を確立した研究であり、8章からなる。

第1章は序論であり、世界における鉄鉱石資源の現状、今後の資源利用における問題点を指摘し、これまでの鉄鉱石の焼結プロセスに関する研究について説明し、本研究の背景、目的について述べている。

第2章では、種々の粉鉄鉱石の造粒・溶融性など鉱物の特性を評価するため、新しく開発した評価法について述べ、実操業で使用されている鉄鉱石の造粒性と溶融性による分類を提案し、その妥当性を焼結実験により明らかにした。種々の鉄鉱石の組み合わせを最適化することにより焼結性状を良好にすることができ、鉄鉱石の100μm以下の気孔量が焼結性の指標となると述べている。

第3章では、焼結プロセスにおいて、鉄鉱石の溶融・焼結性能を良好にするため添加されるCaOと、鉄鉱石の同化反応について検討した結果について述べている。種々の鉄鉱石とCaOの溶融同化実験を行い、焼結鉱の同化組織、気孔形状・分布は、原料の鉄鉱石の気孔量とAl2O3、SiO2の脈石成分に影響されることを定量的に示している。実操業で問題となっているAl2O3含有量の大きいピソライト鉱石の焼結時の気孔粗大化挙動の原因がゲーサイト部分の粗大な亀裂の生成であることを明確にした。

第4章では、溶鉱炉内での還元性状が優れている焼結鉱中の針状カルシウムフェライト組織の生成機構を解明した結果を述べている。生成機構を反応中に直接観察するため、加熱部を内蔵した走査型電子顕微鏡を新たに開発し、針状カルシウムフェライトの生成機構の解析を行った。CaO・Fe2O3組成の化合物から生成する融液にCaO、および鉄鉱石が溶解してカルシウムフェライトが生成する固-液反応によることを明らかにした。

第5章では、焼結鉱の強度におよぼす粗粒および細粒鉄鉱石の性状の影響について測定した結果を述べている。核となる大粒子のまわりに細かい粒子を付着させ、同化反応により焼結するという実際のプロセスを模擬した焼結実験を行い、焼結鉱の気孔生成に及ぼす鉱石組成、組織などの影響を調査し、構造と強度の関係を調べた。粗粒鉱石の同化反応における気孔の生成挙動は鉄鉱石中の結晶水量と酸化鉄の形状により決定され、細粒鉱石の場合は鉄鉱石中のAl2O3含有量が増加すると気孔率が大きくなることを明らかにした。これより焼結鉱の強度を大きくするための焼結鉱粒子の造粒プロセスを検討した結果を示している。

第6章では、焼結鉱の強度、歩留りに影響を与える焼結初期の融液発生挙動について検討を行うため、鉄鉱石充填層への鉱石融液の浸透実験結果について述べている。融液の浸透距離は鉱石の比表面積などの表面性状に影響され、また、Al2O3、SiO2の脈石成分が増加すると、鉄鉱石内への融液の浸透が抑制されることを明らかにした。浸透現象と鉱石性状の関係から鉄鉱石原料の配合方法を新たに提案し、実際のプロセスへ適用した場合の考察を行っている。

第7章では、焼結の難しいAl2O3含有量の大きいピソライト鉱石を焼結して、溶鉱炉プロセスで使用するため、研究結果に基づいて確立した焼結後の組織の改善技術の開発について説明している。鉄鉱石表面に融点の高い微粉原料を被覆して焼結する自己緻密化焼結法と、細粒鉱石と粗粒鉱石の同化特性を利用した原料配合法を新たに提案し、製鉄所の焼結プロセスでの操業にこれらの新しい技術を適用し、生産効率の増大と生産コストの低減という優れた結果が得られている。

第8章は本論文の統括である。以上のように、本論文では鉄鉱石の焼結プロセスの改善のために、鉄鉱石原料の鉱物特性と焼結反応に関する研究を行い、新たな焼結技術である自己緻密化焼結法と原料配合法を提案し、その技術的に優れた有用性を明らかにした。製鉄技術における焼結プロセスに関する重要な知見を得ており、本研究の成果は鉄鋼製錬工学への寄与が大きい。

なお、本論文第2章は肥田行博、伊藤薫、佐々木稔、梅津善徳、第3章は肥田行博、伊藤薫、平川俊一、第4章は肥田行博、伊藤薫、佐々木稔、第5章は細谷陽三、中野正則、第6章は樋口謙一、細谷陽三、品川和之、第7章は肥田行博、中村圭一、上川清太、葛西直樹との共同研究であるが、論文提出者が主体となって実験及び検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

したがって、博士(科学)の学位の学位請求論文として合格と認められ、博士(科学)の学位を授与できると認める。

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